堕天使の愛

朱璃 翼

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前編

覚醒の兆し

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 すべての準備を整えていたラピエールは。その間にウィリディスの元に悪魔が現れていたなど気付くこともなく、ただ一心に外を見続けていた。

 早くリュツィフェールに会いたいと願う気持ちと、アルトゥスがいればウィリディスは元通りになると思っていたから。

 やがて、暗闇の中から羽音が聞こえてきた。楽園に入って飛んでいるのだろう。外のことなどなにもわからないが、おそらくそういうことだと考えることはできた。

 けれど、音は聞こえてきても翼が見えない。まだ遠いのかと思った瞬間、暗闇でもハッキリと見えたのはアルトゥスの真っ赤な翼。

(もしかして、先に来た?)

 ずっと黙っていたウィリディスのことをアルノームに知らせた。結果、彼が先に急いでやってきたのかもしれないと思えば、水色の翼も見える。

 ルーメンも一緒だとわかったが、ならば他の二人はと首を傾げた。あれだけ目立つ六枚の翼が見えないなど、あるわけがない。ならば、リュツィフェールは来ていないことになってしまう。

「リュフェ…」

 どうして、と言いたくなる。迎えに来ると言ったのに、なぜリュツィフェールはいないのか。

 いや、それが必要だっただけのことだ。ここから自分達が出るために、と必死に言い聞かせる。

「ラピエール!」

 次の瞬間、闇に紛れて現れたリュツィフェールに驚くこととなる。

 目の前に降り立ったリュツィフェールは、二ヶ月前とは変わり果てていた。六枚の翼は真っ白から真っ黒に。白い服は黒い服へ。

 そして、左の頬にはくっきりと浮かび上がる堕天使の証。

 世間知らずであっても、堕天使になった者の特徴は知っている。目の前にいるリュツィフェールは、完全にそれだった。

「リュフェ…みんな…」

 同じように降り立ったアルトゥスは、翼は変わらずだったが、天使が身にまとう白の服から黒。右肩に堕天使の証が浮かび上がっている。

 ストゥルティも三枚の翼が真っ黒に変わり果て、堕天使の証は微かに見える鎖骨の辺り。ルーメンだけがどこに堕天使の証があるのか見えなかったのだが、間違いなく天使ではないとわかった。

 四人全員が堕天使になったのだ。自分達をここから連れ出すということは、そういうことなのだとラピエールは知る。

 ここまでして、それでも自分達を救ってくれる存在。この先も彼らと一緒ならなんでも乗り越えられるだろう。ハッキリと言い切れた。

 変わり果てた四人に見入るのは一瞬のこと。やっと会えた喜びから、リュツィフェールの胸に飛び込むラピエール。

「リュフェ、会いたかったよ」

 二ヶ月がとても長く感じた。少し前までどうやって過ごしていたのか思いだせないほどに、彼との日々は強烈だったのだ。

「俺もだ、ラピエール」

 見上げた瞬間に、優しい眼差しで見つめてくるリュツィフェールに胸が高鳴る。そのまま互いを貪るようなキスを繰り返すが、いつまでもこうしている場合ではない。

 ようやく会えたリュツィフェールをもっと感じていたいが、今はそれより優先しなくてはいけないことがあるのだ。

「アル! ウィリディスを!」

 助けてと懇願すれば、わかっているとアルトゥスが力強く頷く。死なせてたまるかと言う姿に、彼なら必ず救ってくれると思えた。

「あいつは部屋か?」

「うん。アルの結界はまだ残ってるはずだけど」

 そろそろやばいのではないか、とも思っている。だからこそ、今迎えに来たはずだ。結界が維持できる期間で迎えに来なければ、再び悪魔がくるかもしれないから。

「急ごう」

 リュツィフェールが言えば、全員が頷いてウィリディスの部屋へ急ぐ。

 急いだ先、そこであまりの光景に絶句するラピエール。結界は破壊されていないのに、なぜかと怪訝な表情を浮かべるのがリュツィフェールで、怒りで火花を散らしているのはアルトゥスだ。

「ラピエール…」

 茫然と呟くラピエールに、ニヤリと嫌な笑みを浮かべる悪魔。腕に抱えられた全裸の姿と、虚ろの眼差しからなにがあったのかは一目瞭然だ。

「遅かったな……。この天使は確かに頂いたぞ」

「てめぇ!」

 まだ結界は壊れていないと、油断していたアルトゥス。己の力に自信があるからこそだった。悪魔にはもっと違う手段がある場合を考えるべきだったのだ。

 それはリュツィフェールも同じこと。一歩間違えれば、こうなっていたのはラピエールだったのだから。

「どれだけ力があろうと、所詮は成人したばかりの天使。悪魔について、知らな過ぎたのが致命的だったな」

 ニヤニヤと笑う悪魔は、ウィリディスを抱えていることから攻撃されることはない、と高を括っている。この天使を大切に想っている以上、危害を加える真似はできない。

 事実なだけに、アルトゥスは動くこともできずに歯を食いしばる。取り戻したいのに、盾にされたら取り戻すこともできない。

 悪魔の腕に抱かれたウィリディスはまるで生きた屍のようだ。急げとアルトゥスの本能が警鐘を発する。手遅れになる前に取り戻せと。

「幻を見せたら、簡単に落ちた。なんと無防備なことか。けど、愛する者に抱かれる幻なら、感謝されるべきか?」

 不愉快に笑いながら言う悪魔に、そういうことかとリュツィフェールが睨みつける。どうやってウィリディスを落としたのか、中へ入り込んだのか理解できてしまったのだ。

 なんてやり方だと思うと同時に、自分達の無知がここで突きつけられるとはと険しい表情を浮かべる。

「貴様は、精神系の悪魔か」

 冷ややかな声が問いかければ、ハッとしたようにアルトゥスが見た。自分達が行ったのは、直接やってくる悪魔にたいしての対抗策のみ。

 精神面から接触することが可能な悪魔がいたとしたら、二人は無防備なまま放置されていたことになるのだ。

「ククク、その通り。俺は誰かのものになったのは興味がなくてな。だからこそ、この楽園は最高なのだ」

 贄として入れられた天使は、間違いなく純血で誰のものでもないからだと言われれば、ラピエールではなくウィリディスが狙われた理由もわかる。

 未成年に手を出すことを躊躇った結果、この事態に陥ったのかとアルトゥスが拳を握り締めた。




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