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前編
動き始める感情2
しおりを挟む昼食は決して賑やかということではないのだが、ストゥルティが場を動かしてくれることから、楽しい一時ではある。
注意深く見ているリュツィフェールは、ウィリディスの様子に眉を寄せた。
チラチラとアルトゥスを見ては、表情を曇らせる姿には、ラピエールから聞いた感情がついてくるのだろう。恋などわからないが、二人は普通に恋もする天使だ。
ずっと好きだった人物と想定外の再会をして、冷たくされればこうなってしまうのか。
(わからない感情に、行動は想像もつかない)
だからといって、わからないから放置することはできない。任されている以上、ここで二人を護るのが仕事。
主にとって大切な天使である二人に、なにかあってはいけないのだ。
微かに異様な食事風景に、ストゥルティも気付いている。視線が向けられれば、触れるなとだけ語り掛けた。
わかったと普段通りに話す姿を見ながら、アルトゥスを見る。彼がどう思い、行動しているのかを図るように。
自分に比べれば、コミュニケーション能力も高い。普段の彼なら、このような態度を取ることはないはずだと思っているのだ。
嫌でも笑顔でかわすことができるのが、アルトゥスという男なのだから。
「わりぃ…部屋戻るわ」
「ウィリディス?」
急に立ち上がると、逃げるように部屋へ戻っていく姿に、ラピエールが驚く。
ずっとアルトゥスの様子を伺っていたウィリディスは、食事にほとんど手を付けてはいない。さすがに、これが続けば倒れるとリュツィフェールの表情が険しくなる。
「リュフェー」
救いを求めるように見てくるラピエールに、わかったとため息をつく。他者と関わることが苦手ではあるのだが、幸いにも彼は自分を理解している。
どうにかなるだろうと思うしかない。
(まずは、なぜ冷たくするのかだよな。突き放すような態度を取る理由があるはずだ)
ふざけることもあるのだが、基本的に仕事は割り切ってやる。迫害されてきた自分達には、割り切るという部分は大事なことだったから。
「話を聞きに行ってみるが、どうにかできるかはわからないからな」
それだけは覚えておけと小声で言えば、仕方ないと頷く。話を聞きに行って、どうにもできない理由が出てきたら、諦めるしかないだろう。
それでも、このままよりも理由がわかった方がウィリディスは落ち着くかもしれない。
昼食が終わるなり、ラピエールはウィリディスの部屋へ向かい、二人がこうなってしまったことで護衛の三人も各々部屋へ引き返すことに。
ちょうどいいタイミングだと、リュツィフェールは片付けるなりアルトゥスの元へ向かう。話をしてみようと思ったのだ。
聞けば、なにかがわかるかもしれない。
「アルトゥス、少しいいか?」
「あぁ」
ドアをノックして声をかければ、拒否されることはなかった。どのような用件なのか、本人が一番わかっているはずなのにだ。
つまり、隠すつもりはないのか、言われてもやめるつもりがないのだろう。
部屋に入れば、ベッドの上で横になるアルトゥス。持っている羽根を眺めている姿に、リュツィフェールは絶句する。
たったのそれだけで、彼がなぜ冷たくするのかわかってしまったのだ。
「お前…それ……」
緑かかっている羽根を見れば、誰のものなのかはわかる。色付きの翼など珍しく、同じ色の翼が何人もいるわけがない。
アルトゥスのような真っ赤な翼を他で見たことがないように、この色も同じこと。
この羽根は、ウィリディスのものだ。
「心配するな。手なんか出さねぇよ。あいつは主のものだ」
たったのそれだけで、リュツィフェールはすべてを理解した。
彼は、自分の中に芽生え始めた感情を振り切るために、わざと冷たくしている。近づけば気持ちが強くなってしまうことから、遠ざけるためにやっているのだ。
(まさか、こいつが恋などするとは……)
互いの詳細を話したことはない。それでも、迫害という部分は同じだ。
理由など翼を見れば一目瞭然で、扱いも自分と同じだと思われた。あまり表にみせることはないけれど、他者を信じることもなければ、恋など無縁な感情だ。
だが、同時に理解できてしまう。自分も無縁だった感情が、ここで微かに湧き上がる感覚があったからだ。
「なんだよ、お前もか」
察したようにアルトゥスが言えば、わからないと答える。
「ずっと求めていたものがある気がして……」
「それがウィリディスか……」
この感覚は、一体なんなのだろうか。考えずにはいられなかった。間違いなく二人が原因だとわかっているから。
二人は、凍り付いたなにかが解けていくのを感じている。自分達の中にある穴が埋まるような、ずっと求めていたものが傍にあるような。
もたらしたのは、主のものとなることが決まっている天使達だ。
「用件はそれだけか」
聞きたかったことは、それだけだろうと含まれる声。他になにもないはずだと。
間違ってはいないだけに、それだけだと答えれば、アルトゥスに背を向けられてしまう。
「なら、ほっといてくれ」
もういいだろうと背中が言っている。自分の立場はわかっているし、壊すような真似もしないからと。
一度もリュツィフェールを見ることはなく、これ以上は感情を膨れ上がらせてはいけないと思いながらも、たった一枚の羽根を手放すこともできないのだ。
(この問題は、どうすることもできない)
二人は特別扱いされることを求めていないように見えたことから、普段は気にしないようにしていたが、それでも主のものだと理解している。
自分達のような忌み子とは違うのだ。主に愛されている天使達なのだから、一定の距離は保たなくてはいけない。
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