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前編
顔合わせ
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天使は十八で成人、大人となる。成人の際、まずは性別を決めることから始めるのだ。
それまでは性別がなく、本人達の気持ちによって身体が変化する。女になりたいと思えば女の子に近い身体へ。男になりたいと思えば男の子に近い身体へ。
その理由は、天使達の中では特別だと言われている一人の天使が原因だとも言われている。神の子とも呼ばれる天使で、性別がない美しい天使だったらしい。
本当かどうかは誰も知らない話であり、今ではこのことを知っている者も珍しいほどのこと。
時折、成人しても性別が定まっていない者もいる。成人の儀で定めなかったのだろうが、それによって困ることは子供が作れない、産めないということだけ。
その気がない天使には、特に問題はないのだ。
「ラピエール、今日から新しい警護の人が来るんだよな」
どんな奴か知ってるか、と話しかけたのは、楽園で暮らす天使の一人。名をウィリディスといい、胸元まで伸ばされた緑色の髪に、髪よりもさらに濃い深緑の瞳。
外見は可愛らしい少女のようだが、喋ると少年のような天使。
成人前には珍しくないことで、性別が定まる前までは中世的な顔立ちをしているのが天使の特徴だ。髪を伸ばせば、完全に少女と見えてしまう。
「知らないのか?」
「知らない。興味ないし」
それに対して答えたのは、ラピエールという名の天使。腰まで伸ばされた髪は緩く波打ち、宝石のように輝く紫の瞳。
性別が確定していない今でも、その美しさは際立っている。成人の儀で女性となれば、誰もを惹きつける女性となるだろう。
「どうせ、前までいた無機質な奴らでしょ」
「だよなぁ」
ここにはそんな天使しかやってこない。期待するだけ無駄と、二人はため息をつく。
楽園と呼ばれるここは、そんなところなのだ。なぜかここにやってくる警備は、無機質に動く者だけ。どれだけ変わっても、それだけは変わらない。
だったら、気にする必要などないだろうと思う。警護する天使の顔が変わるだけのこと。
「これで何回目だっけ」
「んー…確か四回目じゃなかった?」
よく覚えてないけど、と笑いながらラピエールは言う。
そんなことより、と瞳をキラキラと輝かせながらウィリディスのことを見る。
「今日はルーメンとアルノームはこないの?」
まだ来てないよね、と言えば、ウィリディスの表情が苦笑いに変わった。
「新しい警護が、やたら強いんだってさ。警戒して、今日はこないって。昨日言ってただろ」
今までの警護に比べると、今回配属される警護は強いという噂があるらしい。
あくまでも噂なのだが、新しい警護がどのような人物かわかるまでは、簡単には近寄れないというのは理解できる。
なにせ、本来なら立ち入り禁止の楽園へ入り込んで、二人と遊んでいる天使達なのだから。見つかればどのような罰を受けるかわからない。
「そうだった。つまんないなぁ」
ここから出られない二人。世話をするという名目や、警護という名の天使達が配属されてくるが、なぜか無機質な天使ばかり。
二人にとって、唯一の楽しみは外からひっそりと入り込んでくる二人の天使だった。それしか楽しみがないのだ。
ラピエールが楽園へ連れてこられたのは七歳のとき。
楽園に来られることは名誉なこと。そんな風に聞いていたラピエールは、最初は素直に喜んでいた。いいところに来たのだと。
けれど、いいところなどではない。それを知ったのは、楽園へ来て一年経った頃のことだ。
「あっ…いやっ…」
ある晩、眠れなかったラピエールは、散歩でもしようと廊下を歩いていた。
楽園は警備がしっかりされていると言われており、どこよりも安全とされている。夜に出歩いても、楽園の中なら問題がないのだ。
どこからか、声が聞こえてきた。嫌がっているような声と、低くてよく聞き取れない声。
誰かいると、思わず部屋へ近づいてしまった。
「お前らは、主の子供を産むためだけにいるのだろ。だったら、こんなこと毎日やってるだろ」
好奇心のままに覗き見た室内は、自分と同じように楽園で過ごしている天使が襲われている姿。
襲っているのが誰かわからないが、見たことがないということだけはわかった。ここに立ち入れる天使ではない、誰かが外から入ってきている。
衝撃的な光景に、動くこともできずにいた。
とても名誉なことだと聞かされたから、ここに来たことを素直に喜べた。
けれど、いいところなんかではない。それを知った一夜。
(主の子供を産むためだけの存在…)
幼いながらに、それはまるで道具のようだと思った。子供を産むためだけの道具。
主の子供を産むということだけで考えれば、名誉なことなのかもしれない。確かにその点だけなら間違ってはいないが、強制的に入れられるというのはどうなのか。
翌日、襲われていた天使の元へ向かった。そこで見たのは、真っ赤に染まったベッドと横たわる女性。
姉のように慕っていた一人の天使は、自ら命を絶っていたのだ。
(なんで……一昨日、成人の儀をしたばかりだったのに)
そのときは嬉しそうに微笑んでいた。
これで大人の仲間入り。外へでて、恋をして幸せな家庭を築くのだと聞いたばかりだったのだ。
(大人になったら出られるって聞いてたけど、出られないんだ)
聞いていた話がすべて嘘だと気付く。気付いたところで、すでに遅いのだということも悟った。
・
それまでは性別がなく、本人達の気持ちによって身体が変化する。女になりたいと思えば女の子に近い身体へ。男になりたいと思えば男の子に近い身体へ。
その理由は、天使達の中では特別だと言われている一人の天使が原因だとも言われている。神の子とも呼ばれる天使で、性別がない美しい天使だったらしい。
本当かどうかは誰も知らない話であり、今ではこのことを知っている者も珍しいほどのこと。
時折、成人しても性別が定まっていない者もいる。成人の儀で定めなかったのだろうが、それによって困ることは子供が作れない、産めないということだけ。
その気がない天使には、特に問題はないのだ。
「ラピエール、今日から新しい警護の人が来るんだよな」
どんな奴か知ってるか、と話しかけたのは、楽園で暮らす天使の一人。名をウィリディスといい、胸元まで伸ばされた緑色の髪に、髪よりもさらに濃い深緑の瞳。
外見は可愛らしい少女のようだが、喋ると少年のような天使。
成人前には珍しくないことで、性別が定まる前までは中世的な顔立ちをしているのが天使の特徴だ。髪を伸ばせば、完全に少女と見えてしまう。
「知らないのか?」
「知らない。興味ないし」
それに対して答えたのは、ラピエールという名の天使。腰まで伸ばされた髪は緩く波打ち、宝石のように輝く紫の瞳。
性別が確定していない今でも、その美しさは際立っている。成人の儀で女性となれば、誰もを惹きつける女性となるだろう。
「どうせ、前までいた無機質な奴らでしょ」
「だよなぁ」
ここにはそんな天使しかやってこない。期待するだけ無駄と、二人はため息をつく。
楽園と呼ばれるここは、そんなところなのだ。なぜかここにやってくる警備は、無機質に動く者だけ。どれだけ変わっても、それだけは変わらない。
だったら、気にする必要などないだろうと思う。警護する天使の顔が変わるだけのこと。
「これで何回目だっけ」
「んー…確か四回目じゃなかった?」
よく覚えてないけど、と笑いながらラピエールは言う。
そんなことより、と瞳をキラキラと輝かせながらウィリディスのことを見る。
「今日はルーメンとアルノームはこないの?」
まだ来てないよね、と言えば、ウィリディスの表情が苦笑いに変わった。
「新しい警護が、やたら強いんだってさ。警戒して、今日はこないって。昨日言ってただろ」
今までの警護に比べると、今回配属される警護は強いという噂があるらしい。
あくまでも噂なのだが、新しい警護がどのような人物かわかるまでは、簡単には近寄れないというのは理解できる。
なにせ、本来なら立ち入り禁止の楽園へ入り込んで、二人と遊んでいる天使達なのだから。見つかればどのような罰を受けるかわからない。
「そうだった。つまんないなぁ」
ここから出られない二人。世話をするという名目や、警護という名の天使達が配属されてくるが、なぜか無機質な天使ばかり。
二人にとって、唯一の楽しみは外からひっそりと入り込んでくる二人の天使だった。それしか楽しみがないのだ。
ラピエールが楽園へ連れてこられたのは七歳のとき。
楽園に来られることは名誉なこと。そんな風に聞いていたラピエールは、最初は素直に喜んでいた。いいところに来たのだと。
けれど、いいところなどではない。それを知ったのは、楽園へ来て一年経った頃のことだ。
「あっ…いやっ…」
ある晩、眠れなかったラピエールは、散歩でもしようと廊下を歩いていた。
楽園は警備がしっかりされていると言われており、どこよりも安全とされている。夜に出歩いても、楽園の中なら問題がないのだ。
どこからか、声が聞こえてきた。嫌がっているような声と、低くてよく聞き取れない声。
誰かいると、思わず部屋へ近づいてしまった。
「お前らは、主の子供を産むためだけにいるのだろ。だったら、こんなこと毎日やってるだろ」
好奇心のままに覗き見た室内は、自分と同じように楽園で過ごしている天使が襲われている姿。
襲っているのが誰かわからないが、見たことがないということだけはわかった。ここに立ち入れる天使ではない、誰かが外から入ってきている。
衝撃的な光景に、動くこともできずにいた。
とても名誉なことだと聞かされたから、ここに来たことを素直に喜べた。
けれど、いいところなんかではない。それを知った一夜。
(主の子供を産むためだけの存在…)
幼いながらに、それはまるで道具のようだと思った。子供を産むためだけの道具。
主の子供を産むということだけで考えれば、名誉なことなのかもしれない。確かにその点だけなら間違ってはいないが、強制的に入れられるというのはどうなのか。
翌日、襲われていた天使の元へ向かった。そこで見たのは、真っ赤に染まったベッドと横たわる女性。
姉のように慕っていた一人の天使は、自ら命を絶っていたのだ。
(なんで……一昨日、成人の儀をしたばかりだったのに)
そのときは嬉しそうに微笑んでいた。
これで大人の仲間入り。外へでて、恋をして幸せな家庭を築くのだと聞いたばかりだったのだ。
(大人になったら出られるって聞いてたけど、出られないんだ)
聞いていた話がすべて嘘だと気付く。気付いたところで、すでに遅いのだということも悟った。
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