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アダムside
4話 再会(7話後)
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もしかしたら、また彼女に遭遇するかもしれない。そう思い、彼女に初めて会った日以来、仮面を付けて外に出るようにしていた。しかし、それは杞憂だったようで、数日続けたが彼女と遭遇することは無かった。
それもそうだろう。仮面を付けるだけでなく、外に出る時間も以前よりも早くしていたのだ。さすがにもう大丈夫なはずだ。そう判断し、時間はずらしたまま仮面をのけて水やりをすることにした。
じょうろに水を汲み、花に水をあげ始めた頃だった。後ろから、澄んだ綺麗なおはようございますという声が聞こえてきた。その声に驚いて振り返ると、そこには例の彼女が立っていた。
――嘘だろ!?
このタイミングで遭うのか?
仮面は今日のけたばかりだった。そのうえ、今日は前回より1時間早い時間だ。余りに予想外の出来事に、焦って家の中に入ろうかと思った。
しかし、僕の足は固まってしまった。今回こそは完全に僕の顔は見られている。だが、彼女はそれでも僕に笑顔のままだったからだ。そんな彼女を見て、僕も挨拶を返さないといけないと思った。
「お、おはよう、ございます……!」
しどろもどろになりながら挨拶を返した。声が上擦ってしまい恥ずかしさでいっぱいだ。きっと彼女は僕の声を変な声だと思ったに違いない。それに、緊張してつい大きな声を出してしまった。
――ああ、やらかした……。
挨拶1つ返しただけなのに、頭の中でグルグルと恥ずかしさと居心地の悪さが入り混じる。しかし、彼女はそんな僕を気に留める様子もない。それどころか、花のことや、花の手入れについて褒めてくれた。
いつもだったら絶対にありえないシチュエーションだ。目の前の女性から予期せぬ褒め言葉をかけられて、不覚にも嬉しいなんて思ってしまった。あと、少しの気恥ずかしさもだ。
だから、褒めてくれた彼女を気恥ずかしさから直視できず、少し俯いて彼女にお礼を言った。すると、彼女は「では、また」と笑顔で言うと、歩き始めた。
――また来るのか!?
彼女のさりげない言葉選びが引っかかる。僕の素顔を見ても普通に接してくる謎の女性の登場。この出来事により、僕の心の中は嵐が襲来したかの如くかき乱された。
それから昼間は仕事に行き、家に帰り用事を済ませるといつの間にか夜になっている。そろそろ寝よう。そう思いベッドに入って寝ようとした。しかし、目を閉じるとなぜか朝の彼女の顔がフラッシュバックしてなかなか寝付けない。
いつもより寝付くのに時間がかかってしまった。そのせいか、目が覚め翌日になった今日はいつもより寝不足気味だ。すっきりとした気分で起きていないせいだろうか。目覚めたのに、彼女との会話が脳内をチラつくのだ。
何だか気持ちが落ち着かない。でも、気分が悪いわけではない。何とも言えない不思議な感覚だ。
「何だか本当に変な気分だ」
そう独り言ちながら、仮面を付けず水やりのために外に出た。というのも、どうせ会うとしても彼女だけだと思ったからだ。
彼女は僕を見ても、普通の人のように接してくる。それなら、もう顔を見られることは気にしないと自分で思い込むことにしたのだ。偶然会ったら会ったでやり過ごそう。そう決め、水やりの時は仮面をのけたままにすることにした。
ただ、積極的に素顔を見られたいわけではない。そのため、水やりの時間はある一定範囲で、ランダムにすることにした。そうすれば、彼女と会う確率も減るだろう。
そのつもりだったが、今日で初めて彼女に会ってからもう8回くらいは会った気がする。
「どうしたんだ、僕」
そう独り言ちても、この孤独な空間から誰かの声が返ってくることは無い。
いつも笑顔で挨拶をして、必ず花のことを褒めてくれる彼女、あの人が頭から全然離れてくれない。普通に接してくれるから、つい自分が普通の人間だと錯覚してしまいそうになる。何なら、彼女が普通に接してくれることに、嬉しさや喜びさえ感じてしまう。
――仲良くなれたり、何てそんなうまい話あるわけないよね……。
「はぁ……こんなに醜いんだ。無理だよね」
今日は仕事が休みだ。家の用事を済ませて午後になったら、またあの場所に行こう! そうしたら、この気持ちも落ち着くような気がする。
あの場所は、町の人が来ることが無い、今となっては秘密基地のような丘だ。そこは、町全体を見渡せるほど高い場所にあるため、町の人が来ることは無い。だからこそ、家以外の場所で唯一仮面を外して過ごすことができる場所になっている。
僕にとってそこは、数少ない安寧の地であり休息場所だ。なぜならそこは、今は亡き家の跡地だからだ。
家の用事を済ませ、ようやく丘にたどり着いた。丘に行くまでの道はまれに人と遭遇することがある。そのため、丘に来るまではきちんと仮面を付けて手袋もしていた。
しかし、着いてしまえばもう誰も来ないため、そんなものは不要だ。やっとのけられる。そんな思いで仮面を外し、手袋をのけ、それらはカバンの中に入れた。そして最後に、シャツの腕をまくった。
こうして、開放的な気分に浸っていると、後ろから声が聞こえた。
「こんなところで会うなんて! こんにちは!」
顔は見ていない。しかしその声を聞いた瞬間、雷が落ちたような衝撃を受けた。
それもそうだろう。仮面を付けるだけでなく、外に出る時間も以前よりも早くしていたのだ。さすがにもう大丈夫なはずだ。そう判断し、時間はずらしたまま仮面をのけて水やりをすることにした。
じょうろに水を汲み、花に水をあげ始めた頃だった。後ろから、澄んだ綺麗なおはようございますという声が聞こえてきた。その声に驚いて振り返ると、そこには例の彼女が立っていた。
――嘘だろ!?
このタイミングで遭うのか?
仮面は今日のけたばかりだった。そのうえ、今日は前回より1時間早い時間だ。余りに予想外の出来事に、焦って家の中に入ろうかと思った。
しかし、僕の足は固まってしまった。今回こそは完全に僕の顔は見られている。だが、彼女はそれでも僕に笑顔のままだったからだ。そんな彼女を見て、僕も挨拶を返さないといけないと思った。
「お、おはよう、ございます……!」
しどろもどろになりながら挨拶を返した。声が上擦ってしまい恥ずかしさでいっぱいだ。きっと彼女は僕の声を変な声だと思ったに違いない。それに、緊張してつい大きな声を出してしまった。
――ああ、やらかした……。
挨拶1つ返しただけなのに、頭の中でグルグルと恥ずかしさと居心地の悪さが入り混じる。しかし、彼女はそんな僕を気に留める様子もない。それどころか、花のことや、花の手入れについて褒めてくれた。
いつもだったら絶対にありえないシチュエーションだ。目の前の女性から予期せぬ褒め言葉をかけられて、不覚にも嬉しいなんて思ってしまった。あと、少しの気恥ずかしさもだ。
だから、褒めてくれた彼女を気恥ずかしさから直視できず、少し俯いて彼女にお礼を言った。すると、彼女は「では、また」と笑顔で言うと、歩き始めた。
――また来るのか!?
彼女のさりげない言葉選びが引っかかる。僕の素顔を見ても普通に接してくる謎の女性の登場。この出来事により、僕の心の中は嵐が襲来したかの如くかき乱された。
それから昼間は仕事に行き、家に帰り用事を済ませるといつの間にか夜になっている。そろそろ寝よう。そう思いベッドに入って寝ようとした。しかし、目を閉じるとなぜか朝の彼女の顔がフラッシュバックしてなかなか寝付けない。
いつもより寝付くのに時間がかかってしまった。そのせいか、目が覚め翌日になった今日はいつもより寝不足気味だ。すっきりとした気分で起きていないせいだろうか。目覚めたのに、彼女との会話が脳内をチラつくのだ。
何だか気持ちが落ち着かない。でも、気分が悪いわけではない。何とも言えない不思議な感覚だ。
「何だか本当に変な気分だ」
そう独り言ちながら、仮面を付けず水やりのために外に出た。というのも、どうせ会うとしても彼女だけだと思ったからだ。
彼女は僕を見ても、普通の人のように接してくる。それなら、もう顔を見られることは気にしないと自分で思い込むことにしたのだ。偶然会ったら会ったでやり過ごそう。そう決め、水やりの時は仮面をのけたままにすることにした。
ただ、積極的に素顔を見られたいわけではない。そのため、水やりの時間はある一定範囲で、ランダムにすることにした。そうすれば、彼女と会う確率も減るだろう。
そのつもりだったが、今日で初めて彼女に会ってからもう8回くらいは会った気がする。
「どうしたんだ、僕」
そう独り言ちても、この孤独な空間から誰かの声が返ってくることは無い。
いつも笑顔で挨拶をして、必ず花のことを褒めてくれる彼女、あの人が頭から全然離れてくれない。普通に接してくれるから、つい自分が普通の人間だと錯覚してしまいそうになる。何なら、彼女が普通に接してくれることに、嬉しさや喜びさえ感じてしまう。
――仲良くなれたり、何てそんなうまい話あるわけないよね……。
「はぁ……こんなに醜いんだ。無理だよね」
今日は仕事が休みだ。家の用事を済ませて午後になったら、またあの場所に行こう! そうしたら、この気持ちも落ち着くような気がする。
あの場所は、町の人が来ることが無い、今となっては秘密基地のような丘だ。そこは、町全体を見渡せるほど高い場所にあるため、町の人が来ることは無い。だからこそ、家以外の場所で唯一仮面を外して過ごすことができる場所になっている。
僕にとってそこは、数少ない安寧の地であり休息場所だ。なぜならそこは、今は亡き家の跡地だからだ。
家の用事を済ませ、ようやく丘にたどり着いた。丘に行くまでの道はまれに人と遭遇することがある。そのため、丘に来るまではきちんと仮面を付けて手袋もしていた。
しかし、着いてしまえばもう誰も来ないため、そんなものは不要だ。やっとのけられる。そんな思いで仮面を外し、手袋をのけ、それらはカバンの中に入れた。そして最後に、シャツの腕をまくった。
こうして、開放的な気分に浸っていると、後ろから声が聞こえた。
「こんなところで会うなんて! こんにちは!」
顔は見ていない。しかしその声を聞いた瞬間、雷が落ちたような衝撃を受けた。
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