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前編
ストゥルティとルーメン
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風呂場へ行けば、先に行っていたはずのルーメンがそわそわしながら待っていた。脱いで入っていればいいのに、と思いつつ、待ってくれていたのかもと思う。
「なにやってるんだ? 先入っててよかったんだぜ」
服は泥まみれなのだから、脱いで入っていてよかったと言えば、先程までの勢いはまったくない。どうしたのだろうかと首を傾げる。
もじもじしている姿は、男らしくないと思ってから振り払う。ルーメンは成人前なのだから、男ではない。女でもないとは言えるが、それを気にしているのだろうか。
「えいっ」
そんなこと気にすることはないと、強引に服を脱がせにかかる。いつまでもこのままでいるほうがよくないと思ったのだが、思わぬ出来事に驚く。
「お前……女になりたかったのか?」
脱がせたルーメンは、どことなく女性よりの身体をしていた。男になりたいと思っているなら、身体はここまで丸みを帯びてはいない。
迷っているとどちらの特徴もあるが、ルーメンの身体から迷いは感じられなかった。
「わりぃかよ。笑いたきゃ笑えよ。似合わねってさ。俺だって、思ってるんだから」
自分の外見からはまったく似合わないとわかっている。それでも女になりたいと思っているのだ。
風呂の入る前まではよかったのだが、脱衣所に入ってふと気付いてしまった。脱いだらバレてしまうと。
身体を見たら、すぐさまわかることだ。自分がどちらになりたいと思っているのか。身体に出ていると知っていたからこそ、急に困ってしまった。
「そんなこと、気にしてたのか?」
「そんなことって。散々に言われたんだ」
集落で言われたと俯く姿に、そうかと思う。こういった部分はアルトゥスが一番理解できることだが、見てきたからこそ寄り添うことはできるはずだ。
「あっ」
急に胸へ触れる手に、ルーメンが驚いたように見上げる。このような中途半端な胸など、触ってくると思わなかったのだ。
「んっ…はぁっ…」
見上げたことで重ねられた唇と、割り込む舌にパニックを起こすルーメン。あのときは自分が気を乱したからだとわかっている。
それなら、今はなぜストゥルティは触れてくるのか。まったくわからない。
確かに、風呂に入っていちゃいちゃしようと言った。言ったのだが、本気ではなかった。彼が本気でそういったことを言ったわけではないと思っていたから。
「先に身体を洗っちまおうぜ」
フッと笑いながら見てくるストゥルティに、ルーメンはわかったと頷く。
言葉の意味は続きをしようという意味ではない。なにか話があるという意味だとわかったのだ。自分と同じハーフである彼も、似たような気持だったのだろうか。
けれど、生きていくことで男になったのだとしたら、納得できることだ。
(俺も……)
悪魔とのハーフと知ってしまえば、女になれないなと俯く。自分を護るために、男になるしかない。彼らがそうであるように。
「深く気にするなよ。あの二人は自分の身を護るために男になったけど、俺はそうじゃないんだ。どっちも選べた」
一人で行動していたらそういったことも考えなくてはいけない。けれど、共に行動する者がいればどちらでも問題はないと言う。
それに、と言われた言葉には、確かにと思ってしまった。性別ではなく、すべては己の鍛錬だとストゥルティは言ったのだ。
「リュフェが褒めてたよ。未成年ってさ、性別が安定しないから、力も安定しないんだ。それであれだけ戦えたら十分だって」
なら、女になってもやっていけるんじゃないかと、ストゥルティは思っている。別段、自分が護ればいいとすら思っていた。
護ると言えば、本人が気にするだろう。だから、これは自分の内にだけ秘めておく。今は、ルーメンの実力ならどちらでも問題ないと思わせることだ。
「ほら、身体洗ったら湯に浸かる。冷えるだろ」
さっさと湯に浸かるストゥルティは、早く来いと視線を向ける。のんびり湯に浸かれるなら、浸かっておいた方がいいと思っているのだ。
「昔はさ、ゆっくり湯に浸かれなかったんだ。それでも俺はゆっくりとできた方だった。ずっと、リュフェとアルに護られてきたから」
それを疑問に思うこともなく過ごしてきた。けれど、ルーメンは自力で生きていくことを考えている。
それだけで、十分にすごいと思うのだ。自分とはなんて違うのだろうかと。
「甘えてたんだよなぁ、あの二人に」
「でも、ストゥルティ強いじゃん」
ずっと鍛錬してきたからじゃないのかと問われ、違うと答える。ストゥルティが護られることから抜け出したのは、成人を迎えて少し経ってからだった。
夜に襲撃を受けて、二人に護られたときだ。
「夜って…まさか……」
「そのまさか。寝込みを襲われたんだ」
理由もハッキリとわかっている。自分が戦えないことだったと。
寝込みを襲われた理由のひとつが、ストゥルティが戦えないこと。もうひとつが、ストゥルティが成人を迎えたことで、この場を離れる準備に入ったことだった。
どちらも自分が理由だとわかっているからこそ、悔しいと思い力を身に着けたのだ。
「甘えてたんだよな。あの二人だって、忌み子として大変だったのにさ」
甘やかしてくれたのも二人だけど、と笑いながら言うから、さらに驚くルーメン。三人の関係は対等だと思っていたが、実際はルーメンを弟のように可愛がっていた、なのかもしれない。
新しい発見だと思ったほどだった。
「俺は、ルーメンが女になりたいならいいと思うけど。さっきもじもじしてた姿も可愛く見えたし」
「ストゥルティの目はおかしい。俺には似合わない言葉だ」
ムスッとした表情で隣に座るルーメンを見て、これは根が深いなと苦笑いを浮かべる。こうなったら、最終手段だと思う。
勝手に話したら怒られそうだけど、それでルーメンが楽になるならいいだろうと思うことにした。
(どうせ、怒られるのは俺だしな)
自分には多少甘くなってくれるアルトゥスだから、それほど怖くもない。
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「なにやってるんだ? 先入っててよかったんだぜ」
服は泥まみれなのだから、脱いで入っていてよかったと言えば、先程までの勢いはまったくない。どうしたのだろうかと首を傾げる。
もじもじしている姿は、男らしくないと思ってから振り払う。ルーメンは成人前なのだから、男ではない。女でもないとは言えるが、それを気にしているのだろうか。
「えいっ」
そんなこと気にすることはないと、強引に服を脱がせにかかる。いつまでもこのままでいるほうがよくないと思ったのだが、思わぬ出来事に驚く。
「お前……女になりたかったのか?」
脱がせたルーメンは、どことなく女性よりの身体をしていた。男になりたいと思っているなら、身体はここまで丸みを帯びてはいない。
迷っているとどちらの特徴もあるが、ルーメンの身体から迷いは感じられなかった。
「わりぃかよ。笑いたきゃ笑えよ。似合わねってさ。俺だって、思ってるんだから」
自分の外見からはまったく似合わないとわかっている。それでも女になりたいと思っているのだ。
風呂の入る前まではよかったのだが、脱衣所に入ってふと気付いてしまった。脱いだらバレてしまうと。
身体を見たら、すぐさまわかることだ。自分がどちらになりたいと思っているのか。身体に出ていると知っていたからこそ、急に困ってしまった。
「そんなこと、気にしてたのか?」
「そんなことって。散々に言われたんだ」
集落で言われたと俯く姿に、そうかと思う。こういった部分はアルトゥスが一番理解できることだが、見てきたからこそ寄り添うことはできるはずだ。
「あっ」
急に胸へ触れる手に、ルーメンが驚いたように見上げる。このような中途半端な胸など、触ってくると思わなかったのだ。
「んっ…はぁっ…」
見上げたことで重ねられた唇と、割り込む舌にパニックを起こすルーメン。あのときは自分が気を乱したからだとわかっている。
それなら、今はなぜストゥルティは触れてくるのか。まったくわからない。
確かに、風呂に入っていちゃいちゃしようと言った。言ったのだが、本気ではなかった。彼が本気でそういったことを言ったわけではないと思っていたから。
「先に身体を洗っちまおうぜ」
フッと笑いながら見てくるストゥルティに、ルーメンはわかったと頷く。
言葉の意味は続きをしようという意味ではない。なにか話があるという意味だとわかったのだ。自分と同じハーフである彼も、似たような気持だったのだろうか。
けれど、生きていくことで男になったのだとしたら、納得できることだ。
(俺も……)
悪魔とのハーフと知ってしまえば、女になれないなと俯く。自分を護るために、男になるしかない。彼らがそうであるように。
「深く気にするなよ。あの二人は自分の身を護るために男になったけど、俺はそうじゃないんだ。どっちも選べた」
一人で行動していたらそういったことも考えなくてはいけない。けれど、共に行動する者がいればどちらでも問題はないと言う。
それに、と言われた言葉には、確かにと思ってしまった。性別ではなく、すべては己の鍛錬だとストゥルティは言ったのだ。
「リュフェが褒めてたよ。未成年ってさ、性別が安定しないから、力も安定しないんだ。それであれだけ戦えたら十分だって」
なら、女になってもやっていけるんじゃないかと、ストゥルティは思っている。別段、自分が護ればいいとすら思っていた。
護ると言えば、本人が気にするだろう。だから、これは自分の内にだけ秘めておく。今は、ルーメンの実力ならどちらでも問題ないと思わせることだ。
「ほら、身体洗ったら湯に浸かる。冷えるだろ」
さっさと湯に浸かるストゥルティは、早く来いと視線を向ける。のんびり湯に浸かれるなら、浸かっておいた方がいいと思っているのだ。
「昔はさ、ゆっくり湯に浸かれなかったんだ。それでも俺はゆっくりとできた方だった。ずっと、リュフェとアルに護られてきたから」
それを疑問に思うこともなく過ごしてきた。けれど、ルーメンは自力で生きていくことを考えている。
それだけで、十分にすごいと思うのだ。自分とはなんて違うのだろうかと。
「甘えてたんだよなぁ、あの二人に」
「でも、ストゥルティ強いじゃん」
ずっと鍛錬してきたからじゃないのかと問われ、違うと答える。ストゥルティが護られることから抜け出したのは、成人を迎えて少し経ってからだった。
夜に襲撃を受けて、二人に護られたときだ。
「夜って…まさか……」
「そのまさか。寝込みを襲われたんだ」
理由もハッキリとわかっている。自分が戦えないことだったと。
寝込みを襲われた理由のひとつが、ストゥルティが戦えないこと。もうひとつが、ストゥルティが成人を迎えたことで、この場を離れる準備に入ったことだった。
どちらも自分が理由だとわかっているからこそ、悔しいと思い力を身に着けたのだ。
「甘えてたんだよな。あの二人だって、忌み子として大変だったのにさ」
甘やかしてくれたのも二人だけど、と笑いながら言うから、さらに驚くルーメン。三人の関係は対等だと思っていたが、実際はルーメンを弟のように可愛がっていた、なのかもしれない。
新しい発見だと思ったほどだった。
「俺は、ルーメンが女になりたいならいいと思うけど。さっきもじもじしてた姿も可愛く見えたし」
「ストゥルティの目はおかしい。俺には似合わない言葉だ」
ムスッとした表情で隣に座るルーメンを見て、これは根が深いなと苦笑いを浮かべる。こうなったら、最終手段だと思う。
勝手に話したら怒られそうだけど、それでルーメンが楽になるならいいだろうと思うことにした。
(どうせ、怒られるのは俺だしな)
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