【完結】裏切られ婚約破棄した聖女ですが、騎士団長様に求婚されすぎそれどころではありません!

綺咲 潔

文字の大きさ
60 / 77

60話 ハンカチの約束

しおりを挟む
 軍司令官の話を聞いて、私は事態の恐ろしさを改めて認識した。そのため、私の参戦は避けられないという考えの元、入念な戦闘準備をすることにした。

 話し合いの場から解散した後、救護所で戦闘準備をしていると、軍司令官が地図を持ってやってきた。そして、私の姿を見つけると、その手に持った地図を広げて話しかけてきた。

「ウィルキンス君、配置の説明をしに来た」

 そう言うと、広げた地図の一点を指し示し、軍司令官は話を続けた。

「君にはこの地点に居てもらう。治療が目的だが、君の力を使わずとも治るレベルの怪我に関しては、万が一に備え、魔力を使っての治療をセーブしてほしい」
「はい、承知しました」
「物分かりが良くて助かるよ。よろしく頼む」

 そう言うと、軍司令官は救護所のすぐ外にいた第8騎士団にも話しかけ始めた。

「第8騎士団の諸君。君たちは、手分けをして今回の討伐参加者の全ての人間に、今すぐ保護魔法をかけて回ってくれ」
「御意!」

 この返事をしてすぐに、第8騎士団はすべての団員に保護魔法をかけ始めた。

 第8騎士団の人たちも、魔力を温存しなければならないはず。となると、あまり強固な保護魔法はかけられないと思うけれど、無いよりはましなはずよね。そんなことを考えながら、私はひっそり自分に保護魔法をかけた。

 こうして、第8騎士団がすべての人に保護魔法をかけ始め、最後の一人になった時には、夕日も落ちかけるというような時間になっていた。

――もし、夜になった瞬間に襲ってきたらどうしましょう……。
 何だか本当に嫌な予感がするわ。
 これが、嵐の前の静けさなのかしら……?

 夕日が完全に沈み、夜になって辺りはすっかり真っ暗になった。そんな状況で、ヒヤヒヤと不安を感じながら一人軍司令官の指示通り救護所にいた。

 だが、特別何が起こるでも無く夜は明けた。ちなみに、夜に辺りを調べていた偵察部隊も何もトラブルが無く、怪我人も出ない状態で帰ってきた。

 そして、今日も皆が捜索に言ったが、昨日の昼とは違い、誰もアンデッドの姿を確認することなく帰ってきた。

――こんなにアンデッドの姿が見当たらないなんておかしいわ。
 一体どうなっているというの……?

 いつ何が起こるか分からないから、いっさいの油断は許されない。そんな状況の中、私は体力や魔力を消費しない程度に、ちまちまポーションを量産していた。こうして私に今できる作業を一日中進めていると、食事をとる時間がやってきた。

 今回の討伐では、食事をとる時間を部隊ごとにばらけさせている。いつ奇襲があっても、即座に対応できるようにするためだ。

 そのため、今の状況を嵐の前の静けさだと思っている私は、自覚があるくらいピリピリと気が立った状態になっていた。そしてそんな精神状態のまま、一人救護所内で夕食を取り始めた。

 すると、食べ始めてから数分後、おもむろに救護所となっているテントの入り口がごそごそとした。

――もしアンデッドだったら……。

 そう心配をしたが、それは杞憂に終わった。なぜなら、救護所に入って来たのはアンデッドではなく、エンディミオン様だったからだ。そして、彼は入ってくるなり声をかけてきた。

「ちゃんと食事はとれていますか? 今日もクリスタ様は、大変愛らしいですね」
「今日みたいな日に凝りませんね……」

 突然入ってくるなり甘い言葉をかけられ、つい呆れたように言ってしまった。だが、いつも通りに接してくれる彼を見たら安心することができ、私は彼に僅かに微笑んだ。

 すると、エンディミオン様も私の顔を見て、嬉しそうに微笑み返してくれた。しかし、彼はすぐに真剣な表情になり、真面目な話を始めた。

「今回の戦いは死者が出てもおかしくないです。何も無ければ明日の夕方、こちらから作戦を開始しますが、あちら側の奇襲により、突然戦闘になる可能性もあります。っクリスタ様……何があろうと必ずお守りします」

 その言葉に、私の胸はギュッと締め付けられる思いがした。なんだか、エンディミオン様が犠牲的な物言いをしているような気がしたからだ。

「ちょっと待っていてください」

 そう声をかけ、私は自身が持って来たカバンの中からあるものを取り出し、彼に差し出した。

「エンディミオン様、こちらを受け取ってください」
「これは……私が……」

 エンディミオン様が呟いたもの、それはかつてエンディミオン様が私にくれた、ドラゴンの刺繍が入ったハンカチだった。

 私のことに関して犠牲的になりそうな彼を考え、何か彼の危うさを軽減させるための方法が無いかと考えた結果、私はこのハンカチを彼に託すことにしたのだ。

「エンディミオン様。この戦いが終わったら、必ず私にこのハンカチを返しに来てください」

 彼の手を掴み、私は彼にハンカチを握らせた。すると、エンディミオン様は戸惑ったような表情で口を開いた。

「私が作ったものを私が持つのですか? よろしければクリスタ様に持っていていただきたいのですが――」
「これは私にとって、とっても大事なもの、私の宝物なんです。だからこそ、お守りとしてあなたが持っていてください。返さなかったら許しませんから」

 そう告げると、彼は顔を頬を赤く染め、噛み締めるような笑顔で服の内ポケットにハンカチを収納した。

「必ずクリスタ様にお返しいたします!」
「はい、約束ですよ」

 そう言って、私はかつてギル様としたように、エンディミオン様に小指を差し出した。すると、エンディミオン様はその小指に小指を絡ませ、深く頷きを返してくれた。

 そんな時だった。突然救護所の外から切羽詰まったような、一人の団員の大声が聞こえてきた。

「アンデッドを確認! 至急作戦を実行する! プランCだ!」

 響き渡るその声を聞き、辺りに戦慄が走った。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

【完結】偽物聖女は冷血騎士団長様と白い結婚をしたはずでした。

雨宮羽那
恋愛
 聖女補佐官であるレティノアは、補佐官であるにも関わらず、祈りをささげる日々を送っていた。  というのも、本来聖女であるはずの妹が、役目を放棄して遊び歩いていたからだ。  そんなある日、妹が「真実の愛に気づいたの」と言って恋人と駆け落ちしてしまう。  残されたのは、聖女の役目と――王命によって決められた聖騎士団長様との婚姻!?  レティノアは、妹の代わりとして聖女の立場と聖騎士団長との結婚を押し付けられることに。  相手のクラウスは、「血も涙もない冷血な悪魔」と噂される聖騎士団長。クラウスから「俺はあなたに触れるつもりはない」と言い放たれたレティノアは、「これは白い結婚なのだ」と理解する。  しかし、クラウスの態度は噂とは異なり、レティノアを愛しているようにしか思えなくて……?  これは、今まで妹の代わりの「偽物」として扱われてきた令嬢が「本物」として幸せをつかむ物語。 ◇◇◇◇ お気に入り登録、♡、感想などいただければ、作者が大変喜びます! モチベになるので良ければ応援していただければ嬉しいです♪ ※いつも通りざまぁ要素は中盤以降。 ※完結まで執筆済み ※表紙はAIイラストです ※アルファポリス先行投稿(他投稿サイトにも掲載予定です)

捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。

蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。 これで、貴方も私も自由です。 ……だから、もういいですよね? 私も、自由にして……。 5年後。 私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、 親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、 今日も幸せに子育てをしています。 だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。 私のことは忘れて……。 これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。 はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?

破滅フラグから逃げたくて引きこもり聖女になったのに「たぶんこれも破滅ルートですよね?」

氷雨そら
恋愛
「どうしてよりによって、18歳で破滅する悪役令嬢に生まれてしまったのかしら」  こうなったら引きこもってフラグ回避に全力を尽くす!  そう決意したリアナは、聖女候補という肩書きを使って世界樹の塔に引きこもっていた。そしていつしか、聖女と呼ばれるように……。  うまくいっていると思っていたのに、呪いに倒れた聖騎士様を見過ごすことができなくて肩代わりしたのは「18歳までしか生きられない呪い」  これまさか、悪役令嬢の隠し破滅フラグ?!  18歳の破滅ルートに足を踏み入れてしまった悪役令嬢が聖騎士と攻略対象のはずの兄に溺愛されるところから物語は動き出す。 小説家になろうにも掲載しています。

偽聖女と追放された私は、辺境で定食屋をはじめます~こっそり生活魔法で味付けしていたら、氷の騎士団長様が毎日通ってくるんですけど!?~

咲月ねむと
恋愛
【アルファポリス女性向けHOTランキング1位達成作品!!】 あらすじ 「役立たずの偽聖女め、この国から出て行け!」 ​聖女として召喚されたものの、地味な【生活魔法】しか使えず「ハズレ」の烙印を押されたエリーナ。 彼女は婚約者である王太子に婚約破棄され、真の聖女と呼ばれる義妹の陰謀によって国外追放されてしまう。 ​しかし、エリーナはめげなかった。 実は彼女の【生活魔法】は、一瞬で廃墟を新築に変え、どんな食材も極上の味に変えるチートスキルだったのだ! ​北の辺境の地へ辿り着いたエリーナは、念願だった自分の定食屋『陽だまり亭』をオープンする。 すると、そこへ「氷の騎士団長」と恐れられる冷徹な美形騎士・クラウスがやってきて――。 ​「……味がする。お前の料理だけが、俺の呪いを解いてくれるんだ」 ​とある呪いで味覚を失っていた彼は、エリーナの料理にだけ味を感じると判明。 以来、彼は毎日のように店に通い詰め、高額な代金を置いていったり、邪魔する敵を排除したりと、エリーナを過保護なまでに溺愛し始める。 ​最強の騎士団長と騎士たちに胃袋を掴んで守られながら、エリーナは辺境で幸せなスローライフを満喫中?

聖女の力は「美味しいご飯」です!~追放されたお人好し令嬢、辺境でイケメン騎士団長ともふもふ達の胃袋掴み(物理)スローライフ始めます~

夏見ナイ
恋愛
侯爵令嬢リリアーナは、王太子に「地味で役立たず」と婚約破棄され、食糧難と魔物に脅かされる最果ての辺境へ追放される。しかし彼女には秘密があった。それは前世日本の記憶と、食べた者を癒し強化する【奇跡の料理】を作る力! 絶望的な状況でもお人好しなリリアーナは、得意の料理で人々を助け始める。温かいスープは病人を癒し、栄養満点のシチューは騎士を強くする。その噂は「氷の辺境伯」兼騎士団長アレクシスの耳にも届き…。 最初は警戒していた彼も、彼女の料理とひたむきな人柄に胃袋も心も掴まれ、不器用ながらも溺愛するように!? さらに、美味しい匂いに誘われたもふもふ聖獣たちも仲間入り! 追放令嬢が料理で辺境を豊かにし、冷徹騎士団長にもふもふ達にも愛され幸せを掴む、異世界クッキング&溺愛スローライフ! 王都への爽快ざまぁも?

「偽聖女」と追放された令嬢は、冷酷な獣人王に溺愛されました~私を捨てた祖国が魔物で滅亡寸前?今更言われても、もう遅い

腐ったバナナ
恋愛
伯爵令嬢フィーア・エメラインは、地味で効果が現れるのに時間がかかる「大地の浄化」の力を持っていたため、派手な治癒魔法を使う異母妹リシアンの嫉妬により、「偽聖女」として断罪され、魔物汚染が深刻な獣人族の国へ追放される。 絶望的な状況の中、フィーアは「冷酷な牙」と恐れられる最強の獣人王ガゼルと出会い、「国の安寧のために力を提供する」という愛のない契約結婚を結ぶ。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

処理中です...