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前編
失われた記憶と悪夢3
しおりを挟む今、ルーメンはなにを言っただろうかと視線を向ければ、ストゥルティがなるほどと頷く。
「よし! いっぱい、いちゃいちゃしような!」
「えっ…」
なにがどうなっているのか、と驚いたようにラピエールも見ている。
少し前まで、二人はそういった関係ではなかったはず。悪魔を追いかけて、どうしてこうなったのかと思うのは普通だろう。
「先に行ってろー。可愛がってやるから」
「はーい!」
言葉を失う二人の前で、何事もなく風呂場に向かって行くルーメン。手を振って見送るストゥルティは、振り返ると表情が一変した。
「ごめん。あの悪魔、逃した。追い詰めるところまではできたんだけど、ルーメンがハーフなことをばらされて…」
言葉の先は言わなくても理解する。魔とのハーフと知って、ルーメンが気を乱したのだろう。優先するべきは悪魔ではなく、ルーメンと判断したのだ。
任せたのは自分だし、自分が放置された経験を持つだけにほっとけないと思うのもわかる。ストゥルティなら、最悪はそうするだろうということも考えていたことだ。
こればかりは仕方ないとため息をつく。あの悪魔は、またやってくるかもしれない。警戒を強めなければ、とリュツィフェールの表情が険しくなる。
「ルーメンって、ハーフなの?」
「あぁ…悪魔とのな。三枚の翼は、混ざりものという意味だ」
それじゃあ、とラピエールの視線がストゥルティに向けられた。彼もそうなのかと問いかけるように。
「そっ、俺も魔とのハーフ。経緯はわからないけど、ルーメンの母親はちゃんと受け入れてやってたみたいだな」
それだけが救いだよ、と笑いながら言うから、ストゥルティは受け入れてもらえなかったのかと俯く。
三人が自分達は同じ、と言うのは、こういった事情からなのだと理解してしまったのだ。
「とりあえず落ち着いてるが、一度気を乱しているのと、己を拒絶して激しく痙攣を起こした。しばらくは注意が必要だ」
真っ直ぐに見てくる姿に、わかっているとリュツィフェールが息を吐く。
以前、同じような状態になったストゥルティを助けたのは自分だ。誰よりも理解しているつもりだった。
ここに関しては、アルトゥスも知らないことだ。
任せてくれていいとストゥルティが言えば、リュツィフェールがわかったと言う。同じ魔とのハーフである彼の方が、いざというときに色々対応できる。
「それじゃ、俺も風呂に行ってこよう。ルーメンといちゃいちゃしねぇとな」
いや、それは本気なのか、と表情を引きつらせるリュツィフェール。彼がいいなら、もちろんいいと思ってはいる。
楽しみだな、と風呂場へ向かう姿を見ながら、言葉を失う二人。
「いい…のかな……」
「いいんじゃ…ねぇ……」
互いにそれでいいと思っているのなら、構わないだろうと思うことにした。ルーメンは女になりたいようには見えなかっただけに、成人したらどうするつもりなのかと思わなくもない。
けれど、そういったことを決めるのは本人達だ。
「リュツィフェール! ちょうどいい。ウィリディスになにか食うもん作ってくれねぇか」
とりあえず夕食を作ろうと切り替えたタイミングで、今度はウィリディスを抱えたアルトゥスがやってきた。
なにかあったらと、連れ出してきたのかと視線が問いかければ、そうだと視線だけで返す。話がある、とも。
ソファーに座らせると、嬉しそうに近寄るラピエール。ずっと寝込んでいたが、少し状態が安定したように見えて、喜んでいるのだ。
「食えるのか?」
どのような状態だ、と問いかけるのを合図にアルトゥスがリュツィフェールに近寄る。
「襲われたときの記憶を全部、忘れたみたいだ。なぜ気を乱していたのかもわかっていないが、自分がそのせいで弱っていることはわかってる。俺が冷たくしたときのだ、と誤魔化したが」
完全な嘘ではないから、とアルトゥスが言えば、わかったとリュツィフェールが頷く。ウィリディスにはそのように対応しようと。
あとでラピエールにも伝えておくべきことだ。あの件に触れないよう。
「悪いが、頼む。思いださせたくねぇ」
忘れてしまったなら、そのままにしておきたいと言われれば、気持ちは痛いほどにわかる。自分だって、ラピエールがあの件を忘れてくれたらと思っているのだから。
「とりあえず、なにか作ってくる。その間は任せた。あの悪魔、事情があって逃した」
逃したと聞き、アルトゥスの視線が鋭くなる。また来ると、彼も思えたのだ。
少し元気になったウィリディスに、上機嫌で食事を取るラピエール。久しぶりに四人で食べていることも、嬉しいのだろう。
「なぁ、ルーメンは?」
なぜいないのか、とウィリディスが問いかければ、リュツィフェールとラピエールが視線を合わせて微妙な表情を浮かべる。
「ルティとお風呂でいちゃいちゃするって」
「えっ?」
「はぁ?」
アルトゥスとウィリディスが、同時にどうしてそうなったと声を上げるから、だよなと苦笑いを浮かべるのはリュツィフェール。
どうしてと思ったが、すぐさま悪魔を逃したことに関係があるのかと視線が向けられるから、さすがだと思う。
同意するように頷けば、それなら仕方ないことだとアルトゥスがため息をつく。ストゥルティが逃すなんて、と思っていたのだが、事情は読めてしまった。
「俺のルーメンなのに!」
「ちょっと待て、お前は俺のだろ」
他にいくのは許さないとアルトゥスが言えば、ハッとしたように見上げてから、冗談だと慌てる。彼は意外にも、妬くと知ってしまったところ。
怒らせたら後でなにを言われるかと甘える。その姿に、ラピエールが声を上げて笑っていた。
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