103 / 174
五部 氷鬼なる琅悸編
不吉の神鳥2
しおりを挟む
移動先はセーベル地方の北にある鳥海山。直接行けるよう協力してくれたのは、やはり飛狛である。
瑚蝶と莱緋は鳥海山など行ったことがないのだから、どれだけ魔力を注ぎ込んでも直接は無理だった。
それをこれぐらいなら許されるだろうと、笑いながら手伝ってくれたのだ。
「これは、神鳥と戦うことになるか?」
いざ向かった先で漂う空気に、虚空の表情が険しくなる。
「巫女がいれば……」
戦いを回避できるかもしれない。けれど言い切れないのは、あくまでも可能性でしかないからだ。
「ふきゅ。主殿、鳳華を喚ぶですぅ」
「鳳華?」
「はいですぅ。鳳華は巫女の代わりに造られたですぅ」
九兎は華朱にいくつかの召喚具を渡していた。召喚具ひとつに魔道生物が一匹。
李蒼と李黄はピアス、焔莉は腕輪、楓莉が指輪 。首元に下げているペンダントが鳳華という鳥の魔道生物。
すべてを九兎が管理し、九兎が主と認めれば使えるのだ。当然ながら、途中でダメと判断された場合は使用ができない。
「応えてくれるかな」
しかし、鳳華だけが未だに喚べたことがない。なぜだか表にでてこないのだ。
ペンダントを握ると、なんの気配も感じられない。本人が応えたくない証拠だ。
「困ったですねぇ……」
「主殿、朱華になら応えるかもしれない。誰かの代わりに造られた、というのが同じだしな」
右耳のピアスが淡く輝き李蒼が話しかける。鳳華との付き合いも長いが、彼女が心を開いたことはない。
辛うじて、最初の主とだけ交流をとっていた。それは普通ではないから。
「やってみてくれる?」
「えっ…う…うん……」
彼女の物を奪うようで複雑な気持ち。それでも、喚び出せれば戦いを避けられる。そのためにやるのだと言い聞かせる朱華。
渡されたペンダントを受け取ると、肩に九兎が飛び乗った。
「やり方を教えるですぅ。感覚で覚えるですよぉ」
どうやら呪文などはいらないらしい。それも召喚具のおかげなのだろう。
魔力を引き出される感覚を感じながら、朱華は九兎にすべてを任せた。
魔力をペンダントへ注ぐと、鼓動が感じられた。誰かがいるような気配。
誰と考えるまでもない。おそらく鳳華と接触できているのだろう。
「あなたも…造られたの……」
「えぇ」
この鼓動が鳳華なのだとわかった。魔道生物が生きている証であり、自分へ興味を持ってくれたということ。
「あなたも…私を利用するの……」
「いいえ」
迷うことなく言えば、鳳華との距離がすこしばかり近づいたような気がした。
次の瞬間、鳳華の過去が流れ込む。巫女の代わりとして造られ、散々に利用された挙句、巫女が生まれたことで捨てられる。
鳥獣族から罵られ、行き場を失い、そして出会ったのだ。なにも言わずとも居場所をくれる者に。
『なんで俺といるんだ』
彼はよく森にいた。その森も居心地がいいと思ったが、彼も居心地がいいと思えたのだ。
『わからない。ただ、なんとなく』
何度目かわからない時間を過ごしたあと、問いかけにそう答えた。これは初めての会話。
この一言しか伝えなかったが、彼はそうかと一言で済ませ、それ以上は踏み込んでこなかった。
いたいだけいていいと言われ、鳳華はそのまま傍に居続けたのだ。時折、彼に力を貸すのを条件にして。それすら、彼が望んだことではなく、鳳華が自主的に力を貸した。
ある日、彼に召喚魔法というものを聞かされ、どうするかと問いかけられたのだ。
『まだ最終的なことまで考えてねぇけど、無理強いはしねぇさ。お前に任せる』
すべて決めてからの判断でもいいと言う。だから待った。待って決めたのだ。
少なくとも、安全に過ごせる場所は得られるからと。
彼は、魔道生物が虐げられることを良しとはしない。だからこそ、その要として九兎を置いた。このうさぎなら要としては間違いないだろうからと。
「利用はしない。嫌なら断っていいんだよ。ただ、あなたの力を借りたいの。戦いを避けるために」
何人も主ができたが、鳳華は誰にも興味を持つことはなかった。けれど、この女性は同じで同じではない。
そんなところに興味を持った。
「……なぜ。造られて、なぜそこまでやるの」
あなたも利用されたのに、どうして自分とは違うことを考えることができるのだろうか。不思議でたまらない。
「好きな人を危険にさらしたくないから。戦わずに済む道があるなら、その道を進みたい」
好きな人、と小さく呟かれた。
「それに、こんな私を受け入れてくれた仲間ができた。役立てることがあるなら、なんでもやってみせる」
造られた命でも関係ないと言ってくれる仲間がいる。だから、自分ができることを精一杯やるのだ。
それが受け入れてくれた仲間への恩返し。自分がしてしまったことへの罪滅ぼしなのだ。
「そう…あなたはこうしてきたの……」
鳳華の中へ、朱華の記憶が入り込む。
造られてからの日々。柊稀へ刃を向けたときの気持ち。華朱への罪悪感。それらがすべて流れていく。
二人の心が触れ合っている証だった。
「あなたには、仲間がいないの?」
同じ魔道生物達は仲間ではないのだろうか。ずっと一緒だったというのに。
「仲間…違う…けど、そうかもしれない……」
「友達かな?」
クスッと朱華が笑うと、目の前に虹色の鳥が現れた。とても美しくて、思わず見とれてしまうほどの。
「きれいね」
「昔の主殿も言ったの。見えていなかったから、なにを根拠に言ったのかわからないけど」
「きっと、感じたんだよ」
キラキラと輝く光を感じたのだろう。今、朱華が感じているように。
見えなくてもこの光ならわかる。巫女の代わりに造られた彼女は、とてもきれいで暖かい。
自分とはあまりにも違いすぎて、少し羨ましいぐらいだった。
.
瑚蝶と莱緋は鳥海山など行ったことがないのだから、どれだけ魔力を注ぎ込んでも直接は無理だった。
それをこれぐらいなら許されるだろうと、笑いながら手伝ってくれたのだ。
「これは、神鳥と戦うことになるか?」
いざ向かった先で漂う空気に、虚空の表情が険しくなる。
「巫女がいれば……」
戦いを回避できるかもしれない。けれど言い切れないのは、あくまでも可能性でしかないからだ。
「ふきゅ。主殿、鳳華を喚ぶですぅ」
「鳳華?」
「はいですぅ。鳳華は巫女の代わりに造られたですぅ」
九兎は華朱にいくつかの召喚具を渡していた。召喚具ひとつに魔道生物が一匹。
李蒼と李黄はピアス、焔莉は腕輪、楓莉が指輪 。首元に下げているペンダントが鳳華という鳥の魔道生物。
すべてを九兎が管理し、九兎が主と認めれば使えるのだ。当然ながら、途中でダメと判断された場合は使用ができない。
「応えてくれるかな」
しかし、鳳華だけが未だに喚べたことがない。なぜだか表にでてこないのだ。
ペンダントを握ると、なんの気配も感じられない。本人が応えたくない証拠だ。
「困ったですねぇ……」
「主殿、朱華になら応えるかもしれない。誰かの代わりに造られた、というのが同じだしな」
右耳のピアスが淡く輝き李蒼が話しかける。鳳華との付き合いも長いが、彼女が心を開いたことはない。
辛うじて、最初の主とだけ交流をとっていた。それは普通ではないから。
「やってみてくれる?」
「えっ…う…うん……」
彼女の物を奪うようで複雑な気持ち。それでも、喚び出せれば戦いを避けられる。そのためにやるのだと言い聞かせる朱華。
渡されたペンダントを受け取ると、肩に九兎が飛び乗った。
「やり方を教えるですぅ。感覚で覚えるですよぉ」
どうやら呪文などはいらないらしい。それも召喚具のおかげなのだろう。
魔力を引き出される感覚を感じながら、朱華は九兎にすべてを任せた。
魔力をペンダントへ注ぐと、鼓動が感じられた。誰かがいるような気配。
誰と考えるまでもない。おそらく鳳華と接触できているのだろう。
「あなたも…造られたの……」
「えぇ」
この鼓動が鳳華なのだとわかった。魔道生物が生きている証であり、自分へ興味を持ってくれたということ。
「あなたも…私を利用するの……」
「いいえ」
迷うことなく言えば、鳳華との距離がすこしばかり近づいたような気がした。
次の瞬間、鳳華の過去が流れ込む。巫女の代わりとして造られ、散々に利用された挙句、巫女が生まれたことで捨てられる。
鳥獣族から罵られ、行き場を失い、そして出会ったのだ。なにも言わずとも居場所をくれる者に。
『なんで俺といるんだ』
彼はよく森にいた。その森も居心地がいいと思ったが、彼も居心地がいいと思えたのだ。
『わからない。ただ、なんとなく』
何度目かわからない時間を過ごしたあと、問いかけにそう答えた。これは初めての会話。
この一言しか伝えなかったが、彼はそうかと一言で済ませ、それ以上は踏み込んでこなかった。
いたいだけいていいと言われ、鳳華はそのまま傍に居続けたのだ。時折、彼に力を貸すのを条件にして。それすら、彼が望んだことではなく、鳳華が自主的に力を貸した。
ある日、彼に召喚魔法というものを聞かされ、どうするかと問いかけられたのだ。
『まだ最終的なことまで考えてねぇけど、無理強いはしねぇさ。お前に任せる』
すべて決めてからの判断でもいいと言う。だから待った。待って決めたのだ。
少なくとも、安全に過ごせる場所は得られるからと。
彼は、魔道生物が虐げられることを良しとはしない。だからこそ、その要として九兎を置いた。このうさぎなら要としては間違いないだろうからと。
「利用はしない。嫌なら断っていいんだよ。ただ、あなたの力を借りたいの。戦いを避けるために」
何人も主ができたが、鳳華は誰にも興味を持つことはなかった。けれど、この女性は同じで同じではない。
そんなところに興味を持った。
「……なぜ。造られて、なぜそこまでやるの」
あなたも利用されたのに、どうして自分とは違うことを考えることができるのだろうか。不思議でたまらない。
「好きな人を危険にさらしたくないから。戦わずに済む道があるなら、その道を進みたい」
好きな人、と小さく呟かれた。
「それに、こんな私を受け入れてくれた仲間ができた。役立てることがあるなら、なんでもやってみせる」
造られた命でも関係ないと言ってくれる仲間がいる。だから、自分ができることを精一杯やるのだ。
それが受け入れてくれた仲間への恩返し。自分がしてしまったことへの罪滅ぼしなのだ。
「そう…あなたはこうしてきたの……」
鳳華の中へ、朱華の記憶が入り込む。
造られてからの日々。柊稀へ刃を向けたときの気持ち。華朱への罪悪感。それらがすべて流れていく。
二人の心が触れ合っている証だった。
「あなたには、仲間がいないの?」
同じ魔道生物達は仲間ではないのだろうか。ずっと一緒だったというのに。
「仲間…違う…けど、そうかもしれない……」
「友達かな?」
クスッと朱華が笑うと、目の前に虹色の鳥が現れた。とても美しくて、思わず見とれてしまうほどの。
「きれいね」
「昔の主殿も言ったの。見えていなかったから、なにを根拠に言ったのかわからないけど」
「きっと、感じたんだよ」
キラキラと輝く光を感じたのだろう。今、朱華が感じているように。
見えなくてもこの光ならわかる。巫女の代わりに造られた彼女は、とてもきれいで暖かい。
自分とはあまりにも違いすぎて、少し羨ましいぐらいだった。
.
0
あなたにおすすめの小説
一般トレジャーハンターの俺が最強の魔王を仲間に入れたら世界が敵になったんだけど……どうしよ?
大好き丸
ファンタジー
天上魔界「イイルクオン」
世界は大きく分けて二つの勢力が存在する。
”人類”と”魔族”
生存圏を争って日夜争いを続けている。
しかしそんな中、戦争に背を向け、ただひたすらに宝を追い求める男がいた。
トレジャーハンターその名はラルフ。
夢とロマンを求め、日夜、洞窟や遺跡に潜る。
そこで出会った未知との遭遇はラルフの人生の大きな転換期となり世界が動く
欺瞞、裏切り、秩序の崩壊、
世界の均衡が崩れた時、終焉を迎える。
魔力値1の私が大賢者(仮)を目指すまで
ひーにゃん
ファンタジー
誰もが魔力をもち魔法が使える世界で、アンナリーナはその力を持たず皆に厭われていた。
運命の【ギフト授与式】がやってきて、これでまともな暮らしが出来るかと思ったのだが……
与えられたギフトは【ギフト】というよくわからないもの。
だが、そのとき思い出した前世の記憶で【ギフト】の使い方を閃いて。
これは少し歪んだ考え方の持ち主、アンナリーナの一風変わった仲間たちとの日常のお話。
冒険を始めるに至って、第1章はアンナリーナのこれからを書くのに外せません。
よろしくお願いします。
この作品は小説家になろう様にも掲載しています。
ゲームのシナリオライターは悪役令嬢になりましたので、シナリオを書き換えようと思います
暖夢 由
恋愛
『婚約式、本編では語られないけどここから第1王子と公爵令嬢の話しが始まるのよね』
頭の中にそんな声が響いた。
そして、色とりどりの絵が頭の中を駆け巡っていった。
次に気が付いたのはベットの上だった。
私は日本でゲームのシナリオライターをしていた。
気付いたここは自分で書いたゲームの中で私は悪役令嬢!??
それならシナリオを書き換えさせていただきます
華都のローズマリー
みるくてぃー
ファンタジー
ひょんな事から前世の記憶が蘇った私、アリス・デュランタン。意地悪な義兄に『超』貧乏騎士爵家を追い出され、無一文の状態で妹と一緒に王都へ向かうが、そこは若い女性には厳しすぎる世界。一時は妹の為に身売りの覚悟をするも、気づけば何故か王都で人気のスィーツショップを経営することに。えっ、私この世界のお金の単位って全然わからないんですけど!?これは初めて見たお金が金貨の山だったという金銭感覚ゼロ、ハチャメチャ少女のラブ?コメディな物語。
新たなお仕事シリーズ第一弾、不定期掲載にて始めます!
【完結】見えてますよ!
ユユ
恋愛
“何故”
私の婚約者が彼だと分かると、第一声はソレだった。
美少女でもなければ醜くもなく。
優秀でもなければ出来損ないでもなく。
高貴でも無ければ下位貴族でもない。
富豪でなければ貧乏でもない。
中の中。
自己主張も存在感もない私は貴族達の中では透明人間のようだった。
唯一認識されるのは婚約者と社交に出る時。
そしてあの言葉が聞こえてくる。
見目麗しく優秀な彼の横に並ぶ私を蔑む令嬢達。
私はずっと願っていた。彼に婚約を解消して欲しいと。
ある日いき過ぎた嫌がらせがきっかけで、見えるようになる。
★注意★
・閑話にはR18要素を含みます。
読まなくても大丈夫です。
・作り話です。
・合わない方はご退出願います。
・完結しています。
転生先の異世界で温泉ブームを巻き起こせ!
カエデネコ
ファンタジー
日本のとある旅館の跡継ぎ娘として育てられた前世を活かして転生先でも作りたい最高の温泉地!
恋に仕事に事件に忙しい!
カクヨムの方でも「カエデネコ」でメイン活動してます。カクヨムの方が更新が早いです。よろしければそちらもお願いしますm(_ _)m
姉妹のお相手はわたくしが見つけますわ ー いき遅れ3姉妹の場合
葉月ゆな
恋愛
「フェリシアが結婚して、フェリシアの子供が侯爵家を継げばいい」
女侯爵である姉が言い出した。
3姉妹が10代のころに両親がなくなり侯爵家の建て直しで、この国では行き遅れと呼ばれる部類に入っているシャルロッテ(長女)、フェリシア(次女)、ジャクリーン(三女)の美人三姉妹。
今日まで3人で頑張って侯爵家を建て直し、落ち着いたからそろそろ後継者をと、フェリシアが姉に結婚を薦めれば、そんな言葉が返ってきた。
姉は女侯爵で貿易で財を成している侯爵家の海軍を取り仕切る男装の麗人。
妹は商会を切り盛りする才女。
次女本人は、家内の采配しかできない凡人だと思っている。
しかしフェリシアは姉妹をけなされると、心の中で相手に対して毒舌を吐きながら撃退する手腕は、社交界では有名な存在だ(本人知らず)。
なのに自慢の姉妹は結婚に興味がないので、フェリシアは姉妹の相手を本気で探そうと、社交に力を入れ出す。
フェリシアは心の中で何か思っているときは「私」、人と喋るときは「わたくし」になるのでご注意を。
「ときめかない」ものなど捨てておしまいなさい
megane-san
ファンタジー
私、クリスティーナは、前世で国税調査官として残業漬けの日々を送っていましたが、どうやら過労でぶっ倒れそのまま今の世界に転生してきたようです。
転生先のグリモード伯爵家は表向きは普通の商会を営んでおりますが裏では何やら諜報や暗部の仕事をしているらしく…。そんな表と裏の家業を手伝いながら、前世で汚部屋生活をしていた私は、今世で断捨離に挑戦することにしたのですが、なんと断捨離中に光魔法が使えることが発覚!
魔力があることを国にバレないようにしながら、魔術師の最高峰である特級魔術師を目指します!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる