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第五章 こいつは大事(オオゴト)なのかな?

5-2 ランドフルトの遺跡 その二

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 遺跡を発見した日の深夜、俺はラドレックの陣屋から独り遺跡内部へと転移した。
 センサーが生きていそうな個所は地下3階である。

 そこからさらに下層へとラインが伸びていそうなのだが、残念ながらそこから先は俺の探知能力が及ばない領域の様だ。
 或いは、先ほどの魔法を弾く金属で覆われた場所である可能性が高い。

 俺でも大事な場所は他から覗かれないようにするからな。
 きっと余程大事なものが保管されているのだろうと思う。

 遺跡に転移する前に、ちょっと王都の図書館へ忍び込んで調べ物をしてきたのだが、「アゾール飛空艇研究所」なる言葉で検索に引っかかるものは無かった。
 但し、ヴィアーラ帝国については若干の記述があった。

 古代の魔導士であるアルバンゾが弟子に教えた話の中に、アルバンゾがかつて訪れた古代フレミア王国の大図書館に収められた古文書である石板を閲覧することができたこと。
 その石板にはヴィアーラ帝国という魔道大国が当時で1万2千年の昔にかつてあったこと、内乱によってその帝国が滅びたこと、滅亡前の帝国は数々の先進の魔道具を保有しており、絶大な力を持っていたこと、中でも空を飛ぶ魔道具を用いて世界中を統治していたことが伝えられていたらしい。

 この伝承が事実かどうかは確認のすべが無い。
 もともと伝聞記述の上に、当該書簡も既に5回ほどの書写を行った写本であり、アルバンゾ魔導士自体が今から二千年も昔の人物であったからだ。

 古フレミア王国についても調べたところ、同じく二千五百年前から千七百年前に、このジェスタ王国の在るフラド大陸北部で栄えた国のようだ。
 古フレミア王国の所在位置は、ジェスタ王国の北に位置するサングリッド侯国の更に北部領域になるらしいが、千年程前に起きた大規模な地殻変動により当該地域は北部大洋の海底に沈んでいるようだ。

 とどのつまりは、1万4千年程前にあったヴィアーラ帝国には飛空艇が存在したようだが、それ以後の歴史書の中には飛空艇も空を飛ぶ魔道具に関する記述は何も見いだせなかった。
 この調査結果から言えば、俺の領地内にある遺跡はヴィアーラ帝国時代の遺跡の可能性があるということだ。

 魔法を弾く金属は、今俺が生きている世界では知られていないはず。
 1万数千年を経ているならば、遺跡のセキュリティに関するセンサーらしきものが死んでいるのは当たり前で、むしろ生きているかもしれない地下第3層以下が異常なのだ。

 で、どんな発見ができるにせよ、おいそれと一般人には知らせられない可能性が高いので、深夜俺一人がお忍びで遺跡に来たわけだ。
 地下第一層は巨大な倉庫群であったが、今見ている第二層は研究棟の様に思える。

 30mから40m四方もある体育館のような高い天井を有する複数の部屋(施設?)に用途不明の器材が雑然と置かれており、机と思しきものの周囲の床には小道具やら書類がひどく散乱していた。

 うっすらと埃が積ってはいるが、むしろ経過した時間を考えると清浄に過ぎるくらいで、さほど汚れた感じはしない。
 それよりは、床の散乱物や重量物が僅かに移動した痕跡が認められるなどから見て、何らかの異常事態(例えば大地震?)が発生したことにより、慌てて人間が逃げ出したような感じを受けていた。

 仮に死体でもあれば別なのだが、生憎と悪霊も居ないし骨も見つかっては居ない。
 念のため書類に目を通すと、読めるには読めるが俺には難解な内容だった。

 物理学やら空気力学の話ならまだ多少の理解もできるけれど、飛空魔法力学なんぞ俺にわかるかってぇの。
 まぁ、内容はわからないまでもやはりここは飛空艇に関する研究所で間違いないようだ。

 多分施設の規模からいうと飛行場を併設した国立研究所辺りじゃないのかなと思う。
 個人ではこれほどの施設を造ることは難しいだろう。

 あ、でも、大企業(この世界ならば大商人?)ならば私設の研究所辺りは持っていてもおかしくはないのかな?
 次いで問題の第三層なんだが、侵入経路は一か所だけに集約されていて、他の経路(例えば緊急脱出経路とか?)は隠されているのか俺のセンサーでも見つけられない。

 一応昇降機エレベーターらしきものを見つけはしたが、残念ながら稼働してはいないし、扉も開けられなかった。
 止む無くトコトコと階段を降りて、第三層の入り口に向かう。

 幅が5mほどの通路の先に問題のセンサーらしきものを感知しているんだが、当該センサーに感知された途端に問答無用で殺されるのは御免したいよね。
 そんなわけで、俺はできる限りのバリアを周囲に産み出しておっかなびっくり前進している。

 万が一にでも攻撃されて保たない様ならば、すぐさま転移できるように心の準備だけはしている。
 俺も根は臆病だからね。

 進んで危険な場所になんか入りたくはないが、俺の部下とか従者に危険なことをやらせるのはもっと嫌だから、やらざるを得ないことと判断して止む無く俺がやっている。
 まぁ、かなりチートな能力を持っているという自覚もあるから、そのことで多少おごっている可能性もあるのかな?

 そんなこんなで来ましたよセンサーの近くへ。
 通路の中央に金属製の大きな筒状のものが床から二メートルほど生えている感じかな。

 で、その筒状の中に何かがうごめいている。
 電気じゃないねぇ。

 何と言うか感覚的には魔力パス的なもののような気がするよ。
 何処かと魔力でリンクしている端末が目の前の筒状の代物だと思う。

 で、何の兆候もなしに、いきなりその筒状の表面に文字が浮かび上がった。
 こちとらびくついているからねぇ。

 一瞬、転移しかかって必死に思いとどまったよ。
 文字は、ウン、よくわからんけれど読めた。

『貴方は誰ですか。
 この文字が読めるのであれば、「はい」の方にタッチしなさい。
 読めなければ何もせずに引き返しなさい。』

 で、読めちゃったからねぇ。
 仕方がないから「ハイ」にタッチする。

 うん、パソコンのタッチパネルかねぇ。
 すぐに表示が変わった。

『貴方は帝国の人ですか?
 そうであれば「はい」を違っていれば「いいえ」にタッチしてください。』

 帝国っていうのは、当然ヴィアーラ帝国の事だろうから、俺は「いいえ」にタッチ。
 で、画面が切り替わるんだが反応が凄く速い。

『貴方が所属する国を選んでください。』

 国の名が10程も出てきたが、当然のことながらその中にジェスタは勿論周辺国の名前はない。
 但し、一番下に別の表示があった。

【上記に掲げた国以外の国又は地域】

 当然にこれ一択だ。
 次いで文章が現れた。

「貴方が知っている国の名若しくは地域名で知っているものがあればタッチしてください。
 複数にタッチしても構いません。」

 今度は20ほども出てきたがいずれも俺の知っている国名や地域名は無い・・・、と思っていたのだけれど、一番下に毛色の変わった文字があった。
 何と「日本」と漢字で書かれているのだよ。

 今、俺の頭の上には無数の?マークが浮かんでいる。
 何で、ここに日本が出てくる?

 もし図書館で調べたことが事実なら1万数千年前の人が作った質問(謎々)でしょうが・・・。
 1万年前の日本って、縄文時代末期の頃で日本という国の意識も無かったはず。

 漢字にしたって、「殷」や「商」でようやく生まれたのが1万数千年前の頃で現在の漢字の元になってはいるが、当然字体は違う筈。
 「日本」という呼び名も当時の中国には無かったはずだ。

 かなり時代が経ってから「東夷」というあまり喜べない地域名で卑下されていたけれどね。
 で、俺が押そうか押すまいかとためらっている間に警告なのか画面がブリンクし始めた。

 しょうがねぇよな。
 俺は止むを得ず、「日本」にタッチしたよ。

 途端に画面が変わったねぇ。
 日本語の羅列が目の前に出現した。

 呆気に取られていると、その文字がゆっくりとスクロールされて行く。
 読まないでいると後で不利益になるかもしれないから必死で読んだ。

 最近、図書ってぇのはインベントリに放り込んで脳内に入れるものって勘違いしていたからね。
 結構読むのがきつかった。

 で、内容は驚愕すべき内容だったね。
 俺より先に、まぁ、1万3千年程前なのかな?

 日本からこのホブランドに転生した日本人がいたらしい。
 俺は召喚魔法による転移だったけれど、先輩は日本で死んで、この世界で新たに生まれ変わったというところだ。

 因みにその先輩は堂島どうじま孝之たかゆきという名前で、22世紀の日本で生きていた人だから、この世界では俺の大先輩だが、日本で言えば俺の方が百年ほど前の爺さんになっちまう。
 何故に時代の逆行が起きたのか、その辺の事情は分からない。

 まぁ、転生と召喚では当然に異世界への来方も異なるのだろうけれどね。
 何れにしろ、俺よりはるかに未来で生まれた人間が日本人としての経験知識を持ったまま1万3千年前のホブランドに生まれ変わったようだ。

 当然知識チートになるわねぇ。
 まぁ、こちらでは魔法の世界だからね。
 それに適応するのに時間はかかったようだけれど、

 堂島さんはヴィアーラ帝国辺境貴族の嫡男として生まれ、成長するにつれ頭角を現して、ヴィアーラ帝国魔道具研究所の所長にまで上り詰めたようだ。
 その彼が引退後に設立したのが、このアゾール飛空艇研究所らしい。

 本来は俺の目の前にある装置が、研究所で働く所員のID確認装置で自動的に働くモノらしい。
 但し、安全装置が組み込まれていて未曽有の災害等でバックアップシステムが危険な状態に陥った場合には、隠れシーケンスで通常のIDチェックや研究所内の各種セキュリティ装置を停止させて非常センサーのみが働くシステムになっているらしい。

 で、堂島先輩自身も多分あり得ないだろうなとは思いながらも、もしその状況で日本人が訪ねて来た場合のプログラムを遺し、彼の業績を仲間であろう日本人に知らせようとしたらしい。
 IDチェックの機器に出ていた文章は、そもそも誰かわからない者の知能テスト的な意味合いがあり、そもそも言葉が読めないような一定水準以下の者にはお帰り願うシステムだったようだ。

 日本以外の地域などを選択した場合は所謂知能テストが延々と続けられたらしいのだが、俺が「日本」を選んだことで一気にクリアされたようだ。
 無論本来の侵入防止セキュリティシステムが作動していれば誰であっても簡単には侵入はできない筈だったのだが、動力となる魔素エネルギー残量が10%を切った段階で自動的に非常態勢に入って通常のセキュリティシステムは切られたようだ。

 そうして通常であれば保守要員やゴーレムが居て、魔素エネルギーの補充などできるのだが、生憎と内部に組み込まれているAIの内部データではかれこれ1万2860年ほども補充がなされておらず、最小稼働体制でも既に魔素エネルギー残量が1%を割っているようだ。
 因みに非常用の魔素吸収装置が働いていれば5%程度で抑えられるはずなのだがそれも機能していないようだ。

 まぁ、悠久の時の流れにも近い1万年の時間は全てを消し去るに十分ということか。
 パネルを操作して魔素エネルギーの充填方法や非常用魔素吸収装置の在り場所を確認して、俺が取り敢えず修復することにした。

 魔素エネルギーの補充は、本来、魔素エネルギー変換装置を駆動させて充填するのだそうだが、生憎と俺がみたところ変換装置そのものが台座から落下して破損していて使えない状態だった。
 但し、蓄電池代わりの大きな魔石に人が直接魔力を込めることでもできるそうなので、試しにやってみた。

 結果から言うと魔力を供給するというより魔力を吸われた感じだねぇ。
 すんごい勢いで吸われたから、これ以上はちょっと危ないかなと思って途中で止めたけど。

 ご承知の通り、俺の魔力保有量は、他の人に比べるとかなり桁違いなのだけれど、その七割以上を使ってようやく二割程度まで補充できたに過ぎない。
 それから堂島先輩の仰せ(遺言)に従って、この研究所全体を支配するAIに俺をマスター(所長権限らしい。)として登録して、その日は終えた。

 余り遅くなると翌日(もう今日になっていたのだけれど)の予定に支障が出るので俺は陣屋へ転移した。
 性懲りもなく今晩も深夜に訪れようと思っている俺である。

 一つには、魔素エネルギーの充填作業をしてやる必要があることと、研究所の第三層には組み立て工場があり、AIの表示データによれば、そこの四基の船渠には三台の飛空艇が載っているそうだ。
 内二台の飛空艇は構造部分等は完成しており、内部の艤装が済めば飛び立てる状況にあるらしい。

 残り一台は建造半ばであり、魔道エンジンの搭載を含めてかなりの部分が未完のままであるようだ。
 まぁ、新たに飛空艇を造ろうとする場合には良い見本になるかもしれない。

 飛空艇がここから飛び立つためには船渠上部にある三重の開閉屋根を開けなければならないらしいが、多分、一番上は土砂に埋もれているので掘り返さねば開けられないだろうな。
 飛空艇が左程大きなものでなければ俺のインベントリか亜空間に収納して、外に出てから出すという方法は取れるけれどね。

 翌日、余り寝ていない状態ながらランドルフでのスケジュールをこなし、ランドルフでもう一泊してから王都へ戻る予定だ。
 その夜再度研究所へ赴き、魔素エネルギーの充填作業をこなし、船渠に入って飛空艇を確認した。

 一隻は長さが35mほどで、ある意味でクルーザータイプと言える豪華船仕様だが、内装部分が5割ほど未完成のようだ。
 もう一隻は、長さが60mほどの兵器を搭載した戦闘艦である。

 こいつは兵装も艤装も九分九厘終わっているが、外部塗装が済んでいないという状態にあるようだ。
 更に建造中で使えない飛空艇の方は、おそらく戦闘艦仕様だと思うが、船体すら六割か七割程度の出来だし、魔道エンジンと思しきものは完成しているが搭載されてはいない状態だ。

 確かにこの建造途中の飛空艇は研究者にとっては良い研究材料にはなるだろうな。
 これら三隻を確認したところで、さて以後はどうするかである。

 少なくとも手を入れる必要はあるものの稼働間近の二隻の飛空艇の利用価値は非常に高い。
 特に兵装されている戦闘艦を戦争に使いだしたなら一挙に戦局がひっくり返るだろう。

 王家に飛空艇とこの研究所の存在を教えるかどうかそれが問題だ。
 関連して、AIの判断では、この研究所の船渠は現状でも魔素エネルギーさえ十分であれば5割程度は稼働できるそうだが、経年劣化による部品交換はかなりの部分で必要とされるらしい。

 もともと主に魔法で動く代物だから可動部分などは、極々少ないのだがそれでも各種リンクや駆動伝達部分の定期交換は必要であり、新規に部品製造から始めると数十人の経験を積んだ技師や作業員が居ても数年がかりになりそうだ。
 因みに完成間近の飛空艇については、殆どが未使用なために劣化部分も少なく、いずれも数十か所の部品交換で済みそうだ。

 そうは言いながらも、当該部品も在庫品は経年劣化で使えないから、素材から造り直す必要がある。
 技師も経験者もいないのだから、俺が取説や解説書と首っ引きで造らねばならないようだが、本当に必要なのかねぇ。

 かえって色々と紛争のタネになりそうなんだけど・・・。
 まぁ、王家を含めて世に知らしめるかどうかはじっくりと考えてからにしよう。

 但し、問題はこの研究所の様に何らかの形で古代文明の遺跡が偶然に発見されて利用されると厄介なことになるよね。
 その辺の可能性も含めて他所の地域にも注意を払っておく必要があるかな。

 特にヴィアーラ帝国の本拠地の一部が古代フレミア帝国であり、サングリット公国に近いとなると、北部地域には注意が必要かもしれない。

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