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前編
動き始める感情3
しおりを挟む昼食を食べ終え、急いでウィリディスの部屋に向かうラピエール。食事を残すのも初めてではない。この数日、ずっとなのだ。
このままでは倒れると心配になり、リュツィフェールに話したところだった。
「ウィリディス!」
ノックしても反応のないことから、強引に入った先で、ウィリディスは蹲っていて駆け寄る。
「ラ、ピ……」
抱き寄せれば視線が向けられ、苦しそうにしていて驚く。顔色は真っ青で、呼吸も少しおかしいと思う。
一体なにが起きているのか。このようなことは初めてで、ラピエールはどうしたらいいのかわからない。
「寝て…れば治る…から……」
「じゃあ、横になろう」
ベッドに寝かせようと、身体を支えながら立たせた瞬間、ウィリディスの身体から力が抜け、膝から崩れ落ちてしまう。
「うっ…っ……」
「ウィリディス! しっかりして、ウィリディス!」
苦しげに蹲る姿に、どうしたらいいのかわからずに抱き締める。このままでは死んでしまうと、パニックに陥りかけてしまったのだ。
「どうした?」
だから、その声が聞こえたときには心の底からホッとした。
声が聞こえ、慌ててやってきてくれたのだろう。リュツィフェールが近寄ってくるのを見て、半泣き状態のラピエールが見上げる。
「リュフェ…ウィリディスが…ウィリディスが死んじゃう……」
助けてと訴える姿を見て、しっかりと抱えられている身体を引き離す。まずは状態を確認しなければ、なにも言えないからだ。
場合によっては、楽園の外へ出て医師を連れてくる必要があるだろう。
「ハァ…ハァ…うっ…くっ…」
苦しそうにしているウィリディスを見て、そういうことかとリュツィフェールはベッドへ寝かせた。
「大丈夫だ。少し気が乱れているだけだから、治してやればいい」
安心しろと、優しい笑みを浮かべながら頭を撫でる。気の乱れを治せば、死ぬようなことではないからと。
「任せろ」
「うん…」
気持ちが落ち着いたのか、それでも不安が残る視線を向けながら、信じていると言う。こう言うということは、やり方はわからないがきっと治せるのだ。
任せておけば、大切なウィリディスを助けてくれる。失うことはない。
ベッドに寝かせたウィリディスを見ながら、困ったことになったとリュツィフェールはため息をつく。
乱れた気を治すことは問題がない。あるとしたら、やり方だけだろう。
(あとで殺されないといいが……)
気を送り込み治すのだが、その方法が口づけであるということが問題になる。だからといって、このまま放置すると待っているのは死だ。
さすがに主のためにいる天使を死なせることはできないし、なによりも彼を動かしたのはラピエールの涙だった。
(俺も、どうかしている……)
こんなのはらしくないとわかっている。涙ひとつで感情が動くなど、今までならなかったことだ。
「我が主よ…お許しを……」
これは救うための行為だと、主への許しを乞うてからそっと唇を重ねる。
ゆっくりと流し込んでいく気と、少しずつ落ち着いていく乱れた気。急激にやるのは逆効果だと、確実に行っていく。
(案外、なにも感じないものだ)
相手が性別の定まらない未成年だからなのか、やはり自分にはこのような行為や感情は不要なのか。思わずどうでもいいことまで考えてしまった。
逆に、この行動に感情が揺さぶられたのはラピエールの方だった。
治してもらえるとわかったときは安堵し、喜んでいたはずなのだが、唇が重なった瞬間、胸に鋭い痛みが走る。
(リュフェ…胸が痛むよ。僕、どうしちゃったのかな。なんか変なんだ)
ウィリディスが助かることは嬉しいのに、そのための行為は嬉しくない。むしろ、見ていると胸が苦しくてたまらないのだ。
長く感じる行為。決してそこまでの時間をかけているわけではないのだが、ラピエールには長く感じていた。
ゆっくりと離れるリュツィフェールに、終わったのだとホッとする。
ウィリディスは落ち着いたのか、苦しそうにしていたのが嘘のようで、そのまま眠りに落ちていた。
「気を送り込んだ。これで大丈夫だろう」
「……」
何事もなかったかのように振り返る姿に、ラピエールはなにも言えない。助けてくれたことは嬉しいはずなのに、素直に喜べなくなってしまったからだ。
「どうした?」
「ううん。なんでもないよ。ありがとう」
胸の中にもやもやしたものが残ってしまったラピエール。これがなんなのか、わからないと俯く。
俯く姿に、ウィリディスが心配なのだろうと思うリュツィフェール。急にこのようなことになれば、どれだけ不安だったことだろうか。
「ウィリディスは、気を乱しただけだ。病気じゃない。成人前の天使は性別が決まっていないからか、色々と不安的にできているらしくてな。今回の原因は、完全にアルトゥス関連だ」
厄介なことになったと思うが、どうにかすることもできない。彼の気持ちを知ってしまえば、黙って見ていることしかできないのだ。
さすがに、主のためにいる天使を奪ってしまえ、など言えるわけがない。二人の気持ちが両想いとなっても、だ。
諦めろ、としかどちらにも言えないと思っている。
「乱れた気は、誰かが流し込んで落ち着かせればいい。とはいっても、乱した負荷はあるから繰り返されると、ウィリディスが耐えきれなくなるかもしれないが」
「そう、なんだ……」
それはつまり、乱したら何度でもリュツィフェールが治すということだろうか。そんなの嫌だ、と考えてから、自分はなにを考えているのかと自己嫌悪に陥る。
彼を誰にも奪われたくない。自分だけを見ていてほしいと願ってしまう。
(僕、どうしちゃったんだろ……)
わからないよ、と小さく呟いた。
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