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アダムside
1話 初めての体験(6話後)
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今朝も日課として、家の花壇や鉢で育てている花に水をあげていた。
――あっ、昨日までつぼみだったところが咲いてる!
こっちもそろそろ咲くころかな?
「元気に育つんだぞ」
そんなことを独り言ちながら、水やりをしていると突然背後から声がかかった。
「おはようございます」
突然声をかけられ、心臓が止まるかと思った。この道は、余程のことが無ければこの村に住んでいる人が通ることは無い。ましてや、この時間に人が通っているのは見たことが無い。だからこそ、毎朝この時間を選び花に水をあげていたのだ。
声に驚き反射的に振り返ると、そこには見たことの無い女性が立っていた。僕の顔を見ると、女性はニコリと笑いかけてきたが、今はそのことに反応する余裕は一切無い。今この状況自体が、僕自身にとって非常事態だからだ。
女性の姿を捉えた瞬間、身体が勝手に動き気付けば家の中に駆け込んでいた。家の中に入り後ろ手に鍵をガチャンと閉めた途端、扉を背に片足は投げ出し、もう片足は三角座りのような態勢で崩れ落ちる。
急に走ったからなのか、緊張したからなのかは分からない。足から力が抜け、自然と呼吸が浅くなる。その空間は、僕の息切れだけが響いていた。大丈夫だと思って花に水をあげていたのに、まさか誰かから挨拶されるなんて思っても見なかった。
――絶対に気持ち悪がられたに違いない! 最悪だ……。
人にこんな醜い姿を見せてしまうなんて……。
いつもは仮面を付けて生活をしている。人に僕の顔を見せないようにするためだ。だが、仮面をずっと付けている状態と言うのは正直なところ煩わしさを感じてしまう。それに、メアリーさんとの約束もある。
しかも、僕が付けている仮面は、ただ顔を覆うだけの仮面じゃない。頭まで全部覆うタイプの仮面だ。それを付けて生活している僕にとって、仮面無しで外の空気を吸うことができる数少ないタイミングこそが、毎朝の水やりだった。
つい油断してしまった、完全に気が抜けてしまってたと、油断しきっていた自分に後悔の念が募る。しかし、後悔しているうちに、ある1つの可能性も考えられてきた。彼女が挨拶すること自体がおかしいからだ。
彼女は僕を見たはずなのに、挨拶をしてきた……。ということは、彼女はもしかしたら、僕の顔をきちんと見ていなかったのかもしれない。それなら、彼女が他の人にするような挨拶を僕にしてきたことも理解できる。
そう思ったものの、ある彼女の表情を思い出してしまった。僕が振り返った瞬間、その女性は驚きの表情を見せていたのだ。そうなると、僕の顔を見て驚いたんじゃないとかと思えてくる。
そして、その後ニコリと微笑んだように見えた顔は、実は恐怖に顔を引きつらせていたのではないかと思えてきた。いくら考えても、正解は分からない。
ただ、最初は顔が見えなくて挨拶したけど、振り返り、初めて僕の顔を知ったのではないかというのが、今の僕にとっての最有力候補の推理になった。
――彼女、僕の顔すごく気持ち悪かっただろうな……。
申し訳ないし、もう泣きそうだ……。
他人に素顔を見られるのは、本当に久しぶりだった。そのためだろう。自分でも思っている以上に、顔を見られたことに対する気持ちの整理がすぐに出来ない。だけど、いつまでも落ち込んでいるわけにはいかない。
そう思い、必死に自分の気持ちを立て直しているうちに少し冷静になれた。そして、冷静になったことで1つのことに気付けた。心情は分からなくとも、人から挨拶をしてもらえた事実があるということだ。
この姿になってから、こんな風に誰かに挨拶なんてしてもらったことは無かった。こんなこと、初めてだ。
彼女を怖がらせたことは今でも申し訳ないと思う。しかし、普通の人のように接してくれた彼女のその行為は、ほんの数秒だけ僕を皆と変わらない普通の人間にしてくれた。そのことに、僕は少し嬉しさを感じてしまった。
――あっ、昨日までつぼみだったところが咲いてる!
こっちもそろそろ咲くころかな?
「元気に育つんだぞ」
そんなことを独り言ちながら、水やりをしていると突然背後から声がかかった。
「おはようございます」
突然声をかけられ、心臓が止まるかと思った。この道は、余程のことが無ければこの村に住んでいる人が通ることは無い。ましてや、この時間に人が通っているのは見たことが無い。だからこそ、毎朝この時間を選び花に水をあげていたのだ。
声に驚き反射的に振り返ると、そこには見たことの無い女性が立っていた。僕の顔を見ると、女性はニコリと笑いかけてきたが、今はそのことに反応する余裕は一切無い。今この状況自体が、僕自身にとって非常事態だからだ。
女性の姿を捉えた瞬間、身体が勝手に動き気付けば家の中に駆け込んでいた。家の中に入り後ろ手に鍵をガチャンと閉めた途端、扉を背に片足は投げ出し、もう片足は三角座りのような態勢で崩れ落ちる。
急に走ったからなのか、緊張したからなのかは分からない。足から力が抜け、自然と呼吸が浅くなる。その空間は、僕の息切れだけが響いていた。大丈夫だと思って花に水をあげていたのに、まさか誰かから挨拶されるなんて思っても見なかった。
――絶対に気持ち悪がられたに違いない! 最悪だ……。
人にこんな醜い姿を見せてしまうなんて……。
いつもは仮面を付けて生活をしている。人に僕の顔を見せないようにするためだ。だが、仮面をずっと付けている状態と言うのは正直なところ煩わしさを感じてしまう。それに、メアリーさんとの約束もある。
しかも、僕が付けている仮面は、ただ顔を覆うだけの仮面じゃない。頭まで全部覆うタイプの仮面だ。それを付けて生活している僕にとって、仮面無しで外の空気を吸うことができる数少ないタイミングこそが、毎朝の水やりだった。
つい油断してしまった、完全に気が抜けてしまってたと、油断しきっていた自分に後悔の念が募る。しかし、後悔しているうちに、ある1つの可能性も考えられてきた。彼女が挨拶すること自体がおかしいからだ。
彼女は僕を見たはずなのに、挨拶をしてきた……。ということは、彼女はもしかしたら、僕の顔をきちんと見ていなかったのかもしれない。それなら、彼女が他の人にするような挨拶を僕にしてきたことも理解できる。
そう思ったものの、ある彼女の表情を思い出してしまった。僕が振り返った瞬間、その女性は驚きの表情を見せていたのだ。そうなると、僕の顔を見て驚いたんじゃないとかと思えてくる。
そして、その後ニコリと微笑んだように見えた顔は、実は恐怖に顔を引きつらせていたのではないかと思えてきた。いくら考えても、正解は分からない。
ただ、最初は顔が見えなくて挨拶したけど、振り返り、初めて僕の顔を知ったのではないかというのが、今の僕にとっての最有力候補の推理になった。
――彼女、僕の顔すごく気持ち悪かっただろうな……。
申し訳ないし、もう泣きそうだ……。
他人に素顔を見られるのは、本当に久しぶりだった。そのためだろう。自分でも思っている以上に、顔を見られたことに対する気持ちの整理がすぐに出来ない。だけど、いつまでも落ち込んでいるわけにはいかない。
そう思い、必死に自分の気持ちを立て直しているうちに少し冷静になれた。そして、冷静になったことで1つのことに気付けた。心情は分からなくとも、人から挨拶をしてもらえた事実があるということだ。
この姿になってから、こんな風に誰かに挨拶なんてしてもらったことは無かった。こんなこと、初めてだ。
彼女を怖がらせたことは今でも申し訳ないと思う。しかし、普通の人のように接してくれた彼女のその行為は、ほんの数秒だけ僕を皆と変わらない普通の人間にしてくれた。そのことに、僕は少し嬉しさを感じてしまった。
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