堕天使の愛

朱璃 翼

文字の大きさ
34 / 69
前編

堕天宣告3

しおりを挟む

 気が安定しないウィリディス。それでも、一時に比べれば落ち着いていて、最悪は脱したと聞いてホッとしているのはラピエールだ。

「ん…っ……」

 少し辛そうに寝ている姿を見ながら、早く元気になれと祈りながら手を握り締める。

 リュツィフェールがアルトゥス達と話をしたいから、代わりに看ていてくれと言われ、疑問に思うことなく引き受けた。きっと警備の話だと思っているのだ。

 悪魔などが入ってきたのだから、警備を受け持っている三人にとっては大変なことだしと。

「ウィリディス…」

 どうしてここまで酷いのか、と問いかけてみたところ、元々気が乱しやすい体質なのかもしれない、と言われてしまった。

 リュツィフェールとアルトゥスは、どちらも同じ対応をしている。それで回復にここまで差が出ているということは、そういうことではないだろうかという予測だ。

 もしくは、回復力に違いがあるということだと言われ、そうかもしれないと思っている。個人差があると言われてしまえば、その通りなのだ。

 今まで気にしたことがなかったのだが、ウィリディスとラピエールなら、ウィリディスの方が力という意味でも弱い。

 それがここに出ているのかもしれないと思えた。

 祈ることしかできないことがもどかしかった。力を使うことができれば、自分もウィリディスを助けることができたかもと考えるのも、何度目かわからない。

「ラ…ピ……」

「ん? なに?」

 アルトゥスならまだ戻らないよ、と声をかければ、なにかを訴えるような視線を向けてくる。

「来る…ま…た…悪魔……」

「大丈夫だよ。リュフェが結界張ってるから」

 そんなに何度も悪魔が来るわけがない。ここは主の住まいなのだから。普通に考えれば、あり得ないことなのだ。

 以前襲われていた天使も、悪魔に襲われたのだろうと説明はされた。しかし、それもかなり前の話だ。ウィリディスが来る前のことなのだから。

 以降はこないだの件があるまで見てはいない。ルーメンやアルノームが入り込めたように、たまにそういった穴に気付く悪魔がいる、という認識でしかなかったのだ。

(けど……リュフェの様子は変かもしれない)

 この数日、自分の元から絶対に離れない。アルトゥスにも結界を張って過ごすように言っていたり、ストゥルティが忙しそうに動き回っていたり。

 なにかが起きているのかも、とは感じていた。

 なにかあるかもと思っていたとして、それを今のウィリディスに言うわけにはいけないと思っていた。不安にさせたら、また気を乱してしまうかもしれないから。

「早く元気になって、またみんなで遊ぼうよ。ほら、アルノームとアルビオンも誘ってさ」

 リュツィフェールの知り合いなら、一緒に遊んでくれるかもしれないよ、と笑いながら言う。心配することなどなにもないというように。

「そう…だな……」

 微かに笑ったウィリディスに、元気になるために寝てろと頭を撫でる。

「ガキ…扱い……」

「僕の方が年上だもん」

 一個だけね、と笑いながら言えば、ドアが開く音に振り返った。話し合いが終わったのかもしれないと。

「ラピっ…あれ…悪魔だっ…」

 仲間が来たと出迎えようとしたラピエールを引き留めれば、そのまま苦しそうに崩れ落ちた。

「ウィリディス!」

 慌てたように受け止めるのと、目の前に現れた不気味な男がニヤリと笑うのが同時。本当に悪魔がやってきたのだと知り、ラピエールが恐怖で後ずさる。

 なぜ、悪魔が堂々と入ってこられるのかと思えば、腕の中でウィリディスが苦しそうにしがみつく。気が乱れているのだ。

 しがみつく身体は小刻みに震え、怖いと思っているのは自分だけではないと気付く。今度は自分が護るのだと強く抱きしめ、目の前の悪魔を睨みつける。

 ニヤついた悪魔が一歩踏み込んだ瞬間、結界が弾き返す。

「ちっ、随分と強力な結界だな。話しが違う」

「えっ…」

 なにを言っているのかと見れば、凄まじい勢いでアルトゥスが駆け込んできた。察して助けに来てくれたのだ。

 不利になったと気付くなり、すぐさま部屋を出ていく悪魔を尻目に、ラピエールからひったくるようにウィリディスを奪う。

「ラピエール! 大丈夫か?」

「リュフェ…」

 同じように駆け込んできたリュツィフェールに抱き締められれば、その温もりにホッとして涙が零れる。

 どれだけ護らなきゃと思っていても、悪魔に襲われた恐怖は消えることがない。

「こ、怖かったよ…」

 しっかりと抱き締めてくれる腕の中で泣きじゃくれば、労わるようにリュツィフェールが頭を撫でる。

「ストゥルティ!」

 あの悪魔を逃すなというように呼びかければ、わかっていると部屋から出ていく。そのあとをなぜかルーメンまでついていったのは気になるが、今は構っている場合ではない。

「リュツィフェール…」

 ウィリディスを落ち着かせたアルトゥスが、視線だけで話しかけてくる。早くここから出られるようにした方がいい、と。

 わかっていると視線で返しながら、震えながら泣きじゃくるラピエールが落ち着くのを待つ。

「……ウィリディスは?」

 泣くだけ泣けば、今度はウィリディスが気になって顔を上げるラピエール。

「もう大丈夫だ。悪かったな。ちょっと強引にやったから」

 怪我しなかったかと問われ、大丈夫だとラピエールは頷く。それだけ、アルトゥスがウィリディスを大切に想っている証だから、気にしない。

 よかったと呟くアルトゥス。基本がウィリディスで動くが、ラピエールも少なからず特別になりつつある。

 リュツィフェールが大切にしているから、というのもあるが、自分を化け物としてみないということが大きいのだ。

「とりあえず、ゆっくり休ませるためにも俺達は出よう」

「うん…」

 アルトゥスがいれば問題ないからと言われれば、ラピエールは気になりつつも部屋を出た。




.
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

ブラック企業で倒れた私を、ネトゲ仲間の社長が強制保護して溺愛しています

紅 与一
恋愛
過労で倒れた私を救ったのは、 ネトゲ仲間――そしてIT企業の若き社長。 「もう君は、僕の管理下だよ」 退院と同時に退職手続きは完了。 住む場所も、生活も、すべて彼に囲われた。 外出制限、健康管理、過保護な独占欲。 甘くて危険な“保護生活”の中で、 私は少しずつ彼に心を奪われていく――。 元社畜OL×執着気味の溺愛社長 囲い込み同棲ラブストーリー。

遊び人の侯爵嫡男がお茶会で婚約者に言われた意外なひと言

夢見楽土
恋愛
侯爵嫡男のエドワードは、何かと悪ぶる遊び人。勢いで、今後も女遊びをする旨を婚約者に言ってしまいます。それに対する婚約者の反応は意外なもので…… 短く拙いお話ですが、少しでも楽しんでいただければ幸いです。 このお話は小説家になろう様にも掲載しています。

側妃契約は満了しました。

夢草 蝶
恋愛
 婚約者である王太子から、別の女性を正妃にするから、側妃となって自分達の仕事をしろ。  そのような申し出を受け入れてから、五年の時が経ちました。

世間知らずな山ごもり薬師は、××な騎士団長の性癖淫愛から逃げ出せない

二位関りをん
恋愛
平民薬師・クララは国境沿いの深い山奥で暮らしながら、魔法薬の研究に没頭している。招集が下れば山を下りて麓にある病院や娼館で診察補助をしたりしているが、世間知らずなのに変わりはない。 ある日、山の中で倒れている男性を発見。彼はなんと騎士団長・レイルドで女嫌いの噂を持つ人物だった。 当然女嫌いの噂なんて知らないクララは良心に従い彼を助け、治療を施す。 だが、レイルドには隠している秘密……性癖があった。 ――君の××××、触らせてもらえないだろうか?

【短編】淫紋を付けられたただのモブです~なぜか魔王に溺愛されて~

双真満月
恋愛
不憫なメイドと、彼女を溺愛する魔王の話(短編)。 なんちゃってファンタジー、タイトルに反してシリアスです。 ※小説家になろうでも掲載中。 ※一万文字ちょっとの短編、メイド視点と魔王視点両方あり。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

処理中です...