鬼とドラゴン

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森の魔女と土地の主

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屋外から戻って来たヴァン達が見たものは立ちすくむハナの姿だった。何事かとハナに視線の先を見るとキッチンの方に白い大きな猫が座っていた。その姿勢でも頭の位置は二メートルを超えていた。昼間の虎に比べれば小さいものの、家に居るには大きすぎるサイズであった。アランは変わらず眠りこけているし、ヤオファは何事もないようにくつろいでいる。ハナは立ちつくすほかなかったのだろう。

「あら、もういらしてたんですね」

 セヘルが気軽に話しかける大きな猫はそれとわかる特異なオーラを発していた。

「この方がこの森の主様よ。私は勝手にシロさんとか猫神様とか呼んでいるけど本当の名前はわからないわ」

 セヘルは主に脇を通るとキッチンのの棚から何やら箱を取り出した。大型犬が使うような大きめの皿を主の眼前に置くと、飼い猫に与えるようにザラザラと箱の中身を器の中に落としていった。

「セヘルさん、それは……?」

「キャットフードよ。シロさんの好物なの」

 サクラの問いにセヘルはこともなげに答える。

「猫好みに作ってあるとはいえ、まさか威厳ある土地主まで虜にするとは……」

 サクラが感心している間にカツカツと音を立てながら猫神とも呼ばれているそれは一気にキャットフードを平らげた。サイズ以外は普通の猫のようだった。


「さぁ、グルナイユさん」

 食事を終えて毛を整えている猫神の前にセヘルがグルナイユを案内する。精一杯事情を説明するグルナイユを猫神はただジーっと見つめていた。話が終わった後、反応を伺うグルナイユに猫神は目を細めた。そして顔を近づけるとペロリとグルナイユをひと舐めした。

「ひゃうっ」

 グルナイユは驚いて変な声を漏らした。そしてさらに驚くことになる。猫神はセヘルを一瞥した後、突如姿を消した。グルナイユは猫神がいた空間に手を伸ばしたが何も掴むことはできなかった。ヤオファやセヘルのように透明になって姿を隠したのではなく、存在が空間から消えていた。

「安心してグルナイユさん。シロさんは了承したと思うわ」

「それは良かったですが、シロ様はいったい?」

 セヘルには事情が飲み込めているようだった。

「空間転移よ。おそらく何かしらのマーキングをしていて、そこへなら一瞬で移動できてしまうのだと考えられるけど、私には正確な魔法理論はわからないわ。今頃この森のどこかにある寝床にでもいるのでしょうね」

 空間転移。セヘルは簡単に言ったがそれは相当に高等な魔法であった。おそらくSクラスの魔力を有するエルフでさえ補助がなければ不可能であろう。そのようなものを見せられてヴァン達は誰も声を発することができなかった。

「さぁ、皆さん。今日はもう遅いから帰り支度をしましょう」

 小窓からは西日がさしていた。もうじき日が暮れるだろう。ヴァン達は我にかえりセヘルの言葉に従った。


「それじゃあ、またいらしてね。ガニアンにもよろしく」

 セヘルの家の裏手にある小道を十数メートル歩くとそこには森と街を隔てる柵があり、勝手口が作られていた。そこでセヘルに見送られた。さらに小道を進むと見覚えのある道に突き当たった。そこはヴァンの家からそう離れていない場所であった。ガニアンもおそらくこの道を通ってセヘルの家へ行き来したのだろう。

「あーあ、じいちゃんに遊ばれちまったな」

 さっきまで寝ぼけていたアランが愚痴る。

「まんまとやられたね。だけど楽しかったし、良かったんじゃない?」

「グルちゃんにも会えたしね」

 サクラがヴァンの言葉に付け足す。そのグルナイユは今サクラの腕に抱かれている。サクラが家に来て欲しいとせがんだのだ。グルナイユは今もどこかに一人でいるご主人に申し訳ないと最初は遠慮したものの結局サクラに押し切られてしまった。

「ところでアラン。昼間に別れた後、どうやって僕達に追いついたの? ずっと疑問だったんだ」

「……それは秘密だ。な、ハナ?」

 うん、とハナが答える。ヴァンはアランとハナが共通の秘密を持つことに少しだけ妬いた。

「そう。それならいいんだ」

「おい、ヴァン。怒るなよ? これに関しては元々俺達を置いてったお前が悪いんだからな?」

「大丈夫。わかってるよ」

 本当のところはヴァンにも推測はついていた。ハナが何らかの能力を使用したのだと考えていた。アランには探索的な能力はない。となればハナだが、特殊能力は隠すのが基本だ。アランはハナを気遣って秘密としているのだろう。これ以上探りを入れるのは野暮というものだった。だからヴァンはそれ以上の追求はしなかった。
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