鬼とドラゴン

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森へ

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「さぁ、行こう。ここから北に一キロぐらい進むと小川が流れていて、そこにキャンプ地がある。アラン歩測を頼むよ」

 アランが了解する。歩測とは歩いた歩数を数えて距離を測ることをいう。目印になるものがないときはそうやって進まないと、たとえコンパスと地図があっても迷うことになってしまう。ヴァンはアランに歩測を頼み、自身は地図とコンパスをザックの外側ポケットから出した。

「地図があるのか?」

「うん。これは父さんのだよ。実はキャンプ地にある小屋の位置も記されているんだ。だから、小屋も父さん達が使っていたものだと思う」

「達って、うちの親父か?」

「多分ね。双子だったみたいだしね。父さんとアーサーおじさんは。だから実際に小屋を見つけた時、中には入らなかったんだよ。アランとサクラも一緒にって思ったんだ」

「ヴァンらしいな」

 アランが笑い、ヴァンも笑う。そして当初の目的地、ロアー兄弟の小屋に前進を始めた。整備された道ではなかったものの、木々の間隔は広く歩きやすかった。特に何事もなくたどり着けるだろうとヴァンは考えていた。実際に前回森に入った時は問題なく進めた。しかし、前回はたまたまであったという考えも捨てることはできない。

 
 前進を始めて五百メートル程進んだ時、ヴァンは複数の獣の気配を感じた。そして、どうやらすでに獲物として認識されているようだった。遠吠えが上がる。ヴァンが言うまでもなく他の三人も気づいた。ほとなくしてヴァン達は狼の群に囲まれてしまった。およそ三十頭程はいるだろうか。狼の群は一定の距離をとり、ウロウロと歩き回っていた。ヴァン達を観察しているようだった。狼は野犬と違いキャンキャンと鳴かない。ただ、静かに獲物を包囲する。

 ハナは狼に恐怖を感じていた。無理もない。普段見慣れている犬とは明らかに違う生き物であった。体格は大型犬と大差ないが、決して人に馴れ合わない野生の力強さがあった。ハナは自分が狩られる側だと認識せずにいられなかった。

「戦闘開始だなヴァン? それにしても狼とは、なんというか定番って感じだな」

 アランはどこか楽しそうだ。

「そうだね」

 ザックは下ろさない。その必要もないという判断だ。

「サクラ、ハナを頼むよ。ここは僕とアランでやる」

 サクラはヴァンに言われるまでもなく防壁を展開していた。薄く光る壁がハナとサクラを包んでいる。人間種族が使える防御魔法だ。

 アランは地面に手をついて引き上げた。すると手には黒い棒が握られていた。先日ガニアンが見せた鬼の魔法だ。砂鉄を押し固めて創られた鉄の棒で、長さは身長と同じぐらいで百五十センチ程だった。

「ヴァンもいるか?」

 ヴァンはいらないと答えた。アランの力を借りたくないというつまらない意地ではなく、特に必要性を感じなかった。

 狼は一向に襲いかかってくる様子を見せなかった。獲物を泳がせて疲れきったところで襲いかかる算段であろう。その戦略にヴァンは手緩さを感じた。狼の群の行動は、か弱い動物を相手にしているかのように感じられた。

 アランは焦ったくなり、一番近くにいる狼に鉄棒をくらわすことにした。三メートル程の距離をつめ鉄棒を横なぎに払う。哀れな狼は一撃をくらい、後方にあった木に激突した。即死こそ免れたようであったが、運命はもはや変えられないだろう。そして、これを機に狼の群れの動きが活発になった。いよいよ襲いかかってくるようだった。

 群の一匹がヴァンに襲いかかる。狙いは首の頸動脈だ。ヴァンはこともなげにかわしながら、無防備になった腹に膝をいれる。最初にアランに攻撃された狼のように致命傷になった。二人の少年は次々に狼を打ち倒していった。アランは積極的に動き、ヴァンはカウンターをとるという戦法をとった。


 この時、茂みの中に伏兵がいてサクラとハナの後方から音もなく忍び寄っていた。アランとヴァンは気づかないでいた。サクラとハナも二人の動きに見入っていて気づかない。
 
 そして、茂みから飛び出した三匹の狼が無慈悲に襲いかかる。……しかし、狼達は薄く光る壁に遮られた。進もうにもそれ以上近づけなかった。防壁に遮られてもなお、襲いかかろうとする狼に気づいてサクラは内心動揺した。目の前の光景に見入るあまり、防壁を張っているという自覚を消失していた。もしも、意識だけでなく、防壁まで消失していたならば、自分はともかくとして、ハナは命を失っていたかもしれない。サクラはハナに動揺が伝わらないように、何事もなかったように演じ防壁に意識を集中させた。

 狼の群は最初に現出した時の半数程に減少していた。アランとヴァンの攻撃を受けた狼達は二度と立ち上がることはなかった。そして、終戦は突然であった。群の背後から遠吠えが上がる。そこを見やると一際大きな、黒い毛並みの狼がいた。群のボスと思われた。その一頭が踵を返し走り去ると他の狼達も後に続いた。よく統率されていた。

「もう終わりかよ。つまんねぇな」

 アランが愚痴る。

「いいじゃないか。どこまでやっても、どうせつまらない相手でしょ?」

 ヴァンは警戒を解かないままでアランに言う。

「まぁ、そうだな」
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