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18. 呪われた子
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成績が発表されるのは、実技試験の翌日である。
ジークとリックは普段通りの時間にアカデミーへ来たのだが、そのときには既に玄関ホールにはかなりの人だかりが出来ていた。すべての生徒の成績がこの玄関ホールに張り出されるため、あらゆる学年・学科の生徒が入り混じり、かなりごった返していた。
「あ、もう張り出されてるんだ。魔導科1年ってどこだろう」
リックは落ち着かない様子で首を伸ばし、壁の白い紙を窺おうとした。
早く結果が見たくてたまらない様子のリックとは対照的に、ジークは重い足どりでリックの後ろをついていく。
彼の足のおもりとなっていたものは、昨日の実技試験だった。
アンジェリカを追い越せなかったことは、誰の目にも明らかだ。それどころか順位が下がっていることも考えられる。自分ではアンジェリカ以外の誰にも負けてはいないと思っている。しかし、今日まで忘れていたのだが、この順位をつけているのはラウルだ。入学式当日のあの事件をはじめ、ラウルに対する先生を先生とも思わない言動の数々――。それらを思い出しては、不安を増していた。
「なかなか見えないなぁ。ジークも探してよ」
成績表を探すことに夢中になっていたリックは、ジークのそんな様子に気づきもしない。
「ああ」
ジークは気のないあいづちを返した。軽く息を吐き、面倒くさそうに成績表のある方へ目をやろうとした、そのとき。
「あっ」
ざわめきの中から見つけたその小さな声に反応して、ジークは無意識に振り返った。彼の視界に飛び込んできたもの。それは、人だかりの中から弾きとばされるように出てきたアンジェリカだった。
彼女はよろけながら数歩、不規則なリズムを刻み、ジークにぶつかる寸前でその足を止めた。視線を落としていた彼女には足元だけしか見えていなかったが、目の前のそれがジークだとすぐに気がついた。
ゆっくりと顔を上げる。
ふたりの視線がぶつかった。ふいに彼女にとまどいの表情が浮かんだ。
――何か、言わなきゃ。
必死に頭をめぐらせて、ようやく言葉を絞り出した。
「え……と、大丈夫?」
遠慮がちな声でジークに問いかけた。そして、上目遣いで不安げに返答を待った。
「ああ。精密検査もしたけど、なんともないって」
ジークは平静を装って答えた。
「そう。よかった」
アンジェリカのその言葉を最後に、ふたりの言葉が途切れた。重い空気がふたりの間に流れる。向かい合ったまま、わずかに視線だけをずらした状態。そのまま動くことが出来なくなった。ジークはなんとか沈黙を破ろうと焦ったが、焦るだけで少しも頭がまわらない。
「ジーク! 見てきたよ!」
リックの脳天気な声に、ふたりは金縛りから解かれたように軽くなった。
「よかったね。リック」
アンジェリカはジークを通り越して、その後ろのリックに笑顔を向けた。
「あ、アンジェリカ。もう見てきたんだ?」
「おい、何がよかったんだ?」
話の見えないジークが、ふたりの会話に割って入った。
「順位が5つ上がったんだよ。頑張った甲斐があったなぁ。あ、ジークは前とおんなじで2位だったよ」
リックは自分の喜び報告のついでに、ジークの順位もあっさり口にした。
「そうか」
ジークは1位を取れなかった事実に対してはやはり残念に思ったが、それよりも今はほっとした部分が大きかった。そして、意外にラウルは公平だったんだと、わずかに驚きを感じていた。
「ジーク! 大丈夫なの?」
背後から今日二回目の「大丈夫?」の声。今度はよく通るはっきりした声だった。振り返ると、セリカが小走りに駆けてくるのが見えた。彼女はリックの隣まで来ると足を止めた。
「ああ、なんともない」
ジークはそれだけ言うと、教室へ向かおうと足を踏み出した。途端、セリカの顔が曇った。
「……なに? まだこの子といるの?」
彼女は嫌悪感をあからさまにして言った。今までジークに隠れて見えていなかったアンジェリカが、セリカの視界に入ったのだ。
「あんな目にあわされて、それでもまだこの子と仲良しこよしでいられるの? ジーク、あなたどうかしてるわ」
ジークは表情を険しくした。
「おまえには関係ないだろう」
セリカはそう言われたにもかかわらず、構うことなく続ける。
「きのうのことなのに、もう忘れたなんて言うんじゃないでしょうね? あなたがアンジェリカに対して感じた恐怖感とかを」
ジークはセリカの方にまっすぐ顔を向け、鋭く睨みつけた。そして、もう一度、同じ言葉を繰り返す。
「おまえには関係ないだろう」
その迫力に圧倒され、セリカは言葉を失くす。少しうつむき、思いつめた表情で立ち尽くした。
「リック、アンジェリカ、行くぞ」
そう言い、セリカの横を通り過ぎようとした。彼女はアンジェリカに冷たい視線を向け、言い放った。
「やっぱりあなたは、呪われた子だわ」
ジークとリックは同時に動きを止め、セリカの方を振り返った。
「……呪われた子って、何だ?」
怪訝な顔でセリカに問いかける。
セリカはそこで我に返ったようにはっとした表情を見せた。
「ここで言うべきことじゃなかったわ。ごめん、忘れて」
急におどおどして、小さな声で一気に言った。そして、いつのまにか集まっていた人だかりをかき分け、逃げるように立ち去った。
「おい! 待てよ!」
ジークは慌てて呼び止めるが、既に遅かった。もやもやした気持ちのままアンジェリカを見ると、彼女は無表情で立ち尽くしていた。目は空を泳ぎ、焦点が合っていない。
「こんなこと、言われなれてるから……なんでもないわ」
アンジェリカは自分に言いきかせるようにつぶやいた。
「行きましょう」
ぎこちない笑顔でそう言うと、人だかりをすり抜けて、その場から去っていった。
ジークとリックは顔を見合わせて頷き合うと、アンジェリカの後を追っていった。
教室まで来たが、ここも彼女にとって安らげる場所とはならなかった。
クラスのほとんどの生徒が、アンジェリカの様子を遠巻きにうかがっていた。腫れ物に触るような、そんな空気が漂っていた。ジークとリックはどうすればいいのかわからず、ただアンジェリカと一緒にいることしかできなかった。しかし、それだけでも彼女の助けになっていたことは確かだった。そして、クラスメイトの中にも「よくわからないけど気にすんなよ」「応援してるからな」と 声を掛けてくれた人がいたことが救いだった。
ガラガラガラ――。
いつものように荒っぽく扉を開け、ラウルが入ってきた。生徒たちは一斉にバタバタと席に着く。しかし、ただひとつ、セリカの席だけは空いていた。
「今日から二ヶ月、アカデミーは休みに入る。課題は特にはない」
何人かが小さく喜びの声をあげた。
「休みをとう使うかはおまえたちの自由だ。アカデミーの施設は休みの間も自由に使える。この意味はわかるな」
威圧感のあるその言葉に、場の空気が一気に張りつめた。ラウルの次の言葉をじっと待っている。
「それではこれで解散だ」
あまりの唐突な解散に、クラス中が呆気にとられた。
「なんなんだ。これだけかよ。今日は何しに来たかわかんねえな」
「成績を見に来たと思えばいいんじゃない?」
ジークとリックがそんなやりとりをしながら、アンジェリカの席へと向かっていた。
「アンジェリカ」
教壇からの声。アンジェリカは目を伏せていたが、その声に反応して前を向いた。ラウルは目で彼女を呼び寄せると、そのまま外へ連れ出した。
「アンジェリカって、ちょくちょくラウルに連れ出されるよね」
「…………」
ジークはリックに言葉を返すことができなかった。
「遅いね」
「いいからおまえは帰れよ」
「そういうわけにはいかないよ」
ジークとリックは、玄関前で壁にもたれかかりながら立っていた。既に何度か同じ会話が繰り返されていた。
段々と外が暗くなっていくのがわかる。
ふたりはアンジェリカの帰りを待つことにしたのだが、正直ここまで遅くなるとは思っていなかった。
「よく考えたらここから帰るとは限らないんじゃないの? 今日帰るかどうかもわからないし」
「だからおまえは帰れって」
「そういうわけにはいかないよ」
無意味な会話を繰り返していたふたりが、突然動きを止めた。
ひとけのない校舎に響く靴音。
ふたりは同時に勢いよく振り返る。そこには目を丸くしたアンジェリカが呆然と立っていた。
「どうしたの? ふたりとも」
「おまえを待ってたに決まってんだろ」
ジークは勢いにまかせてそう言ったが、言ったあとで急に照れくさくなった。彼女から顔をそむけ、うつむく。
「遅かったね。どうしてたの?」
リックはジークのあとに続けた。
「えっと……。ラウルと話をして、お茶を飲んで、それから眠くなったからちょっと寝て……」
「おいおい。そのお茶に睡眠薬でも入ってたんじゃねぇだろうな」
ジークは下を向いたまま腕を組み、ぶっきらぼうに口をはさむ。アンジェリカはかすかに笑顔を見せると、ふたりを追い越して歩き出した。リックは小走りで追いつき、彼女に並んで歩く。
「これから二ヶ月休みだけど、いつでも連絡してよ。ジークのウチにも遊びに来てほしいし」
「なんでオレんちなんだよ」
後ろからのジークの突っ込みを無視して、リックはさらに続ける。
「あ、そうだ。アンジェリカの家にも今度呼んでほしいな。僕、まだ行ったことないし」
「うん」
アンジェリカは小さな声で返事をした。
「……アンジェリカ」
ジークが珍しく、彼女を名前で呼び掛けた。しかし、その声は重かった。
彼女は足を止める。
「今朝のことだけどな……」
「ごめんなさい」
背中越しのジークの声を、短い言葉で遮った。そして、少しうつむく。
「……今は、何も言えないの。でも、いつか、きっと……話したいと思っているから」
彼女がとぎれとぎれに絞り出したその言葉を、ふたりはしっかりと受け止めた。
「いつでも、待ってるからな」
そう言って、ジークもリックも、アンジェリカににっこりと笑いかけた。
ジークとリックは普段通りの時間にアカデミーへ来たのだが、そのときには既に玄関ホールにはかなりの人だかりが出来ていた。すべての生徒の成績がこの玄関ホールに張り出されるため、あらゆる学年・学科の生徒が入り混じり、かなりごった返していた。
「あ、もう張り出されてるんだ。魔導科1年ってどこだろう」
リックは落ち着かない様子で首を伸ばし、壁の白い紙を窺おうとした。
早く結果が見たくてたまらない様子のリックとは対照的に、ジークは重い足どりでリックの後ろをついていく。
彼の足のおもりとなっていたものは、昨日の実技試験だった。
アンジェリカを追い越せなかったことは、誰の目にも明らかだ。それどころか順位が下がっていることも考えられる。自分ではアンジェリカ以外の誰にも負けてはいないと思っている。しかし、今日まで忘れていたのだが、この順位をつけているのはラウルだ。入学式当日のあの事件をはじめ、ラウルに対する先生を先生とも思わない言動の数々――。それらを思い出しては、不安を増していた。
「なかなか見えないなぁ。ジークも探してよ」
成績表を探すことに夢中になっていたリックは、ジークのそんな様子に気づきもしない。
「ああ」
ジークは気のないあいづちを返した。軽く息を吐き、面倒くさそうに成績表のある方へ目をやろうとした、そのとき。
「あっ」
ざわめきの中から見つけたその小さな声に反応して、ジークは無意識に振り返った。彼の視界に飛び込んできたもの。それは、人だかりの中から弾きとばされるように出てきたアンジェリカだった。
彼女はよろけながら数歩、不規則なリズムを刻み、ジークにぶつかる寸前でその足を止めた。視線を落としていた彼女には足元だけしか見えていなかったが、目の前のそれがジークだとすぐに気がついた。
ゆっくりと顔を上げる。
ふたりの視線がぶつかった。ふいに彼女にとまどいの表情が浮かんだ。
――何か、言わなきゃ。
必死に頭をめぐらせて、ようやく言葉を絞り出した。
「え……と、大丈夫?」
遠慮がちな声でジークに問いかけた。そして、上目遣いで不安げに返答を待った。
「ああ。精密検査もしたけど、なんともないって」
ジークは平静を装って答えた。
「そう。よかった」
アンジェリカのその言葉を最後に、ふたりの言葉が途切れた。重い空気がふたりの間に流れる。向かい合ったまま、わずかに視線だけをずらした状態。そのまま動くことが出来なくなった。ジークはなんとか沈黙を破ろうと焦ったが、焦るだけで少しも頭がまわらない。
「ジーク! 見てきたよ!」
リックの脳天気な声に、ふたりは金縛りから解かれたように軽くなった。
「よかったね。リック」
アンジェリカはジークを通り越して、その後ろのリックに笑顔を向けた。
「あ、アンジェリカ。もう見てきたんだ?」
「おい、何がよかったんだ?」
話の見えないジークが、ふたりの会話に割って入った。
「順位が5つ上がったんだよ。頑張った甲斐があったなぁ。あ、ジークは前とおんなじで2位だったよ」
リックは自分の喜び報告のついでに、ジークの順位もあっさり口にした。
「そうか」
ジークは1位を取れなかった事実に対してはやはり残念に思ったが、それよりも今はほっとした部分が大きかった。そして、意外にラウルは公平だったんだと、わずかに驚きを感じていた。
「ジーク! 大丈夫なの?」
背後から今日二回目の「大丈夫?」の声。今度はよく通るはっきりした声だった。振り返ると、セリカが小走りに駆けてくるのが見えた。彼女はリックの隣まで来ると足を止めた。
「ああ、なんともない」
ジークはそれだけ言うと、教室へ向かおうと足を踏み出した。途端、セリカの顔が曇った。
「……なに? まだこの子といるの?」
彼女は嫌悪感をあからさまにして言った。今までジークに隠れて見えていなかったアンジェリカが、セリカの視界に入ったのだ。
「あんな目にあわされて、それでもまだこの子と仲良しこよしでいられるの? ジーク、あなたどうかしてるわ」
ジークは表情を険しくした。
「おまえには関係ないだろう」
セリカはそう言われたにもかかわらず、構うことなく続ける。
「きのうのことなのに、もう忘れたなんて言うんじゃないでしょうね? あなたがアンジェリカに対して感じた恐怖感とかを」
ジークはセリカの方にまっすぐ顔を向け、鋭く睨みつけた。そして、もう一度、同じ言葉を繰り返す。
「おまえには関係ないだろう」
その迫力に圧倒され、セリカは言葉を失くす。少しうつむき、思いつめた表情で立ち尽くした。
「リック、アンジェリカ、行くぞ」
そう言い、セリカの横を通り過ぎようとした。彼女はアンジェリカに冷たい視線を向け、言い放った。
「やっぱりあなたは、呪われた子だわ」
ジークとリックは同時に動きを止め、セリカの方を振り返った。
「……呪われた子って、何だ?」
怪訝な顔でセリカに問いかける。
セリカはそこで我に返ったようにはっとした表情を見せた。
「ここで言うべきことじゃなかったわ。ごめん、忘れて」
急におどおどして、小さな声で一気に言った。そして、いつのまにか集まっていた人だかりをかき分け、逃げるように立ち去った。
「おい! 待てよ!」
ジークは慌てて呼び止めるが、既に遅かった。もやもやした気持ちのままアンジェリカを見ると、彼女は無表情で立ち尽くしていた。目は空を泳ぎ、焦点が合っていない。
「こんなこと、言われなれてるから……なんでもないわ」
アンジェリカは自分に言いきかせるようにつぶやいた。
「行きましょう」
ぎこちない笑顔でそう言うと、人だかりをすり抜けて、その場から去っていった。
ジークとリックは顔を見合わせて頷き合うと、アンジェリカの後を追っていった。
教室まで来たが、ここも彼女にとって安らげる場所とはならなかった。
クラスのほとんどの生徒が、アンジェリカの様子を遠巻きにうかがっていた。腫れ物に触るような、そんな空気が漂っていた。ジークとリックはどうすればいいのかわからず、ただアンジェリカと一緒にいることしかできなかった。しかし、それだけでも彼女の助けになっていたことは確かだった。そして、クラスメイトの中にも「よくわからないけど気にすんなよ」「応援してるからな」と 声を掛けてくれた人がいたことが救いだった。
ガラガラガラ――。
いつものように荒っぽく扉を開け、ラウルが入ってきた。生徒たちは一斉にバタバタと席に着く。しかし、ただひとつ、セリカの席だけは空いていた。
「今日から二ヶ月、アカデミーは休みに入る。課題は特にはない」
何人かが小さく喜びの声をあげた。
「休みをとう使うかはおまえたちの自由だ。アカデミーの施設は休みの間も自由に使える。この意味はわかるな」
威圧感のあるその言葉に、場の空気が一気に張りつめた。ラウルの次の言葉をじっと待っている。
「それではこれで解散だ」
あまりの唐突な解散に、クラス中が呆気にとられた。
「なんなんだ。これだけかよ。今日は何しに来たかわかんねえな」
「成績を見に来たと思えばいいんじゃない?」
ジークとリックがそんなやりとりをしながら、アンジェリカの席へと向かっていた。
「アンジェリカ」
教壇からの声。アンジェリカは目を伏せていたが、その声に反応して前を向いた。ラウルは目で彼女を呼び寄せると、そのまま外へ連れ出した。
「アンジェリカって、ちょくちょくラウルに連れ出されるよね」
「…………」
ジークはリックに言葉を返すことができなかった。
「遅いね」
「いいからおまえは帰れよ」
「そういうわけにはいかないよ」
ジークとリックは、玄関前で壁にもたれかかりながら立っていた。既に何度か同じ会話が繰り返されていた。
段々と外が暗くなっていくのがわかる。
ふたりはアンジェリカの帰りを待つことにしたのだが、正直ここまで遅くなるとは思っていなかった。
「よく考えたらここから帰るとは限らないんじゃないの? 今日帰るかどうかもわからないし」
「だからおまえは帰れって」
「そういうわけにはいかないよ」
無意味な会話を繰り返していたふたりが、突然動きを止めた。
ひとけのない校舎に響く靴音。
ふたりは同時に勢いよく振り返る。そこには目を丸くしたアンジェリカが呆然と立っていた。
「どうしたの? ふたりとも」
「おまえを待ってたに決まってんだろ」
ジークは勢いにまかせてそう言ったが、言ったあとで急に照れくさくなった。彼女から顔をそむけ、うつむく。
「遅かったね。どうしてたの?」
リックはジークのあとに続けた。
「えっと……。ラウルと話をして、お茶を飲んで、それから眠くなったからちょっと寝て……」
「おいおい。そのお茶に睡眠薬でも入ってたんじゃねぇだろうな」
ジークは下を向いたまま腕を組み、ぶっきらぼうに口をはさむ。アンジェリカはかすかに笑顔を見せると、ふたりを追い越して歩き出した。リックは小走りで追いつき、彼女に並んで歩く。
「これから二ヶ月休みだけど、いつでも連絡してよ。ジークのウチにも遊びに来てほしいし」
「なんでオレんちなんだよ」
後ろからのジークの突っ込みを無視して、リックはさらに続ける。
「あ、そうだ。アンジェリカの家にも今度呼んでほしいな。僕、まだ行ったことないし」
「うん」
アンジェリカは小さな声で返事をした。
「……アンジェリカ」
ジークが珍しく、彼女を名前で呼び掛けた。しかし、その声は重かった。
彼女は足を止める。
「今朝のことだけどな……」
「ごめんなさい」
背中越しのジークの声を、短い言葉で遮った。そして、少しうつむく。
「……今は、何も言えないの。でも、いつか、きっと……話したいと思っているから」
彼女がとぎれとぎれに絞り出したその言葉を、ふたりはしっかりと受け止めた。
「いつでも、待ってるからな」
そう言って、ジークもリックも、アンジェリカににっこりと笑いかけた。
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