【完結】あなたに私を捧げます〜生き神にされた私は死神と契約を結ぶ~

綺咲 潔

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50 苦肉の策

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 天界か中有界にあったモノだなんて、何があるだろうか。
 服はなぜかここで着ていた服に戻っているし……。

――あっ!

 あるモノが頭に浮かび、私は急いでポケットの中から出したそれをルニーさんに見せた。

「このリボンはどうですか?」
「それは人間界のものだよ」

 突然、ベリーの声がそう告げた。

「でも、これはシドがくれたものよ?」
「うん。それはシド様が人間界で用意したものだから」
「えっ……そうだったの!?」
「オーロラさんに似合う完璧なものを探すんだって、色々探し回ってたですっ……」

 私が知らなかったが、どうやらこのリボンの入手方法をベリーとアールたちは知っていたみたいだ。

「オーロラに渡す前、ソワソワしながらずっと気にいるかなって言ってたよ」

 ベリーのその言葉に、私は息を呑んだ。

 まさか、シドがそこまで真剣に選んでくれていたとは、思ってもみなかったのだ。

 心がズキンと痛んだ。

「そう言えば……」

 ふと、ルニーさんが何かを閃いたような声を出した。

「どうしたんですか?」
「あのね、恐らく勘違いではないと思うんだけれど……。さっき来た水色の髪の人。あの男性が着けていた指輪から、天界のオーラを感じたの」

――ロイス陛下のあの指輪が、天界のモノ……?

 精巧な造りをした、例の美麗な指輪を頭に思い浮かべる。そのとき、ベリーとアールが声をかけてきた。

「ボクも感じたよ!」
「ぼくもなのです!」
「……二人も感じたのね」

 ということは、ほぼ確実にあの指輪は天界のモノなのだろう。
 全員がそう思っているんだから、きっと間違いないはずだ。

 ルニーさんの言う通り指輪を持って礼拝堂に行ったら、私はあちらの世界に戻ることができる。

 だけど、ここで一つ気になることがあった。

「ルニーさん、戻ったとして……どこに戻るんですか?」
「実は、それが問題なのよ」
「問題って?」

 ルニーさんに問いかけると、彼女は佇まいを整えるように羽を畳み直して告げた。

「戻った時、その指輪の本来の持ち主のところに行くことになるのよ」
「えっ……。じゃあ、あっちの世界のどこに戻るか分からないということですか?」
「ええ、いわゆる賭けになるわね」

 なんてことだろうか。

 シドを助けに行かないといけないというこの場面で、どこに戻れるかも不確かだなんて……。

 しかし、それと同じくらい重大な問題があった。陛下の指輪を、どうやって入手するかということだ。

 前に陛下が、あの指輪のことを“王が引き継ぎし指輪”と言っていた覚えがある。しかもあのとき、これだけは譲れないと謎の念押しまでされた。

――そんな指輪をどうやって……。

 途方にくれたような気持ちになる。だが、そんなことは言っていられない。

 私は必死にあの指輪を入手する方法を考えた。そして、ある一つの手段を思いついた。

 こんなことはしたくない。嫌すぎる。
 でも、今回ばかりは背に腹は代えられない。

 そう、意を決して告げた。

「あの指輪を入手する作戦を一つ思いついたわ」
「どんな作戦?」

 ルニーさんとベリーが声を重ねて訊ねてくる。
 だけど――

「……言えないの。ただ、信じて待っててほしい」
「分かったですよ!」

 間髪入れず、アールの気がいい返事が耳に届く。
 続けて、ベリーとルニーさんが少し間を置き「分かった」返事してくれた。

 信用してくれた三人には、心から感謝しかない。

「ありがとう。どんな手段を使ってでも、必ず指輪を手に入れるからっ……」


 ◇◇◇


 作戦決行予定の夜になった。すると、案の定ロイス陛下は私の元へとお酒を持ってやってきた。

「オーロラ、このワインは美味いんだ。飲んでみてくれ」
「ありがとうございます。でも、私ばかり飲んでも楽しくないです。どうぞ、陛下の分をお注ぎいたします」

 私はワインボトルを手に取り、陛下と目を合わせて持ち上げた。

 すると、陛下は途端に頬を緩め私にしなだれかかるように抱き着いてきた。

 本気で反吐が出そうだ。だが、作戦のためにもここは耐え、より良い状態に持っていくことにした。

「陛下っ……」
「ん、どうした?」

 陛下が嬉しそうに、私の顔を覗き込む。そのとき、私は近くにいた給仕の使用人たちに視線を移した。

「その……恥ずかしいですっ……」

 陛下にだけ聞こえるように、耳元で小さく囁く。
 すると、陛下はみるみると機嫌のよさが増した顔になり、給仕係に向かって払うように手を振った。
 その瞬間、その場にいた給仕係たちは一礼をし、全員部屋から退室した。

「オーロラ、これで望み通り二人きりだな」

 陛下はそう言って笑うと、私にワイングラスを差し出した。そして「今夜は飲み明かそう」と言い、私の手に持ったグラスにカチンとグラスを合わせた・

 それから一刻が経った頃、陛下は完全に酔い潰れていた。乗せて乗せて、ワイン以外は度数の高いお酒を飲ませ続けたのだ。

「陛下、ベッドで休まれますか?」
「あ? ああ……そうらな、それあいい」

 舌っ足らずになった陛下は、ベッドに行くことを所望した。その意に添うように、私は嫌悪感を押し殺し、陛下をベッドまで運んでいった。

 ドサッ――

 力が抜けきり重たくなった陛下を、何とか運びベッドに寝転がせる。
 それからしばらくすると、陛下からスースーと寝息が聞こえてきた。

――よし、うまくいったわ!

 つい上がりそうになる口角を抑え、私は指輪に目を向ける。

 飲んでいる途中、何度目線を持っていきそうになるのを堪えたか。でも、今は眠っているから、いくら見ても陛下は気付かない。

 この指輪をこっそり抜き取ったら、そのまま礼拝堂まで一直線に走る。そうやって脳内で入念なシミュレーションを繰り返す。

――よし、作戦決行よ。

 ついに腹を括り、私は気持ちを引き締め直して、彼の指輪に手を伸ばした。

 そのときだった。

「オーロラ」
「へ、陛下……?」

 さきほどまで寝息を立てて眠っていた陛下が、突然目を開いた。かと思えば、指輪を取ろうと伸ばした方の手首を突然掴んできた。

 そして、告げた。

「どこに行く気だ」
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