始まりの竜

朱璃 翼

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六部 最終決戦編

邪を束ねる者

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 広間を抜ければ、巫女殿でいう祈りの間と呼ばれる部屋へ出た。やはり造りは同じと見るなり、待ち構えるならここだと琅悸は判断を下す。

 その判断に間違いはなく、部屋には二人の人物が待っていた。

 顔を隠すことはなく、きれいな顔立ちだが男性とわかる者。長く伸ばされた黒い髪に黒い瞳。

 特徴だけなら黒竜に見えるが、そうではない。なぜだかハッキリと言えた。

 あの男性は竜族ではない。けれど、それ以外の種族でもない。なら、一体なんなのか。

 琅悸は未知なる相手に警戒心が強まる・

「ここまで来たか……」

 発せられた声はとても低い。しかし、なぜか聞いていて心地よい声。

「なぜ、こんなことをしたの?」

 柊稀は知りたかった。なぜこのような真似をしたのか。

 朱華や華朱、琅悸をも引き込もうとして、そうまでするなにかが男性にはあったのだとしたら、知りたいと思っていた。

「交わす言葉は必要ない。戦いがすべてだ」

 だが、相手は答えるつもりがないようだ。静かに剣を構える。油断なく、鋭い目付きで。

 少女の方は動くつもりがないようだ。フードを深く被ったまま、微動だにしない。

 だからといって油断はできない。あの少女が動かないという保証はないのだ。この場にいる以上、彼女も戦う相手と見るべきだろう。

 警戒しながらも、柊稀の視線は男性へと戻る。相手からは普通ではない力を感じた。

「おそらく、神竜の力を取り込んでいるな」

「黒耀も気付いてたか」

「当たり前だ」

 琅悸と黒耀は、互いに同じことを考えている。ここにいたはずの、神竜を取り込んでいるのだと。

 そのようなことが可能なのかと思うが、可能だから行われた。だとしたら、力は相当のものとなる。神竜の力はどのぐらいなのかわからないが、末裔の力よりは強いと思われた。

「よっしゃ! 援護頼むぜー、陽霜!」

「任せて。星霜以外やるからさ」

「俺の援護をしろ!」

 飛び出そうとした星霜は、半身の言葉にこける。

「あ、あの、私が星霜様を援護しますから」

 オドオドしながら二人を見る莱緋。敵を前にこんなことをしていていいのか、幼いながらに考えていた。

 どんなときでも、場の空気を和らげるのはこの二人だ。星霜は張り詰めた空気が嫌いだから。

「じゃあ、莱緋の援護に期待しとくか」

 軽い口調で刀を構えるが、目付きは鋭く敵を見ている。決して油断はしない。

 どれだけふざけたことをしていても、星霜は切れ者の天竜王だ。一瞬の隙すら与えることはしない。

「は、はい!」

 戦いの合図を送るよう、莱緋の矢が空を裂いて男性へ向かっていく。

 同時に地面を蹴るのは星霜。さらに追うように陽霜が続いた。双子ならではの連携を見せるが、男性は気にもしていない。

 二人の刀が離れた一瞬を狙うように、矢が二本。蒼翔の放った矢は正確に手元へ向かうが、素手で捕まれてしまう。

 捕まれた瞬間、矢は弾けるように雷を放った。

「ちっ…」

 さすがに予想外だったのか、少しの隙ができる。

「ふふん。僕はただ矢を放つだけじゃないんだよ」

 得意気に胸を張る蒼翔にため息をつきつつ、虚空は隙を逃さず斬りかかった。彼女が作った隙を無駄にするわけにはいかない。

 剣が淡く輝き出せば、男性も微かに身構える。普通の攻撃ならまだしも、魔技は簡単に受け流せない。

狼斬波ろうざんは!」

 黒い輝きを放ち、男性の剣が虚空の攻撃を受け止めた。力押しの攻撃を押し返せば、柊稀が頭上高くから斬りかかる。

 いつまでも受けてばかりではない。男性は瞬時に一歩跳び下がり、斬り上げた。

「柊稀! 火竜爆竜破かりゅうばくりゅうは!」

 炎の渦を巻き上げ朱華が跳び込む。

「効いてない?」

 身体が渦に包まれても男性は表情ひとつ変わらない。痛みを感じていないのか、本当に効いていないのか。どちらなのかは現状ではわからない。

「無駄な……」

 炎ごと朱華を吹き飛ばせば、隙間を縫うように瑚蝶が放つ水の渦が襲いかかる。

 水の渦を利用し、琅悸は相手に防がれた瞬間を狙って凍らせた。防いだ力のせいで氷は粉々に砕かれ、竜巻となって襲う。

 すぐさま瑚蝶が氷の粒てを利用して、風の魔法を使ったのだ。

 いつの間に、二人の間にこれだけのコンビネーションが取れるようになったのか。驚きつつも、敵から視線を逸らすことはない。

 目眩ましのように氷の竜巻を使えば、黒耀と華朱の精霊眼が正確に男性を捉える。

 精霊眼と精霊眼は共鳴するのだとは、飛狛から教わった事実。そうはいったものの、簡単にやれることではない。

 力の状態にもよると言うが、今の二人は共鳴を利用できるだけの関係を持っている。

 同時に放たれる力は、片方が精霊眼によるもので片方が竜の力。

 力により多少なりとも対応が違うと気付いただけに、三人で攻撃をすると決めていた。

 そう、三人で――――。

 二人が挟むように攻撃する間から、莱緋が天使族独特の魔法を放ったのだ。聖なる力とまで呼ばれる、天使族最大の魔法だ。

 さすがに慌てるかと思ったが、そこは神竜の力を持つ者。強力な結界を張り免れた。すべての力を問題なく防いでみせたのだ。

「やはり、ダメか」

 簡単には崩せないとわかれば、黒耀の表情が険しくなる。

 神竜の力を破る手立てが思い付かないのだ。たとえできたとしても、琅悸に頼らなくてはいけないだろう。

 それは、彼にすべての負担をかけるということだ。さすがに魔法槍士としてやれることではない。





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