0.3%未満の悪魔~Why are you here?~

ラディ

文字の大きさ
55 / 56
0.3%未満の奇跡

2:辿り着かない

しおりを挟む
 同上。
 都市階層、南ブロック十六番地区エルバンの店厨房内。

 、二度目の覚醒期間。

「師匠これ……美味すぎますよ」

 専門職学生ロメオ・ブラウンはインターン先の厨房内で出されたデミグラスソースに感動しながら述べる。

「ったりめーだろ、超一流のこの俺が本気で作ったんだ。そりゃあ美味すぎるさ」

 調理担当であり店主のエリック・エルバンは呆れるように返す。

 エリック・エルバンはかつて、このデミグラスソースを用いた肉料理で確定予測演算装置の算出した人類滅亡確率を下方修正させた実績を持つ。

 食材の産地や鮮度、温度、室温、湿度、調理鍋の熱伝導率、気候や季節、自身の体調など環境から調整が行えるものは全て理想的な状態へと調整し。
 自身の知識や技術や勘、そういった才能と努力で培ったものも存分に活かして。

 再現性のある奇跡として、このデミグラスソースを完成させた。

 現在は調理用オートマトンによる再現が可能ではあるが、その再現性は99.7パーセント以上。
 品質や味に何も問題はないが、現状エリック・エルバンしかその差異を埋めることはできない。

「これをてめーが再現しろ、んで色々覚えたら……俺を超えろ。スペアエデンではてめーの時代を作れ」

 エリック・エルバンは厳しい眼差しで、そう告げる。

「えー? 全然無理っす。超えるには高すぎますって」

 ロメオ・ブラウンはあっけらかんと師の言葉を流す。

「ええ……? おまえ、新世代すぎるだろ……超えろよ師匠を」

 かなりの決意を持って弟子へと告げた言葉を簡単に流され、エリック・エルバンは慄く。

「でも、並ぶつもりはあるっすよ。超えんのはそん時にでも考えます」

 慄く師に対してロメオ・ブラウンは不適な笑みを浮かべながら宣う。

「へえ……、生意気言ってくれんじゃねえか。じゃあ早速作ってもらおうか」

 不遜な弟子の態度にエリック・エルバンもまた不敵な笑みを浮かべて言うと。

「はい‼」

 目を輝かせ、ロメオ・ブラウンは良い返事をした。

 このままスペアエデン到着後も師弟関係は続き。
 テラフォーミングやインフラ整備が完了して都市拡大に伴う開発で、エリック・エルバンは自身の店を開業した。

 ロメオ・ブラウンは五年の年月をかけてエリック・エルバンのデミグラスソースを習得し、独立した。
 独立のタイミングで、たまたま出会ったデザイナーのチェリー・チェンに一目惚れされて交際を始めることになる。

 二人はここからも、あらゆる人々に食べさせるために活動を続けていく。

 同上。
 都市階層、南ブロック十七番地区メゾンドモンステラ五〇二号室。

 、二度目の覚醒期間。

「フランー、あ――――ん」

 特別指定監視対象リンダ・フローレンスは離乳食を樹脂製スプーンで救って、もうすぐ生後八カ月になる我が子のフラン・フローレンスに差し出す。

「あ――――……、んー!」

 フラン・フローレンスは大きく口を開けて、差し出されたスプーンに乗る離乳食を食して笑みを浮かべる。

「んー! 美味しいねー」

 嬉しそうなフラン・フローレンスに対して、満面の笑みでリンダ・フローレンスは声を掛ける。

 現在、リンダ・フローレンスは特別指定監視対象として監察担当の保護下の中で社会復帰カリキュラムをこなしながら子育てを行っている。

 リンダ・フローレンスが起こした事件は、ブロッサム・ノアβ41内で再審理され結果として条件付きの無罪となった。

 反移住過激派組織による抗拒不可の強制での行為であると認められた。
 監察担当のフランソワーズ・フライトによってまとめられたリンダ・フローレンスの置かれた当時の状況や社会復帰の意欲などのデータと、二件の殺人容疑のうち一件の被害者遺族からリンダ・フローレンスの置かれた状況や被害者の遺した最後のボディカム映像から裁判所に情状酌量を願ってきたのが、非情に重要視された。

 しかし、社会性の欠如が懸念されることは問題視されることになった。

「リンダー、ぼちぼち次の職業訓練に移ろうと思ってるけど行けそう?」 

 食事中のリンダ・フローレンスへ向けて医療担当兼監察担当のフランソワーズ・フライトが問いかける。

 フランソワーズ・フライトはリンダ・フローレンスに懸念された社会性の欠如に対して社会復帰用のカリキュラムや一般教養や専門資格や技能の学習プログラムを制作し、保護と監視を含めそれらを全て監督することを申し出た。

 必要資格や権限を有しており、確定予測演算装置マザーによる精査もパスしたことでフランソワーズ・フライトはリンダ・フローレンスとフラン・フローレンスとの生活を一度目の覚醒期間から継続している。

「もちろん、やるよ。ママ頑張るよー!」

 リンダ・フローレンスはそう返しながら、両手でフラン・フローレンスの頬を挟んで擦る。

 職業訓練中に得た報酬で、先日初めて自由な買い物をした。
 フラン・フローレンスのための、小さな帽子を購入したのだった。

「おーっ!」

 フラン・フローレンスは母の言葉にそう返した。

 このまま共同生活は続き、リンダ・フローレンスは勤勉に社会奉仕活動や職業訓練をこなして社会復帰可能だと判定を受け。

 スペアエデン到着後には特別監視期間中に取得したオートマトンの遠隔操縦ライセンスと精密操作技能検定1級と機器整備資格と森林部門技術士を活かして、テラフォーミングに参加し都市拡大に入ってからも植林や自然公園の管理などに務めた。

 フラン・フローレンスは母の愛情を一身に受けて、すくすくと成長し、新たな世代として新天地で幸せに暮らした。
 フランソワーズ・フライトはリンダ・フローレンスの監察を終えた後も、友人として交流を続けた。

 医者としての傍ら、社会復帰を目指す人のサポートを行う活度も続けた。

 そして、スペアエデンで妹のアトラ・フライトと再会し。初めて心から誇らしげに、自身のことを語ったのだった。

 そんなこれからのために、生きていく。

 と、これはあくまでもである。

 確定予測演算装置マザーによって想定される未来であり、99.7パーセント以上の確率で起こりうる日常だ。

 確実にこうなる。
 しかし、である。

 0.3パーセント未満の人類滅亡確率に目を瞑った場合の話だ。

 基本的に人類は滅亡しない、だがしかし。

 確定予測演算装置を超える頭脳を持ち。
 全てを操る権限を持つ人間が。
 常軌を逸した精神状態で。
 狂気ともいえる行動力で。
 自身のフルスペックを発揮し続けた場合。

 そんな、本来起こり得ないようなことが本当に起こってしまった時。

 これらの日常には、辿り着かない。

 そしてそれは起こった。
 亜光速で宇宙空間を進む方舟の中で。
 0.3パーセント未満の悪魔は誕生した。

 この移住計画、いや人類の存亡は確定予測演算を超えた位置で決まろうとしている。

 もう誰にもわからない。

 悪魔が人類を滅ぼさない理由はない。
 それが故の悪魔だからだ。

 人類を滅亡させるために動き出した悪魔を止めるには、悪魔に理由を与えること。

 そして、小さな奇跡の積み重ねが必要となる。

 例えば。
 人類を救う超人となるべく、過酷な訓練と過剰な学習の末に手のひらの指紋や掌紋が消えてしまったことで手を滑らしてペンを落としたり。

 例えば。
 自分らしさを表現するために行うメイクの途中で、端末のアラームに驚いてアイライナーを飛ばしてしまったり。

 例えば。
 元気いっぱいの幼児が大好きな家族である犬に見てもらうため、飛ばした紙飛行機が壁に当たってそのまま落ちたり。

 例えば。
 燃え尽き症候群のような状態で飲んだくれていた料理人が、調子に乗って開けたシャンパンの栓が思わぬ方向へ飛んでしまったり。

 例えば。
 母になるには未熟な少女が妊娠中に精神状態が不安定になり、取り乱して手近にあった空の食器を投げつけたり。

 例えば。
 それら全てのものが、部屋の棚の裏へと日常を繋げることになったとしたら。

 そんな小さな奇跡が積み重なり、悪魔に届いたら。

 しかしそんな確率は無に等しい。
 それこそ0.3パーセント未満の奇跡でしかない。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

アガルタ・クライシス ―接点―

来栖とむ
SF
神話や物語で語られる異世界は、空想上の世界ではなかった。 九州で発見され盗難された古代の石板には、異世界につながる何かが記されていた。 同時に発見された古い指輪に偶然触れた瞬間、平凡な高校生・結衣は不思議な力に目覚める。 不審な動きをする他国の艦船と怪しい組織。そんな中、異世界からの来訪者が現れる。政府の秘密組織も行動を開始する。 古代から権力者たちによって秘密にされてきた異世界との関係。地球とアガルタ、二つの世界を巻き込む陰謀の渦中で、古代の謎が解き明かされていく。

サイレント・サブマリン ―虚構の海―

来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。 科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。 電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。 小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。 「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」 しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。 謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か—— そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。 記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える—— これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。 【全17話完結】

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

あべこべな世界

廣瀬純七
ファンタジー
男女の立場が入れ替わったあべこべな世界で想像を越える不思議な日常を体験した健太の話

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

処理中です...