鬼とドラゴン

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神獣

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 神獣。人語を扱える獣のことで魔獣と同じく魔力を有している生物だ。人語を喋る変な獣が大きすぎる虎に襲われている予想外の展開にヴァンは目眩を覚えた。

「……もうどうとでもなれだな」

 ヴァンはタイミングを計って神獣へと進路を変えた。瞬間全ての動きがスローモーションのようにヴァンには感じられた。神獣に近づくとこちらの存在に気づいたようで、表情がゆっくりと驚きの顔になり、次いで悲壮の顔に移っていった。

「ぬぅうううをぉぉおおぅ!」

 神獣の声までゆっくりに感じられた。神獣の顔と声が可笑しくて吹き出しそうになったが、なんとか耐えて真横からタックルするようにしてかっさらった。目標を失った大虎が立ち止まるとそこにサクラの攻撃が命中した。大虎の足と周りの地面が凍結する。

 サクラとヴァンは合流するとそのままひた走った。助けた珍妙なる生物はヴァンの腕の中でグッタリとしていた。どうやら失神しているようだった。


 アランとハナがティータイムを初めてから三十分が過ぎようとしていた。二杯目のお茶を飲み終わった後、アランが呟く。

「……あいつらはぐれやがったな」

 すぐに戻ってくるかもしれないと考えていたが甘かったようだ。アランがハナを見ると、マグカップを両手に持ってまだ一杯目のお茶を飲んでいた。

「大丈夫かな? ヴァンとサクラちゃん」

「襲われていた奴はどうかわからんが、あの二人は大丈夫だろ」

「そう?」

「ああ。最悪逃げることに徹すればやられたりはしないさ。それよりこれから俺達がどうするかだな」

「ヴァンの家に帰る?」

 ヴァンの家は第二集合点に設定されていた。はぐれた場合はそこへ向かうことが当初の予定だった。

「そうだな……そうするか」

 ハナがアランを見つめる。アランがその視線に気づく。

「ん? どうした?」

「意外……。アランが何もしないで帰るって言うなんて。絶対探しに行くって言うと思ったのに」

「あてもなくこの森を歩く程バカじゃない。そんなことすりゃ遭難するのがオチさ」

 ハナは少し迷った後、決意して言う。

「あてならあるよ」

「どうゆうことだ?」

「うん。ちょっと待って」

 ハナはそう言うと両の手の平を胸の前で合わせた。そして魔力を放出する。何かしらの魔法を発動させたのだ。手を開くとそこには八角形をした箱があった。ハナが箱のフタを開けるとそれがコンパスであることがアランにも分かった。

「……魔法具か?」

 人間種族は陣魔法の他に、魔法効果を有する道具を具現化する魔法を持っていた。しかしこの魔法具は誰でもできるというわけではなかった。陣魔法より高度な能力で、通常ハナのようなEクラスの者には扱えないものであった。稀に陣魔法は苦手だが魔法具は得意というかわり者もいたが、ハナもそのくちであると思われた。

「このコンパスの針は北の方角じゃなくて、私が探しているものの方向を指してくれるの。人でも物でも」

「それでヴァンがいる方向がわかるのか?」

「うん」

 ハナはそう言ってコンパスの針が示す方向をアランにもわかるように指差す。

「あっちの方向、一キロくらい先にいるわ」

「距離までわかるのか。……なんで今まで使わなかった? それがあれば魔女の場所も分かったはずだろう?」

「発動条件があるの。私が直接見て触れたことのあるものでないとダメなの」

「……そうか」

「それじゃ探しに行く?」

「いや、だめだ」

「どうして?」

 ハナはどうしてアランが渋るのか理解できなかった。アランらしくない。

「今朝も言ったけどな、俺は防壁が使えないんだ。いざという時にお前を守りきれるかわからない。それが理由だ」

「アランは優等種でしょ? 人間の魔法が使えるんじゃないの?」

「ああ。だけど俺が人間の魔法で使えるのは陣魔法だけだ。基本は鬼なんだよ、俺は」

「そうなの? だけど防壁が使えないなら自分の身はどうやって守るの?」

「鬼には鬼の防御魔法がある。まぁ攻撃にも使うから攻防魔法って言うのが正しいんだけどな」

 アランは見てな、と言うと全身から魔力を放出した。光の膜がアランを包む。人間の防壁は使用者を中心にドーム状に展開されるが、アランのものはブヨブヨとした魔力が揺らぎながら身体にまとわりついていた。

「これは波動っていう。攻撃にも防御にも使えるが、防壁と違って仲間を守れるようにはできていないんだよ。だからお前を連れてこれ以上は進めない」
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