始まりの竜

朱璃 翼

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四部 朱華と華朱編

開かれた記憶2

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 度々二人は会うようになった。決まって朱華と遊べない日、村外れにある約束の丘へ行くと少女がいる。

 それは仕組まれていたなど、疑うこともせず。

「華朱、どうかな」

「おいしい!」

「よかったぁ。いっぱい食べていいよ」

「えへへ」

 母親が作ってくれたクッキー。華朱に食べさせてあげたくて、柊稀はこっそり持ってきた。

 少女がどのような生活を送っているのかわからなかったが、お菓子などは食べたことがないと思ったから、クッキーに限らず、あげられるものならなんでもあげていたのだ。

 会うたびに言葉を覚え、感情も豊かになっていく。年相応の少女へ近づいた。

 性格は幼馴染みよりおとなしい。同じ顔だが少し違うのだと、柊稀は気付いていた。

「いつか朱華にも会わせてあげたいなぁ。姉妹みたいにそっくりだよ」

「お姉ちゃん?」

「んー、どっちがお姉ちゃんだろ。妹かもよ」

 誰もが、なにも知らない状態。これが続けば、平和に事は済んだかもしれない。

 もしかしたら三人で仲良く過ごす日々が、築けていたのかも。そう思うほどに、このとき三人の関係は平和的だった。

 ある日突然、少女とは会えなくなった。いくら丘へ行っても華朱は現れない。

 どこか遠くへ行ってしまったのか。柊稀はそんな簡単な考えでいた。

 どこに住んでいるのかも知らない少女。きっと、両親と遠い村か町へ行ってしまったのだと。

 そして、突然いなくなった少女は、前触れもなく突然現れる。

「柊稀…」

 丘へ行けば、緋色の長い髪を風になびかせ一人の女性が立っていた。

「……華朱?」

「うん。久しぶり」

 美しく成長した少女は、大人になって会いに来てくれたのだろう。なんだか嬉しくて、照れる柊稀。

「ここはかわらないね」

 懐かしそうに丘を見て微笑む女性は、彼から見ても本当に美しいと思う。幼馴染みとそっくりなのに、こうも違うのかと思うほどに。

「ねぇ、これからは一緒にいられるかな?」

「村に住むの?」

 そういえば、彼女がどこに住んでいるのか知らない。どこにいたのだろうか、と疑問に思った。

 突然いなくなり、現れるまでのことが酷く気になる。子供の頃は思わなかった疑問点が多くある。

「そうしようかなぁ。ふふっ。そしたら、柊稀といられるものね」

 丘から村を眺めながら、華朱は少し考える素振りを見せた。そして、言われた言葉に頬が赤くなる。

「大歓迎だよ。空いている家がなければ、俺の家にしばらくいなよ」

 確認してみると柊稀は視線を逸らす。小さな村なだけあり、空き家はないかもしれない。旅人用のもなく、普段は族長宅を使用しているのだ。

 それなら、空き家がない場合は自分の家を使えばいいと本気で思った。

「本当に? 嬉しいなぁ」

 静かに微笑む華朱は、本当に朱華と真逆な性格だ。おとなしいお姉さんといった雰囲気。

(朱華が妹だな)

 昔した会話を思いだし、二人を姉妹にしたら間違いなく華朱が姉だな、などとのんきに思った。思えるほどに気持ちが落ち着いたときのことだ。

「柊稀ー!」

 二人が穏やかな雰囲気の中、朱華がやってきた。

 同じ顔をした朱華と華朱が顔を合わせる。ハッとしたように、二人は互いの顔を見た。

「柊稀が言う通り、私にそっくり。ううん。同じ顔ね」

「ほ、ほんとだね…」

 華朱が冷静に言うと、動揺したように朱華は一歩引く。

「ごめん、やっぱ家の手伝いする!」

「朱華!?」

 そのまま慌てたように引き返す彼女に、驚いたのは柊稀だ。

 なにかいけないことをしてしまっただろうか。考えてみたが、まったくわからない。

「どうしたんだろう」

「私が驚かせちゃったのかもね。同じ顔だし」

 私も驚いたと言えば、柊稀はそうかもしれないと納得した。突然、同じ顔をした人が現れたら、自分でも驚くかもしれないと。

 あとで顔を出せばいいかと、このとき柊稀は華朱と過ごした。



 寝静まった深夜、後に災害と呼ばれる事件が起きる。激しい地震が村を襲い、地割れを起こす。

 建物が崩壊し、悲鳴と怒声が村のいたるところから聞こえ、柊稀は慌てたように避難しようとした。

「柊稀!」

「華朱、丘に逃げるんだ! あそこは避難所だから!」

 村になにかあった際、どうするのかという決まりが幾つか決まっている。どのようなことがあったらどこへ避難する。

 連絡は誰にして、指示は誰がするなど、詳細が決まっているのだ。この場合は丘へ避難だと判断し、柊稀は華朱に避難を促す。

「う、うん。柊稀は?」

「男は下敷きになった人がいたら、助けるのが決まりだからさ。俺はあとから行くよ」

 笑顔で村の中へ走っていく柊稀。言われた通り丘へ逃げる華朱。

 村を襲った被害は甚大だったが、若い男性陣によって安全が確認されれば、朝方には避難していた村人は家へ帰っていった。柊稀もすぐに帰るはずだった。

「華朱! 危ない!」

 突然襲いかかってきた黒いローブを着た襲撃者。護るように剣を抜いた柊稀が受け止め、二人の攻防が始まる。

 なにが起きたのかもわからず、ガクガクと震える華朱。

自分が狙われたのだと、なんとか考えられるようになったときには、柊稀と襲撃者の攻防は激しくなる一方。

 蒼い炎が渦巻き、ローブに隠された素顔を露にする。

「えっ…ライザ様……」

 なぜ彼がこんなことをしているのか。戦場では一瞬の隙が命取り。

「柊稀!」

 華朱の叫びで我に返るが、目の前に迫る剣を避けるには間に合わない。

 このとき、間違いなく彼は死を覚悟していた。突き刺さるであろう剣。身体に走る痛み。それらを目を閉じて待つ。

 死ぬ前とは、これほどゆっくり感じるのかと。そんなことを考える時間まであった。

 けれど、いつまで待っても痛みはない。剣が突き刺さる感覚はやってこない。

「……父、さん」

 ゆっくり目を開くと、そこに父親がいた。剣は父親の身体を突き刺し、自分には傷ひとつない。

「父さん!」

 父親が庇ってくれたお陰で、自分は死なずに済んだ。つまり、父親が代わりに死ぬのだと、漠然と理解した。

「ミルダ! 朱華! マスターの意向のままにやれ!」

 柊稀とライザの言葉は同時に発せられた。

「な…にを……」

 父親の死を感じたと同時に、さらなる驚愕が襲う。黒いローブに身を包む幼馴染みの姿に呆然とする。

「なんで……」

 なぜこんな真似をするのか。柊稀は朱華を見ながら問いかける。

 火竜族の族長であるライザが、幼馴染みが、どうしてこのような真似をするのかと。

「簡単よ。その女がここを大切に思ったから。あなたを気に入ったから。だから、奪うのよ」

 クスリと笑いながらミルダが言う。華朱が大切に思うものは、すべて奪うのだと。

「マスターの…意向だ……」

 普段とはまったく違う低い声でライザも言う。

「可哀想にね。あなたは巻き込まれたのよ、その女といることで」

 艶やかに、けれど冷たく笑うミルダ。無表情に見るだけのライザ。

 その中、朱華だけが一言も発することはなく。なにを考えているかわからない表情で二人のことを見ていた。

「私の…せい…で……」

 ショックで見開かれた目。金色の筋が入るのを見て、ライザとミルダが頷く。

「あなたのせいで死んでいく彼を見てなさい」

 柊稀が見ていたのはそこまでだった。次に気がついたとき、彼はこの出来事をすべて忘れていたのだ。





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