コンバット

サクラ近衛将監

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第四章 学院生活(中等部編)

4ー35 塩と紛争の気配

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 ハーイ、ヴィオラで~す。
 時の立つのは早いもので、私(ヴィオラ)も中等部の三年になってしまいました。

 婚約者のレイノルズ様とも王都で月に一度はお会いして、それなりに絆を深めているところですよ。
 冬休みにはロデアルに帰省しましたけれど、ブルボン領へは参りませんでした。

 ブルボン領は北にあるのでやっぱり寒いのです。
 少々寒くても旅ができないわけではないのですけれど、冬の時期はブルボン領までの道筋にグレイウルフが出やすいとのことで、不要不急の旅はしないことになっているのだとか。

 夏場の間は山岳部の深い森に生息しているグレイウルフですが、冬場になると餌を求めて平野部に出没するのだそうで、城塞都市に近寄ることは滅多にありませんが、街道筋には結構出没するようになることから、旅人や商人は多数の護衛なしでは街道を往来しにくくなるのだそうです。
 このために冬場には色々とモノの値段が上がるそうで、領民の悩みの種でもあるそうですね。

 いずれにせよレイノルズ様も冬場の帰省はしないそうです。
 私も中等部での最後の冬休みです。

 来年の秋口には卒業して、嫁に行く準備を始めることになります。
 私(ヴィオラ)自身は特段の変わりはないのですけれど、周囲がその準備に奔走し始めるのです。

 グロリアお姉さまが年明けの春半ばには、ハンスリーデン伯爵家に嫁いで行くことが決まっており、そのための準備が佳境ですね。
 お姉さまも年が開ければ14歳になり、前世の地球で言えば18歳程度になりますので、前世の慣例から言うと少し早目なのでしょうけれど、適齢期には一応入っていますね。

 でもこの世界では14歳での嫁入りは普通であって、15歳にもなると少し遅目の部類になってしまうのです。
 なので、婚約者が決まった場合には15歳までの間に嫁入りすることが当たり前の慣行なのですよ。

 お兄様もバンシュミット侯爵家三女のミューズ嬢とこの秋に結婚することがすでに決まっています。
 因みにミューズ嬢は、私よりも一つ歳上ですので、現在は12歳ですが、年明けに13歳(前世で言えば17歳)になりますね。

 私が中等部を卒業して家に戻ってからの時期になりますけれど、お兄様とミューズ様の結婚式が催される予定になっています。
 私もその意味では卒業してから三年以内に嫁入りになりそうです。

 そうしてこの冬休み中にライヒベルゼン王国の周辺国と揉め事が生じました。
 ライヒベルゼン王国の塩の輸入先であるゼラート王国とホルツバッファ皇国から突然塩の取引制限が一方的に為されたのです。

 北方のパルテネン王国とはあまり交易の実績もありませんし、塩の品質も悪いので取引がありませんでしたが、それでも塩が無いと困りますので、パルテネン王国からの輸入を交渉しましたけれど、ここからも拒否をされたのです。
 突然の手のひら返しにライヒベルゼン王国でも非常に困惑していますが、このような敵対行為は通常考えられませんので、背景に何かあるものと考えねばなりません。

 ライヒベルゼン王国の王宮でも早速に影の組織を使って情報収集に入っています。
 困ったことに、西側の隣国レーベンシュタイン公国とゾーベン王国からの輸入も望み薄のようです。

 レーベンシュタイン公国とゾーベン王国もまた内陸国ですから、ゼラート王国やレインバルク帝国からの輸入に頼っている状況であり、特にこの二カ国から輸入量に制限をつけられている関係で、ライヒベルゼン王国への融通はできないと丁重に断られたようですね。
 国同士ではなくって、商人を通じての交易ならばどうかと大手商会から内緒で打診もさせたようですが、商人もやはり厳しく規制されており、ライヒベルゼン王国の息のかかった商人となれば塩は全く仕入れることができないようです。

 私(ヴィオラ)の方も種々動いてみて、ようやく確認できたのは、背後にレインバルク帝国が動いている構図でした。
 レインバルク帝国は海軍を擁しており、その北方艦隊の半数近くが出動して、ゼラート王国、パルテノン王国、ホルツバッファ皇国の三か国を脅迫して、ライヒベルゼン王国に塩が流通しないよう手を回しているようなのです。

 その震源は、レインバルク帝国のキリエスク第三王子にあるようで、彼は北方海軍の司令部にあって副司令官をしているようです。
 海軍の武力で押し通せるのは沿岸部国家のみであって、内陸部の国家への侵攻は中々に難しいことから搦手からめで塩を武器代わりにしようとしたことが発端のようですね。
 この指令を受けた北方艦隊がライヒベルゼン王国の北方にある海岸国三か国に対して内陸国への塩の輸出制限をかけさせたようです。

 その際に国境を接しているレーベンシュタイン公国とゾーベン王国に対しては必要量ぎりぎりの輸入枠を認め、それよりも東方のライヒベルゼンには塩が届かないよう画策したのでした。
 ゼラート王国、パルテノン王国、ホルツバッファ皇国の三か国の海軍力は、レインバルク帝国北方艦隊の十分の一程度であり、三カ国が寄り集まっても北方艦隊の半分にも満たない勢力なのです。

 仮にレインバルク帝国の要請をはねつければ、自らの国の沿岸を攻撃され、自分たちの必要な塩も入手できなくなる恐れがありました。
 レインバルク帝国の使者が、要請に従わない場合、製塩設備を真っ先に破壊すると言ったからです。

 製塩設備を壊されても大規模な製塩はできなくなるだけではあるのですけれど、それが使えないとなれば場合によっては国内需要にも応えられないことになりかねず、ゼラート王国、パルテノン王国、ホルツバッファ皇国の三か国はレインバルク帝国の脅しに屈した形になったようです。
 そのような情勢の中で、ライヒベルゼン王国が取れる策は、余りありません。

 一般的な見方からすれば、ライヒベルゼン王国の南方向にある海岸国ローランデル王国(南西方向の隣国)若しくはフルベルク王国(南東方向の隣国)に救いを求めるか、あるいは、東のグロノウス王国と交渉するか、ライヒベルゼン王国南部にある魔境を切り開いて海岸部までの領地を広げるぐらいしか方策が無いのです、
 但し、ローランデル王国とフルベルク王国とは昔から折り合いが良くないのです。

 三代前のライヒベルゼン国王が領土拡張を狙って、この両国に攻め入り、結構な領地を奪取していることから、この両国とは現在断絶状態にあります。
 東にあるクロノウス王国はライヒベルゼンと同じ内陸国で海岸は持っていませんから、塩は隣国のレーベリア王国に頼っているようです

 そこにクロノウス王国の倍程度の輸入枠が増えればレーベリア王国だけで対応できるかどうかはわかりませんよね。
 それにそこまでレインバルク帝国の圧力が及んでいたら実現は難しいでしょう。

 最後の方策である魔境開発には、時間と経費と多大な戦力が必要となります。
 私(ヴィオラ)一人でも何とかできちゃうかもしれませんが、あまり現段階で矢面には立ちたくないので、私(ヴィオラ)は飽くまで陰から支援することにします。

 それでも祖国の国民が困る話ですから、何とかしないわけには行きません。・
 あるいは紛争のタネになるのを承知の上で、私(ヴィオラ)の当初の計画を前倒しにして、ロデアルで岩塩の採掘を始めることにしたいと思います。

 最初にお父様とお母さまに相談し、内諾を得てから、ロデアルの我が家から二リーグ(約3.5キロ)ほど離れた丘陵地に長大な斜路を有するトンネルを造りました。
 
 そこまでの取り付け道路も作り、製塩工場となる建屋も作りました。
 この工場敷地には、例によって青色のシートを張り巡らせて人の目を避けています。

 この遮蔽物はしばらくそのままにしておくつもりです。
 どうせ国内外の間諜が色々と探りに来るはずですからね。

 お父様には警備を厳重にするようにお願いしています。
 岩塩採掘及び製塩のための設備は、私がロデアルを発つ前には完成し、塩の生産を始めています。

 岩塩はそのままでも使えないことはないのですけれど、やっぱり白い綺麗な結晶が望ましいですよね。
 ですから岩塩から塩化ナトリウムを抽出し、結晶化させるまでの工程を魔導具で作り出したのです。

 お父様は事前に王都へ行き、岩塩の存在とその採掘を開始し、塩の販売を始める旨の報告をしています。
 岩塩はそのままでも使えないことはないのですけれど、やっぱり白い綺麗な結晶が望ましいですよね。

 ですから岩塩から塩化ナトリウムを抽出し、結晶化させるまでの工程を魔導具で作り出したのです。
 これまで輸入していた塩に比べるとかなり質の高い塩ですから高く売っても良いのですけれど、ロデアルから売り出すのは価格を抑えた値段にする予定です。

 これまで流通していた値段の半額程度になるはずです。
 それでも大きな収入になることは間違いありませんので、1年後には価格を見直すことにします。

 ロデアルでは、当座、必要最低限度の製塩だけをする予定なんですが、私が行くであろうブルボン領でも岩塩の採掘はするつもりですよ。
 その際は、状況を見て国外にも輸出を考えても良いかもしれません。

 問題はこれまでライヒベルゼン王国へ輸出をしていたゼラート王国やホルツバッファ皇国との関係が悪化することでしょうか?
 何しろ武力を背景にこれら二カ国を含めたライヒベルゼン王国の周辺国に圧力をかけて来る輩ですから、今後もどんな難題を吹っかけて来るかわかりません。

 私(ヴィオラ)も、レインバルク帝国の中枢を担う人物の監視網を強化することにしました。
 要すれば、レインバルク王国の破綻を画策して、こちらから仕掛けることも考えているんですよ。

 少なくとも国民全てを困らせるような方策を取ろうとするやからと交渉のテーブルに着く気はありません。
 攻めてくれば迎え撃つのが当たり前で、既に向こうは仕掛けて来ているのです。

 こちらから殴り返しても向こうは文句は云えないはずですよね。
 もっとも、証拠は残しませんよ。

 少なくともライヒベルゼン王国の王宮サイドでは、未だ事情がよくわかっていないし、レインバルク帝国の陰謀の明確な証拠をつかんではいませんからね。
 王家が何らかの動きを始めるには、もう少し時間が必要でしょう。
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