高校生になったら腐男子の自分が生きやすい世界になりました

さくら優

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1.バレた!

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『お前少女漫画なんか読んでんの? 女みてー』
『見た目も女みたいだもんな!』
『ついでに名前も。女子だ女子』

子どもの頃、そんなことを言われてよく揶揄われていた。見た目が女の子みたいなのは、当時はムカついたけど今になってみればまあ事実なので仕方がない。名前も『みさと』って響きが男女兼用みたいな感じはする。
だから、後ろ2つはいいんだ別に。子どもならこの程度の発言はするだろう。俺だって言われっぱなしでめそめそ泣いてたわけではなく、そこそこやり返していたので両成敗だ。

ただ、今でも納得いかないのが、少女漫画を読んでいると女みたいだと言われること。まあこれも、そんな低レベルな悪口を言うのは小学校低学年くらいまでなんだろうけど。

それでも、少女漫画が好きな男子はそれを隠す傾向があると思う。少年漫画が好きな女の子は全然そんなことないのに。

納得いかない。
いかないけれど、やっぱり堂々とは言えず、隠してしまう。
ましてやその好きが、今は少女漫画ではなく、BL漫画になってしまったのであれば尚更。

だから、いったいなぜ、どこからどうやってバレてしまったのか。

「深智って、BLとか詳しいんだよな?」

昼休み、相談したいことがあると友人の暎一に言われ、人気のない中庭に移動してからの開口一番がこれだった。

なんで、どうしてバレたんだ?

俺の高校生活は終わった。そう思った。

「べ、つに、詳しくはないけど⋯」

混乱した頭でなんとかそう返す。嘘は言っていない。仮に月何十冊と読んでいようが、本人が詳しくないと思うのならそうなのだ。

「けど、少女漫画とかも結構読んでるだろ?」
「⋯まあ」

居心地悪く返事をする。だから何だと言うのだろう。

「俺さ⋯、その、好きな奴がいて⋯」

俯き加減でそう言う暎一の顔は、少し赤くなっていた。

「⋯あ、そうなんだ」
「うん⋯。だから、深智、そういうの詳しいんだったら、相談したいなって思って」
「えっと⋯」

混乱した頭がやっと平常運転を始める。
つまり暎一は、俺が腐男子なのを馬鹿にしたいわけでも何でもなく、ただ恋愛相談をしたいだけのようだ。

良かった。
良かったけど、この流れだと暎一の好きな奴というのは男ってことだよな?

「俺なんかでよければ聞くけど、いいの? 俺漫画の知識しかないけど」
「全然いいよ。俺そういうの疎いから」

意外だった。普通にモテそうだし、中学の時も、女子から人気があったように見えたんだけど。

「最初にBLの話してきたってことは、好きな奴って男なの?」
「⋯うん」
「そうなんだ。俺が知ってる奴?」
「知ってる」

暎一と俺の共通の知り合いとなると、中学の時の友人か、今のクラスメイトか、そのあたりだろうか。

「えー、誰?」
「それは言わない」
「相手わかんないと、相談とか無理じゃね?」
「そんなことないし。一般論でいいんだって」

相談にかこつけて聞いてみたが、相手を教えてはくれないらしい。仕方ない。

「一般論ねえ。例えば、どんなの?」
「んー、いきなり2人で遊びに行くの誘ったりしても大丈夫か、とか?」
「ああ⋯」

いきなり。相手が女の子だったら、自分に気があるのかと思われるやつだ。

「大丈夫だと思うけど、まず99%友達になりたいだけだと思われるよな」
「まあ、そうだよな」
「ってか、今は友達じゃないの? どっちにしたって、とりあえず仲良くなるのが先じゃん?」
「今は⋯、ただの友達、かな」
「ふーん」

暎一は割と友人は多い方だろうと思うので、これだけだとまだ絞れない。

「友達なら、普通に一緒に遊びに行けるじゃん」
「2人で出かけたいって言ったら、変に思われないか?」
「別にそんなことないと思うけど」

あんまり頑なに2人きりを強調されると変に思うかもしれないが。

「他にいつも一緒に遊んでる奴がいるなら根回ししとくとか、2枚しかない割引券があるとか、気になるならそういうのを準備しといてもいいと思う」
「なるほど。やっぱりすごいな、深智は」

どっちも漫画で見たやつだけどな。でも、最初にその知識しかないと言っているので、問題ないだろう。

「ありがとう深智。あと、もう1つだけ頼みがあるんだけど」
「なに?」
「今週末、付き合ってくれないか? その、今言ってたデートの練習的な」
「え⋯、練習とか必要?」
「何事も練習しておいて損はないと思う」

そりゃあ大抵のことはそうだろうが、こと恋愛に関しては、初めてだからこそ価値があったりするんじゃないだろうか。

「頼むよ」
「まあいいけど。どうせ暇だし。どこ行く?」
「どこかデートっぽいところ」
「ええ? うーん、遊園地、映画館、水族館、ショッピング⋯」
「どこも普通に友達同士でも行くよな」
「そりゃそうだよ。カップルしか行かないとこなんか⋯」

一瞬、頭の中にホテルが浮かんだがすぐに消去する。暎一と2人でホテルなんてありえないし、そもそも高校生が気軽に行っていい場所ではない。

その時、ちょうど予鈴がなった。
暎一は少し残念そうな顔をした。

「もう時間か。そしたらショッピングにしよう。ちょうど今度の校外学習の買い物もしたかったし」
「目的変わってない?」
「いいからいいから。後でまた連絡する。サンキューな」
「おう」

なんか結局大したアドバイスなどしていない気がするが、まあいいか。何か思いついたらショッピングの時にでも話せばいいし。

そう思いながら、俺は午後の授業のために教室へ急いだ。


   ✦✦✦

約束の土曜日。
待ち合わせの駅に行くと、暎一はすでにそこで待っていた。

「ごめん。待った?」
「いや、俺が早く来すぎただけだから。行こう」

暎一はそう言って、ショッピングモールがある方へ向かって歩いていく。

うーん、これは、暎一は自分がリードしたい感じか。まあでも練習したいとか言うくらいだからそうか。ということは、もしその好きな奴とやらと付き合ったら暎一が攻め?

「そういえば、深智と2人で遊びに行くとか初めてだな」
「うぇ? え、そうだっけ⋯?」

しょうもないことを考えていたら声がひっくり返りそうになった。危ない。

「初めて? 2人で出かけたことあったと思うけど」

暎一とは中3の時からの付き合いだ。まだ1年とちょっとしか経っていないが、志望校が同じだったから去年はよく一緒に勉強したりしていた。

「そりゃ、一緒に塾行ったり模試受けたり、図書館行ったりした時だろ」
「そう言われればそうかも」

受験が終わった後の春休みに何度か遊んだけれど、その時は2人きりではなく、いつも他に誰かがいた。

「暎一って、あんまり誰かと2人で出かけるとかしない?」
「そう、かもな。遊びに行く時は4、5人は声かけるし」
「人数多い方が楽しいしな。けど、それなら練習しといて良かったじゃん」
「⋯そうだな」

喋りながら歩いていると、暎一がよく服を買っているという店に到着した。

「校外学習ってどこ行くんだっけ?」
「えっと⋯、山?」
「それくらいは俺も覚えてる」
「どっかの山でウォークラリーとか、キャンプファイヤーとかやるんじゃなかった?」

2泊3日で、親睦を深めるのが目的らしいが、インドアの俺には若干気が重いイベントだ。

「山って寒いのか? 長袖いる?」
「ジャージでいいんじゃん?」
「それもそうか。あ、これ深智似合いそう。着てみて」
「自分の選べよ」
「いいからいいから」

買い物なんていつも適当に済ませていた俺は、2人でショッピングなんて行っても、すぐにやることがなくなるかと思っていた。けれど、一緒に店を回るのは楽しくて、気付けばあっという間に時間が過ぎていた。

フードコートで遅めの昼食を食べる。

「あー楽しかった。深智この後どうする? ゲーセン行く?」
「そうだな」
「⋯ゲーセンでデートって変?」
「別に変じゃないだろ」
「なんだっけ、キスしながらプリクラとるやつ。チュープリ?」
「誰に聞いたのそれ。親?」
「多分そう。今流行ってないのか?」
「わかんないけど。漫画じゃあんま見たことない」

ゲーセンでデートならたまに見る気がする。

「周りが煩いから、会話するのに自然と距離が近くなっていいのかも」
「⋯なるほど」

暎一が真面目な顔で頷いている。適当に言っただけなんだけど、でも意外と的を射ている気がした。

食べ終わったらゲーセンに行って、その後はただ普通に遊んだだけだった。いや、別に最初から特別なことは何もしてないんだけど。

そもそも俺だって誰かとデートしたことあるわけでもないからよくわかんないし。

「今日ありがとな。付き合ってくれて」
「俺も楽しかったし。参考になったのかはよくわかんないけど」
「めっちゃなった。また行こうぜ」
「また!?」

冗談だろうかと思ったけれど、暎一は楽しそうに笑うだけで、その真意はわからなかった。
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