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六部 最終決戦編
眠れる獅子の目覚め
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ゆっくりと歩いていく飛狛。肩に可愛らしい獣を乗せているが、その表情は別人のようだ。琅悸と戦った際にも違う一面を見せたが、それともまた違う。
静かな怒りを感じ取り、柊稀は初めて畏怖を覚えた。そう、飛狛を恐ろしいと思ったのだ。
(なんで……)
怒る姿も見たことはあるのに、今の飛狛ほど恐ろしいと思ったことはない。なにが違うのか、と。
「これは……魔力の流れが変わったのか」
――その通りです、主殿。これは……いえ、これが本来の飛狛殿です。飛狛殿は普段、魔力性質を隠しているのですよ――
思わぬ言葉に、そのようなことができるのかと誰もが瑚蝶を見た。
こういったことには、彼女の方が詳しいのではないかと思ったのだが、表情を見て考えを改める。これは、魔法への知識があるかなど関係ないのだと。
「普通に考えて、あり得ないことよ。私達には生まれ持っての魔力性質があるわ。その確認をする者は、そこまで多くはないけれど」
把握していれば、自分の得意魔法もわかりやすい。けれど、把握するための術がないのが実態。もしかしたら、と瑚蝶は黒燿を見る。
「精霊眼なら可能だ。飛狛殿は、見たことがあるが万能型だったはず」
けれど、今はどう見ても違うと言う。
なら、この性質はなにかと問われれば、黒燿にはわからないとしか言えない。見たことがないのだ。
「破壊……飛狛の魔力性質は、破壊だ。もっとも、これは後天的なものだが」
その中、彼のことをよく知る李蒼は、当然ながらこのことを知っている。それは黒欧も同じことだ。
「一番起こしてはいけない、眠れる獣を起こしてしまったな。あれは、もう止まらないぞ。あのときと同じ顔をしてるからな」
――今回、歯止め役の秋星殿が止める気もないですしね――
李蒼の言葉に黒欧が同意すれば、止める気は欠片もないと秋星の視線が言っている。
しかし、現状として敵の姿はない。いることはわかっているが、一体どこにいるのか。
「飛狛なら、全部見えてる。あの目だからな。かなりの数、いやがるぜ」
ユフィが前を見ながら言えば、全員の視線が向けられる。探ってみたところで、彼らは誰一人見ることはできなかった。
琅悸ですら感じ取れず、黒耀の精霊眼でも見えない。能力の違いかと思ったが、おそらくそれも違うと二人は感じていた。
起こしてはいけない眠れる獣。李蒼がそう称した理由を、彼らはすぐさま知ることとなる。
黒い気が溢れ出し、触れた柱が一瞬にして崩れ落ちた。なにが起きたのかと、全員の視線が柱から離れない。
「怒り狂っているが、一線は超えていない。おそらくこちらに被害がくるようなことはしないだろうが、絶対にあれに触れるな。飛狛の魔力は、触れたものを壊す。それがたとえ、生物であってもだ」
李蒼が真剣な表情で前だけを見ている。あれが溢れ出しているということは、自分達の方にも被害が来るかもしれないと思ってのこと。
夜秋と秋星が動けないことを考えれば、後ろへ被害がいくような戦い方はしないはずだ。けれど、絶対ではない。二人にはいかないかもしれないが、自分達にはくるかもしれない。
警戒を怠ることはできないのだ。
「魔力性質、破壊とはそういうことか。これは、隠せるなら隠すな」
このような力、簡単には使えない。しかし、魔法槍士である以上、魔力を使えないということは問題になるだろう。
(後天的と言っていた。突然、性質が変化してしまった飛狛は、どれだけの努力をして隠す術を身に着けたんだ)
氷鬼とバレないよう、戦い方を変えることに苦労した琅悸は、自分以上の苦労があったはずだと飛狛を見た。
双子の戦いの際に見せた姿といい、自分が戦った際に感じたものといい、彼は想像以上に苦しんでいる。それがわかったところで、生きる時代が違う琅悸には、どうすることもできない。
「飛狛さん……動く様子がないけど……」
なにをしているのか。どのような状態なのか、柊稀にはまったくわからない。見えないところで、すでに戦いは始まっているのだろうかと思うが、それすらわからないのだ。
「囲まれたな。だが、近づけない。あの力だから」
「ユフィ、お前はなぜ見えてる?」
今の状況を正確に把握しているユフィに、琅悸が疑問をぶつける。精霊だから見えるのか、精霊眼でも見られるのか。その辺りが気になったのだ。
「精霊眼じゃ見られない。飛狛ほどの力があれば別だが」
どことなく濁されたような気がしたが、琅悸は能力の違いだと思うことにする。精霊である彼だからこそ、言えないこともあるだろうと。
「僕達では見られないとうわけか。できれば、状況説明をそのまましてくれると助かるな」
――その必要はありません。攻撃をするときには表に出てくるでしょうし、あの様子なら声だけの主すら引きずり出すつもりだと思いますから――
動き始めれば、見えるようになるだろうと黒欧は言った。
さ
そして、その通りになった。痺れを切らしたのか、邪教集団の方が先に攻撃を仕掛けてきたのだ。
最初に表れた数人は、おそらく末端よりも上の存在だろう。柊稀は、朱華を取り戻したあとに表れたのと同じだと気付く。
彼らは飛狛が来ると逃げていた。つまり、これぐらいでは問題がない相手だ。
「なるほどなぁ。俺でも見えねぇけど、指示を出してる誰か、がまだいるのか」
ユフィにも見えないのか、と驚いたように琅悸が見るから、苦笑いに変わる。
「お前な、俺をなんだと思ってんだよ。見ればわかるだろ。強くねぇ精霊だぞ」
翳った瞳を示しながら言えば、それが信じられないとは言えなかった。
琅悸は薄々だが気付いている。ユフィにはなにか秘密があるのだということ。だからといって、それを聞き出す真似をするつもりもなかった。
現状、力が弱いというのも事実だとわかっているだけに、見えないのも本当のことだろう。
(つまり、飛狛の精霊眼はそれほど強いということか)
火の神具での戦闘を見てはいないが、白秋が飛狛を過去から引き寄せた理由もわかる。黒燿とは明らかに能力が違うのだ。
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静かな怒りを感じ取り、柊稀は初めて畏怖を覚えた。そう、飛狛を恐ろしいと思ったのだ。
(なんで……)
怒る姿も見たことはあるのに、今の飛狛ほど恐ろしいと思ったことはない。なにが違うのか、と。
「これは……魔力の流れが変わったのか」
――その通りです、主殿。これは……いえ、これが本来の飛狛殿です。飛狛殿は普段、魔力性質を隠しているのですよ――
思わぬ言葉に、そのようなことができるのかと誰もが瑚蝶を見た。
こういったことには、彼女の方が詳しいのではないかと思ったのだが、表情を見て考えを改める。これは、魔法への知識があるかなど関係ないのだと。
「普通に考えて、あり得ないことよ。私達には生まれ持っての魔力性質があるわ。その確認をする者は、そこまで多くはないけれど」
把握していれば、自分の得意魔法もわかりやすい。けれど、把握するための術がないのが実態。もしかしたら、と瑚蝶は黒燿を見る。
「精霊眼なら可能だ。飛狛殿は、見たことがあるが万能型だったはず」
けれど、今はどう見ても違うと言う。
なら、この性質はなにかと問われれば、黒燿にはわからないとしか言えない。見たことがないのだ。
「破壊……飛狛の魔力性質は、破壊だ。もっとも、これは後天的なものだが」
その中、彼のことをよく知る李蒼は、当然ながらこのことを知っている。それは黒欧も同じことだ。
「一番起こしてはいけない、眠れる獣を起こしてしまったな。あれは、もう止まらないぞ。あのときと同じ顔をしてるからな」
――今回、歯止め役の秋星殿が止める気もないですしね――
李蒼の言葉に黒欧が同意すれば、止める気は欠片もないと秋星の視線が言っている。
しかし、現状として敵の姿はない。いることはわかっているが、一体どこにいるのか。
「飛狛なら、全部見えてる。あの目だからな。かなりの数、いやがるぜ」
ユフィが前を見ながら言えば、全員の視線が向けられる。探ってみたところで、彼らは誰一人見ることはできなかった。
琅悸ですら感じ取れず、黒耀の精霊眼でも見えない。能力の違いかと思ったが、おそらくそれも違うと二人は感じていた。
起こしてはいけない眠れる獣。李蒼がそう称した理由を、彼らはすぐさま知ることとなる。
黒い気が溢れ出し、触れた柱が一瞬にして崩れ落ちた。なにが起きたのかと、全員の視線が柱から離れない。
「怒り狂っているが、一線は超えていない。おそらくこちらに被害がくるようなことはしないだろうが、絶対にあれに触れるな。飛狛の魔力は、触れたものを壊す。それがたとえ、生物であってもだ」
李蒼が真剣な表情で前だけを見ている。あれが溢れ出しているということは、自分達の方にも被害が来るかもしれないと思ってのこと。
夜秋と秋星が動けないことを考えれば、後ろへ被害がいくような戦い方はしないはずだ。けれど、絶対ではない。二人にはいかないかもしれないが、自分達にはくるかもしれない。
警戒を怠ることはできないのだ。
「魔力性質、破壊とはそういうことか。これは、隠せるなら隠すな」
このような力、簡単には使えない。しかし、魔法槍士である以上、魔力を使えないということは問題になるだろう。
(後天的と言っていた。突然、性質が変化してしまった飛狛は、どれだけの努力をして隠す術を身に着けたんだ)
氷鬼とバレないよう、戦い方を変えることに苦労した琅悸は、自分以上の苦労があったはずだと飛狛を見た。
双子の戦いの際に見せた姿といい、自分が戦った際に感じたものといい、彼は想像以上に苦しんでいる。それがわかったところで、生きる時代が違う琅悸には、どうすることもできない。
「飛狛さん……動く様子がないけど……」
なにをしているのか。どのような状態なのか、柊稀にはまったくわからない。見えないところで、すでに戦いは始まっているのだろうかと思うが、それすらわからないのだ。
「囲まれたな。だが、近づけない。あの力だから」
「ユフィ、お前はなぜ見えてる?」
今の状況を正確に把握しているユフィに、琅悸が疑問をぶつける。精霊だから見えるのか、精霊眼でも見られるのか。その辺りが気になったのだ。
「精霊眼じゃ見られない。飛狛ほどの力があれば別だが」
どことなく濁されたような気がしたが、琅悸は能力の違いだと思うことにする。精霊である彼だからこそ、言えないこともあるだろうと。
「僕達では見られないとうわけか。できれば、状況説明をそのまましてくれると助かるな」
――その必要はありません。攻撃をするときには表に出てくるでしょうし、あの様子なら声だけの主すら引きずり出すつもりだと思いますから――
動き始めれば、見えるようになるだろうと黒欧は言った。
さ
そして、その通りになった。痺れを切らしたのか、邪教集団の方が先に攻撃を仕掛けてきたのだ。
最初に表れた数人は、おそらく末端よりも上の存在だろう。柊稀は、朱華を取り戻したあとに表れたのと同じだと気付く。
彼らは飛狛が来ると逃げていた。つまり、これぐらいでは問題がない相手だ。
「なるほどなぁ。俺でも見えねぇけど、指示を出してる誰か、がまだいるのか」
ユフィにも見えないのか、と驚いたように琅悸が見るから、苦笑いに変わる。
「お前な、俺をなんだと思ってんだよ。見ればわかるだろ。強くねぇ精霊だぞ」
翳った瞳を示しながら言えば、それが信じられないとは言えなかった。
琅悸は薄々だが気付いている。ユフィにはなにか秘密があるのだということ。だからといって、それを聞き出す真似をするつもりもなかった。
現状、力が弱いというのも事実だとわかっているだけに、見えないのも本当のことだろう。
(つまり、飛狛の精霊眼はそれほど強いということか)
火の神具での戦闘を見てはいないが、白秋が飛狛を過去から引き寄せた理由もわかる。黒燿とは明らかに能力が違うのだ。
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