22 / 51
神獣
3
しおりを挟む
神獣。人語を扱える獣のことで魔獣と同じく魔力を有している生物だ。人語を喋る変な獣が大きすぎる虎に襲われている予想外の展開にヴァンは目眩を覚えた。
「……もうどうとでもなれだな」
ヴァンはタイミングを計って神獣へと進路を変えた。瞬間全ての動きがスローモーションのようにヴァンには感じられた。神獣に近づくとこちらの存在に気づいたようで、表情がゆっくりと驚きの顔になり、次いで悲壮の顔に移っていった。
「ぬぅうううをぉぉおおぅ!」
神獣の声までゆっくりに感じられた。神獣の顔と声が可笑しくて吹き出しそうになったが、なんとか耐えて真横からタックルするようにしてかっさらった。目標を失った大虎が立ち止まるとそこにサクラの攻撃が命中した。大虎の足と周りの地面が凍結する。
サクラとヴァンは合流するとそのままひた走った。助けた珍妙なる生物はヴァンの腕の中でグッタリとしていた。どうやら失神しているようだった。
アランとハナがティータイムを初めてから三十分が過ぎようとしていた。二杯目のお茶を飲み終わった後、アランが呟く。
「……あいつらはぐれやがったな」
すぐに戻ってくるかもしれないと考えていたが甘かったようだ。アランがハナを見ると、マグカップを両手に持ってまだ一杯目のお茶を飲んでいた。
「大丈夫かな? ヴァンとサクラちゃん」
「襲われていた奴はどうかわからんが、あの二人は大丈夫だろ」
「そう?」
「ああ。最悪逃げることに徹すればやられたりはしないさ。それよりこれから俺達がどうするかだな」
「ヴァンの家に帰る?」
ヴァンの家は第二集合点に設定されていた。はぐれた場合はそこへ向かうことが当初の予定だった。
「そうだな……そうするか」
ハナがアランを見つめる。アランがその視線に気づく。
「ん? どうした?」
「意外……。アランが何もしないで帰るって言うなんて。絶対探しに行くって言うと思ったのに」
「あてもなくこの森を歩く程バカじゃない。そんなことすりゃ遭難するのがオチさ」
ハナは少し迷った後、決意して言う。
「あてならあるよ」
「どうゆうことだ?」
「うん。ちょっと待って」
ハナはそう言うと両の手の平を胸の前で合わせた。そして魔力を放出する。何かしらの魔法を発動させたのだ。手を開くとそこには八角形をした箱があった。ハナが箱のフタを開けるとそれがコンパスであることがアランにも分かった。
「……魔法具か?」
人間種族は陣魔法の他に、魔法効果を有する道具を具現化する魔法を持っていた。しかしこの魔法具は誰でもできるというわけではなかった。陣魔法より高度な能力で、通常ハナのようなEクラスの者には扱えないものであった。稀に陣魔法は苦手だが魔法具は得意というかわり者もいたが、ハナもそのくちであると思われた。
「このコンパスの針は北の方角じゃなくて、私が探しているものの方向を指してくれるの。人でも物でも」
「それでヴァンがいる方向がわかるのか?」
「うん」
ハナはそう言ってコンパスの針が示す方向をアランにもわかるように指差す。
「あっちの方向、一キロくらい先にいるわ」
「距離までわかるのか。……なんで今まで使わなかった? それがあれば魔女の場所も分かったはずだろう?」
「発動条件があるの。私が直接見て触れたことのあるものでないとダメなの」
「……そうか」
「それじゃ探しに行く?」
「いや、だめだ」
「どうして?」
ハナはどうしてアランが渋るのか理解できなかった。アランらしくない。
「今朝も言ったけどな、俺は防壁が使えないんだ。いざという時にお前を守りきれるかわからない。それが理由だ」
「アランは優等種でしょ? 人間の魔法が使えるんじゃないの?」
「ああ。だけど俺が人間の魔法で使えるのは陣魔法だけだ。基本は鬼なんだよ、俺は」
「そうなの? だけど防壁が使えないなら自分の身はどうやって守るの?」
「鬼には鬼の防御魔法がある。まぁ攻撃にも使うから攻防魔法って言うのが正しいんだけどな」
アランは見てな、と言うと全身から魔力を放出した。光の膜がアランを包む。人間の防壁は使用者を中心にドーム状に展開されるが、アランのものはブヨブヨとした魔力が揺らぎながら身体にまとわりついていた。
「これは波動っていう。攻撃にも防御にも使えるが、防壁と違って仲間を守れるようにはできていないんだよ。だからお前を連れてこれ以上は進めない」
「……もうどうとでもなれだな」
ヴァンはタイミングを計って神獣へと進路を変えた。瞬間全ての動きがスローモーションのようにヴァンには感じられた。神獣に近づくとこちらの存在に気づいたようで、表情がゆっくりと驚きの顔になり、次いで悲壮の顔に移っていった。
「ぬぅうううをぉぉおおぅ!」
神獣の声までゆっくりに感じられた。神獣の顔と声が可笑しくて吹き出しそうになったが、なんとか耐えて真横からタックルするようにしてかっさらった。目標を失った大虎が立ち止まるとそこにサクラの攻撃が命中した。大虎の足と周りの地面が凍結する。
サクラとヴァンは合流するとそのままひた走った。助けた珍妙なる生物はヴァンの腕の中でグッタリとしていた。どうやら失神しているようだった。
アランとハナがティータイムを初めてから三十分が過ぎようとしていた。二杯目のお茶を飲み終わった後、アランが呟く。
「……あいつらはぐれやがったな」
すぐに戻ってくるかもしれないと考えていたが甘かったようだ。アランがハナを見ると、マグカップを両手に持ってまだ一杯目のお茶を飲んでいた。
「大丈夫かな? ヴァンとサクラちゃん」
「襲われていた奴はどうかわからんが、あの二人は大丈夫だろ」
「そう?」
「ああ。最悪逃げることに徹すればやられたりはしないさ。それよりこれから俺達がどうするかだな」
「ヴァンの家に帰る?」
ヴァンの家は第二集合点に設定されていた。はぐれた場合はそこへ向かうことが当初の予定だった。
「そうだな……そうするか」
ハナがアランを見つめる。アランがその視線に気づく。
「ん? どうした?」
「意外……。アランが何もしないで帰るって言うなんて。絶対探しに行くって言うと思ったのに」
「あてもなくこの森を歩く程バカじゃない。そんなことすりゃ遭難するのがオチさ」
ハナは少し迷った後、決意して言う。
「あてならあるよ」
「どうゆうことだ?」
「うん。ちょっと待って」
ハナはそう言うと両の手の平を胸の前で合わせた。そして魔力を放出する。何かしらの魔法を発動させたのだ。手を開くとそこには八角形をした箱があった。ハナが箱のフタを開けるとそれがコンパスであることがアランにも分かった。
「……魔法具か?」
人間種族は陣魔法の他に、魔法効果を有する道具を具現化する魔法を持っていた。しかしこの魔法具は誰でもできるというわけではなかった。陣魔法より高度な能力で、通常ハナのようなEクラスの者には扱えないものであった。稀に陣魔法は苦手だが魔法具は得意というかわり者もいたが、ハナもそのくちであると思われた。
「このコンパスの針は北の方角じゃなくて、私が探しているものの方向を指してくれるの。人でも物でも」
「それでヴァンがいる方向がわかるのか?」
「うん」
ハナはそう言ってコンパスの針が示す方向をアランにもわかるように指差す。
「あっちの方向、一キロくらい先にいるわ」
「距離までわかるのか。……なんで今まで使わなかった? それがあれば魔女の場所も分かったはずだろう?」
「発動条件があるの。私が直接見て触れたことのあるものでないとダメなの」
「……そうか」
「それじゃ探しに行く?」
「いや、だめだ」
「どうして?」
ハナはどうしてアランが渋るのか理解できなかった。アランらしくない。
「今朝も言ったけどな、俺は防壁が使えないんだ。いざという時にお前を守りきれるかわからない。それが理由だ」
「アランは優等種でしょ? 人間の魔法が使えるんじゃないの?」
「ああ。だけど俺が人間の魔法で使えるのは陣魔法だけだ。基本は鬼なんだよ、俺は」
「そうなの? だけど防壁が使えないなら自分の身はどうやって守るの?」
「鬼には鬼の防御魔法がある。まぁ攻撃にも使うから攻防魔法って言うのが正しいんだけどな」
アランは見てな、と言うと全身から魔力を放出した。光の膜がアランを包む。人間の防壁は使用者を中心にドーム状に展開されるが、アランのものはブヨブヨとした魔力が揺らぎながら身体にまとわりついていた。
「これは波動っていう。攻撃にも防御にも使えるが、防壁と違って仲間を守れるようにはできていないんだよ。だからお前を連れてこれ以上は進めない」
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発
ハーフのクロエ
ファンタジー
アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる