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前編
アルトゥスの気持ち3
しおりを挟む触れた身体が熱を持っているのに気付けば、様子がおかしかったのは体調も関係していたのかもしれない。
確認するように額を重ねる。
「熱い…熱あるじゃん。なにやって…んっ」
寝ていろよ、と言おうとしたウィリディスは、突然唇を塞がれた。なにが起きたのかと思考が停止する。
彼は自分を嫌っているから遠ざけていたのではないか。
「アルトゥス…」
解放され見上げると、それがまたいけなかったのだろう。しっかりと頭を押さえ、貪るようなキスをされて思考がついていかない。
アルトゥスはどうしてしまったのか。
「…やっち、まった……」
小さく呟かれた言葉に、自分を遠ざけようとした理由がこれだったのかと驚く。
(そうだ……俺達は……俺は楽園の、主のための天使という立場で、アルトゥスは警護の天使……)
普通に話してくれることで、互いの立場を忘れてしまった。どうしようもないほどの壁が、自分達の間にはあったのだ。
なぜ忘れてしまったのか。一番忘れてはいけないことだったと反省する。
「ウィリディス、一人にしてごめ……て、アル? え、どうなってるの」
部屋に入ってきたウィリデスは、倒れこむアルトゥスと、支えようとしているウィリディスに驚く。
彼がここにいることにも驚いているが、その状態だ。
「ラピ! リュフェ呼んで!」
さすがに体格の違いもあって支えきれないと言われてしまえば、慌てたように飛び出していく。身体が弱っていることも原因だが、成人前の自分達と、成人して性別が固定されているアルトゥスでは色々と違いはある。
「リュフェ!」
急いで向かえば、どうしたと心配するように見てきた。
「アルが……えっと、ラピの部屋にいるんだけど」
どう説明したらいいのかわからなくなり、どうしようと見上げたまま固まってしまう。
そういえば、詳細は知らなかったと気付いたのだ。なぜああなっているのかも、アルが動けなくなっていることも。
「あのバカ……」
しかし、リュツィフェールにはなんとなく通じたようだ。呆れたようにため息をつけば、部屋へと向かう。
すぐさまアルトゥスの身体を引き剥がすと、そのまま荷物を持つように担ぎ上げて部屋を出ていくリュツィフェール。
どうしようと悩んだラピエールは、ウィリディスをベッドへ寝かせてから、急いで追いかける。
さすがに、この状態がどうしてなのか気になったのもあったが、なぜウィリディスへ冷たくするのかがわかるかもしれないと思えたのだ。
「まったく、毎晩水浴びなんてしているからいけないんだぞ。お前はどこまでバカなんだ」
護衛という仕事があるのに、動けなくなってどうすると説教している姿に、ラピエールも自分達の立場を思いだす。
対等の立場ではないのだ。彼らはあくまでも護衛という立場。本来なら、このように過ごしていていいわけがない。
そんなことを考えていたら、視界に一枚の羽根が映る。
「アル…これ……」
緑のような色味を持つ翼など、一人しか知らない。ウィリディスのだ。
「このバカは、それをずっと眺めてるんだ」
「これを…ずっと……」
どうして、とは言えなかった。自分達の立場を再確認した今、アルトゥスはだから冷たくしたのだと理解してしまったのだ。
サイドテーブルに置かれている羽根に手を伸ばす。どれほど大事にされているのか、持っただけで十分にわかる。
それはつまり、そのままウィリディスへの気持ちだ。アルトゥスは嫌っているのではなく、惹かれてしまったから距離を置いている。
(ルティの言う通りだった……アルには事情があった……)
一方的に腹を立ててしまった自分に、申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
彼らからしたら、自分達にそのような感情を持ってしまえば、主である神への反逆と取られてもなにも言えない。
どうすることもできない壁が、自分達にはある。突きつけられた現実に俯いた瞬間、手にしていた羽根を奪われてハッとした。
「アルトゥス!」
さすがに強引にやるなとリュツィフェールが視線を向け、その表情に絶句する。
「お前…本気なんだな……」
誰にも渡さない、と力強い視線が言っていた。羽根のことだと思いたいが、そうではない。彼はウィリディスを誰にも渡したくない、と思っているのだ。
「笑いたきゃ、笑えよ……」
自分がこのような感情を持つなど、笑い話だろうと呟くと同時に身体が崩れ落ちた。
「この俺が…無様だろ……。すべてを呪って生きてきた…愛なんていらねぇ…愛することも、愛されることも必要ねぇって思ってきた俺が……化け物にすらなり損ねやがった……」
自嘲気味に笑うアルトゥスを見て、言葉を失うのはラピエールだ。
ストゥルティは言った。三人は同じだと。つまり、リュツィフェールも同じなのだろうかと、思わず視線を向ける。
「よかったじゃねぇか。普通の感情も持ってたんだ。俺達は、化け物じゃねぇってことだろ」
それでいいだろ、とリュツィフェールが言えば、アルトゥスの視線が向けられた。本気で言っているのか、と問いかけるように。
「普通の感情を持っていようが……俺らは化け物…」
「そんなことない! 僕とウィリディスは、化け物だなんて思ってない!」
だから、そんなこと言わないでとラピエールが言えば二人とも驚いたように見る。
「翼の数とか、色とか、そんなので化け物って言われたの? 僕達はそれぐらいじゃ化け物だなんて思わないんだから!」
一緒にするなと言われた瞬間、リュツィフェールは自分の中でなにかが動くのを感じた。間違いなく、止まっていた歯車が動いた瞬間だ。
(俺も、アルトゥスのことをとやかく言えないな)
自分達は、どこまでも同じらしいと気付かされると、もう休ませた方がいいと部屋を出た。自分が動けば、ラピエールも動くだろうと思いながら。
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