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前編
楽園へ入るルーメン
しおりを挟む未成年二人を連れながら、リュツィフェールはどうしたものかと考える。下働きとして入れることは可能だが、二人とも入れていいのだろうかと疑問に思っていたのだ。
楽園は現状人手不足。下働きを入れることも、人数も問題はない。
なのに、なぜか二人とも入れたいと思えなかったのだ。引っかかるなにかがあった。
「リューちゃん、なにしてるの? こんなところで」
「アルビオン…」
思わぬ人物との再会に、それはこちらが聞きたいことだと視線を向ける。
アルビオンは同じ集落にいた天使だ。誰もが忌み子、化け物とリュツィフェールを見る中、唯一普通に接してきた変わり者。
気が付いたら傍にいて、気が付いたらいなくなっていた存在だ。
「ん? なになに? リューちゃんの彼女?」
「ちげぇよ。つうか、その呼び方なんとかならないのか」
昔から、名前が長いとかで勝手に略してリューちゃんと呼ぶ。子供の頃は仕方ないとして、今は成人した大人だ。
いい加減にしてくれと鋭い視線を向ける。
「アハハ。いいじゃん。俺とリューちゃんの仲だよ」
どんな仲だよ、と突っ込みたくなる気持ちを抑えると、リュツィフェールはため息をつく。
今は呼び名などではなく、彼がここでなにをしているかが問題だ。
「俺? なにー、リューちゃん俺に気があったのかぁ」
「……アルビオン、ミンチにしてやろうか」
ポキポキと指を鳴らす姿に、さすがにやばいと慌てるアルビオン。実力的な部分では、リュツィフェールの方が上だと理解しているのだ。
本気で攻撃されてしまったら、受け止めることはできない。
「悪かった。俺は今、この宮殿の食材管理をしてるんだ。当然、楽園への食糧仕入れとかも俺がやってるんだ。すごいだろ」
どうだ、と胸を張るアルビオンを見て、これだとリュツィフェールは笑う。問題はないかもしれないが、一応一人は外へ置きたいと思っていたことから、ちょうどいい場所があったと知れた。
「お前に頼みがある、一人引き受けてくれないか」
「んー? まぁ、いいかな。リューちゃんの頼みだからね」
特別だよ、と笑いながら言うから、嫌なのに貸しを作ったかもしれない、と視線を逸らす。
それでも、最終的には彼に感謝することになる。それほどに、アルビオンはリュツィフェールのために動いてくれたのだ。
話がついたあとは、二人と話す番だ。ここで誤魔化すことはできないと思えたのは、ルーメンが未成年とは思えないほど勘がいいと思えたから。
「アルビオンと話を付けた。悪いが、どちらか一人だけ楽園の外で働いてほしい。両方入れることは俺の権限で可能だが……」
「なにか感じてるのか?」
ルーメンが、だから一人だけ外に置きたいのか、と問いかければ、やはり勘がいいなと思う。普通ではない辺り、なにかしらあるのかもしれない。
「杞憂であればいいんだがな。なにかあったとき、外に協力者がいる方がいいだろ」
場所が場所なだけに、外と中に仲間がいる方がいいと言われれば、そうかもしれないと思うのはアルノームも同じ。
この楽園は、なにかあるのではないか、と思う原因は周囲の反応だ。名誉なことだと言われるが、そうは見えないと思っているのだ。
「僕達は、ここから見ていたから。だから、楽園は本当はいい場所じゃないのかもって思ってる。うん、僕が外にいるよ。ルーメンは幼馴染みが気になるだろうからね」
笑いながら言うアルノームに、なるほどとリュツィフェールは思う。彼らなりに、なにかを感じているのだと。
今まで、自分達は周囲に興味がなかった。だからこそ、楽園という場所があることは知っていたが、主のためにあるという情報だけしか把握していない。
違和感を覚えるほどの情報はなく、中にいる今も他に誰もいないことから感じ取ることはなかった。
しかし、外から見ているとなにかを感じるのかもしれないと新しい発見だ。
アルビオンがアルノームを連れていくのを見送ると、確認がしたいとリュツィフェールが一言。翼を見せろという意味だと知り、ルーメンが迷うことなく広げる。
驚くほど透き通った水色の翼。それも三枚羽根なのを見て、まさかと思う。
(ストゥルティと同じかもしれない……)
いや、同じだと言い切れた。自分達といることで自覚がないのだが、ストゥルティの能力は異色だ。勘の良さもルーメンと同じだと思える。
(だが、本人に自覚がない。ここまで、なにも知らずに育ったのか……)
だとしたら、なにかをきっかけに知ったとき、壊れる可能性があると思う。同じであるストゥルティに声をかけた方がいいかもしれない。
行こうと再び歩き出せば、その後は無言。彼はコミュニケーションが苦手ということもあって、なにを話せばいいのかわからないだけ。
特に、未成年の子供などわからないと思っていた。ラピエールは自分から話しかけてくることから、問題なく話せているだけなのだと痛感する。
「楽園の警護を担当しているリュツィフェールです。下働きを一人入れたいのですが」
申請をかけるために向かった先で、やる気のなさそうな天使がルーメンを見るのを見て、これでいいのかとため息をつきそうになった。
いや、だからかと思い直す。二人がなにかを感じ取っているのは、こういった天使達の態度が原因だろう。
「ふむ……確かに人手不足だろう。構わないぞ」
もう少し疑ってくれ、と言いたくなるほどあっさりと入れられた。
もちろん、ここを突破するのに翼を出させていたのもあるかもしれないのだが、護衛という立場であるリュツィフェールは複雑な気分になる。
(助かったのだから、いいことにしよう)
今は助けられたと、ルーメンへ視線を向けた。さすがに未成年を入れることに関して、深く突っ込まれたらなにも言えない。
「行くぞ」
「おう」
正面から入ることは想像していなかったが、これで堂々と楽園にいられると、ルーメンは嬉しそうに笑った。
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