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前編
ラピエールの願い
しおりを挟む当たり前のように部屋まで来てくれるリュツィフェールを見ながら、どこかホッとしている自分がいる。
彼が傍にいてくれれば、絶対に安全だと言い切れたのだ。なにがあっても護ってくれると。
「リュフェ…今日はこのまま、一緒にいてくれる?」
どこにもいかないかと不安げに見上げれば、リュツィフェールは優しい笑みを浮かべる。
「ちゃんと、ここにいる」
だから安心しろと言われ、じゃあと恥ずかしそうに見上げる姿に、どうしたのだろうかと首を傾げた。
「お風呂も…」
なるほど、と頷く。お風呂のことだから恥ずかしそうにしているのかと思い、ちゃんと傍にいるだろと言う。
事実、リュツィフェールは襲われたのが風呂場ということもあって、中に入ることはしていないが、傍にはずっといるのだ。
「一緒に入ってくれる?」
「えっ…」
さすがに想定外の言葉で、彼にしては珍しくも間抜けな表情を浮かべてしまう。
ラピエールは、今なんと言っただろうかと考えたほどで、これはどう答えるべきなのだろうかと悩み始める。
沈黙を否定と感じたのか、気落ちしたように俯く。
「お風呂…ダメかな……」
「あ…いや、そんなことは……」
そもそも、風呂にゆっくり入るという習慣がない。湯を浴びている瞬間すら、油断することはできないと思っていたからだ。
周囲はすべて敵と思って過ごしてきたリュツィフェールは、風呂や睡眠というものも最低限で済ませていたのだ。
「一緒に入ってくれるの?」
嫌じゃないなら、一緒に入ってくれるのかと期待の眼差しを向けられれば、ダメなど言えるわけがない。
それに、とラピエールを見る。ずっとウィリディスとお風呂に入っていたことから、寂しいのかもしれないと思えたのだ。
「わかった。風呂も付き合う」
「えへへ。嬉しいな」
本気で喜ぶ姿に、フッと笑うリュツィフェール。ラピエールが笑ってくれるだけで、十分だと思えたのだ。すべてを捨てることができるし、堕天使になることもできる。
だから、なにがあっても護るのだ。もしも失えば、そのときは凍り付いた自分に戻ってしまうだろう。
しばらくのんびりと過ごしていたが、やることがないとお風呂の準備を始めたラピエール。風呂掃除すら楽しいらしく、どことなく上機嫌な様子にホッとしている。
誰かといることで気分が紛れているのかもしれない。
(もしくは、ルティのお陰か。掃除だけでいいと思っていたが、少し雰囲気が変わっているから、なにか弄ったのかもしれない)
ありえると思えば、湯を溜めながら床を磨いていく。風呂場もそれなりに広いため、掃除している間に溜まるだろうと思ってのこと。
この広さも、少し前までなら主のためだからなと思っていたのだが、違うのだろうと思えば、不愉快に思えてしまうから困る。
悪魔が入っていいよう、ということなのだろう。
(風呂場の穴は最初に対処したが……)
だからといって油断はできない。ラピエールに自分がつき、ウィリディスにアルトゥスがついたとしても、ルーメンは一人で使っている。
最悪、ルーメンがということを視野に入れて対応していかなくてはいけないのだ。
(もっとも、二人と関わりがなかったらほっといただろうが)
特にウィリディスとの関係が強いから、護る対象になっただけのこと。そうでなければ、リュツィフェールが動くことはないと言い切れる。
そのままお風呂入ろうとラピエールが言えば、リュツィフェールはわかったと頷く。夕食はその後でもいいだろと思えたのだ。
「リュフェ、翼だして。僕が洗ってあげるから」
「え…」
洗う必要があるのか、と驚く姿を見て、当然だと言うから苦笑いを浮かべる。嫌っていることから、ほとんど表に出すことはない。
特に必要とか感じたことはなかったのだ。ラピエールが必要と求めるなら仕方ないかと広げる。
「やっぱり、まったく洗ってないんでしょ」
翼に触れながら、どこか責めるように見てくるからたじろぐリュツィフェール。翼が少し汚れているぐらい、構わないだろうと思っているのだ。
「せっかくきれいな翼なんだから、ちゃんと洗わないと」
やるぞ、と気合を入れて洗い出す姿を見て、思わず視線を逸らしてしまう。自分の翼を嫌うことはあっても、きれいだなんて思ったことは一度もないのだ。
当然だろう。この翼は忌み子の証なのだから。好きになることなどない、と言い切れた。受け入れられることすらないだろうと。
なにかを察したのか、ラピエールが気遣うようにリュツィフェールを見た。
「嫌いなの?」
この翼は、そんなに嫌いなのかと見てくる。どうしてと、本気で思っているようだ。
こういったところが、なにも知らない純粋無垢だと思わされる。知識がないから、翼がこうだってことも不気味に思わない。
知ったら、ラピエールも他の奴らと同じように思うのだろうか。そこまで考えて、アルトゥスと話していたときのことを思いだす。
(違う……ラピエールはそうじゃない)
あいつらとは違うと、そっと抱き寄せる。
「俺は、忌み子なんだよ。翼はその証だ」
だから好きじゃない、と言えば、驚いたようにラピエールは見た。
そういえば、とアルトゥスとの会話を思いだす。ストゥルティも自分達は同じだ、と言っていたなと思いだせば、三人ともが翼を嫌っているのかもと思う。
今までの護衛達は、仕事中はなにがあってもいいように翼を出した状態でいた。いつでも飛べるようにだ。
しかし、三人は基本的に隠している。見せたくないのではなく、本人達が見たくないのかもしれない。
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