16 / 51
森へ
3
しおりを挟む
「さぁ、行こう。ここから北に一キロぐらい進むと小川が流れていて、そこにキャンプ地がある。アラン歩測を頼むよ」
アランが了解する。歩測とは歩いた歩数を数えて距離を測ることをいう。目印になるものがないときはそうやって進まないと、たとえコンパスと地図があっても迷うことになってしまう。ヴァンはアランに歩測を頼み、自身は地図とコンパスをザックの外側ポケットから出した。
「地図があるのか?」
「うん。これは父さんのだよ。実はキャンプ地にある小屋の位置も記されているんだ。だから、小屋も父さん達が使っていたものだと思う」
「達って、うちの親父か?」
「多分ね。双子だったみたいだしね。父さんとアーサーおじさんは。だから実際に小屋を見つけた時、中には入らなかったんだよ。アランとサクラも一緒にって思ったんだ」
「ヴァンらしいな」
アランが笑い、ヴァンも笑う。そして当初の目的地、ロアー兄弟の小屋に前進を始めた。整備された道ではなかったものの、木々の間隔は広く歩きやすかった。特に何事もなくたどり着けるだろうとヴァンは考えていた。実際に前回森に入った時は問題なく進めた。しかし、前回はたまたまであったという考えも捨てることはできない。
前進を始めて五百メートル程進んだ時、ヴァンは複数の獣の気配を感じた。そして、どうやらすでに獲物として認識されているようだった。遠吠えが上がる。ヴァンが言うまでもなく他の三人も気づいた。ほとなくしてヴァン達は狼の群に囲まれてしまった。およそ三十頭程はいるだろうか。狼の群は一定の距離をとり、ウロウロと歩き回っていた。ヴァン達を観察しているようだった。狼は野犬と違いキャンキャンと鳴かない。ただ、静かに獲物を包囲する。
ハナは狼に恐怖を感じていた。無理もない。普段見慣れている犬とは明らかに違う生き物であった。体格は大型犬と大差ないが、決して人に馴れ合わない野生の力強さがあった。ハナは自分が狩られる側だと認識せずにいられなかった。
「戦闘開始だなヴァン? それにしても狼とは、なんというか定番って感じだな」
アランはどこか楽しそうだ。
「そうだね」
ザックは下ろさない。その必要もないという判断だ。
「サクラ、ハナを頼むよ。ここは僕とアランでやる」
サクラはヴァンに言われるまでもなく防壁を展開していた。薄く光る壁がハナとサクラを包んでいる。人間種族が使える防御魔法だ。
アランは地面に手をついて引き上げた。すると手には黒い棒が握られていた。先日ガニアンが見せた鬼の魔法だ。砂鉄を押し固めて創られた鉄の棒で、長さは身長と同じぐらいで百五十センチ程だった。
「ヴァンもいるか?」
ヴァンはいらないと答えた。アランの力を借りたくないというつまらない意地ではなく、特に必要性を感じなかった。
狼は一向に襲いかかってくる様子を見せなかった。獲物を泳がせて疲れきったところで襲いかかる算段であろう。その戦略にヴァンは手緩さを感じた。狼の群の行動は、か弱い動物を相手にしているかのように感じられた。
アランは焦ったくなり、一番近くにいる狼に鉄棒をくらわすことにした。三メートル程の距離をつめ鉄棒を横なぎに払う。哀れな狼は一撃をくらい、後方にあった木に激突した。即死こそ免れたようであったが、運命はもはや変えられないだろう。そして、これを機に狼の群れの動きが活発になった。いよいよ襲いかかってくるようだった。
群の一匹がヴァンに襲いかかる。狙いは首の頸動脈だ。ヴァンはこともなげにかわしながら、無防備になった腹に膝をいれる。最初にアランに攻撃された狼のように致命傷になった。二人の少年は次々に狼を打ち倒していった。アランは積極的に動き、ヴァンはカウンターをとるという戦法をとった。
この時、茂みの中に伏兵がいてサクラとハナの後方から音もなく忍び寄っていた。アランとヴァンは気づかないでいた。サクラとハナも二人の動きに見入っていて気づかない。
そして、茂みから飛び出した三匹の狼が無慈悲に襲いかかる。……しかし、狼達は薄く光る壁に遮られた。進もうにもそれ以上近づけなかった。防壁に遮られてもなお、襲いかかろうとする狼に気づいてサクラは内心動揺した。目の前の光景に見入るあまり、防壁を張っているという自覚を消失していた。もしも、意識だけでなく、防壁まで消失していたならば、自分はともかくとして、ハナは命を失っていたかもしれない。サクラはハナに動揺が伝わらないように、何事もなかったように演じ防壁に意識を集中させた。
狼の群は最初に現出した時の半数程に減少していた。アランとヴァンの攻撃を受けた狼達は二度と立ち上がることはなかった。そして、終戦は突然であった。群の背後から遠吠えが上がる。そこを見やると一際大きな、黒い毛並みの狼がいた。群のボスと思われた。その一頭が踵を返し走り去ると他の狼達も後に続いた。よく統率されていた。
「もう終わりかよ。つまんねぇな」
アランが愚痴る。
「いいじゃないか。どこまでやっても、どうせつまらない相手でしょ?」
ヴァンは警戒を解かないままでアランに言う。
「まぁ、そうだな」
アランが了解する。歩測とは歩いた歩数を数えて距離を測ることをいう。目印になるものがないときはそうやって進まないと、たとえコンパスと地図があっても迷うことになってしまう。ヴァンはアランに歩測を頼み、自身は地図とコンパスをザックの外側ポケットから出した。
「地図があるのか?」
「うん。これは父さんのだよ。実はキャンプ地にある小屋の位置も記されているんだ。だから、小屋も父さん達が使っていたものだと思う」
「達って、うちの親父か?」
「多分ね。双子だったみたいだしね。父さんとアーサーおじさんは。だから実際に小屋を見つけた時、中には入らなかったんだよ。アランとサクラも一緒にって思ったんだ」
「ヴァンらしいな」
アランが笑い、ヴァンも笑う。そして当初の目的地、ロアー兄弟の小屋に前進を始めた。整備された道ではなかったものの、木々の間隔は広く歩きやすかった。特に何事もなくたどり着けるだろうとヴァンは考えていた。実際に前回森に入った時は問題なく進めた。しかし、前回はたまたまであったという考えも捨てることはできない。
前進を始めて五百メートル程進んだ時、ヴァンは複数の獣の気配を感じた。そして、どうやらすでに獲物として認識されているようだった。遠吠えが上がる。ヴァンが言うまでもなく他の三人も気づいた。ほとなくしてヴァン達は狼の群に囲まれてしまった。およそ三十頭程はいるだろうか。狼の群は一定の距離をとり、ウロウロと歩き回っていた。ヴァン達を観察しているようだった。狼は野犬と違いキャンキャンと鳴かない。ただ、静かに獲物を包囲する。
ハナは狼に恐怖を感じていた。無理もない。普段見慣れている犬とは明らかに違う生き物であった。体格は大型犬と大差ないが、決して人に馴れ合わない野生の力強さがあった。ハナは自分が狩られる側だと認識せずにいられなかった。
「戦闘開始だなヴァン? それにしても狼とは、なんというか定番って感じだな」
アランはどこか楽しそうだ。
「そうだね」
ザックは下ろさない。その必要もないという判断だ。
「サクラ、ハナを頼むよ。ここは僕とアランでやる」
サクラはヴァンに言われるまでもなく防壁を展開していた。薄く光る壁がハナとサクラを包んでいる。人間種族が使える防御魔法だ。
アランは地面に手をついて引き上げた。すると手には黒い棒が握られていた。先日ガニアンが見せた鬼の魔法だ。砂鉄を押し固めて創られた鉄の棒で、長さは身長と同じぐらいで百五十センチ程だった。
「ヴァンもいるか?」
ヴァンはいらないと答えた。アランの力を借りたくないというつまらない意地ではなく、特に必要性を感じなかった。
狼は一向に襲いかかってくる様子を見せなかった。獲物を泳がせて疲れきったところで襲いかかる算段であろう。その戦略にヴァンは手緩さを感じた。狼の群の行動は、か弱い動物を相手にしているかのように感じられた。
アランは焦ったくなり、一番近くにいる狼に鉄棒をくらわすことにした。三メートル程の距離をつめ鉄棒を横なぎに払う。哀れな狼は一撃をくらい、後方にあった木に激突した。即死こそ免れたようであったが、運命はもはや変えられないだろう。そして、これを機に狼の群れの動きが活発になった。いよいよ襲いかかってくるようだった。
群の一匹がヴァンに襲いかかる。狙いは首の頸動脈だ。ヴァンはこともなげにかわしながら、無防備になった腹に膝をいれる。最初にアランに攻撃された狼のように致命傷になった。二人の少年は次々に狼を打ち倒していった。アランは積極的に動き、ヴァンはカウンターをとるという戦法をとった。
この時、茂みの中に伏兵がいてサクラとハナの後方から音もなく忍び寄っていた。アランとヴァンは気づかないでいた。サクラとハナも二人の動きに見入っていて気づかない。
そして、茂みから飛び出した三匹の狼が無慈悲に襲いかかる。……しかし、狼達は薄く光る壁に遮られた。進もうにもそれ以上近づけなかった。防壁に遮られてもなお、襲いかかろうとする狼に気づいてサクラは内心動揺した。目の前の光景に見入るあまり、防壁を張っているという自覚を消失していた。もしも、意識だけでなく、防壁まで消失していたならば、自分はともかくとして、ハナは命を失っていたかもしれない。サクラはハナに動揺が伝わらないように、何事もなかったように演じ防壁に意識を集中させた。
狼の群は最初に現出した時の半数程に減少していた。アランとヴァンの攻撃を受けた狼達は二度と立ち上がることはなかった。そして、終戦は突然であった。群の背後から遠吠えが上がる。そこを見やると一際大きな、黒い毛並みの狼がいた。群のボスと思われた。その一頭が踵を返し走り去ると他の狼達も後に続いた。よく統率されていた。
「もう終わりかよ。つまんねぇな」
アランが愚痴る。
「いいじゃないか。どこまでやっても、どうせつまらない相手でしょ?」
ヴァンは警戒を解かないままでアランに言う。
「まぁ、そうだな」
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発
ハーフのクロエ
ファンタジー
アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる