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第一話 独占欲の檻
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私、西原六花が中学二年の春、クラス替えにも慣れ、少しずつ新しい友達ができ始めた頃だった。放課後の教室で、クラスメイトの小野聡太から告白された。
「六花、俺、お前のことが好きだ。付き合ってほしい」
彼の言葉に、私は驚いた。
聡太はいつも明るくて、クラスの人気者だ。私にも気さくに接してくれて、どこか安心できる存在だった。そんな彼からの突然の告白に、心臓がドキドキする。
私も、聡太のことが嫌いじゃない。むしろ、一緒にいると楽しいし、心がほっとすることもあった。でも――
「ありがとう。返事は明日でいい?」
即答するのが照れくさくて、うつむきながらそう答えた。聡太は笑顔でうなづいた。
「分かった。待ってるよ!」
私の胸には、小さな幸せが広がった。私、聡太と付き合っちゃうんだ……
でも、その幸せは長くは続かなかった。
◆◇◆◇
次の日から、クラスの空気が変わった。
廊下で誰かがこそこそ話しているのが聞こえる。授業中、視線を感じる。休み時間、私と聡太が話しかけようとするたびに、聡太は私を避けた。背後から何か冷たいものが突き刺さるような感覚があった。
そして、その原因はすぐに分かった。
安原ミチル――私の幼馴染だった。
ミチルとは、小さい頃からずっと一緒だった。家も近くて、親同士も仲が良くて、まるで兄妹のような関係だった。
だけど、中学に入ったころから、私はミチルを避けるようになっていた。私がほかの男子と話していると露骨に不機嫌になったり、「六花には俺がいるだろ」と言ってくるようになったのが、だんだん煙たくなってきたのだ。
私は「ただの幼馴染」と、ミチルの言動を深く考えずに流していたけど……今思えば、それが間違いだったのかもしれない。
「聡太、今日ちょっとおかしくない?」
昼休み、私は勇気を出して彼に問いかけた。
すると、聡太は私の目を見ず、困ったように唇を噛んだ。
「……ごめん、六花。俺、やっぱり付き合えない」
――え?
「なんで?」
「……ミチルに、言われたんだ。お前と付き合うなって」
信じられなかった。
「ミチルが?」
「あいつ、お前の幼馴染だからって、すごい勢いで俺に詰め寄ってきてさ。六花にはふさわしくないって言われた。あと……もし六花と付き合うなら、クラスで孤立することになるぞ、って」
聡太の表情には、恐れがにじんでいた。
「俺、そんなつもりなかった。でも……ごめん。俺、そんな勇気ないんだ」
そう言い残して、聡太は私から遠ざかっていった。
私はただ、立ち尽くすしかなかった。
◆◇◆◇
その日の放課後、私はミチルを問い詰めた。
「なんで、聡太にあんなこと言ったの?」
すると、彼は涼しい顔で答えた。
「だって、あいつは六花にふさわしくないだろ?」
「そんなの、ミチルが決めることじゃない!」
「俺は六花のことを一番よく知ってる。六花には、俺がいれば十分だろ?」
私は息をのんだ。
ミチルの声は穏やかだったけど、そこに優しさはなかった。ただ、私を「所有物」として見ているような、冷たい独占欲だけが滲んでいた。
「私は、ミチルのものじゃない!」
そう言った私の手首を、ミチルはぎゅっと掴んだ。
「……六花、俺の言うことを聞いてればいいんだよ」
その力の強さに、私はゾッとした。
逃げなきゃいけない。そう思ったのに、体がすくんで動けなかった。
◆◇◆◇
それからというもの、ミチルはますます私につきまとうようになった。私がほかの男子と話そうものなら、どこからともなく現れて邪魔をする。何もしていないのに、彼の視線がいつもどこかから注がれているような気がして、息苦しかった。
最初は気にしないようにしていた友達も、やがて私と距離を置くようになった。
「ミチルを怒らせたくない」と。
気づけば、私は一人になっていた。
◆◇◆◇
でも、中学三年になると、状況が一変した。
ミチルは突然、私から離れた。
「受験勉強が忙しいから」と言って、まるで今までのことがなかったかのように、あっさり私との関係を切り捨てたのだ。
「ミチル……?」
困惑する私に、彼は淡々と言った。
「今はそれどころじゃないから。お前も受験勉強、頑張れよ」
それだけ。
あれほど私を独占しようとしていたのに、受験という理由で簡単に私を手放した。
今までの束縛は、なんだったの? 私の気持ちなんて、ミチルにとってはどうでもよかったの?
私を支配していたのは、ただの気まぐれだったの?
何もかもが、馬鹿みたいだった。
◆◇◆◇
それ以来、私は人を信じるのが怖くなった。
優しい言葉も、笑顔も、全部嘘なんじゃないかと思うようになった。
特に、男の人の好意を素直に受け取れなくなった。
私を好きって言う人がいても、心のどこかで「またミチルみたいに、勝手に裏切るんじゃないか?」って疑ってしまう。
でも、時間は流れ続ける。
高校に進学した私は、新しい環境で新しい人たちと出会うことになる。
そして、そこで――私は、もう一度誰かを信じることができるのかを試されることになるのだった。
「六花、俺、お前のことが好きだ。付き合ってほしい」
彼の言葉に、私は驚いた。
聡太はいつも明るくて、クラスの人気者だ。私にも気さくに接してくれて、どこか安心できる存在だった。そんな彼からの突然の告白に、心臓がドキドキする。
私も、聡太のことが嫌いじゃない。むしろ、一緒にいると楽しいし、心がほっとすることもあった。でも――
「ありがとう。返事は明日でいい?」
即答するのが照れくさくて、うつむきながらそう答えた。聡太は笑顔でうなづいた。
「分かった。待ってるよ!」
私の胸には、小さな幸せが広がった。私、聡太と付き合っちゃうんだ……
でも、その幸せは長くは続かなかった。
◆◇◆◇
次の日から、クラスの空気が変わった。
廊下で誰かがこそこそ話しているのが聞こえる。授業中、視線を感じる。休み時間、私と聡太が話しかけようとするたびに、聡太は私を避けた。背後から何か冷たいものが突き刺さるような感覚があった。
そして、その原因はすぐに分かった。
安原ミチル――私の幼馴染だった。
ミチルとは、小さい頃からずっと一緒だった。家も近くて、親同士も仲が良くて、まるで兄妹のような関係だった。
だけど、中学に入ったころから、私はミチルを避けるようになっていた。私がほかの男子と話していると露骨に不機嫌になったり、「六花には俺がいるだろ」と言ってくるようになったのが、だんだん煙たくなってきたのだ。
私は「ただの幼馴染」と、ミチルの言動を深く考えずに流していたけど……今思えば、それが間違いだったのかもしれない。
「聡太、今日ちょっとおかしくない?」
昼休み、私は勇気を出して彼に問いかけた。
すると、聡太は私の目を見ず、困ったように唇を噛んだ。
「……ごめん、六花。俺、やっぱり付き合えない」
――え?
「なんで?」
「……ミチルに、言われたんだ。お前と付き合うなって」
信じられなかった。
「ミチルが?」
「あいつ、お前の幼馴染だからって、すごい勢いで俺に詰め寄ってきてさ。六花にはふさわしくないって言われた。あと……もし六花と付き合うなら、クラスで孤立することになるぞ、って」
聡太の表情には、恐れがにじんでいた。
「俺、そんなつもりなかった。でも……ごめん。俺、そんな勇気ないんだ」
そう言い残して、聡太は私から遠ざかっていった。
私はただ、立ち尽くすしかなかった。
◆◇◆◇
その日の放課後、私はミチルを問い詰めた。
「なんで、聡太にあんなこと言ったの?」
すると、彼は涼しい顔で答えた。
「だって、あいつは六花にふさわしくないだろ?」
「そんなの、ミチルが決めることじゃない!」
「俺は六花のことを一番よく知ってる。六花には、俺がいれば十分だろ?」
私は息をのんだ。
ミチルの声は穏やかだったけど、そこに優しさはなかった。ただ、私を「所有物」として見ているような、冷たい独占欲だけが滲んでいた。
「私は、ミチルのものじゃない!」
そう言った私の手首を、ミチルはぎゅっと掴んだ。
「……六花、俺の言うことを聞いてればいいんだよ」
その力の強さに、私はゾッとした。
逃げなきゃいけない。そう思ったのに、体がすくんで動けなかった。
◆◇◆◇
それからというもの、ミチルはますます私につきまとうようになった。私がほかの男子と話そうものなら、どこからともなく現れて邪魔をする。何もしていないのに、彼の視線がいつもどこかから注がれているような気がして、息苦しかった。
最初は気にしないようにしていた友達も、やがて私と距離を置くようになった。
「ミチルを怒らせたくない」と。
気づけば、私は一人になっていた。
◆◇◆◇
でも、中学三年になると、状況が一変した。
ミチルは突然、私から離れた。
「受験勉強が忙しいから」と言って、まるで今までのことがなかったかのように、あっさり私との関係を切り捨てたのだ。
「ミチル……?」
困惑する私に、彼は淡々と言った。
「今はそれどころじゃないから。お前も受験勉強、頑張れよ」
それだけ。
あれほど私を独占しようとしていたのに、受験という理由で簡単に私を手放した。
今までの束縛は、なんだったの? 私の気持ちなんて、ミチルにとってはどうでもよかったの?
私を支配していたのは、ただの気まぐれだったの?
何もかもが、馬鹿みたいだった。
◆◇◆◇
それ以来、私は人を信じるのが怖くなった。
優しい言葉も、笑顔も、全部嘘なんじゃないかと思うようになった。
特に、男の人の好意を素直に受け取れなくなった。
私を好きって言う人がいても、心のどこかで「またミチルみたいに、勝手に裏切るんじゃないか?」って疑ってしまう。
でも、時間は流れ続ける。
高校に進学した私は、新しい環境で新しい人たちと出会うことになる。
そして、そこで――私は、もう一度誰かを信じることができるのかを試されることになるのだった。
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