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第五章 ブルボン家の嫁
5ー9 動乱の結末
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我は、ローランデル王国の公爵であるブレイチェル家当主レナン・ブレイチェルである。
此度、ライヒベルゼン王国への侵攻に際し、ローランデル王国が持つ軍団の三分の二に当たる5万の軍勢を指揮する名誉ある征北将軍に任命された。
42年前に起きた屈辱のライヒネン戦役により、我がローランデル王国の北部山岳領域のエンデルストン地方が憎きライヒベルゼン王国に奪われたのだ。
如何ながら、ライヒベルゼン王国の国力は巨大であり、我がローランデル王国の三倍ほども裕福なのだった。
従って、当初はエンデルストン地方を奪還するために、四度も戦闘を行ったが、いずれも撃退されるに至り、恨みだけを残して最近は小競り合いすらも無くなっていたのである。
だが此度は違う。
我が国と同様に、北部領域をライヒベルゼン王国に侵略され、領域を奪われたフルベルク王国との同盟がなったのだ。
国境を挟んでは居ないものの、ロランデル王国とフルベルク王国は、魔境南端のザーヘン岬を中心とした漁業権益を巡って、かなり昔から海上戦闘を行って来た間柄なのであり、その両国の同盟は奇跡のようなものなのだ。
昔から魔境域の南端に位置するザーヘン岬沖は好漁場として知られており、古来両国の漁民が力づくで漁場を奪い合った漁場でもある。
150年ほど前からは、漁民同士の漁場争いに互いの海軍が出てきて覇権を争うようになったのであり、ある意味で不倶戴天の敵同士であったのだ。
それが五年前、賢人と称された時の宰相メルベスが、フルベルク王国の宰相と五日間にわたる話し合いの末に、ザーヘン岬沖の漁場を両国の入会漁場として設定し、互いの漁獲量を確認しあう制度を導入して和解に至ったのであった。
そのメルベス宰相も一昨年に亡くなったのだが、それを機に、両国での軍事同盟交渉が始まったともいえる。
おそらくはメルベス宰相は平和主義の宰相であったから、軍事同盟には賛成しなかったであろうとも言われているのだ。
いずれにしろ王国の方針としてライヒベルゼン王国への侵攻が決定され、なおかつ、ライヒベルゼン王国の反国王派閥が、我らの両国の侵攻を切っ掛けに、王位を簒奪する秘密の盟約が結ばれている以上、如何に大国のライヒベルゼン王国と雖も、我らを跳ね返すほどの力があるとは思えないのだ。
そのあたりはメルベス宰相の後を継いだ、クレンドル宰相が綿密な諜報活動を取りまとめて勝機を見出したようであり、元帥である国王と参謀である宰相の最終判断に我ら軍人が口を挟む余地は無い。
内憂外患が有れば、どうしても戦力の分散化が起きるのだから、その機会を捉えて侵攻すればエンデルストン地方どころか、さらに北方のライヒベルゼン王国の穀倉地帯を奪えるだろうとみているのだ。
反国王派閥との密約では、我らローランデル王国は旧領地のエンデルストン地方を、また、フルベルク王国は同じく旧領地であったエイヒライネン地方を割譲するとの内容であったが、一方で、ローランデル王国とフルベルク王国の間の密約では、動乱に乗じて、あわよくばライヒベルゼン王国の南部領域の大半をも占領することで合意を得ているのだ。
ライヒベルゼン王国の反国王派閥がうまく王位を簒奪したとして、彼らがすぐにライヒベルゼン王国全体の掌握ができるはずもないことは織り込み済みである。
情報によれば、反国王派閥はライヒベルゼン王国の三分の一内外の勢力を有しているに過ぎず、その動員兵力も少ないことが分かっている。
従って、王位簒奪後の王権が何を言おうと、我らが実効的に領域を支配してしまえば、彼らが手を出すことはできなくなると判断しており、場合によっては新たな国王そのものも排除する追加的な計画すらもあるのだ。
一方で、あまり手を広げすぎると統治が追い付かないという嫌いもあるために、現状ではライヒベルゼン王国の南部領域の三分の二程度の領域の占領が望ましいとされている。
まぁ、取らぬ狸の皮算用をしても始まらぬが、我らは侵攻して取れるだけの領地をかすめ取るだけの話だ。
反抗する者はただの民であっても容赦はしない。
◇◇◇◇
ローランデル王国とフルベルク王国それにライヒベルゼンの反国王派閥との盟約に基づき、我らが国境を越えて攻め入るのは、春季四の月の25日である。
この日は、フルベルク王国と期日を合わせており、遅れるわけには行かないのだ。
また、この日から7日後には、反国王派閥がライヒベルゼン国内で王位簒奪の反乱を起こすことにもなっている。
その起算点となるだけに、時期を遅らせるのも早めるのも良くないのである。
しかしながら予期せぬことが起きたのである。
我が国とライヒベルゼン王国を結ぶ街道はいくつかあるものの、我が国とは断交状態であるために、道路の整備状況が余り良くないのである。
その中でも最も道幅の広いバンデリフト峠を越える道を選んだのだが、その峠道の頂上が国境であり、それを下る緩斜面で大きな崩落事故が起きたのである。
既に我が方の索敵部隊の集団が国境を越えて当該緩斜面に入っていたために崩落現場を見つけて伝令を走らせたのだった。
両側に崖が切り立つ狭隘な道ではあるが、この道路が一番緩やかであり大軍が使うには適した道路だったはずなのだ。
しかしながらその道が崖の崩落により、道路そのものが大量の瓦礫で埋まってしまったのである。
一日後には5万もの大軍を国境を超えて攻め入らねばならぬというのに、とんでもない事故である。
今さら道を変えても少なくとも四日乃至五日、場合により七日以上も遅れることになろう。
報告を聞いて呆然としている我の耳に異なる言葉が響いた。
左程の大声ではないが、明瞭な声で我の頭に染み入る不思議な声であった。
『我は、ライヒベルゼン王国の守護者であるベクター。
ローランデル王国軍に告ぐ、ライヒベルゼン王国侵攻の企みは直ちに放棄しなければならない。
さもなくば、侵攻軍の全将兵が死に瀕することになる。
これより半時後に我の力を見せよう。
諸君らの先頭にいる部隊は直ちに後方1リーグまで後退せよ。
現在先頭の将兵が居る位置から1リーグの範囲の道路及び周囲の崖が一斉に破壊されることになる。
その間に居残ったものは全て死に絶えるであろう。
我が言ったことは必ず実行される。
心せよ。』
我は怒鳴った。
「いったい今のは何だ?」
傍にいた副官のマイロが言った。
「わかりません。
あのような声、誰が言ったものか・・・。
まるで頭の中に呼びかけるような声でした。
まさか・・・。
神?」
「馬鹿なことを言うな。
マイロ、他の者がこの声を聴いたかどうか確認しろ。
軍全体に動揺を与えてはならん。」
マイロは、青い顔をして天幕を飛び出していった。
間もなく戻って来たマイロは、将兵全員があの声を聞いたことを伝えて来た。
そうしてそれのみならず、索敵を兼ねて先行していた部隊が慌てて後退してきたというのである。
確かに半時後に1リーグの道や崖が破壊されるとしたなら、その間に居ては命が無い。
ましてこの崩落を招いたのがそのベクターなる者の仕業とすれば、余程の大魔法師?
下手をすれば我が軍の全滅もあり得る。
敵国の民ならば死なせても構わぬが、国王陛下から預かった将兵をむざむざと失っては堪らぬ。
取り敢えず、様子見の為にも将兵を後方に下げることを決断した。
要すれば、迂回して攻め入ることも検討しよう。
そうして彼の通告があってからおよそ半時後、前方の道路と崖の上辺に無数の大きな破壊音が響いたのである。
左程長い時間ではなかったように思えたが、猛烈な破壊音が収まった時には、周辺はものすごい土煙で前が見通せなくなっていた。
そうしてそれが収まった時、まさしく道路と崖が粉砕され、瓦礫の山となっていたのである。
崖はもっと急峻だったはずだが、なだらかになっているように見えるから、その分が未知の力で破壊されたのであろう。
我が軍にも魔導師は居るが、それが全員でかかってもこのようなことはできない。
ベクターと名乗る男が居る以上、密集体形での戦闘が難しいということになる。
そのような分析をしている合間にも、次の通告がなされたのである。
「ライヒベルゼン王国の守護者ベクターより、ローランデル王国軍に告ぐ、諸君らの居場所は特定されている。
直ちにこの周辺から撤退せよ。
仮に、諸君が国境を超えることが有れば容赦なく殲滅する。
此度の企てに対して、我はローランデル王国に対して懲罰を与えることとする。
すなわち、7日後、ローランデルの王都にある王宮を破壊する。
ここにいる軍を指揮する者は、直ちに王都へ伝令を走らせよ。
猶予は7日間であり、7日後の正午に王宮はその全てが破壊される。
そこに人が居ようが居まいが、関わりなく王宮は灰燼に帰すだろう。
護衛の兵士を含めて、すべての者が王宮から遠ざかることをお勧めする。
時は短い、直ちに動け。」
レナン・ブレイチェルは多少の逡巡はしたもののすぐに結論を出した。
王都に伝令を走らせ、第一に王宮の危機を知らせること、第二に、魔導師と思われる守護者と名乗るベクターなる者に行く手を遮られ、作戦の決行が遅れることと、同時に軍が国境を越えれば我が軍の壊滅が必至であることも伝え、征北将軍として作戦の破棄、軍の撤退を進言したのである。
将軍は罷免され、処罰されるかもしれないが、国王から預かった5万もの将兵をむざむざ死ねせるわけには行かないからである。
伝令には、この地で起きた全てのことを細大漏らさず伝えろとも命じたのである。
その上で、軍を10リーグ後退させて布陣した。
王都よりの返事を待つためである。
◇◇◇◇
一方で、フルベルク軍にも同様のことが起きていた。
しかしながら、フルベルク軍を率いるゼルカス将軍は単なる脅しと捉え、瓦礫と化した道を乗り越えて国境線を超えようとしたのである。
数百名の将兵が国境線を超えた途端、破壊の嵐が吹き荒れた。
フルベルク軍4万の将兵は、国境であるトーラン峠で屍を晒すことになった。
生き残ったのは、瓦礫の山を越えられそうになかった輜重隊約二千名ほどであった。
当該輜重隊の隊長が早馬での伝令を王都に走らせ、ゼルカス将軍以下の派遣軍全滅と七日後に迫った王宮の危機を伝達したのである。
ローランデル王国の王宮とフルベルク王国の王宮は、ベクターなる人物が宣告した通り、七日後の正午に灰燼と帰したのである。
幸いにして王宮の破壊による被害者は一人も出なかったが、王宮の庭園に棲む小動物は、王宮の破壊とともにその多くが滅し、また優雅な庭園に咲き誇っていた花や植物も一切合切が滅したのである。
ローランデル王国とフルベルク王国は、この後、ライヒベルゼン王国への侵攻を二度と企むようなことはしなかった。
此度、ライヒベルゼン王国への侵攻に際し、ローランデル王国が持つ軍団の三分の二に当たる5万の軍勢を指揮する名誉ある征北将軍に任命された。
42年前に起きた屈辱のライヒネン戦役により、我がローランデル王国の北部山岳領域のエンデルストン地方が憎きライヒベルゼン王国に奪われたのだ。
如何ながら、ライヒベルゼン王国の国力は巨大であり、我がローランデル王国の三倍ほども裕福なのだった。
従って、当初はエンデルストン地方を奪還するために、四度も戦闘を行ったが、いずれも撃退されるに至り、恨みだけを残して最近は小競り合いすらも無くなっていたのである。
だが此度は違う。
我が国と同様に、北部領域をライヒベルゼン王国に侵略され、領域を奪われたフルベルク王国との同盟がなったのだ。
国境を挟んでは居ないものの、ロランデル王国とフルベルク王国は、魔境南端のザーヘン岬を中心とした漁業権益を巡って、かなり昔から海上戦闘を行って来た間柄なのであり、その両国の同盟は奇跡のようなものなのだ。
昔から魔境域の南端に位置するザーヘン岬沖は好漁場として知られており、古来両国の漁民が力づくで漁場を奪い合った漁場でもある。
150年ほど前からは、漁民同士の漁場争いに互いの海軍が出てきて覇権を争うようになったのであり、ある意味で不倶戴天の敵同士であったのだ。
それが五年前、賢人と称された時の宰相メルベスが、フルベルク王国の宰相と五日間にわたる話し合いの末に、ザーヘン岬沖の漁場を両国の入会漁場として設定し、互いの漁獲量を確認しあう制度を導入して和解に至ったのであった。
そのメルベス宰相も一昨年に亡くなったのだが、それを機に、両国での軍事同盟交渉が始まったともいえる。
おそらくはメルベス宰相は平和主義の宰相であったから、軍事同盟には賛成しなかったであろうとも言われているのだ。
いずれにしろ王国の方針としてライヒベルゼン王国への侵攻が決定され、なおかつ、ライヒベルゼン王国の反国王派閥が、我らの両国の侵攻を切っ掛けに、王位を簒奪する秘密の盟約が結ばれている以上、如何に大国のライヒベルゼン王国と雖も、我らを跳ね返すほどの力があるとは思えないのだ。
そのあたりはメルベス宰相の後を継いだ、クレンドル宰相が綿密な諜報活動を取りまとめて勝機を見出したようであり、元帥である国王と参謀である宰相の最終判断に我ら軍人が口を挟む余地は無い。
内憂外患が有れば、どうしても戦力の分散化が起きるのだから、その機会を捉えて侵攻すればエンデルストン地方どころか、さらに北方のライヒベルゼン王国の穀倉地帯を奪えるだろうとみているのだ。
反国王派閥との密約では、我らローランデル王国は旧領地のエンデルストン地方を、また、フルベルク王国は同じく旧領地であったエイヒライネン地方を割譲するとの内容であったが、一方で、ローランデル王国とフルベルク王国の間の密約では、動乱に乗じて、あわよくばライヒベルゼン王国の南部領域の大半をも占領することで合意を得ているのだ。
ライヒベルゼン王国の反国王派閥がうまく王位を簒奪したとして、彼らがすぐにライヒベルゼン王国全体の掌握ができるはずもないことは織り込み済みである。
情報によれば、反国王派閥はライヒベルゼン王国の三分の一内外の勢力を有しているに過ぎず、その動員兵力も少ないことが分かっている。
従って、王位簒奪後の王権が何を言おうと、我らが実効的に領域を支配してしまえば、彼らが手を出すことはできなくなると判断しており、場合によっては新たな国王そのものも排除する追加的な計画すらもあるのだ。
一方で、あまり手を広げすぎると統治が追い付かないという嫌いもあるために、現状ではライヒベルゼン王国の南部領域の三分の二程度の領域の占領が望ましいとされている。
まぁ、取らぬ狸の皮算用をしても始まらぬが、我らは侵攻して取れるだけの領地をかすめ取るだけの話だ。
反抗する者はただの民であっても容赦はしない。
◇◇◇◇
ローランデル王国とフルベルク王国それにライヒベルゼンの反国王派閥との盟約に基づき、我らが国境を越えて攻め入るのは、春季四の月の25日である。
この日は、フルベルク王国と期日を合わせており、遅れるわけには行かないのだ。
また、この日から7日後には、反国王派閥がライヒベルゼン国内で王位簒奪の反乱を起こすことにもなっている。
その起算点となるだけに、時期を遅らせるのも早めるのも良くないのである。
しかしながら予期せぬことが起きたのである。
我が国とライヒベルゼン王国を結ぶ街道はいくつかあるものの、我が国とは断交状態であるために、道路の整備状況が余り良くないのである。
その中でも最も道幅の広いバンデリフト峠を越える道を選んだのだが、その峠道の頂上が国境であり、それを下る緩斜面で大きな崩落事故が起きたのである。
既に我が方の索敵部隊の集団が国境を越えて当該緩斜面に入っていたために崩落現場を見つけて伝令を走らせたのだった。
両側に崖が切り立つ狭隘な道ではあるが、この道路が一番緩やかであり大軍が使うには適した道路だったはずなのだ。
しかしながらその道が崖の崩落により、道路そのものが大量の瓦礫で埋まってしまったのである。
一日後には5万もの大軍を国境を超えて攻め入らねばならぬというのに、とんでもない事故である。
今さら道を変えても少なくとも四日乃至五日、場合により七日以上も遅れることになろう。
報告を聞いて呆然としている我の耳に異なる言葉が響いた。
左程の大声ではないが、明瞭な声で我の頭に染み入る不思議な声であった。
『我は、ライヒベルゼン王国の守護者であるベクター。
ローランデル王国軍に告ぐ、ライヒベルゼン王国侵攻の企みは直ちに放棄しなければならない。
さもなくば、侵攻軍の全将兵が死に瀕することになる。
これより半時後に我の力を見せよう。
諸君らの先頭にいる部隊は直ちに後方1リーグまで後退せよ。
現在先頭の将兵が居る位置から1リーグの範囲の道路及び周囲の崖が一斉に破壊されることになる。
その間に居残ったものは全て死に絶えるであろう。
我が言ったことは必ず実行される。
心せよ。』
我は怒鳴った。
「いったい今のは何だ?」
傍にいた副官のマイロが言った。
「わかりません。
あのような声、誰が言ったものか・・・。
まるで頭の中に呼びかけるような声でした。
まさか・・・。
神?」
「馬鹿なことを言うな。
マイロ、他の者がこの声を聴いたかどうか確認しろ。
軍全体に動揺を与えてはならん。」
マイロは、青い顔をして天幕を飛び出していった。
間もなく戻って来たマイロは、将兵全員があの声を聞いたことを伝えて来た。
そうしてそれのみならず、索敵を兼ねて先行していた部隊が慌てて後退してきたというのである。
確かに半時後に1リーグの道や崖が破壊されるとしたなら、その間に居ては命が無い。
ましてこの崩落を招いたのがそのベクターなる者の仕業とすれば、余程の大魔法師?
下手をすれば我が軍の全滅もあり得る。
敵国の民ならば死なせても構わぬが、国王陛下から預かった将兵をむざむざと失っては堪らぬ。
取り敢えず、様子見の為にも将兵を後方に下げることを決断した。
要すれば、迂回して攻め入ることも検討しよう。
そうして彼の通告があってからおよそ半時後、前方の道路と崖の上辺に無数の大きな破壊音が響いたのである。
左程長い時間ではなかったように思えたが、猛烈な破壊音が収まった時には、周辺はものすごい土煙で前が見通せなくなっていた。
そうしてそれが収まった時、まさしく道路と崖が粉砕され、瓦礫の山となっていたのである。
崖はもっと急峻だったはずだが、なだらかになっているように見えるから、その分が未知の力で破壊されたのであろう。
我が軍にも魔導師は居るが、それが全員でかかってもこのようなことはできない。
ベクターと名乗る男が居る以上、密集体形での戦闘が難しいということになる。
そのような分析をしている合間にも、次の通告がなされたのである。
「ライヒベルゼン王国の守護者ベクターより、ローランデル王国軍に告ぐ、諸君らの居場所は特定されている。
直ちにこの周辺から撤退せよ。
仮に、諸君が国境を超えることが有れば容赦なく殲滅する。
此度の企てに対して、我はローランデル王国に対して懲罰を与えることとする。
すなわち、7日後、ローランデルの王都にある王宮を破壊する。
ここにいる軍を指揮する者は、直ちに王都へ伝令を走らせよ。
猶予は7日間であり、7日後の正午に王宮はその全てが破壊される。
そこに人が居ようが居まいが、関わりなく王宮は灰燼に帰すだろう。
護衛の兵士を含めて、すべての者が王宮から遠ざかることをお勧めする。
時は短い、直ちに動け。」
レナン・ブレイチェルは多少の逡巡はしたもののすぐに結論を出した。
王都に伝令を走らせ、第一に王宮の危機を知らせること、第二に、魔導師と思われる守護者と名乗るベクターなる者に行く手を遮られ、作戦の決行が遅れることと、同時に軍が国境を越えれば我が軍の壊滅が必至であることも伝え、征北将軍として作戦の破棄、軍の撤退を進言したのである。
将軍は罷免され、処罰されるかもしれないが、国王から預かった5万もの将兵をむざむざ死ねせるわけには行かないからである。
伝令には、この地で起きた全てのことを細大漏らさず伝えろとも命じたのである。
その上で、軍を10リーグ後退させて布陣した。
王都よりの返事を待つためである。
◇◇◇◇
一方で、フルベルク軍にも同様のことが起きていた。
しかしながら、フルベルク軍を率いるゼルカス将軍は単なる脅しと捉え、瓦礫と化した道を乗り越えて国境線を超えようとしたのである。
数百名の将兵が国境線を超えた途端、破壊の嵐が吹き荒れた。
フルベルク軍4万の将兵は、国境であるトーラン峠で屍を晒すことになった。
生き残ったのは、瓦礫の山を越えられそうになかった輜重隊約二千名ほどであった。
当該輜重隊の隊長が早馬での伝令を王都に走らせ、ゼルカス将軍以下の派遣軍全滅と七日後に迫った王宮の危機を伝達したのである。
ローランデル王国の王宮とフルベルク王国の王宮は、ベクターなる人物が宣告した通り、七日後の正午に灰燼と帰したのである。
幸いにして王宮の破壊による被害者は一人も出なかったが、王宮の庭園に棲む小動物は、王宮の破壊とともにその多くが滅し、また優雅な庭園に咲き誇っていた花や植物も一切合切が滅したのである。
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