0.3%未満の悪魔~Why are you here?~

ラディ

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0.3%未満の悪評

6:お祭り

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 こればっかりは超イレギュラーなことだ。

 実感はないがここは宇宙船の中、つまり宇宙空間の中で最も大切なのは空気である。
 宇宙船の中での火災なんてのは、最も対策されるべきことだ。火災に対する防災センサー類はかなりかっちり都市階層に張り巡らされている。
 すぐに検知して、アラートを鳴らして建物備え付けの消火液が散布され消防オートマトンが完全に火元を断つ。

 こんな事態は起こり本来なら得ない、そもそもこんなことが起こることが懸念されるなら炭火コンロや石窯なんてもんの使用が許可されるわけがない。

 でも火災検知は上手く働いてなかった。
 こんなん0.3パーセントじゃあ利かないくらいのウルトラレアケースだ。

 メディアは暇人共を相手に盛り上げようと色々記事を出してはいるが、これはロメオの責任より安全管理システム担当がセンサー類の不具合を見つけられなかったのが悪い。

「でも……っ」

「まあ料理人が火の不始末なんてのは馬鹿過ぎるし、俺は師としても調理栄養管理担当としても覚醒期間中の炭火やガス火の旧式調理器具の使用を禁止せざる得ないが」

 俺はまだ食い下がるロメオに被せるように、今回の落とし所を端的に述べて。

「怪我がなくて良かった。生きてりゃあどうにでもなる」

 これ以上ない、結論を出した。

 本当に血の気が引いた。
 ロメオが無事で何よりだ。
 火災保険は満額下りるし、店はなんとでもなる。

「はい…………でも……」

 少し落ち着いたロメオが顔を上げて不安そうに呟く。

 まあその通り。なんとでもなるが、問題はどうするかだ。

「はぁ……どうすっかなぁ……」

 俺は思案しながら呟く。

 まあ俺はぶっちゃけ店がなくなろうがそんなに困らねえ。
 店が空いてない間の収入は減るし、俺の味を求める客には悪いとは思うが……まあ金はあるし元々俺の手は離れているようなもんだ。不労所得みたいなもんだった。

 でもロメオは学生、インターン制度を通して料理人としての道を学ぶのが仕事だ。

 俺の店で日夜料理の腕を学んで、俺のレシピや調理技術を真似してどういう効果があるのかを体験しながら学んでいる。

 そんな中で、ロメオの発想はマジに悪くなかった。
 焼き場を見せて体験も含めて料理を提供するというのはマジに悪くないアプローチだった。

 生食は鮮度が命、オートマトンに作業の速さで人間は基本的に勝てない。俺は勝てるが。
 焼きや煮込みに関しても時間や温度の管理は正確無比の精密動作を行えて温度検知センサー類があるオートマトンには敵わない。まあ俺は勝てるが。
 オーブンの自動制御も包丁さばきも、料理人要らずだ。まあ俺は自分でもできるが。

 人間が料理人でありたいのなら、人間同士だからこそ理解できる満足感を目指して需要に訴求していくことが重要になる。

 結局どれだけ味覚や成分の解析が進んだところで、食うのは人だ。

 寒空の下で飲むカップスープに涙が出て、女に振られて頼んだピザの味がしなくなるような人間相手に美味いもん食わせるのが俺たちだ。

 体感型……体験……見せる…………。

 あ、そういや……。

「焼きそばの屋台でもやるか」

 俺はふと頭を過ぎったことを言ってみる。

 このメゾンドモンステラの近くの神社が主催でお祭りが行われることを思い出した。

 いわゆるジャパンの縁日ってやつで、焼き鳥やらたこ焼きやらジャパン風の出店が並んで射的やら輪投げやらくじ引きやらのアミューズメントも並ぶとか。

 俺の育ったとこでも似たような祭りはあった。
 吹き矢で風船割って豚のぬいぐるみを貰ったことがある。いらねえから売っぱらって豚肉を買ったが。

 祭りで食べるものは不味くても美味い。
 楽しいし、若干の非日常で浮かれているし、ビールで流し込みゃあ大抵は満足感を得られる。

 さらに焼きそばであれば電熱プレートで作ることもできる。

 たこ焼きも無しじゃあないが専用の鉄板が必要になるし、ジャパンの一部地域で愛されるものだから鉄板も多分受注生産になる。そのへんがちょっと面倒くさい。

 俺は一応自治会費も払ってるこの辺の住人だ。
 最低限の参加資格は持っている。

 問題は祭りに出店するに当たっての手続きやらがよくわからないってことだが。

「……あ、どうも私は調理栄養管理担当をしておりますエリック・エルバンと申します。あーはい、人類最高の料理人で最近店で火事を起こしたそのエリック・エルバンです。実はお祭りで屋台を出したいんですが――――」

 俺は直接、神主へと連絡を入れる。

 まあシステムから申請してもいいが、こういうのは経験上人間同士で話した方が通りやすい。
 システムは俺のことを一人の料理人として扱うが、人間は俺のことを知っていれば超一流の料理人として向かい入れてくれる。
 つっても後でシステム側に申請もするんだが、先に話が進んでると融通がききやすい。

「――――はい……はい、はいはい。あ、今お送りしま……あ、多いですか⁉ まあ……じゃああの四年あるんで。はい、じゃあそんな感じで手続き行いますね。はい、ありがとうございまーす。はーい…………よし、出店できるぞ」

 お祭り開催のための協賛金を送信して、丁寧な口調に変わった神主から出店許可と手続きの方法を聞いて通話を終えた。

「は、話早すぎませんか……? 俺ついていけてないんですけど」

 ロメオはやや引き気味に言う。

 はっ、流石新世代だ。
 俺らみたいなおっさんは、時間無駄にしないことな当然のことだと教育されてきたからな。このくらいの即断即決行動は当たり前だった。
 ロメオは子供の頃にはもうブロッサム・ノアの量産が決まっていた世代、教育方針が違う。

「あーほら、店焼けたからおまえ暇になるだろ? 次にやること作らねえとインターンにならねえだろ。とりあえずなんかはやらねえとな…………うし、申請できた。屋台とかスペース自体はなんかレンタルで行けるっぽいな」

 俺は端末から手続きを行いながら、ロメオへと返す。

 よし手続きは完了した。

「試しにさくっと作るか……多分足りねえもんはないはずだし、電熱プレート動かすから手伝え」

 そう言って俺は立ち上がる。

 さあ、仕事の時間だ。

 ロメオが電熱プレートを準備している間に、端末から昔作って登録したソース焼きそばのレシピを出して調理マシンに送信して野菜や肉の下拵えしておく。

 そこから鍋で下拵えをした野菜や果物を煮込んで、スパイス類やら酢をぶち込んでウスターソースを作る。

 熟成も調理マシンで行えるのが現代調理技術だ。
 誰がやっても同じことは全て自動化。
 誰がやっても同じにできるようにしたことも自動化。
 誰がやっても同じになるように、誰もが求める味へ。

 それが現代調理。
 その膨大なデータベースの何パーセント……いやきっと0.3パーセントにも満たないくらいに俺のレシピと技術が使われている。

 昔から料理人はブロッサム・ノアに乗れると思っているやつは少なかった。
 俺も料理人をやるからには新天地へ行けるとは思っちゃいなかった。

 

 それが全料理人の願いだった。
 レシピや技術には著作権がない、名前も残らないし感謝もされない。当然として残るだけ。
 でもせめて、自分の人生を世界に溶かして残したい。
 俺も少なからず、そういう思いはあった。でもほら、俺は結構早くに乗れるの決まっちゃったからさ。

 このウスターソースも俺が焼きそば用に調整したもの、これは十年くらい前にジャパンの庶民的な料理を片っ端から作ってた頃に作ったもんだ。

 …………うん、俺の味だ。
 やはり完璧だな、少なくともこの段階で俺が作ったものとの差異はない。
 なんならこの煮込みの工程も、オートマトンで再現できる。

 麺は昔から馴染みの製麺所から仕入れているもんだ。
 野菜と肉を炒めて、ここってところで麺を投入して水ではなくてほうじ茶を入れて風味を付けながら麺をほぐす。

 さらに炒めた野菜と肉をヘラで麺の上に乗せてさらに麺を蒸らす。
 水気が飛び、麺が焼け始めたところでソースを投入し素早く和えながら熱を入れる。
 最後に少しソースを焦がして風味を付けて、一気に皿へ乗せて削り節と青のりを振りかけて。

「よし、さあ食え」

「いただきますっ!」

 俺がそう言うと箸を構えていたロメオが皿をとって食い始める。
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