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前編
救出へ3
しおりを挟む夢の中で悪魔に抱かれ続けるウィリディス。ラピエールだけでも護らなくてはいけないと、夢にこもることを決めたのは本人自身だ。
自分を使ってラピエールも手に入れようとしている悪魔に気付いたから。気付いてしまったからこその行動だった。
少なくとも、夢にこもっていれば自分の身体を使うことはできない。それはつまり、ずっと自分の中に悪魔を留めておくことができるということ。
快楽だった行為も、休息もなく続ければ気を抜かれすぎて苦痛に変わる。
(何日…経った……)
すでに限界は超えていた。気が尽きる寸前まで奪われ、少し回復するとまた奪われるの繰り返し。なぜ一思いにやらないのか、と思ったが、おそらくラピエールを狙っているから。
自分だけでは足りないのだろう。わからなくもない、と思ってしまった。
(俺は……弱すぎる……)
どうして、自分はこれほどまでに弱いのか。両親が男になることを望んだほどに弱い。女として子を産むこともできないと判断されたが、つまり男としてなにかを護ることもできないということ。
どちらになっても役に立たない上に、こうして足を引っ張っている現状だ。
あまりの情けなさに、ウィリディスの頬を涙が伝う。どうにかしなければと思う気持ちはあるのに、なにかを考える思考は奪われてしまってない。
夢の中であっても、すでに意識は朦朧としていて、自分の状況はわかっているのに抗うことすらできないのだ。
(アルトゥス……)
目の前にいるのはアルトゥスの姿をした悪魔。ずっと幻のアルトゥスを見せられ、抱かれていたのだということも、今ならウィリディスはわかっている。
わかっていても、抵抗する力は残されていない。また始まった行為に、微かな快楽と気を奪われる苦痛。違うものが身体の中を満たしていく感覚は、絶望しか与えない。
『クククッ…もうすぐ、現実でお前を抱いてやるからな。やっと、入り口が開くんだ』
「いり…ぐ…ち……」
なにを言っているのか、と虚ろの眼差しが悪魔を見る。意味がわからないと。
入り口がないから、この悪魔はずっとこうやって自分を相手にしていたのか。ならば、ラピエールを手に入れるために自分を使ったのもそういうことなのだろうかと思う。
もしかしたら、自分がこうなっているのもと思ってしまった。
ニヤリと笑った悪魔。その顔で、そのような笑い方をするな、と言いたくなるほどの不気味な笑み。
『最後だから教えてやろう。この楽園は、天使が俺ら悪魔に贄を渡す場所。つまり、楽園にいる天使は俺らが好き勝手していい存在。簡単に入れるよう、入り口がいくつもあったんだ』
それをあの護衛がすべて塞いでしまったと忌々しげに言う悪魔。なにかを考える気力すら残されていないウィリディスに、すんなりと入ってくる言葉は、ありえないもので声も出ない。
『お前らは、俺達のごちそうだったんだよ』
餌だと言われ、涙がとめどなく溢れていく。初めからこうなると決まっていたのなら、アルトゥス達が逃げた意味もわかる。
悪魔を殺したからだ。だから追われる立場になってしまった。
『お前の方が落としやすかったから手を出したが、ここまでとは思っていなかった。世間知らずの未成年は簡単でいい』
そのままもう一人も手に入れたかったが、さすがにここで反撃されるとは思っていなかったというのが、悪魔の本音である。
ほとんど手中に収めた存在と油断していたのは事実で、ならば現実へと動きを変えたのだと笑いながら言う。
ウィリディスの身体は悪魔の力で満たされている。ここまで満たせば、この身体を使って楽園へ入り込むことなど容易い。
本人はラピエールだけでもと思っていることもわかっているのだ。こうすれば護れると、本気で思っている。
『愚かなことだ…』
意味がないことだと、悪魔の言葉ですべてを察したウィリディス。夢という場所にこもっていても、結局はなにもできてはいない。
悪魔は次の手を考えていて、自分はこのまま終わるのだろう。
『無力を嘆く必要はない。前にも言ったが、結構お前は気に入っているんだ。我が傀儡として一生飼ってやろう』
ザラリとした感触が涙を舐めると、最後の仕上げをしなければいけないなと呟く。夢ではなく、現実でこの天使を手に入れる。
『安心しろ。お前は変わらず毎晩愛でてやろう。もう一人の天使は餌として飼うがな』
あれは誰かのものになっているから、餌ならいいが愛でる気にはなれない、などと不愉快な笑い声を上げながら言う悪魔。
気力があれば言い返していただろうが、今のウィリディスにはそのような力も残されていない。ただ、身体が熱くなっていくのを感じるだけ。
これが、悪魔が自分を通して表にでようとしていることだと、本能で感じ取ることはできても、どうにかすることはできなかった。
誰かが触れている感覚で意識は浮上した。夢ではない現実の世界。もう幻を見せる必要はないと判断したのか、覆いかぶさるようにいる悪魔は、アルトゥスの姿をしてはいなかった。
赤い瞳が不気味に輝き、自分を見ながらニヤリと笑っている。欲しかった獲物を手にしたというように。
「クククッ。やっと現実で会えたな。今から、お前は俺のものになる」
破るように剥ぎ取られた服。抵抗できないとわかっているからか、自分の物を擦りつけながらニヤニヤと笑う。絶望に涙するウィリディスをただ見たいだけなのだろう。
「やはり、天使は初めてのものがいい。誰にも染まっていない方が、染めがいがあるだろ」
「ぅ……あ…ぁ……」
ゆっくりと入ってくる悪魔のものを感じ取りながら、ウィリディスの心が崩壊していく。これ以上耐えることはできなかった。
(アルトゥス…ごめ……ん……)
会いたいと願いながら、けれどもう会えないのだという絶望を抱きながら。ウィリディスの意識は暗闇の中へと閉ざされていった。
悪魔の傀儡へと落ちてしまったのだ。
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