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0.3%未満の悪評
5:火災
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俺より美味いもん作れるやつなんかいくらでもいた。
別に俺が下手とかいうつもりはない、事実として超一流の料理人ではある。
しかしそもそも論、人に食わせるもんを機械に評価されてなんも嬉しかなかった。
嬉しくもねえことを妬まれて、不味いだの衛生法が云々だとか、なんか俺が移住計画上層部の血縁でマザーの演算結果を改竄してブロッサム・ノアへ乗せようとしてるとかもあったか。
人類最高の料理人なんて言われて店は繁盛していたが、同時に俺へのヘイトも高くて俺はあんまり店には出れずにほとんどオートマトンに任せっきりになっていた。
どっかでがっつり店に立って、俺の料理を振る舞って、せめて来てくれた客からは悪評を払拭したかったが。
そんな中で反移住過激派組織が俺を狙ってるとかの話が出て政府に保護されて、店も畳むことになった。
移住計画研究施設でずっと飯作ってはレシピや調理工程をAI解析に回して登録をし続けていた。
ひたすら作って機械に通して、たまに研究者相手に振る舞って。
保護生活を続けていたら、ブロッサム・ノアの量産が確定し。
人類滅亡確率は0.3パーセント未満となって、ほとんどの人間がスペアエデンに行けるようになって。
俺もそのまま新天地へと向けて、このブロッサム・ノアβ41へと乗り込んだ。
だがもう新天地で俺のやることはない、俺の作れるものは全て地球にいる間にデータベースへ登録済みだ。
なんの目的も、夢も、やる気もなく俺は今ここで新天地へと向かっている。
あんな前途有望な若者をこんな風にする道に乗せるわけにはいかねえ。
だからあいつには納得してもらう必要がある。
料理人としての道が頭打ちなことを。
趣味以上にはなり得ないことを。
俺を師事したところでどうにもならないことを。
そして諦めてもらう。
あいつはクソ生意気だが真面目だ、何をやってもどうにかなる。
新天地に着くまでの四年はもっと別のことに使うべきだ。
俺はこの四年は酒と女に…………。
「………………いや、しばらくは酒を抜くか」
シャンパンに栓をして、俺は一人呟いて立ち上がる。
残ったシャンパンは適当な貝を酒蒸しにしたのとリゾットにぶち込んで晩飯に食った。まあまあだった。
翌日から散歩……いや一応ウォーキングを始めた。
ジョギングからって思ったが、健康診断システムにウォーキングから提案をされた。
流石に運動不足過ぎたらしい、二十代のイメージで四十代の身体を動かすのはマジで危ない。
餅は餅屋、この診断もどっかの医者やらスポーツトレーナーやらからの知識を基に出した提案なんだろう。
健康食とかならまだしも運動に関してはからっきしだからな、こういうのは助かる。
多くの人にとって食事に関してもAIや調理用オートマトンはこんな感覚で助かってるって考えると、俺が登録したレシピや調理技法も活用されてんなら重畳だ。
まだ始めて三日くらいくらいだが、悪くない。
十七番地区をうろうろして帰る感じだが、思ったよりも色々とある。
公園やら人工河川やら神社やら、そういうのをのんびり眺めながら歩くのも悪くはない。
階段に腰掛けて、穏やかに流れる人工河川を眺めながらボトルから経口補水液を飲む。
昼間っから部屋でとぐろ巻いて酒浸りになるよか健康的ではあるが……。
「本質的には……なんも変わってねえか……」
俺はぽつりと呟く。
暇で何もしないおっさんには変わりない。
いやはや、壁の問いかけに対する答えが見つからねえや。
誰だってなんかある、こんなものは数学的にも統計学にも当然な話だ。
それに対する答えを、この船に乗る誰もが持っている……はず。
だが俺には何も思いつかない……、やり遂げてしまった感と何ができたのかわからない感だけをこの船に乗せている。
「…………はあ……………………ん?」
ため息をついたところで、端末に通知が出たことに気付く。
差出人は治安維持担当。
しかも緊急性の高い……なんだこれ。
俺は通知を開いて内容を確認す――――――……は……?
内容が理解できず、俺はとりあえずタクシーを呼んで飛び乗って店へと向かい。
「ええ…………俺の店なくなっちゃってるじゃねえか…………」
到着して、店の……いやかつて店だった建物の前で立ち尽くして呟く。
店が火事になった。
火元は炭火コンロで使った炭が燻っていて、近くにあった食材搬入用の段ボールに引火。
そこから食用油やら炙りに使うガスバーナーなんかも巻き込んで燃え広がり…………。
まあ結論をいうと店は全焼した。
ええ……? 嘘だろ火事……?
なくなっちゃったよ、店。
いやー……これ保険とかどうするんだ? つーかオートマトンも焼けちゃったのか……? え、火事ってどゆこと?
混乱のままに俺は治安維持担当からの聴取やらを行ったり、火災状況の詳細とか聞いたり。
保険会社とやり取りして保険金や、空き物件の手配とかそういうのを淡々とこなし。
「やっとこさ……一段落か………………あ?」
三日くらいであらかた手続きを終えて、何の気なしに端末を開いて、適当な記事を見ながら飯でも食おうとしてたところで。
記事タイトルに俺の名前を見つける。
『人類最高の料理人エリック・エルバン店舗火災』
だったり。
『宇宙における火災の危険性とは……⁉』
とか。
『火災アラートの不備? その確率とは……?』
みたいのも。
『燃焼性の高い旧式調理器具使用の疑い』
なんてのもあった。
どうにも今回の火事はまあまあメディアに取り上げられるているようだ……まあかなり珍しい出来事だしな。
しっかし世論の反応はなかなかに厳しい感じだな……、思ったより暇なやつ多いみたいだな。
まあ確かに炭火コンロや石窯なんて非効率的な上に、実際に物を燃やすようなもんを空気の価値が非常に高い宇宙船の中で使うのは……まあ良くはない。
別にこのブロッサム・ノアは調理器具で火を使った程度でどうにかなるような空調設備は積んでない。空調に関しては過剰なくらいだ。
それでも実際に火事は起こっている。
叩きたいやつが握るにはちょうどいい棒にはなる事実だ。
なんて考えていると、インターホンが鳴る。
俺はドアを開けて招き入れる。
「…………っ、本当に……俺のせいで……店が、本当にすみませんでした」
部屋に入り次第、顔面蒼白のロメオは深々と頭を下げる。
やつれてんなー、まあドタバタだったもんな。
事情聴取とかも結構めんどくさかったし、ロメオも結構色々と聞かれたんだろうな。
火事の火元はロメオが使っていた炭火コンロの炭だった。
どうにもそのせいで責任感じてるらしいが……。
「いやありゃシステムエラーだ。本当だったらボヤにもならないはずの火の不始末だったんだ、おまえだけのせいってわけじゃあない。弟子の不始末は師のせいだし、そもそも俺が店舗責任者なんだから俺のせいでもある」
俺は頭を下げるロメオに、しっかりと事実を伝える。
別に俺が下手とかいうつもりはない、事実として超一流の料理人ではある。
しかしそもそも論、人に食わせるもんを機械に評価されてなんも嬉しかなかった。
嬉しくもねえことを妬まれて、不味いだの衛生法が云々だとか、なんか俺が移住計画上層部の血縁でマザーの演算結果を改竄してブロッサム・ノアへ乗せようとしてるとかもあったか。
人類最高の料理人なんて言われて店は繁盛していたが、同時に俺へのヘイトも高くて俺はあんまり店には出れずにほとんどオートマトンに任せっきりになっていた。
どっかでがっつり店に立って、俺の料理を振る舞って、せめて来てくれた客からは悪評を払拭したかったが。
そんな中で反移住過激派組織が俺を狙ってるとかの話が出て政府に保護されて、店も畳むことになった。
移住計画研究施設でずっと飯作ってはレシピや調理工程をAI解析に回して登録をし続けていた。
ひたすら作って機械に通して、たまに研究者相手に振る舞って。
保護生活を続けていたら、ブロッサム・ノアの量産が確定し。
人類滅亡確率は0.3パーセント未満となって、ほとんどの人間がスペアエデンに行けるようになって。
俺もそのまま新天地へと向けて、このブロッサム・ノアβ41へと乗り込んだ。
だがもう新天地で俺のやることはない、俺の作れるものは全て地球にいる間にデータベースへ登録済みだ。
なんの目的も、夢も、やる気もなく俺は今ここで新天地へと向かっている。
あんな前途有望な若者をこんな風にする道に乗せるわけにはいかねえ。
だからあいつには納得してもらう必要がある。
料理人としての道が頭打ちなことを。
趣味以上にはなり得ないことを。
俺を師事したところでどうにもならないことを。
そして諦めてもらう。
あいつはクソ生意気だが真面目だ、何をやってもどうにかなる。
新天地に着くまでの四年はもっと別のことに使うべきだ。
俺はこの四年は酒と女に…………。
「………………いや、しばらくは酒を抜くか」
シャンパンに栓をして、俺は一人呟いて立ち上がる。
残ったシャンパンは適当な貝を酒蒸しにしたのとリゾットにぶち込んで晩飯に食った。まあまあだった。
翌日から散歩……いや一応ウォーキングを始めた。
ジョギングからって思ったが、健康診断システムにウォーキングから提案をされた。
流石に運動不足過ぎたらしい、二十代のイメージで四十代の身体を動かすのはマジで危ない。
餅は餅屋、この診断もどっかの医者やらスポーツトレーナーやらからの知識を基に出した提案なんだろう。
健康食とかならまだしも運動に関してはからっきしだからな、こういうのは助かる。
多くの人にとって食事に関してもAIや調理用オートマトンはこんな感覚で助かってるって考えると、俺が登録したレシピや調理技法も活用されてんなら重畳だ。
まだ始めて三日くらいくらいだが、悪くない。
十七番地区をうろうろして帰る感じだが、思ったよりも色々とある。
公園やら人工河川やら神社やら、そういうのをのんびり眺めながら歩くのも悪くはない。
階段に腰掛けて、穏やかに流れる人工河川を眺めながらボトルから経口補水液を飲む。
昼間っから部屋でとぐろ巻いて酒浸りになるよか健康的ではあるが……。
「本質的には……なんも変わってねえか……」
俺はぽつりと呟く。
暇で何もしないおっさんには変わりない。
いやはや、壁の問いかけに対する答えが見つからねえや。
誰だってなんかある、こんなものは数学的にも統計学にも当然な話だ。
それに対する答えを、この船に乗る誰もが持っている……はず。
だが俺には何も思いつかない……、やり遂げてしまった感と何ができたのかわからない感だけをこの船に乗せている。
「…………はあ……………………ん?」
ため息をついたところで、端末に通知が出たことに気付く。
差出人は治安維持担当。
しかも緊急性の高い……なんだこれ。
俺は通知を開いて内容を確認す――――――……は……?
内容が理解できず、俺はとりあえずタクシーを呼んで飛び乗って店へと向かい。
「ええ…………俺の店なくなっちゃってるじゃねえか…………」
到着して、店の……いやかつて店だった建物の前で立ち尽くして呟く。
店が火事になった。
火元は炭火コンロで使った炭が燻っていて、近くにあった食材搬入用の段ボールに引火。
そこから食用油やら炙りに使うガスバーナーなんかも巻き込んで燃え広がり…………。
まあ結論をいうと店は全焼した。
ええ……? 嘘だろ火事……?
なくなっちゃったよ、店。
いやー……これ保険とかどうするんだ? つーかオートマトンも焼けちゃったのか……? え、火事ってどゆこと?
混乱のままに俺は治安維持担当からの聴取やらを行ったり、火災状況の詳細とか聞いたり。
保険会社とやり取りして保険金や、空き物件の手配とかそういうのを淡々とこなし。
「やっとこさ……一段落か………………あ?」
三日くらいであらかた手続きを終えて、何の気なしに端末を開いて、適当な記事を見ながら飯でも食おうとしてたところで。
記事タイトルに俺の名前を見つける。
『人類最高の料理人エリック・エルバン店舗火災』
だったり。
『宇宙における火災の危険性とは……⁉』
とか。
『火災アラートの不備? その確率とは……?』
みたいのも。
『燃焼性の高い旧式調理器具使用の疑い』
なんてのもあった。
どうにも今回の火事はまあまあメディアに取り上げられるているようだ……まあかなり珍しい出来事だしな。
しっかし世論の反応はなかなかに厳しい感じだな……、思ったより暇なやつ多いみたいだな。
まあ確かに炭火コンロや石窯なんて非効率的な上に、実際に物を燃やすようなもんを空気の価値が非常に高い宇宙船の中で使うのは……まあ良くはない。
別にこのブロッサム・ノアは調理器具で火を使った程度でどうにかなるような空調設備は積んでない。空調に関しては過剰なくらいだ。
それでも実際に火事は起こっている。
叩きたいやつが握るにはちょうどいい棒にはなる事実だ。
なんて考えていると、インターホンが鳴る。
俺はドアを開けて招き入れる。
「…………っ、本当に……俺のせいで……店が、本当にすみませんでした」
部屋に入り次第、顔面蒼白のロメオは深々と頭を下げる。
やつれてんなー、まあドタバタだったもんな。
事情聴取とかも結構めんどくさかったし、ロメオも結構色々と聞かれたんだろうな。
火事の火元はロメオが使っていた炭火コンロの炭だった。
どうにもそのせいで責任感じてるらしいが……。
「いやありゃシステムエラーだ。本当だったらボヤにもならないはずの火の不始末だったんだ、おまえだけのせいってわけじゃあない。弟子の不始末は師のせいだし、そもそも俺が店舗責任者なんだから俺のせいでもある」
俺は頭を下げるロメオに、しっかりと事実を伝える。
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