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前編
魔界へ2
しおりを挟むさすがに身体だけ洗わせてくれと、アルトゥスはウィリディスを連れて風呂場へ。ありえた出来事ではあるが、ウィリディスが目を覚ましてすぐにいなくなるのは想定外。
彼にしては十分待ってくれたと理解はしている。だが、朝まで待てと言いたくなった。よりにもよって、このような夜明け前にと内心ぼやく。
ラピエールを取り戻せば落ち着くだろうから、そのあとに説教だと身体を洗う姿を見ながら、ウィリディスは自分の身体を見る。
すっかり女になってしまった身体だが、このままだと戦いづらい。男にした方がいいだろうかと悩んでいるのだ。
「そのままでも、男になっても、どちらでもいいぞ」
気付いたアルトゥスが好きにしろと言えば、なぜわかったのかと驚く。
「いや、わかるだろ。それだけ自分の身体見てれば」
どれだけ眺めている気だと言われ、そんなにだったかと苦笑いを浮かべる。時間がないのだから、早く身体を洗ってしまおうと動く。
急がなければ、リュツィフェールが魔界に着いてしまう。飛ぶ速さも向こうの方が上のはずだと思えたのだ。
ここからは足手まといになどならないと決めたのだ。楽園ではないのだから、しっかりしなくてはと一人で気合いを入れる姿を見て、まあいいかと呟くのはアルトゥス。
籠から出たのだから、少しは意識が変わらないとやっていけないとは思っていたのだ。きっかけになったのなら、悪くはない。
あとは、二度と自分が失態を犯さなければいいのだ。
「ウィリディス、こっちこい」
洗い終わったのを確認すると、タオルで拭こうとしていたウィリディスを呼ぶ。急ぐのに湯でも浸かる気かと思ったが、炎が包み込み一瞬で乾いたのに驚く。
アルトゥスの力はこのような使い方もできるのかと。
「ん? なんであのとき、濡れたままにしてたんだ?」
水に濡れていた頃、こうしていたら風邪を引かなかっただろうに、と素朴な疑問には、苦笑いで返す。わざとやっていた行為だけに、乾かすという行為をするつもりすらなかっただけなのだ。
敢えて言う必要はないかと思えば、着替えるぞと声をかける。ストゥルティとルーメンが待っているのだから、のんびりするつもりはない。
ただ単に、先程までの行為を洗い流したかっただけなのだ。
リビングへ行けば、支度を整えた二人が待っていた。どちらもしっかりと剣を携えているのを見て、戦闘を想定しているのだとわかる。
「ウィリディス、よかった…」
「ごめん、心配かけた」
最後に見たのが悪魔に抱かれた姿だったルーメンが、ホッとしたように抱き着くのを見て、普段なら絶対に引き離すアルトゥスも見守る。
互いに大切な友人と思っていることは知っているし、その部分に関しては邪魔をするつもりもない。
あれを見て怒り狂っていたルーメンにとって、元気になった姿を見せることは大切なことだ。眠っているときは気遣ってなのか訪ねてこなかったことから、今だけはと思っているのもある。
「行こう。今からで間に合うかだが」
「大丈夫。道は見つけてあるから」
まだリュツィフェールには言っていないことから、自力で探していることになると言われれば、なんとかなるかもしれないとアルトゥスも頷く。
悪魔が絡んだ際、一番頼りになるのはストゥルティだ。だからこそ、リュツィフェールも当初は繋がっている場所を見つけてくれと頼んでいた。
結果を聞かずに行ったということは、自力で見つけるか、強引に行くかということだろう。
今からでも追いつける。ストゥルティがこちらにいれば、大丈夫だと信じているのだ。
夜が明けていく空を見て、急ぐぞと外へ出て飛び上る。さすがに目立つとわかっているから、高度を上げるアルトゥスは、ウィリディスがついていけるかと確認し、問題がないことに驚かされた。
「俺、飛行だけは能力が高いんだ」
どうだ、と言いたそうに胸を張るから、恐れ入ったと素直に認める。
(そういや、鬼ごっこも強かったな)
最初の鬼ごっこはぼんやりしていたが、以降は一度たりとも捕まったことがない。自分達が手を抜いていた部分も加味して、飛行能力は高いと言えるだろう。
翼の色が属性なのではないか、と言われていることから、ウィリディスは風属性なのかもと考える。
(そうなら、そういった力が少しでもいいから使えるか……)
なによりも、風は自分と相性がいいかもしれないと思う。前にはだしたくないことから、力を少しでもいいから使えるようにして、サポートも有りかと笑った。
しかし、ふと我に返る。なにを考えているのかと。ウィリディスを連れて戦場など行くことはないと振り払えば、前だけを見た。
先導していくのはルーメン。実は、道を見つけたのはルーメンだと苦笑いを浮かべるストゥルティ。楽園への侵入といい、抜け穴を見つけるのが得意なのか、と呆れるウィリディス。
「俺も見つけたけど、たぶんこっちの方が近道だと思う」
だからこっちから行くと言われ、任せるとアルトゥスが返す。この問題だけは、リュツィフェールですらストゥルティの判断を優先することから、アルトゥスも同様にしているのだ。
「さすがに、その先へは行ってないからなにがあるかわからない。どうやって行く?」
「お前が前、俺が後ろ。間に二人を挟む」
これでいくと言われ、わかったと真剣な表情で頷く。これは、完全にアルトゥスがすべてを見ると言っているのだ。後方から後ろだけではなく前も、と。
彼なら可能だろうとわかるが、自分まで負担をかけるつもりはない。ストゥルティは、いつまでも護られている末っ子ではないのだ。
今は自分にも、アルトゥスにも一番に護りたい存在がいる。護るために、もっと強くなるのだと思えば、魔界へ繋がる道へと進んでいった。
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