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前編
魔とのハーフ3
しおりを挟む突然突き付けられた真実に、信じたくないとルーメンは拒絶した。ウィリディスを襲った悪魔の血が流れているなど、信じたくないのだ。
それは、自分があいつらと同じと言われているように思えたから。
(違う…俺は違う……あいつらと一緒じゃない……)
同時に、周囲の反応がなぜなのか理解できてしまった。自分が悪魔の子だと知っていたから、誰もが冷たく接してきたのだと。
母親はそうではなかったが、自分といることで遠ざけられていたことは知っている。
現実として魔の血を引くと理解しても、理解したくない。受け入れられないと強く拒絶をした結果、気が乱れて息苦しくなり、身体は激しく痙攣を起こす。
どうすることもできなくなったとき、自分へ呼びかける声が聞こえてくる。ストゥルティが己のことを話している声は、なぜか真っ直ぐに入ってきた。
唇が触れる温もりと、流れてくる気。自分も同じだと伝えてくる彼に、涙が溢れ出ていく。
ここにいてもいいのだと、思うことができた。彼らも、ウィリディスも、なにも変わらない。魔の血など、どうでもいいのだと思わせてくれる。
気の乱れが落ち着くと、見上げた先にストゥルティがいる。いつもと変わらない姿に、どこかホッとした。
「ルティ…俺……」
「ごめん。最初から知ってた。リュフェが、ルーメンは俺と同じだと思う、と言ってたから」
だから、魔とのハーフだと気付いていたと言われ、驚いたように見る。彼だけではなく、リュツィフェールやアルトゥスは知っていて、自分を受け入れてくれたのだとわかったから。
ラピエールとウィリディスを護りたい二人が、自分を受け入れていることがどこか嬉しくなる。
「ウィリディスを襲った奴と同じ…俺、いていいの……」
それでも不安になるのは仕方ないこと。天使は本能的に悪魔を嫌う傾向にある。だからこそ、己に悪魔の血が流れていると知れば、受け入れられなくなってしまうのだ。
「いていいんだよ。ルーメン、俺達は確かに悪魔の血を引くけど、でも、俺達は間違いなく天使だ」
だから翼だって天使のものだし、肉体もそうだとストゥルティが言う。気を乱すのも、天使だからだろと言われ、小さく頷く。
血を引くけれど、天使で間違いないと言われた言葉は、そうかもと思えたのだ。
ぎゅっとしがみつけば、しっかりと応えてくれるストゥルティ。母親が受け入れてくれた自分と比べれば、彼の方が苦しかっただろうに、と思ってしまう。
「お前は、一人じゃない」
重ねられた唇と、流れてくるストゥルティの気。彼を表すような優しさを感じ取れる気に、もっとと貪る。
「んっ…ふぁ…ルティっ…」
息苦しさを感じながら、それでも幸福を得られるキスを繰り返した。
言葉でも十分に得られたが、直接流し込まれる気にもストゥルティの気持ちが込められているようで、ルーメンの心を温めていく。
この温もりと仲間がいれば、自分が魔とのハーフだったとしても生きていける。きっと大丈夫だと、信じられた。
「あー、悪魔逃がしちまったなぁ……リュフェに怒られるかも」
今は神経質になっているから、逃したと知ったらどうなることやら、とため息をつく。ルーメンの方が優先するべきと判断したからだが、今のリュツィフェールに通じるだろうかと思う。
「ルティ、一緒に怒られよう」
「あいつ、怖いぞ」
真顔で言えば、引きつった表情でルーメンは見た。ストゥルティが言うなら、間違いないのだろうと思いながら。
とにかく、一度確認してから屋敷に戻ろうと飛び上がる。悪魔を追いかけたところまでいけば、当たり前なことだが誰もいない。
「穴があるのはこの先か……」
「ルティ、もしかして……」
ストゥルティが侵入経路を見つけられるのは、魔とのハーフだからかと問いかけられれば、そうだと頷く。
悪魔の痕跡を追うのは、あの二人より得意なのだと。これは予測だが、悪魔の血がそうさせると思っていた。
「確証はないんだけどよ、俺がここに出入りしてたところも、悪魔が入れるようになってる場所なのかな?」
思わぬ言葉に、あり得るかもしれないとストゥルティは考える。
気になっていたことではあるのだ。ルーメンとアルノームはどこから入り込み、ラピエール達と会っていたのか、と。
「教えてくれ。もしそうなら、そこも対応しないと危ないからな」
見つけたのがルーメンとなれば、悪魔の血が見つけ出したことになる。ほっとけば悪魔が出入りしてしまうだろう。
これ以上、悪魔の侵入を許すわけにいかないのだ。二人を護るだけではなく、ストゥルティは最悪対象になってしまうかもしれないルーメンも護りたいから、行こうと言う。
すべてを見て回ると、そのまま屋敷へと戻っていくストゥルティ。追っていた悪魔は逃したが、ルーメンのお陰でほとんどの穴を把握することができた。
これは挽回できただろうかと思っていたが、ちょうどお風呂に入っているようでリュツィフェールはいない。
ラピエールの護衛だとわかっているだけに、さすがに風呂場には行けないなと苦笑いを浮かべる。
「ルティ、お風呂空いたら一緒に入ろうぜ」
だいぶ汚れたし、とルーメンが言えば、そうだなと頷く。動き回ったことで、汗もかいたから流したいとストゥルティも思っていたところだ。
ぎゅっと抱き着けば、フッと笑みを浮かべて頭を撫でる。
「あっ…」
「ん? どうした」
頭を撫でられるのは嫌だっただろうか、と言うから、首を振る。ただ、優しく笑うストゥルティに惹かれたのだと、心の中で呟いた。
「ならいいけどよ。抱え込むなよ。俺が聞いてやるから」
「うん…ありがとう」
もう抱え込まない、とルーメンは笑う。一人ではないから。同じ生まれのストゥルティがいるのだから、なにかあれば話を聞いてくれるだろう。
だから、自分もストゥルティのためになにかできるようになりたい。まだ子供だけれど、いつかはと密かに思うのだった。
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