親王様は元大魔法師~明治の宮様に転生した男の物語~戦は避けられるのか?

サクラ近衛将監

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第二章 富士野宮(ふじのみや)宏禎(ひろよし)王

2-15 韋駄天と英国大使館の動き

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 明治45年(1912年)4月、私は学習院高等部に入学していました。
 実は海軍兵学校に入るかどうかで再度父とも相談しましたが、結局、軍には所属せず支援に徹することが望ましい方向性だという結論に達し、海軍兵学校への進学は取りやめました。

 別途英国留学の話もあったのですが、明治大帝の崩御が予めわかっていたので取り敢えず、大正2年(1913年)3月までは国内に在留することにしていました。
 その後さらに皇太后まで崩御されて国内残留は大正4年(1915年)まで伸びてしまいましたけれどね。

 宮家の嫡子で大喪の礼や即位の礼に出ないのは海外に居て止むを得ないとは言え、戻って来ないのは不謹慎とさえ言われかねないからであり、途中で呼び戻される可能性があるならば避けておこうと思ったのです。
 私の歴史干渉の所為でひょっとすると明治大帝の崩御の時期が前後するかなとも思っていたのですが、・・・。うん、この辺は歴史通りに動いているようですね。
 
 医大がもう四、五年も早く開校していれば、あるいは天皇陛下の病状改善に役立てたかもしれませんが、今の時点で私が聖魔法なりで治癒を行ってしまうとそれこそ取り返しが効きません。
 従って、明治大帝にはそのまま崩御していただきました。

 但し、私の歴史介入の成果であるのか少しずつ歴史の動きに変化が生じ始めているような気がします。
 まず自動車関係は、外車が帝国国内からほぼ駆逐されそうです。
 
 そりゃぁ、高価なガソリンを食って、性能の悪い外車を乗り回す人などいませんよね。
 飛鳥電気製作所が明治41年(1908年)10月に電気自動車「韋駄天」を発売して以来、業界を席巻したのです。

 国外から輸出を望む声も多々あるのですが、「韋駄天」は国内のみの販売で国外に持ち出すことはできません。
 唯一可能なのは、関係省庁から許可を得られる樺太、台湾と朝鮮半島だけなのです。

 所謂内地若しくはこれらの許可された外地から「韋駄天」を持ち出しても正常に機能せず、保護された機関パネルなどを外した途端にモーターと電池を含めて車体全部が破壊されます。
 また国外に持ち出された時点でその動きが把握され、飛鳥電気製作所から特高警察に通報がなされるようになっています。
 
 「韋駄天」に仕込んだセンサーが「韋駄天」の位置通報をしてくれているのです。
 明治41年の発売開始以来、20件を超える密輸出の事例がありましたが、いずれも国外で破壊され、破壊に伴う反応熱等で極周辺にいた者は大怪我をした模様ですが、調べる必要もないので放置しています。

 3年後の明治44年にはそうした不届き者はいなくなりました。
 多大の手間と経費、それに大きな人的被害を被って初めて密輸のデメリットを悟ったのでしょう。

 密輸出しても動かない車など何の価値もありません。
 ましてや複製しようにも壊れた車体から得られる知識はほとんどないのです。

 モーター及びパラチウム電池の重要な二品は自壊装置があって発火し、完璧に灰だけになります。
 その他の配線機器や計器類についても先進的な知識が詰まっては居ますがどうやって動くのかわからなければ壊すだけ無駄なことです。
 とにかく自壊する際は高熱を発しますので5m以内にいると危険なのです。

 因みに国内に「韋駄天」が存在する場合は、衝突事故その他で壊れても自壊することはありません。
 あるいはそのうちワザと衝突事故を起こして部品を盗み出そうとする輩も現れるかも知れませんが、モーターとパラチウム電池は簡単には取り外しができないようになっているのです。
 故意に衝突させて、何とか部品を取り外せるようになるのは百万件に一度ぐらいの可能性であり得るかも知れません。

 これは余程の偶然が重ならないとあり得ない確率です。
 それとその他の機器類や計器類も何しろハイブリッドなIT計器を数多く使っていますから、先進の欧米諸国でも分析だけで間違いなく10年以上はかかる代物です。

 コピー品の製造ともなればさらに10年単位の時が必要なはずです。
 まぁ、それでも米国、英国、仏国、独国の四か国は、細々ながらも内密に研究を始めているようです。

 国がそうした泥棒紛いの行為をしていることが表沙汰になると国際的にも国内的にも政府が信頼を失いますから、内密にせざるを得ないのですがね。
 米国では産学共同体で、仏国と英国は諜報組織の研究部門で、独国は陸軍の研究所で研究をしているのを私は知っています。

  ◇◇◇◇

 私は駐日イギリス大使館に勤務するネイビル・K・スミスウェルという参事官である。
 1907年にASUKA DENKI SEISAKUSHO (日本の漢字名から察するに「Asuka Electric Works Ltd.」ぐらいになるだろう。)で発売され始めた「IDATEN」なる電気自動車について調べろとの督促が本国政府から来ていて困っているところなのである。

 大日本帝国とは日英同盟を締結していて、とても良好な関係にあるのだが、ことこの不可解な名前の電気自動車については日本政府も機密扱いをしており非常にかたくなな態度を崩さない。
 実はこれだけに限らず、同じ頃にASUKA SEIKI (同じく「ASUKA Precision Machinery Ltd.」か?)で発売され始めた最新式の旋盤についても調査依頼が来ているのだが、これについても軍事機密の一部が使用されているとのことで開示が拒まれている。

 「IDATEN」を日本国内で購入して使用する分には、国籍が日本である限りできるので、現地雇員こいんとしての大使館従業員に金を与えて購入させてみた。
 そのうえで車のエンジン部分を覗こうとすると、英語等6か国語で表記された警告文章にかち合った。

『警告:この車体内部をID番号と必要な暗証番号なしに解放しようとする場合は、当該車体が高熱を発して損壊する危険性があるので絶対にしてはならない。
 分解修理等必要な場合は、あらかじめメーカーの指定する業者に問い合わせその指示に従うこと。
 なお、政府に認められた正規の事業者でなければ帝国法規により開放修理を行うことが禁じられている。』

 単純に考えて、「下手に触ると壊れるよ」と言うただの脅し文句のように見えたので無視してケースを開けようとした途端、内部で唐突に高熱を発し始め、10秒もしないうちに買ったばかりの新車がガラクタになったのである。
 一応ディーラーにクレームをつけさせたが、逆に特高と呼ばれる警察官がやってきて、当該従業員が三日に渡って拘束され、厳しい事情聴取をされた。

 幸いにして、大使館敷地内での出来事であり、実行行為者が治外法権を有する大使館員であったのでそれ以上の追及はなかったが、翌日帝国外務省から厳重なる正式抗議がやってきた。
 曰く、今回は目こぼしするが次回はスパイ行為があったものとして関係者を処罰、若しくはペルソナ・ノン・グラータとして国外追放処分に処すると通告してきたのである。

 大使館としては単純なミスとか色々抗弁をしてみたのだが、そもそも安全装置が働かない限り自壊しない仕組みになっているそうであり、その装置が作動した以上は間違いなく違法行為があったのだと指摘を受けた。
 目につくところに警告文まで表示されていてしかも故障でもないのに開放しようとした事実さえ特高ではつかんでいるらしい。

 次回以降は大使館が絡む形での調査ができないこととなり、無駄に大使館の経費を消費したと大使からも小言を貰ってしまった。
 止むを得ず既知の友人で帝国内で海図や海事関係器具の販売をしている某商会に頼み、合法での輸出ができないので非合法で何とか英国まで運べないかとの打診をしたが、即座に返答が返ってきた。
 
「あの、IDATENはやばい品ですよ。
 あれを秘密裏に船に積んで出港し、日本が主張する領海三海里を超えた時点ですぐにも海軍のパトロール艇がやってきて臨検をするんですよ。
 そのために既にロシア船二隻が捕まり法外な罰金を掛けられ、船自体も押収されています。
 既に三か月も船は港内に泊ったままで、商売の方は揚がったりの状態の筈です。
 リスクが高すぎてウチではとても請け負えませんね。
 頼むならマカオか香港辺りに巣くう半端物を使うしかありませんが、それでもまず無理でしょうね。
 港を出た時点で海軍の船が動き出しますから、何らかの通報装置が組み込まれているんじゃないですかねぇ。
 それにスミスウェルさんも試されたんでしょうけれど、あいつをいじればすぐに壊れます。
 多分、香港やシンガポールに運んでも同じだと思いますよ。
 ウチらはあのIDATENには手を出さないことに決めています。
 下手を打つと日本国内での商売を停止させられますからね。
 少々金を積まれてもリスクに見合わないんですよ。」

 結局伝手を頼ることはできなかった。
 香港・マカオ当たりの荒くれ者を使うにしても、旅費を含めて色々問題がある。

 特に背後に英国が絡んでいないという保証ができなければ危ない橋は渡れない。
 止むを得ず、燃え尽きた車体でありながら配線や何らかの機材の残骸と思われるものを外交パウチで本国に送ることしかできなかった。

 新型旋盤については更に規制が強いらしく少なくとも一般人への販売はほとんどない。
 基本的に旋盤を使う商売を行う鉄工所など特定のところにしか販売されていないようだ。

 私では大使館で旋盤がどうしても必要な理由を思いつけなかった。
 一方で旋盤にしろ電気自動車にしろ「ASUKA」という名がつけられているので同系列の会社かと思ってそちらの方面から調べてみたところ、感触があった。

 どちらも「FUJINOMIYA」と言うRoyal Familyが設立した会社であったのだ。
 ほかにも調べると、「FUJINOMIYA」が関与している企業で「ASUKA」の名を冠する企業が、ASUKA-JUKO-SHARYO-SEISAKUSHO、ASUKA-JUKO-NOUKI-SEISAKUSHO、ASUKA-HATSUDENSHO、ASUKA-SERAMIKKUSU(或いは”CERAMICS”か?)など四社が東京市内若しくはその郊外にあることが判明した。


 これらの会社はいずれも1907年以降に起業された会社であって、堅調な業績を上げていることが判明したのである。
 このことから、この「FUJINOMIYA」なかんずく当主であるImperial Highness Prince Hiroyasu Fujinoが一番関与していると疑わしいのだが、実のところ彼は海軍軍人で単なる名誉職ではなく実際に軍艦に乗艦している人物であることから、東京市内の屋敷には不在がちであり、起業家としては向かない人物のように見えるのだ。

 その嫡男であるImperial Highness Prince Hiroyosiも発起人に名を連ねているが未だ15歳の少年であり、この少年が会社の中心とはとても思えないのである。
 結局のところ、『Royal Familyの一人であるImperial Highness Prince Hiroyasu Fujinoが何らかの形で新型の電気自動車及び工作旋盤に関わっているものと思われる。』との報告しかできなかった。

  ◇◇◇◇

 英国大使館からパウチで本国当てに送られた書簡については、作成時点で駐日英国大使館の天井の一角に張り付いていたクモ型ゴーレムがすべてを監視し、更に微小なノミ型ゴーレムによりパウチが閉じられ、発送されるまで監視下にあり、その全文は既に解読され、宏禎王に届けられていた。
 読んだ宏禎王はくすっと笑って、「無駄なことをするよなぁ。」と呟いていた。
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