始まりの竜

朱璃 翼

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六部 最終決戦編

光の中へ……

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 陽射しを浴びながら、ふぅと一息つく。かごが空なのを確認すれば、窓際に座る。

「お兄ちゃん、洗濯物干し終わりましたか?」

「うん。終わったよ」

 長い白髪を結わえた柏羅を見て、柊稀はにっこり笑った。

「買い物の約束だったね。行こうか」

「うん!」

 あれからどれぐらい経っただろうか。柊稀は柏羅と共に村へ戻り、族長夫婦に事情を説明した。精霊王が助けてくれると聞かされ、驚きつつもなぜか感謝された。

 村人にはうまく誤魔化し、柊稀がいるのに朱華がいないことを不思議られないようにする。

 二人は常に一緒にいた為、疑問に思われることは間違いないからだ。

「剣取ってくる。入り口で待ってて」

「はーい。すぐ出てきてくださいね」

「まったく。朱華に似てるな」

 剣を取りに行っては、遅すぎてよく叱られたのを思いだし、柊稀は苦笑いを浮かべる。

 なんとなく彼女に気遣われているのも、もちろん気付いていた。

 一緒にいた時間は決して長くはない。けれど、一番の影響を受けたのは朱華だったのだろう。

 所々、朱華を思わせる行動を柏羅はした。どうやら洋服の趣味も似たようだ。

 霜月の店へ行けば、店員が親しげに接してくる。琅悸とのことがあって、店員にも覚えられてしまったらしい。

「お兄ちゃん、これ……」

 店の中央に飾られている腕輪を見て、柏羅が呼ぶ。

「秋星さんのだね」

 何回も来た店だが、これは気にして見たことがなかった。いつも、すぐに店から出ていたからだ。

「器用だよなぁ。僕には無理だよ」

「お兄ちゃん、色々不器用ですからね」

「うっ…」

 最近、かわいい妹に勝てなくなってきたな、と柊稀は笑うしかない。ここも朱華に似てしまったのだろう。

「陽が暮れる前に帰らないといけないし、買い物を早く済ませなきゃ」

「そうですね」

 家事を終わらせてから来た為、買い物をする時間はあまりない。柏羅は急いで洋服を見た。

 帰り道、柊稀は柏羅が降ってきた日を思いだす。朱華と買い物をし、その帰りだったなと。

「そういえば、なぜ降ってきたの?」

 彼女は空から降ってきた。その謎だけは、謎のままだったと思いだす。

「えっと、私もよく覚えてないのですが、どこからか逃げようとした気がします」

 おそらく、無意識に移動したのだろうと柏羅は言う。

「きっと柏羅をさらっていった仲間、とかなんだろうね」

「そうかもしれません」

 どこかに長くいたのかもしれない。けど、それもよく思いだせないのだ。眠っていたからなのだろうと柏羅は思う。

「あっ……お兄ちゃん! あれ!」

 昔を懐かしむよう空を見上げれば、なにかが見えた。空からなにかがやって来る。

「あれは……まさか、朱華?」

「……はい! お姉ちゃんです!」

 じっと見れば、柏羅には朱華の魔力をハッキリと感じ取れた。

 ゆっくり降りてきた光。柊稀の胸元までくると、光が薄れ一人の女性が現れた。

「朱華……」

 腕に確かにかかる重み。呼び掛けた瞬間、睫毛は揺れた。

「朱華!」

「お姉ちゃん!」

 慌てたように近寄ってきた柏羅と、柊稀の二人が呼び掛ける。眠る彼女を呼び覚ますように。

「んっ…」

 静かに開かれた瞳は茶色から茶金に変わっていたが、間違いなくこの女性は朱華だ。

「……柊稀? 柏羅?」

「朱華、よかった……」

 信じていたが、それでも不安だった。本当に彼女が帰ってくるかが。造られた存在だったからこそ尚更だ。

――預かっていた彼女は、確かに返した――

 精霊王の声に柊稀は空を見上げる。しかし、そこから精霊の気配を感じることはない。

 送り届け、そのまま帰ってしまったのだろう。だから、柊稀は心の中で感謝を述べた。

 愛しい人を助けてくれた精霊王へ、心からの感謝を――――。



 一年後――。

「うわぁ、さすが霖香ちゃん! 素敵なドレスだねぇ」

 霜月が作り上げたドレスを見ながら、蒼翔が感嘆の声をあげる。隣ではうっとりと眺める瑚蝶の姿も。

「ほんと、素敵だわ。霜月のドレスなんて羨ましい」

「ほんとですね」

 いつか星霜とあんなのを着られたら、と夢見る莱緋に恥ずかしそうな朱華。

「や、やめてよ」

「えー、なんで? 朱華ちゃんきれいだよ! ドレスがね」

 悪戯っぽく笑う蒼翔に、みんな笑う。

「もう、そんなこと言う蒼翔さんには、作ってあげませんよ」

「やだやだ! 僕にも作ってよ! 霖香ちゃん!」

「クスクス。許してあげて、霖香」

 あまりにも必死な姿を見て氷穂が笑いながら言えば、今回だけですよと霖香も笑う。

「うんうん! 霖香ちゃん大好き!」

「まったく、蒼翔は変わらないわね」

 霖香へ抱きつく姿を見て、華朱は呆れた。彼女は、そう簡単には変わらないのだろう。

「お姉ちゃん、いきますよー!」

「うん!」

 柏羅が促せば、朱華は部屋を出ていく。柊稀が待つ広間へ向かって。

 広間へ到着すれば、緊張したような面持ちで柊稀が待っていた。

「これが最近流行りの結婚式か」

「みたいだよ。おかげで、ドレスの注文が増えて困るよ。お兄ちゃんの仲間だから、特別なんだよ」

 貸しはでかいと言えば、琅悸は笑うしかない。目の前で柊稀と朱華が幸せそうにしているのを見れば、悪くない貸しだ。

 彼らとの旅があったお陰で、氷鬼の呪縛から解き放たれた。琅悸からすれば、まだまだ貸しは残っているようなもの。

 氷穂の歌声が響く中、仲間内で行われた結婚式は、ようやくすべてが終わったのだと実感させるには十分だった。

「ずっと一緒だよ、朱華」

「うん」


 過去をも巻き込んだ戦いは、誰にも知られることなく、表の歴史にも刻まれず、静かに終わりを告げた。

 幸せそうな若者達の姿と共に――――。





〈完〉

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