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前編
魔とのハーフ2
しおりを挟む凄まじい勢いで斬りかかれば、悪魔から余裕が失われた。それほど、ストゥルティの能力は高いのだ。
本人が普通ではない天使と行動をしていることで、まったく自覚がないというだけのこと。普通に悪魔とやり合えるだけの実力を持つと、彼は気付いていないのだ。
このまま追い詰められると確信した瞬間、気を乱して落ちていくルーメンにストゥルティが慌てる。
翼が動かなくなり、飛べなくなってしまったのだ。迷ったのは一瞬で、すぐさま追いかけた。悪魔よりもルーメンを助けることを選んだのだ。
背後から勝ち誇ったように笑う悪魔の声に、この野郎と思ったことは言うまでもない。あれがばらさなければ、ルーメンがこのようなことになることもなかったのだ。
(やっぱ、どこかで追い返すべきだった。悪魔と接触すれば、ばらされなくても気付いたかもしれないんだ)
知らずにいられるなら、その方がよかっただろう。悪魔とのハーフなど、知ってしまったらどうなってしまうのか。
自分が体験しているだけに、誰よりも理解しているのだ。
地面に叩きつけられる前に受け止めた身体。そのまま場所を移動した方がいいと、ある程度動いてから状態を確認する。
「ルーメン! しっかりしろ!」
呼吸がうまく行えていないのは、完全に気を乱している特徴だ。未成年ならではのことで、治せばいいだけのこと。
しかし、身体が激しく痙攣を起こしている姿に、こちらはやばいと抱き締める。
未成年の天使は、己を完全に拒絶しているのだ。魔とのハーフということを受け止めきれず、否定して壊れようとしている。
(リュフェの言う通りだ。俺ならルーメンを理解できる。俺だから……)
この姿は、まるで昔の自分を見ているようだと表情が歪む。
(あのとき、俺にはリュフェがいた。だから今の俺があるんだ)
ルーメンには、自分がいると抱き締める手に力を込める。一人ではないと伝えるように。
「ルーメン、聞こえてるか? 俺もお前と同じだ。魔とのハーフなんだ」
三枚の翼は、混ざりものという意味。悪魔という血が混ざっている証だ。
「リュフェと出会うまで、友達なんていなかった。両親は見向きもしなくて、耐えられなくて……気を乱して……それでも誰も助けてくれなかった……」
助けてくれたのは、リュツィフェールだったと呟く。
物心がついた頃から、ストゥルティは両親に冷たくされていた。兄弟もいたのだが、同じように異物でも見るように見られていたのだ。
理由がわからないまま、四歳で翼は生えてしまう。三枚の翼に、なにも知らない子供はキョトンと見ているだけだったが、家族はより一層冷たくなっていく。
周囲もあれは混ざりものだと、遠ざける日々。決して大きな集落ではなかったのだが、家に引きこもっていたことからリュツィフェールと出会うこともなく。
「俺の母親は、地上へ行った際に襲われたらしい。たぶん、そういうことだと思う」
幼いながらに、父親がぶつぶつと呟く姿を見たことがあった。一人で行かせなければ、と後悔している父親を何度見たかわからない。
ときには兄が慰めていることもあった。もしかしたら、翼が生えたら違うかもしれないだろ、と。
微かな望みを三枚の翼が打ち砕いたのだ。あれは自分の子供ではない。悪魔に汚された結果の子供だと。
「主によって、親は子を見捨ててはいけない、という決まりが存在するせいで、家族は俺を育てなきゃいけなかった」
どれほど嫌だったのだろうな、小さく呟かれた言葉。相当嫌だったから、自分はあのように冷たい視線を向けられ続けていたのだろうと思っていた。
愛してほしい。頭を撫でてくれるだけでもいい。名前を呼ぶだけでもいいから、だからと思い続けていたある日、なにもやっていないのに怒られた。
お前がやったのだろ、と父親に怒鳴られ、ストゥルティはなにを言っているのか理解できなかったのだ。
「所詮、悪魔の血を引くハーフなんて、あいつらと同じなのだろ」
自分達と同じではない。悪魔の血が混ざっている時点で、悪魔と同じ存在なのだと向けられた視線は、今でも忘れないほど冷ややかなものだった。
それこそ、成人しても夢に見ることがあるほど、ストゥルティの中に刻まれてしまったものだ。
「あのとき、俺は微かに残っていた希望を失った。家族に愛されたいと願う気持ちを捨てた……」
同時に、これからも続く孤独に耐えきれなくなった。押し潰されたストゥルティは、気を乱してその場に蹲る。
視界の片隅にいる家族は、このまま死んでくれと言っているようで、自分はここで終わるのだろうと理解した。
「誰も手を差し伸ばしてくれなかった。でも、リュフェが助けてくれたんだ」
温もりと流れてくる気を感じて、向けた視線の先にリュツィフェールが六枚の翼を広げていたのだ。
本人は嫌っている翼だが、ストゥルティはきれいだと思ったのを覚えている。なぜかわからないが、リュツィフェールの力は自分と違ってきれいだと思えたのだ。
「リュフェに助けられて、一人じゃないと言ってもらえて……だから、俺は今ここにいる」
どこにも居場所がないのなら、自分と一緒にいようと言ってくれた言葉が支えとなって、ストゥルティは潰れずにいる。
「大丈夫だ…ルーメンが何者でも、ここには嫌う奴なんていない。リュフェとアルは俺が魔のハーフだと知ってるし、ウィリディスとラピエールはそんなこと気にしないだろ」
魔の血を受け入れられないかもしれないが、嫌う者はいないからと耳元で囁くように言う。
周囲の目がどれだけ冷たくても、受け入れてくれる仲間がいればやっていける。少なくとも、自分が傍にいると言い切れた。
(リュフェが俺にしてくれたように…俺がルーメンの傍にいるから……)
だから、自分を拒絶することだけはやめてくれと願いながら、ストゥルティは唇を重ねる。乱れた気を治すために、気を送りこんだのだ。
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