始まりの竜

朱璃 翼

文字の大きさ
45 / 174
三部 神具編

仲間達との再会

しおりを挟む
 それほど進んでいる感覚はない。けれど、周りの景色は次から次へと変化していく。気がつけばあっという間に雪景色。

 魔法槍士に仕える魔道生物は、その気になれば一日で世界中を駆け巡る。聞いただけでは信じられなかったが、体験すれば話は違う。

 感じたこともない速さで走っているのに、体感している速さは馬と変わらない。

「不思議だな…」

――結界を張っているんですよ。さすがに生身では耐えられないです――

 ぼそりと呟かれた言葉に、黒欧は何事もないように答える。

「だよね」

 実際には、身体にかかる衝撃は大きいはずだ。それぐらいは柊稀にもわかる。これだけの速さで走っていれば、まず座ってなどいられないし、身体が千切れてしまう。

――森が見えたら、あっという間ですよ――

「今もあっという間だよ」

 反論すれば黒欧は笑った。ならば一瞬ですね、と言い直す。

「そ、そうだね」

 森に入り一瞬で到着した村に、苦笑いを浮かべる。感覚的には、森に入ってから一歩だった。

 黒欧から降りると、馬から人の姿へと変わる。もうしばらく、このままついていくことにしたらしい。

 黒耀が乗っていた魔道生物の方は、これ以上は関わらないというように姿を消した。

「こっちだ」

 村の雰囲気は故郷を思いださせる。まさか遠く離れた場所で、同じような雰囲気をした村にくるなど、思ってもいなかった。

 現実は村を発ってから、そう長く離れていたわけではない。けれど、過去での経験がある分、もう何年も旅をしている気持ちだった。

「お母さん、元気かな?」

「元気だよ。母さんは」

 柏羅も同じ気持ちなのだと知り、少し気持ちが軽くなる。

「お姉ちゃんと、早く帰ろうね!」

「そうだね」

(朱華、今はどこにいるんだろ)

 邪教集団を追っていれば、また会えるはず。始祖竜である柏羅を狙っているのだから、今はそれを信じるしかない。

(次に会ったときは、絶対に連れ戻す)

 そのために、柊稀はただ突き進む。大切な者を取り戻すために。そのための一歩を踏み出すのだ。

 案内された家。それは少し大きめの家で、特別なのはすぐにわかった。長の家なのかもしれない。

「皆さんお待ちですよ」

 招き入れてくれた青年は、黒耀を見るなりみな揃っていると告げた。どうやら自分が訪ねるまでは動くな、と最初に指示を入れてあったらしい。

 そこは抜かりないのが魔法槍士だ。事情がすべてわかるまで、勝手に動かないよう指示を出したのだろう。

「長、黒耀が来ました」

「よく来た。待っていたぞ」

 魔竜族の長と会うとは聞かされていたが、目の前にして見れば少し驚く。魔竜族の長と言えば、ベル・ロードを統治するものだ。

 天竜王とも変わらない存在である。普通の生活をしていれば、まず会うことはない存在だ。

 だが、気後れはしない。過去で魔法槍士や補佐官、天竜王と交流をした経験が、彼を大きく変えたのだ。

「いい目をするようになったな。それだけの経験をしてきたのか」

「琅悸!」

「お久しぶりです、と言った方がいいですかね」

「氷穂さんも……」

 別れた当時、会って間もなかった。付き合いは短く、なにも知らないに等しい関係だが、自分にとっては仲間。

 懐かしい。心の底から沸き上がってきた感情。

 帰ってきたのだ。ようやく在るべき時代に帰ってきたのだと実感する。

「再会を懐かしみたいが、先に話をしよう。先日の地震以降、気になることがある」

 地震と言われ、柊稀は神具の話だと黒耀を見る。彼自身も、現在なにが起きているのか気になっていたのだ。

 見ていただけに、普通ではないことだけわかっている。

「邪教集団の実態はまだわかっていない。だが、神竜をあちらに押さえられたとみていい。そして、神具を奪われた。あれが奪われたことで、末裔は力を失なってしまう」

「それでか……」

 あれ以来、力を失ったと琅悸が言う。彼は地竜王の末裔、それも直系なのだが、今は末裔としての力を感じられなくなっていた。

 それがずっと気になっていたのだ。どうすれば失われてしまうのか。

 接触もしていないのに、力を奪う方法があるなど考えもしなかったのだ。いや、奪えるものだとすら思っていなかった。

「神具は神竜が与えたと言うが、違うのかもしれない。いや、正確には与えた者と作った者が違うと言うべきか」

 詳しいことは、まず黒欧から聞こう。視線で促せば、魔法槍士に仕える者は頷く。

――私が話すことは、柊稀殿が過去へ行ったことで、過去の者達が推測したことです――

 前置きをすると、彼は話し出した。

 柊稀と柏羅が過去へ行ったことにより、未来がどうなるかを知ってしまった過去の者達。

 詳しく知らない彼らは、やはり邪教集団の正体までは想像がつかないと告げていた。

――けれど、ひとつだけ可能性を上げてくれました――

 創歴には別の文明があったと言われている。年数を数えられているのは、竜族が誕生してからのこと。

 つまり、創歴は数えられている年数以前が存在するのだ。

「その頃にしかいなかった種族が、いたかもしれない。そういうことか」

 難しい表情を浮かべる琅悸。もしそうなら、相手の詮索はしても意味がないことになる。

「その可能性はありえるかもしれない。魔竜族の神殿には、謎の生き物と戦う絵が残されていた」

 ベル・ロードには独自の文化があったとされていた。何人もの研究者がいるが、未だ解明はされていない。





.
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

娘を返せ〜誘拐された娘を取り返すため、父は異世界に渡る

ほりとくち
ファンタジー
突然現れた魔法陣が、あの日娘を連れ去った。 異世界に誘拐されてしまったらしい娘を取り戻すため、父は自ら異世界へ渡ることを決意する。 一体誰が、何の目的で娘を連れ去ったのか。 娘とともに再び日本へ戻ることはできるのか。 そもそも父は、異世界へ足を運ぶことができるのか。 異世界召喚の秘密を知る謎多き少年。 娘を失ったショックで、精神が幼児化してしまった妻。 そして父にまったく懐かず、娘と母にだけ甘えるペットの黒猫。 3人と1匹の冒険が、今始まる。 ※小説家になろうでも投稿しています ※フォロー・感想・いいね等頂けると歓喜します!  よろしくお願いします!

祈りの果てに ― 無限の箱庭で笑う者 ―

酒の飲めない飲んだくれ
ファンタジー
俺は一度、終わりを迎えた。 でも――もう一度だけ、生きてみようと思った。 女神に導かれ、空の海を旅する青年。 特別な船と、「影」の船員たちと共に、無限の空を渡る。 絶望の果てに与えられた“過剰な恩恵”。 それは、ひとりの女神の「願い」から生まれたものだった。 彼の旅路はやがて、女神の望みそのものを問い直す。 ――絶望の果て、その先から始まる、再生のハイファンタジー戦記。 その歩みが世界を、そして自分自身を変えていく。 これは、ただの俺の旅の物語。 『祈りの果てに ― 無限の箱庭で笑う者 ―』

その狂犬戦士はお義兄様ですが、何か?

行枝ローザ
ファンタジー
美しき侯爵令嬢の側には、強面・高背・剛腕と揃った『狂犬戦士』と恐れられる偉丈夫がいる。 貧乏男爵家の五人兄弟末子が養子に入った魔力を誇る伯爵家で彼を待ち受けていたのは、五歳下の義妹と二歳上の義兄、そして王都随一の魔術後方支援警護兵たち。 元・家族の誰からも愛されなかった少年は、新しい家族から愛されることと癒されることを知って強くなる。 これは不遇な微魔力持ち魔剣士が凄惨な乳幼児期から幸福な少年期を経て、成長していく物語。 ※見切り発車で書いていきます(通常運転。笑) ※エブリスタでも同時連載。2021/6/5よりカクヨムでも後追い連載しています。 ※2021/9/15けっこう前に追いついて、カクヨムでも現在は同時掲載です。

慈愛と復讐の間

レクフル
ファンタジー
 とある国に二人の赤子が生まれた。  一人は慈愛の女神の生まれ変わりとされ、一人は復讐の女神の生まれ変わりとされた。  慈愛の女神の生まれ変わりがこの世に生を得た時、必ず復讐の女神の生まれ変わりは生を得る。この二人は対となっているが、決して相容れるものではない。  これは古より語り継がれている伝承であり、慈愛の女神の加護を得た者は絶大なる力を手にするのだと言う。  だが慈愛の女神の生まれ変わりとして生を亨けた娘が、別の赤子と取り換えられてしまった。 大切に育てられる筈の慈愛の女神の生まれ変わりの娘は、母親から虐げられながらも懸命に生きようとしていた。  そんな中、森で出会った迷い人の王子と娘は、互いにそれと知らずに想い合い、数奇な運命を歩んで行くこととなる。  そして、変わりに育てられた赤子は大切に育てられていたが、その暴虐ぶりは日をまして酷くなっていく。  慈愛に満ちた娘と復讐に駆られた娘に翻弄されながら、王子はあの日出会った想い人を探し続ける。  想い合う二人の運命は絡み合うことができるのか。その存在に気づくことができるのか……

異世界で大往生した私、現代日本に帰還して中学生からやり直す。~最強の補助魔法で、冴えないおっさんと最強美女を操って大金持ちになります~

タカノ
ファンタジー
異世界へ転移し、聖女として崇められ、愛する家族に囲まれて88歳で大往生した……はずだった。 目が覚めると、そこは現代日本。 孤児の中学2年生、小金沢ヒナ(14)に戻っていた。 時間は1秒も進んでおらず、待っていたのは明日のご飯にも困る極貧生活。 けれど、ヒナの中身は酸いも甘いも噛み分けたおばあちゃん(88歳)のまま! 「もう一度、あの豊かで安らかな老後(スローライフ)を手に入れてみせる!」 ヒナは決意する。異世界で極めた国宝級の【補助魔法】と【回復魔法】をフル活用して、現代社会で大金を稼ぐことを。 ただし、魔法は自分自身には使えないし、中学生が目立つと色々面倒くさい。 そこでヒナがビジネスパートナー(手駒)に選んだのは―― 公園で絶望していた「リストラされた冴えないおっさん」と、 借金取りに追われる「ワケあり最強美女」!? おっさんを裏から魔法で強化して『カリスマ社長』に仕立て上げ、 美女をフルバフで『人間兵器』に変えてトラブルを物理的に粉砕。 表向きはニコニコ笑う美少女中学生、裏では彼らを操るフィクサー。 「さあ善さん、リオちゃん。稼ぎますよ。すべては私の平穏な老後のために!」 精神年齢おばあちゃんの少女が、金と魔法と年の功で無双する、痛快マネー・コメディ開幕!

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

僕らの10パーセントは無限大

華子
青春
 10%の確率でしか未来を生きられない少女と  過去に辛い経験をしたことがある幼ななじみと  やたらとポジティブなホームレス 「あり得ない今を生きてるんだったら、あり得ない未来だってあるんじゃねえの?」 「そうやって、信じたいものを信じて生きる人生って、楽しいもんだよ」    もし、あたなら。  10パーセントの確率で訪れる幸せな未来と  90パーセントの確率で訪れる悲惨な未来。  そのどちらを信じますか。 ***  心臓に病を患う和子(わこ)は、医者からアメリカでの手術を勧められるが、成功率10パーセントというあまりにも酷な現実に打ちひしがれ、渡米する勇気が出ずにいる。しかしこのまま日本にいても、死を待つだけ。  追い詰められた和子は、誰に何をされても気に食わない日々が続くが、そんな時出逢ったやたらとポジティブなホームレスに、段々と影響を受けていく。  幼ななじみの裕一にも支えられながら、彼女が前を向くまでの物語。

処理中です...