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28話 外された仮面
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いつもの小さな丘の上で、今日はある2人の結婚式が開かれている。そこはその2人以外、普段は誰も来ることの無い場所だが、今日は他にも2人を祝福するため人が集まっている。
メアリーさんにジェイスさん、お父さんにお母さんもいる。そして、私と入れ替わりになった喫茶店の元従業員の人もアダムの一大イベントということで結婚式に参加してくれた。
新しく喫茶店に入ってきた新入りの子も来てくれたし、アダムのことを小さい頃から知っていて、私とアダムの関係を応援してくれていたご近所さんたちも来てくれている。
その中には、アダムの同級生の母親もいた。なんでも、アダムが婚約指輪を購入した店を経営している人がアダムの同級生の母親だったらしい。そして、アダムが結婚を考えている人がいると知り、ずっとそのときから応援してくれていたそうだ。
メアリーさんが言うには、その人はアダムが火傷を負ったときにアダムと普通に接してくれた数少ない人だという。そんな人が来てくれるのは、私としても大歓迎だった。
正直、私たちの結婚式にこんなにも人が集まることなど想定していなかった。だけど皆、私たちのことを祝おうと集まってくれたのだ。
数人程度のため決して参列者の数が多いわけではないが、私たちの結婚式には十分すぎる。しかも、今日の結婚式はなんとアダムも仮面を外している。
私は今日の式の直前まで、ずっとアダムは仮面を付けていると思っていた。だがその予想に反し、丘に着いた時に素顔で待っていてくれたアダムを見て涙が出そうになった。
今日はウェディングドレスを着ているため、いつもだったら歩く距離だがお母さんと共に、馬車に乗ってきた。馬車が到着すると、降りる直前にお母さんがベールを下ろしてくれた。そして、馬車を降り私はジェイスさんの手を掴んだ。
お父さんとバージンロードを歩く予定ではあったが、お父さんは結婚式ということにはしゃぎすぎてぎっくり腰をしたらしい。そのため、お父さんは参列するものの、急遽バージンロードの付き添いはジェイスさんがしてくれることになったのだ。
そして、ジェイスさんと共にアダムの元まで歩き、ジェイスさんが私をアダムに引き渡してくれた。今日は司式のために牧師が来てくれている。すると、その牧師はアダムに誓いの言葉を問いかけた。
その牧師の口の動きを確認し、私はアダムの誓いの言葉が見たくて、顔はほとんど正面に向けたまま横目で彼を見た。
「誓います」
そう彼の口が動いた。思わず笑顔になりそうになるが、私はすぐに牧師に視線を戻した。すると、牧師は私に向かい誓いの言葉を問いかけてきた。
「誓います」
そう告げると、牧師が婚姻証明書にサインをするように指示を出したため、私たちはその証明書にサインをした。
「本日をもって、皆さんの前でこの2人が夫婦であることが証明されました」
そう宣言した。その後、私たちの元へ指輪が運ばれてきたため、私たちは互いの指に指輪を嵌め、指輪交換が終了した。次はいよいよ誓いのキスだ。
ベールから透けて見えるアダムの顔は緊張そのものだ。そんなアダムの手がベールに触れた。そして、アダムがベールを上げ始めた。
私は少し腰を下ろし、ベールが完全に上げられた状態になり姿勢を正した。もういつキスしても良い状態だ。皆に見られているという状況で、緊張と恥ずかしさでどうにかなりそうだ。もちろんアダムもそれは同じだろう。
顔に熱が集中するのを感じる。すると、いつもよりも顔が赤らんだアダムが語り掛けるように口を動かした。
「シェリー一生幸せにするからね。愛してるよ」
「私も愛してる。一緒に幸せになりましょうね」
そして、2人は誓いのキスを交わした。周囲から歓声があがる。こうして、私たちの結婚式は終わったと思ったが、喫茶店の元従業員の方が花束を持って来た。
「誰がいるかとか、人数とか関係ないわ。ブーケトスは必須でしょう! 私の孫たちが全力で取るから思い切って投げてちょうだい」
見てみると、ブーケトスの時間に合わせてきたように何人かの子どもたちが集まっていた。こうして私のブーケトスが決定し、子どもたちが私の背後に配置され、私は花を投げることにした。
「投げますよー!」
そう声を出して、私は後ろに花を投げた。ところが手に力が入り過ぎて、花が変な方向に飛んで行った感覚がした。しかも、あまり飛ばなかった気がする。
――やっちゃった!
これじゃ誰もキャッチできない!
そういえば、物を投げるのが苦手だったわ……。
やってしまったと気まずい気持ちになっていたそのとき、背後から歓声があがった。こんな変な方向に飛んで行ったものをキャッチ出来たつわものがいるのかと驚いて振り返った。
――誰かしら?
そして、私は目に飛び込んできた光景に驚愕した。私にとても近い距離で、子どもたちからは距離を取り離れた位置にいたメアリーさんがブーケを持っていたのだ。メアリーさんは私とブーケを交互に見ながら、どうして私に? と口を動かしながら、とても戸惑っている。
すると、メアリーさんの隣にいたジェイスさんが嬉しそうに満面の笑顔になってメアリーさんの肩を抱いた。そして、メアリーさんに告げた。
「これはもう運命だ。俺らも結婚しようなっ……メアリー」
すると、メアリーさんはいつもとは違い、泣きそうな顔でジェイスさんを見上げた。そして、ジェイスさんのその言葉に小さく頷いた。周囲からはまたも歓声があがった。私も嬉しすぎて泣きそうだ。
アダムは本当に嬉しそうに笑いながら、メアリーさんに投げてくれてありがとうと口を動かしてきた。私の投擲能力の無さが遺憾なく発揮される瞬間は今日くらいだろう。そう思いながら、私はアダムに笑顔で頷いた。
アダムと見つめ合って笑える今が本当に幸せだ。私たちの気持ちが重なり合ったこの奇跡は、きっと来世になっても忘れないだろう。
あなたの前では耳が聞こえるふりをする必要も無い。あなたも顔を隠さないでいてくれる。私たちの仮面は完全に外れたのだ。
私と出会ってくれてありがとうアダム。
愛してる。
そんな気持ちに包まれたまま、私たちは再びキスをした。
こうして、2人は比翼連理の仲のまま幸せな一生を送った。
――――――――――――――――――――――――
ここまでお読みくださり、本当にありがとうございます。
これにて本編は終わりますが、本編中におけるアダム視点を順次公開いたします。
本編と繋がる形になっていますので、ぜひアダムの気持ちを知っていただけますと幸いです(*^^*)
メアリーさんにジェイスさん、お父さんにお母さんもいる。そして、私と入れ替わりになった喫茶店の元従業員の人もアダムの一大イベントということで結婚式に参加してくれた。
新しく喫茶店に入ってきた新入りの子も来てくれたし、アダムのことを小さい頃から知っていて、私とアダムの関係を応援してくれていたご近所さんたちも来てくれている。
その中には、アダムの同級生の母親もいた。なんでも、アダムが婚約指輪を購入した店を経営している人がアダムの同級生の母親だったらしい。そして、アダムが結婚を考えている人がいると知り、ずっとそのときから応援してくれていたそうだ。
メアリーさんが言うには、その人はアダムが火傷を負ったときにアダムと普通に接してくれた数少ない人だという。そんな人が来てくれるのは、私としても大歓迎だった。
正直、私たちの結婚式にこんなにも人が集まることなど想定していなかった。だけど皆、私たちのことを祝おうと集まってくれたのだ。
数人程度のため決して参列者の数が多いわけではないが、私たちの結婚式には十分すぎる。しかも、今日の結婚式はなんとアダムも仮面を外している。
私は今日の式の直前まで、ずっとアダムは仮面を付けていると思っていた。だがその予想に反し、丘に着いた時に素顔で待っていてくれたアダムを見て涙が出そうになった。
今日はウェディングドレスを着ているため、いつもだったら歩く距離だがお母さんと共に、馬車に乗ってきた。馬車が到着すると、降りる直前にお母さんがベールを下ろしてくれた。そして、馬車を降り私はジェイスさんの手を掴んだ。
お父さんとバージンロードを歩く予定ではあったが、お父さんは結婚式ということにはしゃぎすぎてぎっくり腰をしたらしい。そのため、お父さんは参列するものの、急遽バージンロードの付き添いはジェイスさんがしてくれることになったのだ。
そして、ジェイスさんと共にアダムの元まで歩き、ジェイスさんが私をアダムに引き渡してくれた。今日は司式のために牧師が来てくれている。すると、その牧師はアダムに誓いの言葉を問いかけた。
その牧師の口の動きを確認し、私はアダムの誓いの言葉が見たくて、顔はほとんど正面に向けたまま横目で彼を見た。
「誓います」
そう彼の口が動いた。思わず笑顔になりそうになるが、私はすぐに牧師に視線を戻した。すると、牧師は私に向かい誓いの言葉を問いかけてきた。
「誓います」
そう告げると、牧師が婚姻証明書にサインをするように指示を出したため、私たちはその証明書にサインをした。
「本日をもって、皆さんの前でこの2人が夫婦であることが証明されました」
そう宣言した。その後、私たちの元へ指輪が運ばれてきたため、私たちは互いの指に指輪を嵌め、指輪交換が終了した。次はいよいよ誓いのキスだ。
ベールから透けて見えるアダムの顔は緊張そのものだ。そんなアダムの手がベールに触れた。そして、アダムがベールを上げ始めた。
私は少し腰を下ろし、ベールが完全に上げられた状態になり姿勢を正した。もういつキスしても良い状態だ。皆に見られているという状況で、緊張と恥ずかしさでどうにかなりそうだ。もちろんアダムもそれは同じだろう。
顔に熱が集中するのを感じる。すると、いつもよりも顔が赤らんだアダムが語り掛けるように口を動かした。
「シェリー一生幸せにするからね。愛してるよ」
「私も愛してる。一緒に幸せになりましょうね」
そして、2人は誓いのキスを交わした。周囲から歓声があがる。こうして、私たちの結婚式は終わったと思ったが、喫茶店の元従業員の方が花束を持って来た。
「誰がいるかとか、人数とか関係ないわ。ブーケトスは必須でしょう! 私の孫たちが全力で取るから思い切って投げてちょうだい」
見てみると、ブーケトスの時間に合わせてきたように何人かの子どもたちが集まっていた。こうして私のブーケトスが決定し、子どもたちが私の背後に配置され、私は花を投げることにした。
「投げますよー!」
そう声を出して、私は後ろに花を投げた。ところが手に力が入り過ぎて、花が変な方向に飛んで行った感覚がした。しかも、あまり飛ばなかった気がする。
――やっちゃった!
これじゃ誰もキャッチできない!
そういえば、物を投げるのが苦手だったわ……。
やってしまったと気まずい気持ちになっていたそのとき、背後から歓声があがった。こんな変な方向に飛んで行ったものをキャッチ出来たつわものがいるのかと驚いて振り返った。
――誰かしら?
そして、私は目に飛び込んできた光景に驚愕した。私にとても近い距離で、子どもたちからは距離を取り離れた位置にいたメアリーさんがブーケを持っていたのだ。メアリーさんは私とブーケを交互に見ながら、どうして私に? と口を動かしながら、とても戸惑っている。
すると、メアリーさんの隣にいたジェイスさんが嬉しそうに満面の笑顔になってメアリーさんの肩を抱いた。そして、メアリーさんに告げた。
「これはもう運命だ。俺らも結婚しようなっ……メアリー」
すると、メアリーさんはいつもとは違い、泣きそうな顔でジェイスさんを見上げた。そして、ジェイスさんのその言葉に小さく頷いた。周囲からはまたも歓声があがった。私も嬉しすぎて泣きそうだ。
アダムは本当に嬉しそうに笑いながら、メアリーさんに投げてくれてありがとうと口を動かしてきた。私の投擲能力の無さが遺憾なく発揮される瞬間は今日くらいだろう。そう思いながら、私はアダムに笑顔で頷いた。
アダムと見つめ合って笑える今が本当に幸せだ。私たちの気持ちが重なり合ったこの奇跡は、きっと来世になっても忘れないだろう。
あなたの前では耳が聞こえるふりをする必要も無い。あなたも顔を隠さないでいてくれる。私たちの仮面は完全に外れたのだ。
私と出会ってくれてありがとうアダム。
愛してる。
そんな気持ちに包まれたまま、私たちは再びキスをした。
こうして、2人は比翼連理の仲のまま幸せな一生を送った。
――――――――――――――――――――――――
ここまでお読みくださり、本当にありがとうございます。
これにて本編は終わりますが、本編中におけるアダム視点を順次公開いたします。
本編と繋がる形になっていますので、ぜひアダムの気持ちを知っていただけますと幸いです(*^^*)
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