堕天使の愛

朱璃 翼

文字の大きさ
49 / 69
前編

異変3

しおりを挟む

 夢が続く。ひたすらに抱かれるだけの夢。ウィリディスにとっては、好きなアルトゥスに抱かれる夢だ。

『力を分けたのだ、今度は成功させろ』

 悪魔は耳元で囁く。ラピエールを抱いて、魔に染めろと。あの天使を手に入れろと囁き続ける。

 この意味がどういうことなのかなど、ウィリディスに考えることはできない。悪魔の傀儡に近い状態となってしまったことから、言われた言葉に疑問を持つこともないのだ。

『お前なら怪しまれることなく近寄れる。お前なら、触れても拒絶されることもない』

 それは先程のことで実証されてしまった。ウィリディスが触れる分には、多少抵抗があっても完全な拒絶はしない。

 次はいけると悪魔は確信していた。誰かに抱かれた天使に興味はないのだが、それでも秘めている魔力に魅力はある。

 誰かに取られる前に、自分が手に入れるのだ。そのために最高の駒を手に入れられたのだから、自分はついているとすら思っていた。

『さぁ、目覚めて抱いてこい。私のために』

「アルトゥスのために…」

『そうだ』

 虚ろな視線が悪魔を見ながら言えば、そうだと肯定する。己の愛する男のためにやるのだ、と。



 目を覚ませば、隣で無防備に寝ているラピエール。悪魔の魔力で侵されたウィリディスは、どこか虚ろな表情で覆い被さる。

(アルトゥスが求めるから…)

 だからラピエールを抱くのだ。与えられた力をそのまま、ラピエールに注ぐだけのこと。それだけで喜んでもらえると、思考は完全におかしくなっていた。

 当然だがそのことに本人は気付いていない。自分がおかしいなど思っていないのだ。

「んっ…」

 眠るラピエールに貪るようにキスをする。正直なところ、抱くという意味では興味がないのだが、愛するアルトゥスが求めるのだから抱く。

 抱くからには、気持ちよくしてあげようという思考のままにキスを繰り返す。

「んんっ…ウィリディス?」

 なにをしているのか、と声を発しようとすれば、防ぐように唇を重ねる。

 考える余裕など与えることなく、快楽を与えればいいとは悪魔に言われた言葉だ。気持ちよくさせて、自分から求めさせればいいのだと。

 すべてがアルトゥスの言葉へ変換されてしまうウィリディスは、言われた言葉をそのまま実行しようとしていた。


 逆に、息苦しさで目が覚めたラピエールは、貪るようなキスを繰り返すウィリディスにようやくおかしいと気付く。

 どうしたのかと見上げた先、虚ろな目をしたウィリディスに言葉を失う。いつから異変が起きていたのか、まったく気付いていなかった自分に腹が立ったほどだ。

「あっ…はぁっ…やめっ…てっ」

 前触れもなく、突然女の部分に触れてくる手にやばいと思う。本能的に、このまま行為を受け入れてはいけないと感じてしまったのだ。

「んっああ!」

 拒まなくてはいけないとわかっていても、触れているのがウィリディスだというだけで強く出られない。

 乱暴で荒々しい責め方だが、身体はしっかりと快楽を感じている。しっかりとツボを押さえて刺激してくる行為に、堕ちたらダメと言い聞かせながら耐えた。

「ウィリっ…ディスっ…お願いっ」

 やめてと訴える視線は、虚ろなウィリディスには届かない。おそらく自分など見てはいないのだろう。

「あっ…あぁぁぁっ」

 指だけでイかされると、身体がビクリと反応した。完全に女を選んだわけではないウィリディスには、当然だが男としての部分もある。

「ダメっ…」

 それだけは絶対にダメだと、本能が激しく警鐘を起こす。目を覚ましてくれと強く願うと、ラピエールの身体は突然光りだした。

 一体なにが起こっているのか。自分でもわけがわからないまま光る手を見ていれば、虚ろだったウィリディスに変化が訪れた。

「くっ…」

 苦痛の表情を浮かべたと思えば、そのまま身体の上に倒れこむ。荒い呼吸を繰り返し、呻く姿に慌てたように起き上がる。

「ウィリディス!」

 今ので気が乱れていたらどうしようと慌てていれば、そのまま気を失ってしまった。

 楽園で育ったラピエールには知識がまったくない。この状態がどういうことなのかわからず、どうしたらいいのかもわからなかった。

 とりあえず、目を覚まして何事もなければ気を乱したわけではない、ということだろう。それだけは考えることができたが、それしかわからないとも言える。

 ウィリディスは、そのまま何日も眠り続けた。目を覚ますことなく、ずっと眠り続けることがどれほどいけないことだったのか、ラピエールが知ることはない。

 なにせ、夢の中で悪魔に抱かれているなど、想像することもできなかったのだから、仕方ないことだろう。

 知ったとき、激しく後悔したほどだ。ずっと傍にいたのに、なぜ気付いてあげられなかったのか。助けられなかったのかと。

 眠り続けるウィリディスの傍にいる日々が続いたある日、アルノームが手紙を持ってやってきた。開いた瞬間、白い羽根が舞い落ちる。

 懐かしい香りがした気がして、思わず拾っていたラピエール。もしかして、と思う気持ちが否定できない。

「ラピエール、読んでみて」

 手紙を読んでと促され、優しい眼差しで見てくるアルノームに、中身を知っているのだと気付く。ここには、きっといい知らせが書かれている。

 震えそうになる手を必死に抑え、封筒から一枚の紙を取り出す。

「あっ…」

 とても簡潔な一言。今夜迎えに行く、という言葉だけが書かれていたが、なによりも嬉しい言葉だ。リュツィフェールの字で間違いなく、やっとここから出られるという気持ちで心が震えた。

「ほらっ、早く支度して!」

 時間はないと言われれば、そうだったと急いで支度を始める。自分のだけではなく、眠るウィリディスの分も準備しなくてはいけない。

 リュツィフェールが迎えに来るなら、アルトゥスも間違いなく一緒だ。きっとウィリディスを助けてくれると、慌ただしく動き始めた。




.
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

イケメンエリートは愛妻の下僕になりたがる(イケメンエリートシリーズ第四弾)

便葉
恋愛
国内有数の豪華複合オフィスビルの27階にある IT関連会社“EARTHonCIRCLE”略して“EOC” 謎多き噂の飛び交う外資系一流企業 日本内外のイケメンエリートが 集まる男のみの会社 そのイケメンエリート軍団のキャップ的存在 唯一の既婚者、中山トオルの意外なお話 中山加恋(20歳) 二十歳でトオルの妻になる 何不自由ない新婚生活だが若さゆえ好奇心旺盛 中山トオル(32歳) 17歳の加恋に一目ぼれ 加恋の二十歳の誕生日に強引に結婚する 加恋を愛し過ぎるあまりたまに壊れる 会社では群を抜くほどの超エリートが、 愛してやまない加恋ちゃんに 振り回されたり落ち込まされたり… そんなイケメンエリートの ちょっと切なくて笑えるお話

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

辺境伯と幼妻の秘め事

睡眠不足
恋愛
 父に虐げられていた23歳下のジュリアを守るため、形だけ娶った辺境伯のニコラス。それから5年近くが経過し、ジュリアは美しい女性に成長した。そんなある日、ニコラスはジュリアから本当の妻にしてほしいと迫られる。  途中まで書いていた話のストックが無くなったので、本来書きたかったヒロインが成長した後の話であるこちらを上げさせてもらいます。 *元の話を読まなくても全く問題ありません。 *15歳で成人となる世界です。 *異世界な上にヒーローは人外の血を引いています。 *なかなか本番にいきません

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

ブラック企業で倒れた私を、ネトゲ仲間の社長が強制保護して溺愛しています

紅 与一
恋愛
過労で倒れた私を救ったのは、 ネトゲ仲間――そしてIT企業の若き社長。 「もう君は、僕の管理下だよ」 退院と同時に退職手続きは完了。 住む場所も、生活も、すべて彼に囲われた。 外出制限、健康管理、過保護な独占欲。 甘くて危険な“保護生活”の中で、 私は少しずつ彼に心を奪われていく――。 元社畜OL×執着気味の溺愛社長 囲い込み同棲ラブストーリー。

「婚約破棄された転生令嬢ですが、王城のメイド五百人に慕われるメイド長になりました。なお元婚約者は私のメイドに土下座中です」

まさき
恋愛
社畜OLの白瀬凛は、過労死した翌朝、異世界の侯爵令嬢アリア・ヴェルナーとして目を覚ました。   転生初日。 婚約者であるシュルツ公爵令息から、一方的に告げられる。   「君は無能だ。この婚約は破棄する」   行き場を失ったアリアが選んだのは、王城のメイドに志願すること。 前世でブラック企業に鍛えられた凛には、武器があった。 ——人を動かす技術。業務を改善する知識。そして、折れない心。   雑用メイドからスタートした凛は、現代の知識を武器に王城を変えていく。 サボり魔、問題児、落ちこぼれ——誰もが見捨てたメイドたちが、次々と凛に懐いていく。   そして転生からわずか一年。 凛は王城に仕える500人のメイドを束ねる、史上最年少メイド長となっていた。   「——なぜ、君がここに」   国王主催の晩餐会。 青ざめた顔で立ち尽くす元婚約者の前で、500人のメイドたちが一斉に頭を下げる。   「アリア・ヴェルナー・メイド長。晩餐会の準備が整いました」   私を捨てたあの日、あなたの後悔も始まっていたのです。 ——もう、遅いですけれど。

処理中です...