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前編
動き始める感情
しおりを挟む楽園で過ごすこと数日。過ごしてみてわかったことは、ここにはなにもないということ。
常に穏やかな楽園。天候も変わることがなく、外部から誰かがやってくることもない。娯楽になるようなものもない、退屈な場所である。
よくもこのような場所で過ごせたものだ、と思っていたリュツィフェール。けれど、二人は三人が来てから楽しくなったと言う。
話し相手ができたことも大きいのだろうか。二人ともずっとここにいることから、外というものを知らない。
楽しい話に聞こえるらしいと思えば、どこかホッとしている自分がいた。自分達は違いがあれ、迫害を受けて育っている。楽しい話などないと思っていたのだ。
(まぁ、迫害に関してはすべて誤魔化しているし。アルトゥスですら、さすがに聞かせられないと思っているようだった)
自分のことを何事もないように話すアルトゥスが、問いかけに対して誤魔化している。聞かせられないと思っているのだろう。
楽園という場所で過ごす二人は、無垢すぎるのだ。同年代と比べれば、無邪気過ぎるとすら思っていた。
もちろん、だから子供だとは思っていない。二人があのような態度を見せるのには意味があると思っているのだ。
すっかり食事担当になってしまったリュツィフェールは、昼食を作ろうと動き出す。食材は決まった日に、決まったところから届けられることになっており、三人の護衛が滞在するとわかってから届く量も増えている。
ありがたいことだが、保管などに困ることからもう少し減らしてくれてもと手に取り見た。
「ねぇ、リュフェ……」
今いいかな、と深刻そうな表情を浮かべてやってきたラピエール。
なにを言いたいのかは、数日見ていてわかっているつもりだ。いままで突っ込んでこなかったことを考えれば、遅いぐらいだろう。
「アルは、なんでウィリディスに冷たいんだろう」
初日はそうではなかったが、翌日以降からアルトゥスが冷たくしている。わざとなのか、あからさまに見せているのだ。
ラピエールには優しく接しているが、ウィリディスには近づくなというような態度。
さすがに酷いとリュツィフェールは思っている。なぜここまでと思っているが、問いかけたことはない。
口を出すべきなのか迷っていたのだが、ラピエールが問いかけてきたことで口実ができた。一度話を聞こうかと思う。
他にもなにか言いたいのか、チラチラと見てくるラピエールを待ちながらも、昼食を作り続ける。
こういったとき、ストゥルティならば問いかけることができるのだろうが、正直なところコミュニケーションは苦手だ。
普段からアルトゥスとストゥルティを眺めていたのは、会話が苦手だから。育ちの問題でもあるので、そういった部分でも二人は理解していてほっといているのだ。
「ウィリディスね……アルが好きなんだよ。ここに来る前からずっと……」
「ここに来る前から?」
思わぬ言葉に、手を止めてラピエールを見る。まさか、二人が同じ出身地だったとは思わない。このような偶然があるとは、と驚く。
アルトゥスがなにも反応を見せないということは、ウィリディスが一方的に知っていたということ。
(あの翼だからな。飛んでいたところを見ていた可能性があるか……)
リュツィフェールは自分の翼を嫌うことから、普段から飛ぶことはない。ストゥルティも同様で、唯一翼を隠さずに飛ぶのがアルトゥスだった。
本人の言い分は、空を飛んでいるときはなにも考えなくていいから、というもの。
「ウィリディスが見てられないよ」
自分達の立場はわかっているから、なんとかできないかと訴えられれば、やってみると頷いた。
二人はしっかりと理解している。この楽園がどのような場所で、最終的にどのような道を歩んでいくのかということを。
恋をしても、なにかを望んでも、叶わないのだということをわかっているのだ。
(それは、それでどうなのだろうか。俺達もそういった意味では同じだったが……)
迫害されていた自分達は、どれだけ好意を寄せても嫌われるだけ。望んでも手には入らない。だから望まなくなってしまった。
三人でいれば、最悪は逃れられるだろう。もしも一人だったら、自分達は各々でダメになっていったことだけはわかっているつもりだ。
「せっかく会えたのに、ウィリディスはずっと辛そう……」
ただでさえ、男になっていたということにショックを受けていたのに、とは内心に留めておく。三人には、三人の事情があるのだ。
男にならなくてはいけないような環境だった可能性もある。環境や親の考えが作用することもあるのだ。
ウィリディスが、本来は男になるよう育てられていたように、三人も同じかもしれない。護衛に選ばれたほどの強さを持つのだから、だからこそ男にということだったかもしれないと思えた。
聞いてもいいのだろうか、と見上げて見る。彼らのことをどこまで聞いていいのか、さすがに迷っていた。
「どうした?」
「……ううん。なんでもない」
視線が合った瞬間、ダメだと思い直す。彼らのことを聞くには、もう少し距離を縮めてからだと思えたのだ。
優しく笑いかけてくれるのだが、その目は決して笑ってはいない。作り笑顔なのだと、世間知らずのラピエールでもわかってしまった。
「なにか手伝おうか?」
暇なんだと言われれば、少し驚いた後にフッと力の抜けた笑みを浮かべる。作りものではない、リュツィフェールの素であった笑みに、ラピエールはドキリとした。
(なんで……リュフェを見てると、懐かしい感じがするんだろ)
一度も会ったことなどないのに、どこかで知っているような気持になる。ずっと楽園にいた自分に、知り合いなどいないと言い聞かせるが、どうしてもその気持ちは拭えないのだ。
「それじゃ、これを運んでもらえるか」
「うん、任せて」
彼といたら、この気持ちの原因はわかるのだろうか。そのようなことを考えながら、頼まれた食器を運ぶ。
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