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1部 転生する月神編

クロエの思考2

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「起きろ、リーナ」

 さすがに遅刻すると起こす。これも彼女が泊まってから毎日やっていた。

「んー…もうちょっと…」

「遅刻だ!」

 掛け布団を剥がせば、寝ぼけたリーナが見上げてくる。

(生き地獄だ…)

 五日間で何度思ったかわからない。

「仕事!」

 寝直そうとする幼馴染みに、もう一度怒鳴る。

 仕事という言葉を聞き、ようやくスイッチが入ったようだ。起き上がったリーナにため息を吐く。

(寝起きの悪さ、直ってなかったなんて…)

 昔は子供だったからいいが、今は色々な意味で直してくれと願った。

 クオンも年頃の男の子。さすがに違う意味で辛いと思うのだが、助けられている以上なにも言えない。

 しかも、クロエから釘を刺されているどころか、あの後フォルスからも怒鳴り込まれたのだ。

(殺される…)

 間違いなく殺される、とクオンはため息しかでない。

 リーナの支度が終わるのを待ち急いで出勤すれば、城の門番にからかわれた。

 殴りたい衝動にかられながら執務室へ行けば、ニヤニヤと笑う小隊長がいる。

「本日も仲良く出勤かー。俺も早く相手が欲しいな」

「シンディ…一番出会いのない場所を頼むかな」

「ちょっ、そりゃないぜ!」

 慌てて抗議するシンディ・アリーゼに、味方する小隊長はいない。誰もが同意するように頷く。

「じゃあ、書類整理な」

「待て待てー!」

 合同訓練に伴い、終日仕事内容が変わる。総出で動くことになり、書類が溜まってしまうのだ。

「安心しろ。お前の隊はシアに任せる」

「そうじゃねぇー!」

「シアシュリト、任せたぜ」

「はい。ありがとうございます」

「聞けー!」

 騒ぐシンディを無視し、クオンと小隊長達は話を進めていく。

 城内警備となっているが、実際には城下街も見なくてはいけない。陽光騎士団は外回り、つまり外へ出てしまうからだ。

「イェンテ、今回は一人でだ。城下街を任せる」

「はい。場所は?」

 広い城下街は三ヶ所に分けられる。さすがに自分だけではないだろう。

「A地区だ」

 入り口から商店、宿屋がある一帯。人が多い場所でもあり、小隊長成り立てがやるような場所ではない。

 つまり、それだけ期待されている証だ。嬉しくないはずがない。

「B地区がレナス、C地区がシャリーネ。頼んだからな」

「はい」

 シャリーネが返事をすれば、三人が執務室を出ていく。すぐに隊を率いて警備にあたるためだ。

 合同訓練はすでに始まっている。のんびりしている時間はなかった。

「残りは城内。俺とシアで表。裏はシルビに任せる。で、シンディは書類整理だ」

 これは変わらないと言えば、抗議するようにシンディが見てきたが無視する。

「リュースは各部隊の繋ぎ役だ。で…」

「リーナは連れて行ってくださいね」

「わ、わかってる…」

 副官が不気味な笑みを浮かべていて、クオンは表情が引きつった。

 この副官がどこまで事情を知っているのか、正直なところ知らない。クロエが任せておけと説明を請け負ったからだ。

 唯一わかっているのが、リーナが抑えになっていると知られていることぐらいだろう。

「では、任せましたよ。シンディ」

 リュースが言えば、その場に残っていた全員が執務室を出ていく。背後から聞こえてくる叫びを無視して。





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