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2部 二刀流の魔剣士編
船上の仕事
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慣れたように喧嘩を見守るグレンは、ペットと偽るヴェガとのんびりしている。
これで何度目の喧嘩だっただろうか。数えるのも面倒なほどで、シュレがグレンの正体を知っているのが関係しているのかと思わなくもない。
「終わったのか」
「見ればわかるだろ」
不機嫌そうに言うシュレを見て、苦笑いを浮かべる。
「お前、英雄王ってことは妻いるんだろ。なんで言わなかったんだよ」
妻がいると最初に言っていれば、アイカが付きまとうことはない。
惚れられたのは想定外なことだが、それを抜かしても言って問題ないだろと言われてしまえば、その通りなだけになにも言えなかった。
隠す必要はない。わかっていたが、言う必要もないと思っていただけのこと。
「第一、あんな考えなしは足を引っ張るだけだ」
なにかあればすぐさま突っ走るような傭兵、組みたくないとハッキリ言う。
これはなにかがあったな、と思わせるほどの表情を浮かべながら。
三人は今、北へ行く船の上。商人の荷運びを護衛しているのだ。
戦争がほぼない現状、傭兵はほとんどが商人や貴族の護衛、町などが魔物から守るために雇うことが主流。
北の大国は傭兵を雇うことはないが、西の神聖国は大規模な魔物討伐を行うときに雇う。そのような状態だ。
「で、あと何回喧嘩するんだ」
「知るか」
船に乗ってまだ三日。北の大陸へ着くまで、まだ時間はかかるのだ。
昔に比べれば船も速くなった。それは魔力装置を利用しており、バルスデ王国の出している船だからだ。
さすがに魔力装置は作る技術を持つのが限られている。費用もかかるというのが理由のひとつで、北の大国が作りだしたことも原因だろうと言われていた。
「あと十日以上は船の上か…」
「一ヶ月以上かかった頃に比べれば、楽なものだ」
これ以上速くとなれば、それだけの魔力装置が必要になる。簡単にはやれないだろうとグレンだからこそわかっていた。
魔力装置はほとんどが生活のために使われている。そうするために開発を頼んだからだ。
現状としては、それ以外に使われていることはない。表面上ではの話だったが。
「生活に使えば便利な物だな」
「そうだな…」
少し険しい表情を浮かべたグレンに、珍しいものを見たと驚くシュレ。
彼は長く生きているだけあり、常に余裕があると思っていた。簡単には動じないし、動じるようなこともないと。
『二千年ぐらい前に、戦争で使われたことがあるんだよ。あのときはシオンが怒って大変だったな』
「なるほど。だからか…」
目の前にいる英雄は、驚くほど優しい性格だと知っている。
殺し合いなど許せるような性格ではない。そのようなことが起きればほっとけるわけもないのだ。
「手を出したのか」
「まぁ、力を試し使いするのにもちょうどよかったから」
南で起きた戦争で、砂漠地帯なのもあってどれだけ力を使っても問題なかったと言われてしまえば、さすがに引いているようだ。
なぜ南の大陸だけこうなのかと思わなくもないが、とりあえず今は落ち着いているから気にしないことにしていた。
どうしても住みにくい地ということが争いを招いてしまうようで、こればかりはシオンがどうにかできる問題ではない。
「仕方ないか。砂漠だからな…」
「俺も傭兵で行ったが、あの環境はな」
北育ちなのもあって、グレンは砂漠だけは苦手だった。傭兵としての依頼は一度だけで、あとは退位したあとに旅したときだけ。
これだけ長く生きていても、南にはほとんど行くことがない。担当しているのが自分ではないというのもあったが。
「安定しないものだな。東は落ち着いたのに」
「英雄の怒りを買ったからじゃないのか?」
当たり前のように言うから、グレンが不思議そうに見る。
すべてを知っているからこそ、あえてなにかを調べることはしていない。ある程度会話を合わせることができるからだ。
よく考えてみれば、東ではどう教えられているのかを知らない。カロルによって広げられたこともあるが、もとから広がっていること。
東の大陸には二種類あるのだ。どちらも正しいことだし、もとは同じだからと気にしないことにしていた。
「俺はハーフエルフの里で育ったからな。英雄が国を滅ぼしたって聞いて育った」
「そこに間違いはないが…」
ハーフエルフを虐げたかつての国。小国でありながら野心家な王族によって、ハーフエルフ狩りなるものもあった。
そんな国を滅ぼしたのは月神リオン・アルヴァースだ。
「人間と暮らす連中は、ハーフエルフ狩りは知らないのばかりだ。歴史も薄れていくってことさ」
野心家の王族だったというのは広がっているが、滅んだ理由がハーフエルフ狩りだとは広がっていない。
(広げていないのか……)
カロルが意図的にやっていることはわかる。それが広がってしまえば、共存ができなくなってしまうから。
最終的に共存する場にするなら、ハーフエルフ狩りの事実は薄れさせる必要があった。
(まっ、わからなくはない。そうでなければ、こうも簡単に共存できない)
ハーフエルフの寿命を考えれば、まだぎこちない関係だっただろう。人間嫌いばかりだったのだから。
けれど畏怖を与えるものは必要なわけで、リオンがやったことだけが語り継がれているのだろう。
「神の力とは、まったく…」
『おー、そういや、バルスデでもシオンがやらかしたんだったか』
聞いたぞとヴェガが言うから、グレンは苦笑いを浮かべる。
なにせ、彼も聞いた話で見たわけではない。その場がどうなったのかなどわかるわけがないのだ。
『よかったな、お前死なないで』
「とんでもない毒矢だったらしいからな。それでシオンが怒り狂ったとか、聞いたが…」
懐かしい記憶で、なにをやらかしたんだと気になってはいた。誰も教えてくれなかっただけに、よくはわからないのだ。
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これで何度目の喧嘩だっただろうか。数えるのも面倒なほどで、シュレがグレンの正体を知っているのが関係しているのかと思わなくもない。
「終わったのか」
「見ればわかるだろ」
不機嫌そうに言うシュレを見て、苦笑いを浮かべる。
「お前、英雄王ってことは妻いるんだろ。なんで言わなかったんだよ」
妻がいると最初に言っていれば、アイカが付きまとうことはない。
惚れられたのは想定外なことだが、それを抜かしても言って問題ないだろと言われてしまえば、その通りなだけになにも言えなかった。
隠す必要はない。わかっていたが、言う必要もないと思っていただけのこと。
「第一、あんな考えなしは足を引っ張るだけだ」
なにかあればすぐさま突っ走るような傭兵、組みたくないとハッキリ言う。
これはなにかがあったな、と思わせるほどの表情を浮かべながら。
三人は今、北へ行く船の上。商人の荷運びを護衛しているのだ。
戦争がほぼない現状、傭兵はほとんどが商人や貴族の護衛、町などが魔物から守るために雇うことが主流。
北の大国は傭兵を雇うことはないが、西の神聖国は大規模な魔物討伐を行うときに雇う。そのような状態だ。
「で、あと何回喧嘩するんだ」
「知るか」
船に乗ってまだ三日。北の大陸へ着くまで、まだ時間はかかるのだ。
昔に比べれば船も速くなった。それは魔力装置を利用しており、バルスデ王国の出している船だからだ。
さすがに魔力装置は作る技術を持つのが限られている。費用もかかるというのが理由のひとつで、北の大国が作りだしたことも原因だろうと言われていた。
「あと十日以上は船の上か…」
「一ヶ月以上かかった頃に比べれば、楽なものだ」
これ以上速くとなれば、それだけの魔力装置が必要になる。簡単にはやれないだろうとグレンだからこそわかっていた。
魔力装置はほとんどが生活のために使われている。そうするために開発を頼んだからだ。
現状としては、それ以外に使われていることはない。表面上ではの話だったが。
「生活に使えば便利な物だな」
「そうだな…」
少し険しい表情を浮かべたグレンに、珍しいものを見たと驚くシュレ。
彼は長く生きているだけあり、常に余裕があると思っていた。簡単には動じないし、動じるようなこともないと。
『二千年ぐらい前に、戦争で使われたことがあるんだよ。あのときはシオンが怒って大変だったな』
「なるほど。だからか…」
目の前にいる英雄は、驚くほど優しい性格だと知っている。
殺し合いなど許せるような性格ではない。そのようなことが起きればほっとけるわけもないのだ。
「手を出したのか」
「まぁ、力を試し使いするのにもちょうどよかったから」
南で起きた戦争で、砂漠地帯なのもあってどれだけ力を使っても問題なかったと言われてしまえば、さすがに引いているようだ。
なぜ南の大陸だけこうなのかと思わなくもないが、とりあえず今は落ち着いているから気にしないことにしていた。
どうしても住みにくい地ということが争いを招いてしまうようで、こればかりはシオンがどうにかできる問題ではない。
「仕方ないか。砂漠だからな…」
「俺も傭兵で行ったが、あの環境はな」
北育ちなのもあって、グレンは砂漠だけは苦手だった。傭兵としての依頼は一度だけで、あとは退位したあとに旅したときだけ。
これだけ長く生きていても、南にはほとんど行くことがない。担当しているのが自分ではないというのもあったが。
「安定しないものだな。東は落ち着いたのに」
「英雄の怒りを買ったからじゃないのか?」
当たり前のように言うから、グレンが不思議そうに見る。
すべてを知っているからこそ、あえてなにかを調べることはしていない。ある程度会話を合わせることができるからだ。
よく考えてみれば、東ではどう教えられているのかを知らない。カロルによって広げられたこともあるが、もとから広がっていること。
東の大陸には二種類あるのだ。どちらも正しいことだし、もとは同じだからと気にしないことにしていた。
「俺はハーフエルフの里で育ったからな。英雄が国を滅ぼしたって聞いて育った」
「そこに間違いはないが…」
ハーフエルフを虐げたかつての国。小国でありながら野心家な王族によって、ハーフエルフ狩りなるものもあった。
そんな国を滅ぼしたのは月神リオン・アルヴァースだ。
「人間と暮らす連中は、ハーフエルフ狩りは知らないのばかりだ。歴史も薄れていくってことさ」
野心家の王族だったというのは広がっているが、滅んだ理由がハーフエルフ狩りだとは広がっていない。
(広げていないのか……)
カロルが意図的にやっていることはわかる。それが広がってしまえば、共存ができなくなってしまうから。
最終的に共存する場にするなら、ハーフエルフ狩りの事実は薄れさせる必要があった。
(まっ、わからなくはない。そうでなければ、こうも簡単に共存できない)
ハーフエルフの寿命を考えれば、まだぎこちない関係だっただろう。人間嫌いばかりだったのだから。
けれど畏怖を与えるものは必要なわけで、リオンがやったことだけが語り継がれているのだろう。
「神の力とは、まったく…」
『おー、そういや、バルスデでもシオンがやらかしたんだったか』
聞いたぞとヴェガが言うから、グレンは苦笑いを浮かべる。
なにせ、彼も聞いた話で見たわけではない。その場がどうなったのかなどわかるわけがないのだ。
『よかったな、お前死なないで』
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