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前編
楽園へ入るルーメン2
しおりを挟む目を覚ましたウィリディスは、自分がアルトゥスに抱き締められていることに気付いて驚く。同時に、夢ではないのだと嬉しくなる。
彼が、きっとここから連れ出してくれるだろう。自分は信じて待つだけでいいのだ。
(ずっと男になると思ってたから、少し複雑だった。けど、もうどっちでもいい。俺は、アルトゥスが好きだから、それだけでいいんだ)
彼が先に成人して男として目の前にいるのだから、自分は女になればいいだけのこと。主のために女となるのは嫌だが、アルトゥスのためなら嫌ではない。
これがすべてだと思えば、熱はどうなったのだろうかと額を重ねた。
「んっ!」
だいぶ引いたようだと離れた瞬間、唇を塞がれて驚く。
「不用心に顔なんて近づけるからいけねぇんだよ」
笑いながら言ってくるアルトゥスに、顔が真っ赤になる。ここまで積極的になるとは思わなかったのだろう。
「俺は、もう遠慮とかしねぇからな」
主から奪うと決めたのだから、遠慮しないと真っ直ぐに見てくるアルトゥスに、ぎゅっとしがみつくウィリディス。
ここに入れられたときは、この先に絶望しかないと思っていた。けれど、彼と出会えて救い出してもらえるなら、悪くないと思える。
痺れるような長いキスをすると、柔らかい笑みを浮かべてアルトゥスが見ていた。
「俺にこんな感情があったなんてな。本当に、なにがあるかわかったもんじゃねぇや」
恨むことはあっても、情などというものはないと思っていたのだが、そうではなかったらしいと笑う。リュツィフェールに言われた通り、確かに化け物ではなかったのかもしれない。
「ほら、起きるぞ。あまり遅くまで寝てたらリュツィフェールになに言われるかわからねぇ。あいつ、怖いからな」
「お、おう…」
確かに、怒らせたら怖そうだと思えば、ウィリディスは起き上がる。ラピエールも心配しているだろうし、と。
「これ……」
起き上がった先に、見覚えのある羽根が置いてあった。自分の羽根だとわかれば、どうしてと見上げる。
「拾った。……どうしても、手放せなかったんだ」
笑えるだろ、と言うから、気持ちは理解できる気がして首を振った。自分も、楽園に入る前に拾った赤い羽根を大切に持っていた時期があったから。
楽園に入る際、奪われてしまったことから、今は手元にないのだが、代わりにアルトゥスがいるからもういらない。
すぐさま着替えて広間に行けば、思わぬ人物がいてウィリディスは驚く。
「ルーメン?」
なぜここにいるのか、と視線を向ければ、凄まじい勢いで駆け寄ってくる。
「ウィリディス! 会いたかったぜー!」
ぎゅっと抱き着いたルーメンが、頬擦りまでするからアルトゥスが苛つく。ムッとした表情を浮かべるのに気付き、慌てたように引き離す。
なにかあれば、今のアルトゥスは容赦なく攻撃しそうだと思えたのだ。
「アルトゥス、俺の幼馴染みだ。ルーメン、よく集落で見てた赤い翼の天使で、楽園の警護をしてるんだ」
衝突する前に紹介しようと動けば、ぐいっと引き寄せられて慌てる。ここにはラピエール達もいるのだと言いたかったが、見上げた先で不機嫌そうにしているのを見たらなにも言えない。
「お前……未成年の子供相手に大人げないぞ」
呆れたようにリュツィフェールが言えば、ニコニコと笑っているラピエール。
ここまでウィリディスを大切に想っているのを見れば、嬉しくてたまらない。完全に嫉妬とわかるから、尚更だ。
笑っていないで、なにがあってこうなっているのか説明しろとウィリディスが見れば、ラピエールは笑っているだけでなにも言わない。
「ラピ!」
「いいじゃん。だって、嬉しいんだもん。ウィリディスの初恋叶ったんでしょ」
この状態で誤魔化すことができないウィリディスは、挙動不審に視線を泳がす。しっかりと身体を抱え込まれていることから、逃れることもできない。
「えっ、できてんの? いつから!」
驚いているのはルーメンで、凄まじい勢いで詰め寄るから、触れるなというようにアルトゥスが圧をかける。
彼が本気で動くとこうなってしまうのか、と驚くのはストゥルティだ。とんでもない独占欲の塊だと思っている。
「うぅ…俺のウィリディスだったのに」
取られたといじけるルーメンに、リュツィフェールとストゥルティがため息をつく。大人げないにもほどがある、と思っているのだ。
「アルトゥス、ルーメンは俺の幼馴染みだって。好きなのはアルトゥスだけだから……」
恥ずかしそうに小さく呟きながら見上げてくる姿に、理性が切れそうだと呻く。さすがに手を出すわけにはいかない。
これからは理性との戦いか、と思った辺りで静かに息を吐く。確かに大人げないと思ってしまったのだ。
「ラピエールに頼まれて、二人の遊び相手だったルーメンを中に入れた。もう一人いたが、そちらは現状外だ。少し、気になることがあってな」
真剣な表情で見てくるから、わかったと頷くのはアルトゥス。彼が言うなら、そうなのだろうという絶対の信頼がある。
同時に、この楽園は秘密があると察した。ウィリディスを奪うと決めた彼からしたら、その秘密は重要だ。
「まぁ、俺の杞憂ならいいんだが……念のためだ」
今まで警戒しすぎるほど警戒して生きてきた三人だからこそ、この行動は当然だと思う。
「俺らにとっちゃ、当然の警戒ということで、今日も鬼ごっこするかー!」
やることもないし、とストゥルティが言えば、仕方ないとため息をつくアルトゥス。無言で外へ出ていくリュツィフェール。
「鬼ごっこ?」
一人だけ理解できないルーメンが首を傾げれば、行くぞと引っ張り出すウィリディス。当然だが、ここにいるのだからルーメンも参加だ。
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