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前編
堕天宣告3
しおりを挟む気が安定しないウィリディス。それでも、一時に比べれば落ち着いていて、最悪は脱したと聞いてホッとしているのはラピエールだ。
「ん…っ……」
少し辛そうに寝ている姿を見ながら、早く元気になれと祈りながら手を握り締める。
リュツィフェールがアルトゥス達と話をしたいから、代わりに看ていてくれと言われ、疑問に思うことなく引き受けた。きっと警備の話だと思っているのだ。
悪魔などが入ってきたのだから、警備を受け持っている三人にとっては大変なことだしと。
「ウィリディス…」
どうしてここまで酷いのか、と問いかけてみたところ、元々気が乱しやすい体質なのかもしれない、と言われてしまった。
リュツィフェールとアルトゥスは、どちらも同じ対応をしている。それで回復にここまで差が出ているということは、そういうことではないだろうかという予測だ。
もしくは、回復力に違いがあるということだと言われ、そうかもしれないと思っている。個人差があると言われてしまえば、その通りなのだ。
今まで気にしたことがなかったのだが、ウィリディスとラピエールなら、ウィリディスの方が力という意味でも弱い。
それがここに出ているのかもしれないと思えた。
祈ることしかできないことがもどかしかった。力を使うことができれば、自分もウィリディスを助けることができたかもと考えるのも、何度目かわからない。
「ラ…ピ……」
「ん? なに?」
アルトゥスならまだ戻らないよ、と声をかければ、なにかを訴えるような視線を向けてくる。
「来る…ま…た…悪魔……」
「大丈夫だよ。リュフェが結界張ってるから」
そんなに何度も悪魔が来るわけがない。ここは主の住まいなのだから。普通に考えれば、あり得ないことなのだ。
以前襲われていた天使も、悪魔に襲われたのだろうと説明はされた。しかし、それもかなり前の話だ。ウィリディスが来る前のことなのだから。
以降はこないだの件があるまで見てはいない。ルーメンやアルノームが入り込めたように、たまにそういった穴に気付く悪魔がいる、という認識でしかなかったのだ。
(けど……リュフェの様子は変かもしれない)
この数日、自分の元から絶対に離れない。アルトゥスにも結界を張って過ごすように言っていたり、ストゥルティが忙しそうに動き回っていたり。
なにかが起きているのかも、とは感じていた。
なにかあるかもと思っていたとして、それを今のウィリディスに言うわけにはいけないと思っていた。不安にさせたら、また気を乱してしまうかもしれないから。
「早く元気になって、またみんなで遊ぼうよ。ほら、アルノームとアルビオンも誘ってさ」
リュツィフェールの知り合いなら、一緒に遊んでくれるかもしれないよ、と笑いながら言う。心配することなどなにもないというように。
「そう…だな……」
微かに笑ったウィリディスに、元気になるために寝てろと頭を撫でる。
「ガキ…扱い……」
「僕の方が年上だもん」
一個だけね、と笑いながら言えば、ドアが開く音に振り返った。話し合いが終わったのかもしれないと。
「ラピっ…あれ…悪魔だっ…」
仲間が来たと出迎えようとしたラピエールを引き留めれば、そのまま苦しそうに崩れ落ちた。
「ウィリディス!」
慌てたように受け止めるのと、目の前に現れた不気味な男がニヤリと笑うのが同時。本当に悪魔がやってきたのだと知り、ラピエールが恐怖で後ずさる。
なぜ、悪魔が堂々と入ってこられるのかと思えば、腕の中でウィリディスが苦しそうにしがみつく。気が乱れているのだ。
しがみつく身体は小刻みに震え、怖いと思っているのは自分だけではないと気付く。今度は自分が護るのだと強く抱きしめ、目の前の悪魔を睨みつける。
ニヤついた悪魔が一歩踏み込んだ瞬間、結界が弾き返す。
「ちっ、随分と強力な結界だな。話しが違う」
「えっ…」
なにを言っているのかと見れば、凄まじい勢いでアルトゥスが駆け込んできた。察して助けに来てくれたのだ。
不利になったと気付くなり、すぐさま部屋を出ていく悪魔を尻目に、ラピエールからひったくるようにウィリディスを奪う。
「ラピエール! 大丈夫か?」
「リュフェ…」
同じように駆け込んできたリュツィフェールに抱き締められれば、その温もりにホッとして涙が零れる。
どれだけ護らなきゃと思っていても、悪魔に襲われた恐怖は消えることがない。
「こ、怖かったよ…」
しっかりと抱き締めてくれる腕の中で泣きじゃくれば、労わるようにリュツィフェールが頭を撫でる。
「ストゥルティ!」
あの悪魔を逃すなというように呼びかければ、わかっていると部屋から出ていく。そのあとをなぜかルーメンまでついていったのは気になるが、今は構っている場合ではない。
「リュツィフェール…」
ウィリディスを落ち着かせたアルトゥスが、視線だけで話しかけてくる。早くここから出られるようにした方がいい、と。
わかっていると視線で返しながら、震えながら泣きじゃくるラピエールが落ち着くのを待つ。
「……ウィリディスは?」
泣くだけ泣けば、今度はウィリディスが気になって顔を上げるラピエール。
「もう大丈夫だ。悪かったな。ちょっと強引にやったから」
怪我しなかったかと問われ、大丈夫だとラピエールは頷く。それだけ、アルトゥスがウィリディスを大切に想っている証だから、気にしない。
よかったと呟くアルトゥス。基本がウィリディスで動くが、ラピエールも少なからず特別になりつつある。
リュツィフェールが大切にしているから、というのもあるが、自分を化け物としてみないということが大きいのだ。
「とりあえず、ゆっくり休ませるためにも俺達は出よう」
「うん…」
アルトゥスがいれば問題ないからと言われれば、ラピエールは気になりつつも部屋を出た。
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