0.3%未満の悪魔~Why are you here?~

ラディ

文字の大きさ
25 / 56
0.3%未満の悪評

3:原点回帰的

しおりを挟む
 料理人によって様々な料理人としての思想や目標があると思う。
 最高の料理を作り上げることだったり。
 地位や名誉だったり。
 店の利益だったり。
 自身の納得や満足だったり。
 自分だけが出来る再現性のない一品を生み出すことをだったり。
 正直どれも理解できる、否定するつもりはないが。

 俺は、美味いもんは誰でも食えるようになることを理想としている。

 つまり
 誰でも簡単に……なんてことは言わないが頑張ってレシピ通りの材料と分量と時間と温度を守れば作れるようになる。

 再現性さえ持たせておけば、味は残り続ける。
 その中で時勢に合わせてやる気のあるやつが味にバリエーションを持たせていきゃあいい。

 多岐に渡る選択肢さえあれば、きっと誰かの好みや気分に刺さるものが出来上がる。

 飯を食うってのは三大欲求の一つで、生存にも必須だ。
 セックスはまあそりゃあしてえしできるに越したことはねえが、しなくても死にはしねえ。たまーに夜のお店に行きゃあいいし上手く引っ掛けた行きずりの女と遊べりゃあいい、これでもそこそこ金はある。
 睡眠もどんだけ不足しても身体はどっかで気絶して強制的に睡眠を取らせる。身体には悪いが、死ぬ前に勝手になんとかしてくれる。

 だが飯だけは死に直結する。
 人は必ず飯を食わなきゃ飢えて死ぬ。
 どんなやつも生きている限りは食い続けなくちゃならねえ。

 食うには飯が必要で、どうせ食うなら美味いに越したことはねえ。
 生きるとは食うこと、食うために働くのなら働きたくなるくらいに美味いもんがあった方がいいだろ。
 そういうのはたくさんあった方がいい、生きる理由なんてはいくつあったっていいんだ。

 それは……良いことではある。
 そして今、俺の理想とする世の中は出来上がりつつあるんだ。
 だから俺の仕事はおしまいなんだ。

「いやまだ全然やりようあるっすよ。絶対に料理は人類の暮らしから根絶されることはないし、その技能を持つ人間を要求する職として残り続けます。スペアエデンでも、料理人は必要です」

 俺の思いは届かず、ロメオはあっさり返す。

 こいつ……、まあ流石に大人からとやかく言われたくらいで諦められるんなら最初からこんな道歩かねぇわな。

「むしろより根源的な、アナログな料理が必要になってくるのではと俺は考えています」

 ロメオは続けて、俺とは正反対の意見を述べる。

「スペアエデン到着後の文明レベルが落ち込むとか、開拓した地域差によってオートマトンの配置が間に合わないとかなら……まあなくはないとは思うが……どっちにしろ一時的なものだと思うぞ」 

 俺はロメオの意見を完全には否定せずに受け入れつつ返す。

 これは…………まああったとしても一時的だろう。
 スペアエデン到着後はこのブロッサム・ノアは外装から亜光速エンジンやら何までテラフォーミングに利用される。

 アン・ドゥ・メタルを散布して土壌や大気の調整をしたりだとか、植林やら生態系の再現やら整地やインフラ整備を行い。

 五十二機のブロッサム・ノアに搭載されたこの都市階層はそのまま都市として利用される。
 都市をや中心に開拓や開発を行い、さらに街を広げていく。
 もちろん五十二機に搭載された縮退炉もそのままエネルギー源として利用するし、マザーも都市ごとに設置されてシステムの演算処理を行う。

 つまりここでの暮らしはスペアエデンでの暮らしとほぼ同じってことだ。

 オートマトンの増産が間に合わないとか、末端の居住区画までエネルギーが届かないとか、ネットワーク管理がうまくいかないとかのトラブルやら計画の遅れとかは出ることもあるかもしれないが。

 なんにせよ一時的なものだろう……。
 このマザーの確定予測演算とアン・ドゥ・メタルによって二千五百光年も飛んでけるほど超科学時代に。
 料理人がついていけるわけがない、亜光速で振り切られたのさ。

「何言ってんすか、人類はマザーの確定予測演算を覆してここまで来たんすよ? 人は機械の予測を超える。だから俺は師匠の弟子になったんですよ」

 呆れるようにロメオは俺にむけて言う。

 うーん……まあそれも事実ではあるか。
 実際、人類は二百年で生存確率を塗り替えてここまで来た。

 でも、それは……。

「……確かに俺はその実例であり前例だが、再現性はねえぞこんなもん。たまたまだ、狙ったわけじゃあない」

 俺はロメオに現実を突きつける。

 確かに実例で前例はある。
 俺自身がそうだ。
 でも再現性はない、俺自身その後何度も作って登録してを繰り返したが生存確率を上げる料理は作れなかった。

 たまたま、偶発的な奇跡でしかない。

「はいはいおっさんの天才アピは置いといて」

「リスペクトが大さじで足りてねえぞ」

 師匠の言葉をあしらう弟子に慄いて返す。

 こいつ尊敬してるのか舐めてるのかわからねえ……。

「具体的に俺は、根源的……原点回帰的に今の環境にない料理の提供が有用なんじゃないかって考えてるんすよ」

 慄く俺をよそに、ロメオは端末を開いて淡々と語りを続け。

「そこで、。もう工事も終わってます」

 ロメオは端末で俺に店の厨房の画像を見せながらそう言った。

「…………ん? 購入……買ったぁ⁉ 買ったの⁉ え、おまえそれ店の経費で入れたの⁉」

「はい。必要なもん揃えるために一部決済権もらってるんで」

 驚愕する俺に対してロメオはあっけらかんと認める。

 マジかこいつ……いや確かにロメオが使う食材や道具を揃えるために決済ができるようにしてある。
 最初はいちいち確認されていたが、面倒くさいから好き勝手できるように権限を与えたが……想像以上に好き勝手やりやがった……。

 嘘だろ……高いだろこんな骨董品みてえな設備……工事費とかも結構……つーか確実に建物にも手入れてるだろ……。まさかこんな大規模なもんを……侮っていた。

「マジかよてめー…………まあいい……好きにしろって言ったの俺だからな……」

 俺は驚愕しつつも落ち着いて返す。

 実際俺は好きにしろって言ったし、俺は実際結構裕福だ。
 家で酒飲んでるだけでも、オートマトンが勝手に俺の味を再現して稼いでくれる。不労所得の泡銭だ、別に惜しくはない。

 原点回帰的な料理、炭火に石窯か…………ふむ。

「しかし……悪くない考えだが…………。あのな、料理は科学でもあるんだ。その手の設備でなんで美味いもんが出来るかってのは解析が終わっているし今の遠赤外線電熱オーブンやなんやらで狙い通りの焼きが出来る」

 俺は冷静に、料理人として弟子へ現代調理技術について語る。

「炭の煙なんかの匂いも同時に染み込ませることも出来る。無駄に火を使うのはダメだ、やめとけ。さっさと返してこい」

 さらに続けて返品を促す。

 オートマトンも困るだろ、ナンセンス過ぎてシンギュラリティ起こすんじゃねえか。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

アガルタ・クライシス ―接点―

来栖とむ
SF
神話や物語で語られる異世界は、空想上の世界ではなかった。 九州で発見され盗難された古代の石板には、異世界につながる何かが記されていた。 同時に発見された古い指輪に偶然触れた瞬間、平凡な高校生・結衣は不思議な力に目覚める。 不審な動きをする他国の艦船と怪しい組織。そんな中、異世界からの来訪者が現れる。政府の秘密組織も行動を開始する。 古代から権力者たちによって秘密にされてきた異世界との関係。地球とアガルタ、二つの世界を巻き込む陰謀の渦中で、古代の謎が解き明かされていく。

サイレント・サブマリン ―虚構の海―

来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。 科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。 電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。 小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。 「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」 しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。 謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か—— そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。 記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える—— これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。 【全17話完結】

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

あべこべな世界

廣瀬純七
ファンタジー
男女の立場が入れ替わったあべこべな世界で想像を越える不思議な日常を体験した健太の話

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

処理中です...