堕天使の愛

朱璃 翼

文字の大きさ
16 / 69
前編

アルトゥスの気持ち3

しおりを挟む

 触れた身体が熱を持っているのに気付けば、様子がおかしかったのは体調も関係していたのかもしれない。

 確認するように額を重ねる。

「熱い…熱あるじゃん。なにやって…んっ」

 寝ていろよ、と言おうとしたウィリディスは、突然唇を塞がれた。なにが起きたのかと思考が停止する。

 彼は自分を嫌っているから遠ざけていたのではないか。

「アルトゥス…」

 解放され見上げると、それがまたいけなかったのだろう。しっかりと頭を押さえ、貪るようなキスをされて思考がついていかない。

 アルトゥスはどうしてしまったのか。

「…やっち、まった……」

 小さく呟かれた言葉に、自分を遠ざけようとした理由がこれだったのかと驚く。

(そうだ……俺達は……俺は楽園の、主のための天使という立場で、アルトゥスは警護の天使……)

 普通に話してくれることで、互いの立場を忘れてしまった。どうしようもないほどの壁が、自分達の間にはあったのだ。

 なぜ忘れてしまったのか。一番忘れてはいけないことだったと反省する。

「ウィリディス、一人にしてごめ……て、アル? え、どうなってるの」

 部屋に入ってきたウィリデスは、倒れこむアルトゥスと、支えようとしているウィリディスに驚く。

 彼がここにいることにも驚いているが、その状態だ。

「ラピ! リュフェ呼んで!」

 さすがに体格の違いもあって支えきれないと言われてしまえば、慌てたように飛び出していく。身体が弱っていることも原因だが、成人前の自分達と、成人して性別が固定されているアルトゥスでは色々と違いはある。

「リュフェ!」

 急いで向かえば、どうしたと心配するように見てきた。

「アルが……えっと、ラピの部屋にいるんだけど」

 どう説明したらいいのかわからなくなり、どうしようと見上げたまま固まってしまう。

 そういえば、詳細は知らなかったと気付いたのだ。なぜああなっているのかも、アルが動けなくなっていることも。

「あのバカ……」

 しかし、リュツィフェールにはなんとなく通じたようだ。呆れたようにため息をつけば、部屋へと向かう。


 すぐさまアルトゥスの身体を引き剥がすと、そのまま荷物を持つように担ぎ上げて部屋を出ていくリュツィフェール。

 どうしようと悩んだラピエールは、ウィリディスをベッドへ寝かせてから、急いで追いかける。

 さすがに、この状態がどうしてなのか気になったのもあったが、なぜウィリディスへ冷たくするのかがわかるかもしれないと思えたのだ。

「まったく、毎晩水浴びなんてしているからいけないんだぞ。お前はどこまでバカなんだ」

 護衛という仕事があるのに、動けなくなってどうすると説教している姿に、ラピエールも自分達の立場を思いだす。

 対等の立場ではないのだ。彼らはあくまでも護衛という立場。本来なら、このように過ごしていていいわけがない。

 そんなことを考えていたら、視界に一枚の羽根が映る。

「アル…これ……」

 緑のような色味を持つ翼など、一人しか知らない。ウィリディスのだ。

「このバカは、それをずっと眺めてるんだ」

「これを…ずっと……」

 どうして、とは言えなかった。自分達の立場を再確認した今、アルトゥスはだから冷たくしたのだと理解してしまったのだ。

 サイドテーブルに置かれている羽根に手を伸ばす。どれほど大事にされているのか、持っただけで十分にわかる。

 それはつまり、そのままウィリディスへの気持ちだ。アルトゥスは嫌っているのではなく、惹かれてしまったから距離を置いている。

(ルティの言う通りだった……アルには事情があった……)

 一方的に腹を立ててしまった自分に、申し訳ない気持ちでいっぱいだ。

 彼らからしたら、自分達にそのような感情を持ってしまえば、主である神への反逆と取られてもなにも言えない。

 どうすることもできない壁が、自分達にはある。突きつけられた現実に俯いた瞬間、手にしていた羽根を奪われてハッとした。

「アルトゥス!」

 さすがに強引にやるなとリュツィフェールが視線を向け、その表情に絶句する。

「お前…本気なんだな……」

 誰にも渡さない、と力強い視線が言っていた。羽根のことだと思いたいが、そうではない。彼はウィリディスを誰にも渡したくない、と思っているのだ。

「笑いたきゃ、笑えよ……」

 自分がこのような感情を持つなど、笑い話だろうと呟くと同時に身体が崩れ落ちた。

「この俺が…無様だろ……。すべてを呪って生きてきた…愛なんていらねぇ…愛することも、愛されることも必要ねぇって思ってきた俺が……化け物にすらなり損ねやがった……」

 自嘲気味に笑うアルトゥスを見て、言葉を失うのはラピエールだ。

 ストゥルティは言った。三人は同じだと。つまり、リュツィフェールも同じなのだろうかと、思わず視線を向ける。

「よかったじゃねぇか。普通の感情も持ってたんだ。俺達は、化け物じゃねぇってことだろ」

 それでいいだろ、とリュツィフェールが言えば、アルトゥスの視線が向けられた。本気で言っているのか、と問いかけるように。

「普通の感情を持っていようが……俺らは化け物…」

「そんなことない! 僕とウィリディスは、化け物だなんて思ってない!」

 だから、そんなこと言わないでとラピエールが言えば二人とも驚いたように見る。

「翼の数とか、色とか、そんなので化け物って言われたの? 僕達はそれぐらいじゃ化け物だなんて思わないんだから!」

 一緒にするなと言われた瞬間、リュツィフェールは自分の中でなにかが動くのを感じた。間違いなく、止まっていた歯車が動いた瞬間だ。

(俺も、アルトゥスのことをとやかく言えないな)

 自分達は、どこまでも同じらしいと気付かされると、もう休ませた方がいいと部屋を出た。自分が動けば、ラピエールも動くだろうと思いながら。




.
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

ブラック企業で倒れた私を、ネトゲ仲間の社長が強制保護して溺愛しています

紅 与一
恋愛
過労で倒れた私を救ったのは、 ネトゲ仲間――そしてIT企業の若き社長。 「もう君は、僕の管理下だよ」 退院と同時に退職手続きは完了。 住む場所も、生活も、すべて彼に囲われた。 外出制限、健康管理、過保護な独占欲。 甘くて危険な“保護生活”の中で、 私は少しずつ彼に心を奪われていく――。 元社畜OL×執着気味の溺愛社長 囲い込み同棲ラブストーリー。

遊び人の侯爵嫡男がお茶会で婚約者に言われた意外なひと言

夢見楽土
恋愛
侯爵嫡男のエドワードは、何かと悪ぶる遊び人。勢いで、今後も女遊びをする旨を婚約者に言ってしまいます。それに対する婚約者の反応は意外なもので…… 短く拙いお話ですが、少しでも楽しんでいただければ幸いです。 このお話は小説家になろう様にも掲載しています。

側妃契約は満了しました。

夢草 蝶
恋愛
 婚約者である王太子から、別の女性を正妃にするから、側妃となって自分達の仕事をしろ。  そのような申し出を受け入れてから、五年の時が経ちました。

世間知らずな山ごもり薬師は、××な騎士団長の性癖淫愛から逃げ出せない

二位関りをん
恋愛
平民薬師・クララは国境沿いの深い山奥で暮らしながら、魔法薬の研究に没頭している。招集が下れば山を下りて麓にある病院や娼館で診察補助をしたりしているが、世間知らずなのに変わりはない。 ある日、山の中で倒れている男性を発見。彼はなんと騎士団長・レイルドで女嫌いの噂を持つ人物だった。 当然女嫌いの噂なんて知らないクララは良心に従い彼を助け、治療を施す。 だが、レイルドには隠している秘密……性癖があった。 ――君の××××、触らせてもらえないだろうか?

【短編】淫紋を付けられたただのモブです~なぜか魔王に溺愛されて~

双真満月
恋愛
不憫なメイドと、彼女を溺愛する魔王の話(短編)。 なんちゃってファンタジー、タイトルに反してシリアスです。 ※小説家になろうでも掲載中。 ※一万文字ちょっとの短編、メイド視点と魔王視点両方あり。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

処理中です...