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前編
異変3
しおりを挟む夢が続く。ひたすらに抱かれるだけの夢。ウィリディスにとっては、好きなアルトゥスに抱かれる夢だ。
『力を分けたのだ、今度は成功させろ』
悪魔は耳元で囁く。ラピエールを抱いて、魔に染めろと。あの天使を手に入れろと囁き続ける。
この意味がどういうことなのかなど、ウィリディスに考えることはできない。悪魔の傀儡に近い状態となってしまったことから、言われた言葉に疑問を持つこともないのだ。
『お前なら怪しまれることなく近寄れる。お前なら、触れても拒絶されることもない』
それは先程のことで実証されてしまった。ウィリディスが触れる分には、多少抵抗があっても完全な拒絶はしない。
次はいけると悪魔は確信していた。誰かに抱かれた天使に興味はないのだが、それでも秘めている魔力に魅力はある。
誰かに取られる前に、自分が手に入れるのだ。そのために最高の駒を手に入れられたのだから、自分はついているとすら思っていた。
『さぁ、目覚めて抱いてこい。私のために』
「アルトゥスのために…」
『そうだ』
虚ろな視線が悪魔を見ながら言えば、そうだと肯定する。己の愛する男のためにやるのだ、と。
目を覚ませば、隣で無防備に寝ているラピエール。悪魔の魔力で侵されたウィリディスは、どこか虚ろな表情で覆い被さる。
(アルトゥスが求めるから…)
だからラピエールを抱くのだ。与えられた力をそのまま、ラピエールに注ぐだけのこと。それだけで喜んでもらえると、思考は完全におかしくなっていた。
当然だがそのことに本人は気付いていない。自分がおかしいなど思っていないのだ。
「んっ…」
眠るラピエールに貪るようにキスをする。正直なところ、抱くという意味では興味がないのだが、愛するアルトゥスが求めるのだから抱く。
抱くからには、気持ちよくしてあげようという思考のままにキスを繰り返す。
「んんっ…ウィリディス?」
なにをしているのか、と声を発しようとすれば、防ぐように唇を重ねる。
考える余裕など与えることなく、快楽を与えればいいとは悪魔に言われた言葉だ。気持ちよくさせて、自分から求めさせればいいのだと。
すべてがアルトゥスの言葉へ変換されてしまうウィリディスは、言われた言葉をそのまま実行しようとしていた。
逆に、息苦しさで目が覚めたラピエールは、貪るようなキスを繰り返すウィリディスにようやくおかしいと気付く。
どうしたのかと見上げた先、虚ろな目をしたウィリディスに言葉を失う。いつから異変が起きていたのか、まったく気付いていなかった自分に腹が立ったほどだ。
「あっ…はぁっ…やめっ…てっ」
前触れもなく、突然女の部分に触れてくる手にやばいと思う。本能的に、このまま行為を受け入れてはいけないと感じてしまったのだ。
「んっああ!」
拒まなくてはいけないとわかっていても、触れているのがウィリディスだというだけで強く出られない。
乱暴で荒々しい責め方だが、身体はしっかりと快楽を感じている。しっかりとツボを押さえて刺激してくる行為に、堕ちたらダメと言い聞かせながら耐えた。
「ウィリっ…ディスっ…お願いっ」
やめてと訴える視線は、虚ろなウィリディスには届かない。おそらく自分など見てはいないのだろう。
「あっ…あぁぁぁっ」
指だけでイかされると、身体がビクリと反応した。完全に女を選んだわけではないウィリディスには、当然だが男としての部分もある。
「ダメっ…」
それだけは絶対にダメだと、本能が激しく警鐘を起こす。目を覚ましてくれと強く願うと、ラピエールの身体は突然光りだした。
一体なにが起こっているのか。自分でもわけがわからないまま光る手を見ていれば、虚ろだったウィリディスに変化が訪れた。
「くっ…」
苦痛の表情を浮かべたと思えば、そのまま身体の上に倒れこむ。荒い呼吸を繰り返し、呻く姿に慌てたように起き上がる。
「ウィリディス!」
今ので気が乱れていたらどうしようと慌てていれば、そのまま気を失ってしまった。
楽園で育ったラピエールには知識がまったくない。この状態がどういうことなのかわからず、どうしたらいいのかもわからなかった。
とりあえず、目を覚まして何事もなければ気を乱したわけではない、ということだろう。それだけは考えることができたが、それしかわからないとも言える。
ウィリディスは、そのまま何日も眠り続けた。目を覚ますことなく、ずっと眠り続けることがどれほどいけないことだったのか、ラピエールが知ることはない。
なにせ、夢の中で悪魔に抱かれているなど、想像することもできなかったのだから、仕方ないことだろう。
知ったとき、激しく後悔したほどだ。ずっと傍にいたのに、なぜ気付いてあげられなかったのか。助けられなかったのかと。
眠り続けるウィリディスの傍にいる日々が続いたある日、アルノームが手紙を持ってやってきた。開いた瞬間、白い羽根が舞い落ちる。
懐かしい香りがした気がして、思わず拾っていたラピエール。もしかして、と思う気持ちが否定できない。
「ラピエール、読んでみて」
手紙を読んでと促され、優しい眼差しで見てくるアルノームに、中身を知っているのだと気付く。ここには、きっといい知らせが書かれている。
震えそうになる手を必死に抑え、封筒から一枚の紙を取り出す。
「あっ…」
とても簡潔な一言。今夜迎えに行く、という言葉だけが書かれていたが、なによりも嬉しい言葉だ。リュツィフェールの字で間違いなく、やっとここから出られるという気持ちで心が震えた。
「ほらっ、早く支度して!」
時間はないと言われれば、そうだったと急いで支度を始める。自分のだけではなく、眠るウィリディスの分も準備しなくてはいけない。
リュツィフェールが迎えに来るなら、アルトゥスも間違いなく一緒だ。きっとウィリディスを助けてくれると、慌ただしく動き始めた。
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