27 / 39
27話 脱却
しおりを挟む
今の私の周りには、耳が聞こえなくても受け入れてくれる人がいる。それに愛する人まで出来た。新しい町に来たことで、私はかつての地獄のような環境から脱却出来たのだと実感している。
耳が聞こえないことを伝えても大丈夫だと思える環境を作ってくれたアダム、メアリーさん、ジェイスさんには感謝しかない。でも、3人にこの感謝を伝えても、当たり前のこと、普通のことと笑い飛ばすのだろう。
この3人に出会えたことは、私の人生の転換点だった。そして、かつての私には考えてもみなかったことが、明日ついに実現する。
私とアダムの結婚式が行われるのだ。
そのため、今日は結婚式の前日のため、アダムのご両親と弟さんのお墓に挨拶しに行くことになった。アダムに案内され、まずは墓前に花を手向け自己紹介をした。
「こんにちは、シェリー・スフィアと申します」
目の前にいるのは生きている人ではなく、お墓だ。だけど、私は本当に生きている人間が目の前にいるかのように話しかけた。
「私は息子さんとお付き合いしており、明日結婚します。……アダムを生んで、育ててくださってありがとうございます」
私は想いが込み上げ、墓前でアダムについて語りかけた。
「私は人生を辛く感じ、死ぬまでこんな人生を送るのかと絶望したことがありました。だけど、そんな私をアダムは助け出してくれました。私は生きてきた人生で一番今が幸せです。そして、私をそんな気持ちにさせてくれたのは、他でもないアダムです」
感極まりそうな私の様子を見て、アダムはそっと肩に手を回してきた。そのアダムの腕に安心感を覚える。そして、私は最後の言葉を続けた。
「アダムがいてくれたおかげで、私は前に進めたし強くなれました。アダムがこうして私を幸せにしてくれている分、私はそれ以上にアダムを幸せにします。どうか、天国でアダムの幸せを見守っていてください」
こうして私が話し終わると、アダムは回して来た手にギュッと力を入れた。咄嗟にアダムの方を見ると、アダムもお墓に向かって話を始めた。
「僕はシェリーといて今が人生で一番幸せだよ。明日僕らは結婚する。どうか、シェリーが幸せになるよう見守っていて欲しい。もちろんジャックもだよ。僕を生んで育ててくれてありがとう、お父さんお母さん」
また来ます、そう伝え私たちはそれぞれ明日に備えて家に帰った。アダムは去り際ずっとありがとうと伝えてくれた。
家に帰ってから明日の準備をしていたが、休憩しようとお茶を飲むことにした。そして、ふと私とアダムが出会った日のことを思い出した。
町を覚えようと思って早朝に散歩をして、彼に挨拶をすると彼は猫のように家の中に飛び入っていった。あのときは分からなかったけれど、今なら彼が人と素顔で会うことを恐れての瞬発的な行動だったと分かる。
そして、次に会ったときは彼は顔を少し伸びた前髪と手で梳くようなしぐさをしながらも、ちゃんと挨拶を返してくれた。花を褒めると彼が顔を真っ赤にしたことも、今ではかわいい思い出だ。
それから彼と何回か遭遇し、かつての逃げ場所に似ていた丘を見つけそこで彼と出会ったときに、私は運命を感じてしまった。だから、彼に友達になろうなんて声をかけたのかもしれない。
彼と友達になってからは、急速に仲良くなった。趣味が似ていたからなのかもしれない。最初は本を交換していた。次第に食べ物を持ち寄り始め一緒に食事をした。
偶然居合わせた時には、ベンチで私が編み物をしている横で、彼はただ目を閉じ気持ちを落ち着かせるように、風に吹かれているようなこともあった。編み物に集中していたということもあるが、そこに気まずさは一切無かった。
しかし、仕事を始めてからが大変だった。仮面を付けた人が職場に居るなんて誰が考えるだろうか。アダムは私だと気付いているのに、嫌われたくなくて仮面を付けている人物が自分だとなかなか言い出せなかったと後から聞いた。
確かに私のあのときの怯えようと避け方を思い出すと、私が仮面を付けている立場だったら言い出しづらく感じるかもしれない。それも日が経てば経つほど、なおさら言いづらく感じるだろう。
そこから、私たちはしばらくすれ違いの日々が始まっていた。今思えば、アダムの相談の内容は私のことだったのに、私は私の話をされているなんて思っても見なかったから、相当おかしなことを言っていたと思う。周りの人が聞いたら滑稽に思うだろう。
でも、結局私はアダムに耳が聞こえないことを告白し、アダムも仮面の男が自分であると明かしてくれた。そして、メアリーさんやジェイスさんに打ち明けて全てから解き放たれたような気分になったことを今でも覚えている。
そしていつものカードをアダムが作ってきてくれた日から、私は職場で仮面を付けた状態の彼とも仲良くなることが出来た。そして、いつの間にか彼のことを好きになり、彼から告白されて付き合うことが出来た。
そして1年後には、夕日の沈む丘で彼が私にプロポーズをしてくれた。こんな人生を送れるなんて、本当に思っていなかった。
結婚の挨拶で両親はアダムを歓迎してくれたし、今日はアダムのご両親と弟さんにも挨拶が出来た。
絶望から脱却するためにこの町に来て、アダムと出会ってトラブルもあったけど、今ではこの町に来てからのことは全部良い思い出になっている。すべてがキラキラして見えてくる。
頑張ったからこそここまで来られたのだと、11歳の頃の自分に教えてあげたい。死んだ方が楽だと思った時期もあった。だけど、楽なだけで今ほどの幸福を味わうことは出来なかっただろう。
それにいざ死のうとしたところで、私にはとてもそんな勇気が出なかった。今となっては、その勇気がなくて良かったと本気で思う。
自己研鑽して、環境を自分から変えることの大事さも痛感した。そして、何でもかんでも自身の先入観だけで見て決めつけるようなことをしてはいけない場合が存在するということも学んだ。
アダムとの出会いはそれほどまでに私を変えたのだ。
誰かと私が、しかもこんな出会い方をするなんて思っても見なかった。アダムは私に今まで感じたことが無いほどの幸せをいっぱい与えてくれる。
そんな彼は、私の気持ちを全て捧げたいと思える唯一の人だ。世界で一番彼を愛している、そう胸を張って言える。
そんな感慨に耽りながら、私は明日ための準備を再開した。
耳が聞こえないことを伝えても大丈夫だと思える環境を作ってくれたアダム、メアリーさん、ジェイスさんには感謝しかない。でも、3人にこの感謝を伝えても、当たり前のこと、普通のことと笑い飛ばすのだろう。
この3人に出会えたことは、私の人生の転換点だった。そして、かつての私には考えてもみなかったことが、明日ついに実現する。
私とアダムの結婚式が行われるのだ。
そのため、今日は結婚式の前日のため、アダムのご両親と弟さんのお墓に挨拶しに行くことになった。アダムに案内され、まずは墓前に花を手向け自己紹介をした。
「こんにちは、シェリー・スフィアと申します」
目の前にいるのは生きている人ではなく、お墓だ。だけど、私は本当に生きている人間が目の前にいるかのように話しかけた。
「私は息子さんとお付き合いしており、明日結婚します。……アダムを生んで、育ててくださってありがとうございます」
私は想いが込み上げ、墓前でアダムについて語りかけた。
「私は人生を辛く感じ、死ぬまでこんな人生を送るのかと絶望したことがありました。だけど、そんな私をアダムは助け出してくれました。私は生きてきた人生で一番今が幸せです。そして、私をそんな気持ちにさせてくれたのは、他でもないアダムです」
感極まりそうな私の様子を見て、アダムはそっと肩に手を回してきた。そのアダムの腕に安心感を覚える。そして、私は最後の言葉を続けた。
「アダムがいてくれたおかげで、私は前に進めたし強くなれました。アダムがこうして私を幸せにしてくれている分、私はそれ以上にアダムを幸せにします。どうか、天国でアダムの幸せを見守っていてください」
こうして私が話し終わると、アダムは回して来た手にギュッと力を入れた。咄嗟にアダムの方を見ると、アダムもお墓に向かって話を始めた。
「僕はシェリーといて今が人生で一番幸せだよ。明日僕らは結婚する。どうか、シェリーが幸せになるよう見守っていて欲しい。もちろんジャックもだよ。僕を生んで育ててくれてありがとう、お父さんお母さん」
また来ます、そう伝え私たちはそれぞれ明日に備えて家に帰った。アダムは去り際ずっとありがとうと伝えてくれた。
家に帰ってから明日の準備をしていたが、休憩しようとお茶を飲むことにした。そして、ふと私とアダムが出会った日のことを思い出した。
町を覚えようと思って早朝に散歩をして、彼に挨拶をすると彼は猫のように家の中に飛び入っていった。あのときは分からなかったけれど、今なら彼が人と素顔で会うことを恐れての瞬発的な行動だったと分かる。
そして、次に会ったときは彼は顔を少し伸びた前髪と手で梳くようなしぐさをしながらも、ちゃんと挨拶を返してくれた。花を褒めると彼が顔を真っ赤にしたことも、今ではかわいい思い出だ。
それから彼と何回か遭遇し、かつての逃げ場所に似ていた丘を見つけそこで彼と出会ったときに、私は運命を感じてしまった。だから、彼に友達になろうなんて声をかけたのかもしれない。
彼と友達になってからは、急速に仲良くなった。趣味が似ていたからなのかもしれない。最初は本を交換していた。次第に食べ物を持ち寄り始め一緒に食事をした。
偶然居合わせた時には、ベンチで私が編み物をしている横で、彼はただ目を閉じ気持ちを落ち着かせるように、風に吹かれているようなこともあった。編み物に集中していたということもあるが、そこに気まずさは一切無かった。
しかし、仕事を始めてからが大変だった。仮面を付けた人が職場に居るなんて誰が考えるだろうか。アダムは私だと気付いているのに、嫌われたくなくて仮面を付けている人物が自分だとなかなか言い出せなかったと後から聞いた。
確かに私のあのときの怯えようと避け方を思い出すと、私が仮面を付けている立場だったら言い出しづらく感じるかもしれない。それも日が経てば経つほど、なおさら言いづらく感じるだろう。
そこから、私たちはしばらくすれ違いの日々が始まっていた。今思えば、アダムの相談の内容は私のことだったのに、私は私の話をされているなんて思っても見なかったから、相当おかしなことを言っていたと思う。周りの人が聞いたら滑稽に思うだろう。
でも、結局私はアダムに耳が聞こえないことを告白し、アダムも仮面の男が自分であると明かしてくれた。そして、メアリーさんやジェイスさんに打ち明けて全てから解き放たれたような気分になったことを今でも覚えている。
そしていつものカードをアダムが作ってきてくれた日から、私は職場で仮面を付けた状態の彼とも仲良くなることが出来た。そして、いつの間にか彼のことを好きになり、彼から告白されて付き合うことが出来た。
そして1年後には、夕日の沈む丘で彼が私にプロポーズをしてくれた。こんな人生を送れるなんて、本当に思っていなかった。
結婚の挨拶で両親はアダムを歓迎してくれたし、今日はアダムのご両親と弟さんにも挨拶が出来た。
絶望から脱却するためにこの町に来て、アダムと出会ってトラブルもあったけど、今ではこの町に来てからのことは全部良い思い出になっている。すべてがキラキラして見えてくる。
頑張ったからこそここまで来られたのだと、11歳の頃の自分に教えてあげたい。死んだ方が楽だと思った時期もあった。だけど、楽なだけで今ほどの幸福を味わうことは出来なかっただろう。
それにいざ死のうとしたところで、私にはとてもそんな勇気が出なかった。今となっては、その勇気がなくて良かったと本気で思う。
自己研鑽して、環境を自分から変えることの大事さも痛感した。そして、何でもかんでも自身の先入観だけで見て決めつけるようなことをしてはいけない場合が存在するということも学んだ。
アダムとの出会いはそれほどまでに私を変えたのだ。
誰かと私が、しかもこんな出会い方をするなんて思っても見なかった。アダムは私に今まで感じたことが無いほどの幸せをいっぱい与えてくれる。
そんな彼は、私の気持ちを全て捧げたいと思える唯一の人だ。世界で一番彼を愛している、そう胸を張って言える。
そんな感慨に耽りながら、私は明日ための準備を再開した。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
522
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる