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「ん⋯」
カーテン越しの朝日が眩しい。俺の部屋は遮光カーテンのはずなのに、なんでだ?
なんてことを思いながらぼんやりと目を開けると、見慣れない壁と天井の模様が視界に入ってきて、慌てて飛び起きた。
知らない部屋だ。どこだここ。
確か昨日は、岡村たちと合コンに行って、それから⋯
「あ、起きた?」
「⋯速水さん」
そうだ、気分が悪くなってこの人に介抱してもらって、それから⋯それからどうしたんだっけ?
その後の記憶がない。今まで記憶を無くすほど酔ったことなんてなかったのに。
はっとして自分の身体を見下ろすと、服は昨日のワイシャツのまま、ズボンもちゃんと履いていた。
気付かれない程度にほっと息を吐く。
「気分はどう?」
「あ、大丈夫です。すみません、俺あのまま寝ちゃったんですね」
「何回か起こしたんだけど、起きなかったから。服皺になっちゃったよね。ちょっと迷ったんだけど、脱がすのもどうかと思ってそのままにしちゃった」
「大丈夫です。安物なんで」
家で洗濯しているような安価なスーツだ。寝て出来た皺なんてどうってことない。
洗面所を借りて顔を洗った後リビングへ行くと、速水さんは朝食の準備をしていた。
「大したものないけど、よかったらどうぞ」
「ありがとうございます。いただきます」
テーブルには数種類のパンとスクランブルエッグ、サラダにフルーツまで並んでいた。全然大したことなくなかった。
「すごい⋯、おしゃれ⋯」
「普通でしょ」
「普通じゃないです。パンとフルーツが数種類あるのはホテルとか店並です」
「大げさだな~」
速水さんはくすくすと楽しそうに笑う。好きなだけ食べてと言われたので、遠慮なくいただいた。昨日1日ろくに食べてなかったので、かなりお腹が空いていたようだ。
「元気になったみたいでよかった」
「う⋯。ほんと、ご迷惑をおかけしました⋯」
「気にしないで」
昨日も思ったけどやっぱりいい人だ。
「あの、何かお礼させてください」
「ほんとに気にしなくていいよ」
「いや、でも」
世話になりっぱなしはどうしたって気になる。
「んー、じゃあ、今日この後空いてる? 1日付き合ってくれない?」
「いいですけど」
「よし。じゃあ食べたら出かけよう」
妙に楽しそうな様子を見てから気が付いた。もしかして、これってデートになるんだろうか。
早まったかもと思ったが後の祭りだ。まあ何かするつもりなら昨夜のうちにとっくに襲われてるだろうし、大丈夫だろう。
俺は残りのパンを頬張った。やっぱりホテルの朝食並に美味しかった。
✦✦✦
シワシワのスーツで出かけるわけにもいかないので、まずは服を買いに行った。
適当でいいと言ったけれど、案の定着せ替え人形にさせられる。しかも俺が値札を気にしていると、買ってあげると言われた。断固拒否した。
「最後に着たの似合ってたのにな」
「あんな高いの買えませんよ。着る機会もないし」
「それなら俺が買ってあげるのに」
「お礼させてくれって言ったの、俺の方なんですけど」
服を買った後は映画に行き、その後公園でクレープを食べた。なんかもう典型的なデートコースだ。それも学生みたいな健全な昼間のデート。
「なんかこういうの久しぶりだな」
「俺もです。けど、速水さんはモテるでしょう?」
「そうでもないよ」
嘘だ。αなら何もしなくたってモテるだろう。昨日も他の客がチラチラ俺たちの席を見ていたし、今日もすれ違いざまにこっちを見ている人が多かった。
最初は男同士だからかと思ったが、映画館でもこの公園でも、カップルっぽい同性の2人組は結構いる。世界の常識が変わるとこんなに違うんだなと驚いた。
「新君」
「はい?」
「また、こうやって会ってくれない?」
「⋯えっと」
それはつまり――
「付き合ってほしい」
「⋯⋯」
なんで俺。こんなどこにでもいるような平凡な人間じゃなくて、速水さんなら引く手数多だろうに。
「だめ、かな?」
俺が黙り込んでしまうと、速水さんは少し寂しそうに苦笑した。
「あの、俺、男同士でとか、考えたことなくて」
「そうなの?」
意外だと言いたげな顔をされる。この世界だと、それって珍しいことなのだろうか。前に彼女に勧められて読んだ漫画には、βだと男女で付き合う人が多いと書いてあったのに。まああれは漫画の話だけど。
「合コン来てたのに?」
「う⋯、あれはその、相手も男だって知らなくて」
「なるほど。どうりで」
人数合わせなのかと聞かれたくらいだから、そういう空気が出てしまっていたのだろう。
それじゃあしょうがないね、と言って、速水さんは視線を逸らした。
胸が痛むのと同時に、なんとなく惜しい気がしてしまう。今すぐ付き合うとかはちょっと考えられないけれど、これで終わりにはしたくない。
「あの⋯」
「?」
「その、なので、ちょっと、時間もらっても、いいですか?」
「考えてくれるの?」
「はい」
「⋯ありがとう」
速水さんは、少し驚くように目を瞠り、それから嬉しそうに笑った。
連絡先を交換して、その日はそのまま別れた。
そういえば、速水さんとはどこかで会ったような気がしていたのだけれど、向こうは何も言わないし、やっぱり俺の勘違いだったのかもしれない。
寝る前に、今日のお礼を簡単にメッセージで送ってから、俺はベッドに入った。
カーテン越しの朝日が眩しい。俺の部屋は遮光カーテンのはずなのに、なんでだ?
なんてことを思いながらぼんやりと目を開けると、見慣れない壁と天井の模様が視界に入ってきて、慌てて飛び起きた。
知らない部屋だ。どこだここ。
確か昨日は、岡村たちと合コンに行って、それから⋯
「あ、起きた?」
「⋯速水さん」
そうだ、気分が悪くなってこの人に介抱してもらって、それから⋯それからどうしたんだっけ?
その後の記憶がない。今まで記憶を無くすほど酔ったことなんてなかったのに。
はっとして自分の身体を見下ろすと、服は昨日のワイシャツのまま、ズボンもちゃんと履いていた。
気付かれない程度にほっと息を吐く。
「気分はどう?」
「あ、大丈夫です。すみません、俺あのまま寝ちゃったんですね」
「何回か起こしたんだけど、起きなかったから。服皺になっちゃったよね。ちょっと迷ったんだけど、脱がすのもどうかと思ってそのままにしちゃった」
「大丈夫です。安物なんで」
家で洗濯しているような安価なスーツだ。寝て出来た皺なんてどうってことない。
洗面所を借りて顔を洗った後リビングへ行くと、速水さんは朝食の準備をしていた。
「大したものないけど、よかったらどうぞ」
「ありがとうございます。いただきます」
テーブルには数種類のパンとスクランブルエッグ、サラダにフルーツまで並んでいた。全然大したことなくなかった。
「すごい⋯、おしゃれ⋯」
「普通でしょ」
「普通じゃないです。パンとフルーツが数種類あるのはホテルとか店並です」
「大げさだな~」
速水さんはくすくすと楽しそうに笑う。好きなだけ食べてと言われたので、遠慮なくいただいた。昨日1日ろくに食べてなかったので、かなりお腹が空いていたようだ。
「元気になったみたいでよかった」
「う⋯。ほんと、ご迷惑をおかけしました⋯」
「気にしないで」
昨日も思ったけどやっぱりいい人だ。
「あの、何かお礼させてください」
「ほんとに気にしなくていいよ」
「いや、でも」
世話になりっぱなしはどうしたって気になる。
「んー、じゃあ、今日この後空いてる? 1日付き合ってくれない?」
「いいですけど」
「よし。じゃあ食べたら出かけよう」
妙に楽しそうな様子を見てから気が付いた。もしかして、これってデートになるんだろうか。
早まったかもと思ったが後の祭りだ。まあ何かするつもりなら昨夜のうちにとっくに襲われてるだろうし、大丈夫だろう。
俺は残りのパンを頬張った。やっぱりホテルの朝食並に美味しかった。
✦✦✦
シワシワのスーツで出かけるわけにもいかないので、まずは服を買いに行った。
適当でいいと言ったけれど、案の定着せ替え人形にさせられる。しかも俺が値札を気にしていると、買ってあげると言われた。断固拒否した。
「最後に着たの似合ってたのにな」
「あんな高いの買えませんよ。着る機会もないし」
「それなら俺が買ってあげるのに」
「お礼させてくれって言ったの、俺の方なんですけど」
服を買った後は映画に行き、その後公園でクレープを食べた。なんかもう典型的なデートコースだ。それも学生みたいな健全な昼間のデート。
「なんかこういうの久しぶりだな」
「俺もです。けど、速水さんはモテるでしょう?」
「そうでもないよ」
嘘だ。αなら何もしなくたってモテるだろう。昨日も他の客がチラチラ俺たちの席を見ていたし、今日もすれ違いざまにこっちを見ている人が多かった。
最初は男同士だからかと思ったが、映画館でもこの公園でも、カップルっぽい同性の2人組は結構いる。世界の常識が変わるとこんなに違うんだなと驚いた。
「新君」
「はい?」
「また、こうやって会ってくれない?」
「⋯えっと」
それはつまり――
「付き合ってほしい」
「⋯⋯」
なんで俺。こんなどこにでもいるような平凡な人間じゃなくて、速水さんなら引く手数多だろうに。
「だめ、かな?」
俺が黙り込んでしまうと、速水さんは少し寂しそうに苦笑した。
「あの、俺、男同士でとか、考えたことなくて」
「そうなの?」
意外だと言いたげな顔をされる。この世界だと、それって珍しいことなのだろうか。前に彼女に勧められて読んだ漫画には、βだと男女で付き合う人が多いと書いてあったのに。まああれは漫画の話だけど。
「合コン来てたのに?」
「う⋯、あれはその、相手も男だって知らなくて」
「なるほど。どうりで」
人数合わせなのかと聞かれたくらいだから、そういう空気が出てしまっていたのだろう。
それじゃあしょうがないね、と言って、速水さんは視線を逸らした。
胸が痛むのと同時に、なんとなく惜しい気がしてしまう。今すぐ付き合うとかはちょっと考えられないけれど、これで終わりにはしたくない。
「あの⋯」
「?」
「その、なので、ちょっと、時間もらっても、いいですか?」
「考えてくれるの?」
「はい」
「⋯ありがとう」
速水さんは、少し驚くように目を瞠り、それから嬉しそうに笑った。
連絡先を交換して、その日はそのまま別れた。
そういえば、速水さんとはどこかで会ったような気がしていたのだけれど、向こうは何も言わないし、やっぱり俺の勘違いだったのかもしれない。
寝る前に、今日のお礼を簡単にメッセージで送ってから、俺はベッドに入った。
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