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三部 神具編
触れられない心
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別行動をしていた琅悸達がダリウスに着いたのは、風獣月も半ばのこと。予定では柊稀達が先に着いているはずだと、宿屋を探す。
どこかの宿屋に滞在しているはずで、柏羅がいれば目立つ。すぐさま見つかるはずだと。
「港ってこんなんなんだ。僕、オルドにも行ったことないから、初めてだ」
「そうか。ベリヤードにたまに来るぐらいだったな」
珍しそうにキョロキョロと辺りを見る蒼翔に、虚空が笑みを浮かべる。
オルドへ初めて踏み込んだものの、なにも見ることなくエルゼートへ来てしまった。だから、蒼翔にとってはここが初めての港だ。
今まで見ることができないものを見る。元々、好奇心が強い蒼翔なだけに、ワクワクしているのだろう。わかるだけに、虚空は微笑ましく思っていた。
「学校があるからね」
普通なら街から出ることはほとんどない。出る暇すらないのだ。
こんなことがなければ、外の世界を見ることはなかったと思うと、少しだけ感謝したくもなる。
「私も、こんな遠出は初めてです。次はゆっくりと遠出したいですね」
観光が目的ではないため、ゆっくりする時間はない。
仕方ないとわかっているが、見知らぬ土地に来てなにも見られないのは、少しばかり悲しかった。
それは氷穂も同じなだけに、気持ちは理解できる。
「おっ、あれ柏羅じゃねぇ?」
しばらく歩いていると、ユフィは白髪の少女を見つけた。
「たぶんそうだろうな。ずいぶん背丈が伸びたようだが」
白髪の少女など、そういない。たとえ最後に会ったときより背丈が違っていても、同一人物と判断できた。
「隣にいるのは誰かな? 魔法槍士殿じゃないよね」
黒髪だが、少し赤がまざっている。髪の長さも黒耀と違い短い青年だ。どう見ても別人の青年が、親しげに話している。
左右の瞳が色違いで、不思議な魅力だなと蒼翔は思う。
「あっ……」
「どうした、ユフィ」
指を差したまま、口をパクパクさせる精霊に、琅悸は珍しいものを見たなと思う。
長生きしているからか、彼は何事にも動じることはない。驚くことも、よほどのことがなければないのだ。
そんな彼が驚いている。それほどの人物が、柏羅の隣にいるということだ。
「秋星ー! なんでお前がいるんだよ!」
次の瞬間、精霊の叫び声が町中に響き渡った。
自分の名を呼ぶ叫び声に青年は振り返る。そして、彼も見知った精霊に驚いた。
「ユフィか! いやぁ、そっか。そうだよなぁ。こっちにもいるよなぁ、一応精霊だし」
ぶつぶつと一人納得をする秋星に、弾き飛ばす勢いで近寄るユフィ。そのまま胸ぐらを掴むから、慌てたのは琅悸達だ。
「お、おおお前、なんで! 幽霊か!? 造られたか!?」
よほど動転していたのか、冷静なら本物か造られたか見抜けたはずなのに、それすらできずに問いかける。
「落ち着け落ち着け! いつもの冷静さはどうした!」
胸ぐらを掴まれたまま激しく揺さぶられるから、秋星は慌ててなだめようとした。
彼に掴まれたぐらいじゃ苦しくもないが、激しく揺さぶられるのは、さすがに勘弁してくれと思ったのだ。
「色々と理由はあるんだよ。とりあえず、柊稀の仲間でいいんだよな?」
確認するように後ろを見れば、琅悸が頷いてそうだと応える。
「ユフィ、落ち着いて離れろ」
「あ、あぁ……」
琅悸の声にようやく冷静さが戻ってきたのか、ユフィは秋星を離した。
よくメンバーを見てみれば、秋星はなるほどと思う。よく集まったものだと。
「んじゃ、帰るか」
「はーい!」
元気よく返事をすると、柏羅は秋星の腕にしがみついて歩いていく。
「すごいなつき方だな。柊稀以外であんなになつくなんて」
「ほんとだね。僕達となにが違うんだろ」
少しだけ二人は妬いていた。なついてくれないわけではない。けれど、手を握ることすらしたことがなかったのだ。
「子供慣れしてるか、してないかじゃね? あいつ、昔っから子守りをよくしてたし」
友人達の子供の面倒から、仕事先で出会った子供の面倒まで、よくやっていた。
なによりも、秋星が子供好きなのが大きい。仕事が休みのときは、町の子供と遊んで過ごすことも珍しくなかった。
「確かに、私は子供が苦手だが……」
「なにさ。僕は平気だろって言いたいんだろ」
「教師なら、子供相手だろ」
「まぁ、ね……」
でも苦手なんだと、蒼翔は小さく呟いた。
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どこかの宿屋に滞在しているはずで、柏羅がいれば目立つ。すぐさま見つかるはずだと。
「港ってこんなんなんだ。僕、オルドにも行ったことないから、初めてだ」
「そうか。ベリヤードにたまに来るぐらいだったな」
珍しそうにキョロキョロと辺りを見る蒼翔に、虚空が笑みを浮かべる。
オルドへ初めて踏み込んだものの、なにも見ることなくエルゼートへ来てしまった。だから、蒼翔にとってはここが初めての港だ。
今まで見ることができないものを見る。元々、好奇心が強い蒼翔なだけに、ワクワクしているのだろう。わかるだけに、虚空は微笑ましく思っていた。
「学校があるからね」
普通なら街から出ることはほとんどない。出る暇すらないのだ。
こんなことがなければ、外の世界を見ることはなかったと思うと、少しだけ感謝したくもなる。
「私も、こんな遠出は初めてです。次はゆっくりと遠出したいですね」
観光が目的ではないため、ゆっくりする時間はない。
仕方ないとわかっているが、見知らぬ土地に来てなにも見られないのは、少しばかり悲しかった。
それは氷穂も同じなだけに、気持ちは理解できる。
「おっ、あれ柏羅じゃねぇ?」
しばらく歩いていると、ユフィは白髪の少女を見つけた。
「たぶんそうだろうな。ずいぶん背丈が伸びたようだが」
白髪の少女など、そういない。たとえ最後に会ったときより背丈が違っていても、同一人物と判断できた。
「隣にいるのは誰かな? 魔法槍士殿じゃないよね」
黒髪だが、少し赤がまざっている。髪の長さも黒耀と違い短い青年だ。どう見ても別人の青年が、親しげに話している。
左右の瞳が色違いで、不思議な魅力だなと蒼翔は思う。
「あっ……」
「どうした、ユフィ」
指を差したまま、口をパクパクさせる精霊に、琅悸は珍しいものを見たなと思う。
長生きしているからか、彼は何事にも動じることはない。驚くことも、よほどのことがなければないのだ。
そんな彼が驚いている。それほどの人物が、柏羅の隣にいるということだ。
「秋星ー! なんでお前がいるんだよ!」
次の瞬間、精霊の叫び声が町中に響き渡った。
自分の名を呼ぶ叫び声に青年は振り返る。そして、彼も見知った精霊に驚いた。
「ユフィか! いやぁ、そっか。そうだよなぁ。こっちにもいるよなぁ、一応精霊だし」
ぶつぶつと一人納得をする秋星に、弾き飛ばす勢いで近寄るユフィ。そのまま胸ぐらを掴むから、慌てたのは琅悸達だ。
「お、おおお前、なんで! 幽霊か!? 造られたか!?」
よほど動転していたのか、冷静なら本物か造られたか見抜けたはずなのに、それすらできずに問いかける。
「落ち着け落ち着け! いつもの冷静さはどうした!」
胸ぐらを掴まれたまま激しく揺さぶられるから、秋星は慌ててなだめようとした。
彼に掴まれたぐらいじゃ苦しくもないが、激しく揺さぶられるのは、さすがに勘弁してくれと思ったのだ。
「色々と理由はあるんだよ。とりあえず、柊稀の仲間でいいんだよな?」
確認するように後ろを見れば、琅悸が頷いてそうだと応える。
「ユフィ、落ち着いて離れろ」
「あ、あぁ……」
琅悸の声にようやく冷静さが戻ってきたのか、ユフィは秋星を離した。
よくメンバーを見てみれば、秋星はなるほどと思う。よく集まったものだと。
「んじゃ、帰るか」
「はーい!」
元気よく返事をすると、柏羅は秋星の腕にしがみついて歩いていく。
「すごいなつき方だな。柊稀以外であんなになつくなんて」
「ほんとだね。僕達となにが違うんだろ」
少しだけ二人は妬いていた。なついてくれないわけではない。けれど、手を握ることすらしたことがなかったのだ。
「子供慣れしてるか、してないかじゃね? あいつ、昔っから子守りをよくしてたし」
友人達の子供の面倒から、仕事先で出会った子供の面倒まで、よくやっていた。
なによりも、秋星が子供好きなのが大きい。仕事が休みのときは、町の子供と遊んで過ごすことも珍しくなかった。
「確かに、私は子供が苦手だが……」
「なにさ。僕は平気だろって言いたいんだろ」
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「まぁ、ね……」
でも苦手なんだと、蒼翔は小さく呟いた。
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