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第四章 伯爵になってはみたものの
4-11 お披露目の準備
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元ダンケルガー辺境伯邸であった伯爵邸の改修が一応済んだ時点で大工を含めた工事関係者を集めて取り敢えずの祝宴を開いた。
叙爵披露宴は別途に開催するが、これはあくまで内輪での改修完工の祝宴だ。
ここでは我が家の料理人が腕を振るって料理や酒をふるまった。
おそらくは結構な料理だったはずだが、今一俺は納得していない。
日本民族と言うのは結構なグルメなのだ。
だから来たるべき披露宴では然るべき料理を出せるようにする。
その翌日から改修したばかりの屋敷を俺が魔改造し始めた。
最初に行ったのは上下水道だ。
上水道は井戸からの汲み上げでも十分なのだが、俺は自動汲み上げポンプ(ここでも馬無し馬車の動力機関が大活躍)を使って屋敷に張り巡らせた水道管に水を流した。
水道管自体は俺が作ったもので、曲がりや分岐も含めて一体型だから、シールの必要などは無い。
設備する段階で、錬金術で溶接したのだ。
火を使う溶接と異なり、金属分子の結合による接着だからつなぎ目などは無い。
内部も外部も超微細な炭素分子でコーティングしているから傷もつかないし錆びもあり得ない。
水道管は厨房、浴室、手洗い所など必要な個所に、温水ボイラー(魔道具)などと共に設備されている。
トイレは水洗トイレにした。
勿論、日本で入手したウオッシュ*ット便器を使用している。
市販価格で20万円を超える代物だが、大手家電量販店でコピーして(単純に持ち運びが面倒だった)入手したものであり、我が家で使う80か所のトイレにはその複製品が設置されている。
使用人38名、騎士団員32名、俺を含めると合わせて71名が住む屋敷には、それぐらいの数は当然に要る。
若いメイド、下男、若手の騎士などは二人部屋、中堅どころの使用人や騎士は個室としているが、それぞれにシャワー設備とトイレの付いた洗面所、それにウォーク・イン・クローゼットが付属しているからビジネスホテル並みの設備である。
使用人の住む区画は、本宅から渡り廊下で繋がれた別棟であり、最大120名が収容できるようにしている。
下水の最終的な地下処理空間には井戸に居ついていた聖属性スライムの一部を分離・移動し、排せつ物や汚物の清掃を行ってもらっている。
それからお風呂だ。
お風呂には、普通の冷水以外に魔石を使った温水ボイラー経由の温水と地下500mまで掘り下げて見つけた温泉からの温水の三本のラインを引いている。
浴室は、本宅及び使用人別棟共に男女別に分けられており、温泉かけ流しになっているから掃除時間を除いて24時間いつでも入ることができるようになっている。
泉質は単純アルカリ泉で、肌がすべすべする女性向けの温泉だ。
温度は44度とやや高いが、サーモスタット調整弁の採用により若干の冷水を混ぜることで温度調整が可能になっている。
邸の改修に当たった大工は、種々の細かな注文を受けて必要な細工を行ったが、最終的な姿はわかっていない筈だ。
別に秘密にしなくてもいいかなとは思ったが、変な伝わり方をしてもまずいので、外部には取り敢えず秘匿したのだ。
厨房もかなりの改造が加えられた。
冷凍庫と冷蔵庫が新たに設置されたのである。
魔石を使った冷蔵庫はあったのだが、性能が悪いので、日本から持ち込んだ複製物の大型冷蔵庫4つと大型冷凍庫8つを増築した部分に設置したのだ。
これらは当然電気で動くことから発電機の原動機を錬金術で造った。
発電機そのものは日本で購入(当然、内緒で複製)したものである。
井戸の汲み上げポンプにも使っているロータリー式スターリングエンジンの原動機は魔石をエネルギー源とし、運転音は極めて静粛である。
1500キロワットの発電能力は屋敷に必要な電気エネルギーを供給してくれる。
これにより、屋敷内の照明は全てLED照明に変えた。
魔道具の照明装置も無いわけでは無いが、量産されて市中に出回っているものは魔石の消耗が大きい割に照度が低い。
従って、メンテナンスを考えると電気の方が後々維持しやすいのだ。
電気配線の銅線は自分で製造することもできなくは無いが、結局安易な方向に動き、日本のホームセンターで電線を入手した。
一旦モノを入手後は、複製ができるので意外に簡単である。
但し、配線工事は電気を知らない使用人にさせられないよね。
その点が大きな難点だった。
いずれ運転手同様、電気技師を養成する必要もあるかも知れないが、正直なところ俺自身が他人に教えるほどの知識や技量があるとは思っていない。
まぁ、常識的なことは知っているから家庭内配線ぐらいはできるし、木材や石材への埋伏配線なんかもチャチャっとやったけれどね。
通路等は間接照明で、玄関やホールなどは煌びやかなシャンデリアにしている。
意外とロウソクを模したLEDのシャンデリアって少ないので、探すのに苦労したけれど王宮で使われていたシャンデリアに近いものを入手できた。
庭には複数のガーデンライトも設置されている。
こいつはソーラーパネルを利用した街灯で、太めのロウソクがともっているように見える結構おしゃれな代物だ。
屋敷の冷暖房が必要か否かは様子を見ながら検討する。
一応暖炉は設置されているのだけれどね。
中世のヨーロッパは小氷河期だったので寒かったらしいが、そう言えばこれまでの四か月余り、暑いと思う様な日は無かったから或いは寒冷な気候なのかもしれない。
次の問題は、披露宴に出す料理の準備だ。
俺が日本に行って出来上がりの品を購入してくるのは簡単だが、それでは料理人が育たない。
最新の調理器具(もちろん日本製のコピー)を導入し、少ない人数で大量の給食をすることと、我が家の料理人に調理法を教えるのが最重要課題だ。
最初はパンだ。
この世界のパンは正直言って美味くない。
で、日本のメーカーが造った二斤用ホームベーカリーの登場だ。
これを20基用意して、1時間程度で一気にパンを焼き上げることにした。
少なくとも食パンに関しては、日本のスーパーで購入したイースト菌の提供だけで左程難しいことはない。
このイースト菌も課題の一つである。
果物から酵母を作れることは知っているし、俺のPCのデータベースにも情報が入っているからいずれ作成方法を伝授するつもりだが、現状では既製品の利用で間に合わせることにする。
一応、厨房の衛生管理については関係者に叩き込んだが、酵母菌を自作するのは、コックやメイド達がより衛生管理に習熟してからにするつもりだ。
取り敢えず目の前に迫っている披露宴に際しては、日本の製品を使わせてもらうことにする。
この世界にはない料理として揚げ物がある。
食用油が無いわけではないが、品質が余り良くないことと需要が無いので油自体の生産が少なく高額品となっており、これを料理に使うと言う発想がないのだ。
従って、俺の領地ではいずれ品質の高い植物油を産み出すつもりでいる。
菜種油、ひまわり油、オリーブ油辺りを考えているが、まだまだ先の話だから、今回の披露宴では日本製の出来合いを使用する。
揚げ物で予定しているのは、定番のから揚げ、フライポテトにトンカツだ。
和食の天ぷらも用意できればいいのだが、生憎と素材は川魚と野菜ぐらいしか無い。
鮎なんぞと違って王都付近の川魚は正直言って余り美味くない。
川魚は淡白な味が身上の筈だが、王都付近で獲れる魚は魔物の一種なのか、俺が試しに街の屋台で食べた感じでは舌にえぐみが残り、お世辞にも美味いとは言えなかった。
だからお客に出す料理としては避けたい。
従って、天ぷらは実際に俺が作ってみて、味に納得できた山菜や根菜だけに限った。
もちろん、我が家の料理人達は油で揚げる料理など初めて見るので目を白黒していた。
それでも彼らの前で一通り揚げて見せると、流石に料理スキルを持っている料理人である。
すぐに要領を掴んで美味い揚げ物を作り出した。
このほかに俺が教えたのはパスタとピザだ。
生憎とチーズは高級品のためピザは少量しか作れないことがわかった。
日本から大量にチーズを持ち込むことはできるが、後が続かない。
俺の能力で複製品を作ることは可能だが、継続性と大量生産にやや難がある。
俺の領地で特産品としてチーズやバターを産み出すまでは、沢山は作れないな。
チーズ200グラムほどが王都で金貨50枚(1000万円相当?)ともなれば、本当に珍味扱いでしか出せない。
精々が上客一人についてピザ一切れの供給になるだろう。
このほか女性用にはケーキやお菓子を用意することにした。
披露宴なので当然に酒も出す。
だが同伴してきた女性は酒を嗜まない人も多い。
そんな人には、甘味だ。
王都の市場で高価だがカカオを見つけたのでチョコを提供することにした。
板チョコを日本で入手してきて、溶かして型にはめるだけの代物だが、手作り感十分だから元々が大量生産品だとは思うまい。
ケーキは、牛乳や砂糖が高価なのでホブランドではあまり普及していない。
だが、甜菜は馬用の飼料として市場で売られていた。
だから砂糖は作れる。
当然に領地でこれも生産させることにする。
砂糖の製法は当面秘匿することになるが、いずれは商業ギルドに登録して公開することになるだろう。
牛乳は取り敢えずこの世界にもあるので、日本から相応の量(複製品が主)を持ってきた。
取り敢えず今回作るのはシフォンケーキとプリンだけだな。
これも牛乳が領内で定常的に生産できるようになってから量産化を考えよう。
今でも和菓子ならば砂糖と粉モノがあれば、牛乳やバターが無くても作ることができる。
実は、米も同じく市場で飼料用として売られていたモノを見つけた。
或いは陸稲かもしれない。
少し粘りが少ないが、まぁ、ご飯として食べられる範囲なので、料理人にはピラフ料理を教えた。
精米にはうちの騎士たちの人力を使おうかとも思ったが、結局、日本で家庭用の精米機を購入して手間を省いた。
調味料が決定的に乏しいが、幸いにしてキノコの乾燥物、鶏ガラ、乾燥昆布はかろうじて入手できたので、市場で買い漁った香辛料で試行錯誤しながら新たな味を作り出した。
尤も、他にもマヨネーズやソースも産み出したけれどね。
料理人だけでなく、メイドや侍従たちにも料理の食べ方や聞かれた場合の勘所を教えたりした。
テーブルマナーもそのうちの一つだ。
用意したカトラリーの種類も多いから、おそらくは貴族連中もどれを使ったらいいのか最初はわからない筈だ。
俺がホストなので、会食ならば率先することで教えられるが、立食の場合は難しい。
傍にいるメイドや侍従に任せるしかないのだ。
更に招待客には土産物として、ワイングラスをワンセット持たせることにした。
日本のデパートで購入した時は、二つのグラスがワンセットで2万8千円(+消費税)だったが、こっちの世界で同じものは多分入手できないだろうと思う。
上客をもてなすための演出として料理は勿論だが、食器も大事である。
今回は立食形式になるので左程凝ったものは要らないが、やはり磁器を用意したいので、日本に行って*リタケの淡藤色の食器を揃えた。
さほど高額のものではないが上品な色合いが貴族連中のお眼鏡にかなえばいいがなと思っている。
必要に応じて徐々に他の食器類も準備するつもりではいる。
カトラリーセットも日本製のモノを用意した。
勿論、これらはワンセット購入したら全て複製である。
ワイングラスも凝ったものにした。
*AGAMI製のワイングラスは上品でいいと思う。
こちらの世界でもガラス製のグラスはあるのだが、技術的に薄いモノや透明感のあるモノはまだ作れていないようだ。
割れやすく儚いものだが、クリスタルのカットグラスはこの世界では希少で大変に価値があるはずだ。
他にもタンブラーやゴブレット、ビアグラスも用意している。
飲み物としてはワイン、シャンパン、ウィスキー、ブランデーにビールだ。
ビールを除いていずれも日本で千円前後のモノに価格を押さえている。
元々の瓶を使わずに空き瓶を使って詰め替えている。
メイド達には瓶の色合いで酒の種類を区別するように教えた。
綺麗に印刷されたラベルにホブランドで使われていない文字があったなら、それだけで密輸を疑われるだろう。
こちらの世界のワインはまだ発展途上にある。
俺の考えでは、少なくとも王宮で出されたワインはかなり質が劣ると思っている。
従って、今回は千円程度の品に抑え、次回以降徐々にレベルを上げることもありだろうと思っているのだ。
こちらにもビールに似たエールはあるが、味が全く違う。
冷えたビールはきっと話題になるだろう。
「アワモリ」ならぬ「カミモリ」を用意して細かいビールの泡を演出してやれば酒好きな人は喜ぶだろう。
ビールサーバーの使い方を教えたら、給仕役の執事達がすぐに覚えてくれた。
このようにして屋敷の魔改造が済んでから1か月で披露宴のための全ての準備が整った。
================================
4月7日、一部字句修正を行いました。
By @サクラ近衛将監
叙爵披露宴は別途に開催するが、これはあくまで内輪での改修完工の祝宴だ。
ここでは我が家の料理人が腕を振るって料理や酒をふるまった。
おそらくは結構な料理だったはずだが、今一俺は納得していない。
日本民族と言うのは結構なグルメなのだ。
だから来たるべき披露宴では然るべき料理を出せるようにする。
その翌日から改修したばかりの屋敷を俺が魔改造し始めた。
最初に行ったのは上下水道だ。
上水道は井戸からの汲み上げでも十分なのだが、俺は自動汲み上げポンプ(ここでも馬無し馬車の動力機関が大活躍)を使って屋敷に張り巡らせた水道管に水を流した。
水道管自体は俺が作ったもので、曲がりや分岐も含めて一体型だから、シールの必要などは無い。
設備する段階で、錬金術で溶接したのだ。
火を使う溶接と異なり、金属分子の結合による接着だからつなぎ目などは無い。
内部も外部も超微細な炭素分子でコーティングしているから傷もつかないし錆びもあり得ない。
水道管は厨房、浴室、手洗い所など必要な個所に、温水ボイラー(魔道具)などと共に設備されている。
トイレは水洗トイレにした。
勿論、日本で入手したウオッシュ*ット便器を使用している。
市販価格で20万円を超える代物だが、大手家電量販店でコピーして(単純に持ち運びが面倒だった)入手したものであり、我が家で使う80か所のトイレにはその複製品が設置されている。
使用人38名、騎士団員32名、俺を含めると合わせて71名が住む屋敷には、それぐらいの数は当然に要る。
若いメイド、下男、若手の騎士などは二人部屋、中堅どころの使用人や騎士は個室としているが、それぞれにシャワー設備とトイレの付いた洗面所、それにウォーク・イン・クローゼットが付属しているからビジネスホテル並みの設備である。
使用人の住む区画は、本宅から渡り廊下で繋がれた別棟であり、最大120名が収容できるようにしている。
下水の最終的な地下処理空間には井戸に居ついていた聖属性スライムの一部を分離・移動し、排せつ物や汚物の清掃を行ってもらっている。
それからお風呂だ。
お風呂には、普通の冷水以外に魔石を使った温水ボイラー経由の温水と地下500mまで掘り下げて見つけた温泉からの温水の三本のラインを引いている。
浴室は、本宅及び使用人別棟共に男女別に分けられており、温泉かけ流しになっているから掃除時間を除いて24時間いつでも入ることができるようになっている。
泉質は単純アルカリ泉で、肌がすべすべする女性向けの温泉だ。
温度は44度とやや高いが、サーモスタット調整弁の採用により若干の冷水を混ぜることで温度調整が可能になっている。
邸の改修に当たった大工は、種々の細かな注文を受けて必要な細工を行ったが、最終的な姿はわかっていない筈だ。
別に秘密にしなくてもいいかなとは思ったが、変な伝わり方をしてもまずいので、外部には取り敢えず秘匿したのだ。
厨房もかなりの改造が加えられた。
冷凍庫と冷蔵庫が新たに設置されたのである。
魔石を使った冷蔵庫はあったのだが、性能が悪いので、日本から持ち込んだ複製物の大型冷蔵庫4つと大型冷凍庫8つを増築した部分に設置したのだ。
これらは当然電気で動くことから発電機の原動機を錬金術で造った。
発電機そのものは日本で購入(当然、内緒で複製)したものである。
井戸の汲み上げポンプにも使っているロータリー式スターリングエンジンの原動機は魔石をエネルギー源とし、運転音は極めて静粛である。
1500キロワットの発電能力は屋敷に必要な電気エネルギーを供給してくれる。
これにより、屋敷内の照明は全てLED照明に変えた。
魔道具の照明装置も無いわけでは無いが、量産されて市中に出回っているものは魔石の消耗が大きい割に照度が低い。
従って、メンテナンスを考えると電気の方が後々維持しやすいのだ。
電気配線の銅線は自分で製造することもできなくは無いが、結局安易な方向に動き、日本のホームセンターで電線を入手した。
一旦モノを入手後は、複製ができるので意外に簡単である。
但し、配線工事は電気を知らない使用人にさせられないよね。
その点が大きな難点だった。
いずれ運転手同様、電気技師を養成する必要もあるかも知れないが、正直なところ俺自身が他人に教えるほどの知識や技量があるとは思っていない。
まぁ、常識的なことは知っているから家庭内配線ぐらいはできるし、木材や石材への埋伏配線なんかもチャチャっとやったけれどね。
通路等は間接照明で、玄関やホールなどは煌びやかなシャンデリアにしている。
意外とロウソクを模したLEDのシャンデリアって少ないので、探すのに苦労したけれど王宮で使われていたシャンデリアに近いものを入手できた。
庭には複数のガーデンライトも設置されている。
こいつはソーラーパネルを利用した街灯で、太めのロウソクがともっているように見える結構おしゃれな代物だ。
屋敷の冷暖房が必要か否かは様子を見ながら検討する。
一応暖炉は設置されているのだけれどね。
中世のヨーロッパは小氷河期だったので寒かったらしいが、そう言えばこれまでの四か月余り、暑いと思う様な日は無かったから或いは寒冷な気候なのかもしれない。
次の問題は、披露宴に出す料理の準備だ。
俺が日本に行って出来上がりの品を購入してくるのは簡単だが、それでは料理人が育たない。
最新の調理器具(もちろん日本製のコピー)を導入し、少ない人数で大量の給食をすることと、我が家の料理人に調理法を教えるのが最重要課題だ。
最初はパンだ。
この世界のパンは正直言って美味くない。
で、日本のメーカーが造った二斤用ホームベーカリーの登場だ。
これを20基用意して、1時間程度で一気にパンを焼き上げることにした。
少なくとも食パンに関しては、日本のスーパーで購入したイースト菌の提供だけで左程難しいことはない。
このイースト菌も課題の一つである。
果物から酵母を作れることは知っているし、俺のPCのデータベースにも情報が入っているからいずれ作成方法を伝授するつもりだが、現状では既製品の利用で間に合わせることにする。
一応、厨房の衛生管理については関係者に叩き込んだが、酵母菌を自作するのは、コックやメイド達がより衛生管理に習熟してからにするつもりだ。
取り敢えず目の前に迫っている披露宴に際しては、日本の製品を使わせてもらうことにする。
この世界にはない料理として揚げ物がある。
食用油が無いわけではないが、品質が余り良くないことと需要が無いので油自体の生産が少なく高額品となっており、これを料理に使うと言う発想がないのだ。
従って、俺の領地ではいずれ品質の高い植物油を産み出すつもりでいる。
菜種油、ひまわり油、オリーブ油辺りを考えているが、まだまだ先の話だから、今回の披露宴では日本製の出来合いを使用する。
揚げ物で予定しているのは、定番のから揚げ、フライポテトにトンカツだ。
和食の天ぷらも用意できればいいのだが、生憎と素材は川魚と野菜ぐらいしか無い。
鮎なんぞと違って王都付近の川魚は正直言って余り美味くない。
川魚は淡白な味が身上の筈だが、王都付近で獲れる魚は魔物の一種なのか、俺が試しに街の屋台で食べた感じでは舌にえぐみが残り、お世辞にも美味いとは言えなかった。
だからお客に出す料理としては避けたい。
従って、天ぷらは実際に俺が作ってみて、味に納得できた山菜や根菜だけに限った。
もちろん、我が家の料理人達は油で揚げる料理など初めて見るので目を白黒していた。
それでも彼らの前で一通り揚げて見せると、流石に料理スキルを持っている料理人である。
すぐに要領を掴んで美味い揚げ物を作り出した。
このほかに俺が教えたのはパスタとピザだ。
生憎とチーズは高級品のためピザは少量しか作れないことがわかった。
日本から大量にチーズを持ち込むことはできるが、後が続かない。
俺の能力で複製品を作ることは可能だが、継続性と大量生産にやや難がある。
俺の領地で特産品としてチーズやバターを産み出すまでは、沢山は作れないな。
チーズ200グラムほどが王都で金貨50枚(1000万円相当?)ともなれば、本当に珍味扱いでしか出せない。
精々が上客一人についてピザ一切れの供給になるだろう。
このほか女性用にはケーキやお菓子を用意することにした。
披露宴なので当然に酒も出す。
だが同伴してきた女性は酒を嗜まない人も多い。
そんな人には、甘味だ。
王都の市場で高価だがカカオを見つけたのでチョコを提供することにした。
板チョコを日本で入手してきて、溶かして型にはめるだけの代物だが、手作り感十分だから元々が大量生産品だとは思うまい。
ケーキは、牛乳や砂糖が高価なのでホブランドではあまり普及していない。
だが、甜菜は馬用の飼料として市場で売られていた。
だから砂糖は作れる。
当然に領地でこれも生産させることにする。
砂糖の製法は当面秘匿することになるが、いずれは商業ギルドに登録して公開することになるだろう。
牛乳は取り敢えずこの世界にもあるので、日本から相応の量(複製品が主)を持ってきた。
取り敢えず今回作るのはシフォンケーキとプリンだけだな。
これも牛乳が領内で定常的に生産できるようになってから量産化を考えよう。
今でも和菓子ならば砂糖と粉モノがあれば、牛乳やバターが無くても作ることができる。
実は、米も同じく市場で飼料用として売られていたモノを見つけた。
或いは陸稲かもしれない。
少し粘りが少ないが、まぁ、ご飯として食べられる範囲なので、料理人にはピラフ料理を教えた。
精米にはうちの騎士たちの人力を使おうかとも思ったが、結局、日本で家庭用の精米機を購入して手間を省いた。
調味料が決定的に乏しいが、幸いにしてキノコの乾燥物、鶏ガラ、乾燥昆布はかろうじて入手できたので、市場で買い漁った香辛料で試行錯誤しながら新たな味を作り出した。
尤も、他にもマヨネーズやソースも産み出したけれどね。
料理人だけでなく、メイドや侍従たちにも料理の食べ方や聞かれた場合の勘所を教えたりした。
テーブルマナーもそのうちの一つだ。
用意したカトラリーの種類も多いから、おそらくは貴族連中もどれを使ったらいいのか最初はわからない筈だ。
俺がホストなので、会食ならば率先することで教えられるが、立食の場合は難しい。
傍にいるメイドや侍従に任せるしかないのだ。
更に招待客には土産物として、ワイングラスをワンセット持たせることにした。
日本のデパートで購入した時は、二つのグラスがワンセットで2万8千円(+消費税)だったが、こっちの世界で同じものは多分入手できないだろうと思う。
上客をもてなすための演出として料理は勿論だが、食器も大事である。
今回は立食形式になるので左程凝ったものは要らないが、やはり磁器を用意したいので、日本に行って*リタケの淡藤色の食器を揃えた。
さほど高額のものではないが上品な色合いが貴族連中のお眼鏡にかなえばいいがなと思っている。
必要に応じて徐々に他の食器類も準備するつもりではいる。
カトラリーセットも日本製のモノを用意した。
勿論、これらはワンセット購入したら全て複製である。
ワイングラスも凝ったものにした。
*AGAMI製のワイングラスは上品でいいと思う。
こちらの世界でもガラス製のグラスはあるのだが、技術的に薄いモノや透明感のあるモノはまだ作れていないようだ。
割れやすく儚いものだが、クリスタルのカットグラスはこの世界では希少で大変に価値があるはずだ。
他にもタンブラーやゴブレット、ビアグラスも用意している。
飲み物としてはワイン、シャンパン、ウィスキー、ブランデーにビールだ。
ビールを除いていずれも日本で千円前後のモノに価格を押さえている。
元々の瓶を使わずに空き瓶を使って詰め替えている。
メイド達には瓶の色合いで酒の種類を区別するように教えた。
綺麗に印刷されたラベルにホブランドで使われていない文字があったなら、それだけで密輸を疑われるだろう。
こちらの世界のワインはまだ発展途上にある。
俺の考えでは、少なくとも王宮で出されたワインはかなり質が劣ると思っている。
従って、今回は千円程度の品に抑え、次回以降徐々にレベルを上げることもありだろうと思っているのだ。
こちらにもビールに似たエールはあるが、味が全く違う。
冷えたビールはきっと話題になるだろう。
「アワモリ」ならぬ「カミモリ」を用意して細かいビールの泡を演出してやれば酒好きな人は喜ぶだろう。
ビールサーバーの使い方を教えたら、給仕役の執事達がすぐに覚えてくれた。
このようにして屋敷の魔改造が済んでから1か月で披露宴のための全ての準備が整った。
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4月7日、一部字句修正を行いました。
By @サクラ近衛将監
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