BLINDFOLD

雲乃みい

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第四夜 性少年の決断

52.なんで、俺? ~告白

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 その足が俺の前で止まって見つめられてるのを感じる。
 俺はまた情けないけど目を下を向いてた。
「一週間ぶり、捺くん」
「……う、うん」
 すっげぇ、気まずい!!!
 松原がバーで言ったこととか、先週の土曜日のこととか思い出して、どんな態度取ればいいのかわかんねー。
「びっくりした、今日は会えないって思ってたから」
 俺だって、びっくりした。
 でも言えないけど。
 黙ってる俺に智紀さんはいつもどおりに話しかけてくる。
「とりあえずどこかゆっくり話せるところに行こうか」
 なに話すのかもわかんねーけど、無視するわけにはいかないし、このまま駐車場にいても寒いだけだから小さく頷いた。
 その瞬間、智紀さんの手が伸びてきて俺の手を掴む。
 驚いて身体がびくつく。
 智紀さんは俺の指に指を絡めて握りしめると自分のコートのポケットに繋いだまま手を突っ込んだ。
「智紀さんっ」
「手出してたら寒いしね?」
「でも、男同士だし……」
 街中で手繋いで同じポケットになんて、周りから変に見られるに決まってる。
 焦る俺に智紀さんはまったく気にする様子もなく笑う。
「平気、平気。夜だしわかんないよ。誰も気にしないって。――行こう」
 でも、と口を開きかけた俺を引っ張って智紀さんは歩き出す。
 このあたりをよく知ってるのか表通りじゃなくって人気のすくない道に入ってった。
「寒いね」
「……うん」
「晄人の奴も捺くん連れてくるなら最初っから言ってくれればよかったのに」
「……」
「そうとわかってたら車で来てたんだけどね。今日は飲むんだと思ってたから車じゃないんだ」
「……そっか」
 ようやくのことで相槌打つ。
 なんか変に緊張して、うまく会話が続けられない。
 それに――優斗さんはいまどうしてるんだろ。
 ふと、そう思った瞬間、ポケットの中で繋いだ手、絡まってた指が動いて俺の指をなぞった。
 たったそれだけなのにぞくっとしてしまうアホな俺。
「いまは俺だけのこと考えてね? とりあえず俺、先攻だから」
 そして俺の思考なんて全部見透かしてるみたいに智紀さんが俺の顔を覗き込む。
 目が合って顔が熱くなって逸らす。
 ていうか……先攻ってなんだよ!?
 意味わかんねーでテンパってる俺に、智紀さんは笑いながらポケットの中で俺の指を弄ぶ。
「ほんとに捺は可愛いね」
「……可愛くねーしっ」
 頑張って言い返すけど、なんか智紀さんに呼び捨てにされるといろいろダメな気分になってくる。
 なに話すのかわかんねーけど、とりあえずちゃんと話し合おうって気合を入れて唇を引き結んだ。
 それから少し歩いてついたのは小さな公園だった。
「ここでいいかな? 寒いし、会社に来てもらってもいいんだけど」
 ちらって智紀さんが目を細めて俺を見る。
 そしてやっぱ見透かすように、
「捺は俺の会社じゃ落ち着かないだろ?」
 なんて言って、公園の中に連れてかれた。
 あんまり広くない公園はベンチが二つとブランコがあるだけの狭いところで全然人気がなかった。
 奥のベンチに並んで座る。
 俺の片手はまだ智紀さんのポケットの中。
 智紀さんは空いた片方の手で煙草を取り出すと口に咥えて、器用に火をつける。
 俺は自分から話しかけることなんかできないで、ただ黙ってた。
 煙草の匂いが俺のほうに流れてきて、なんか落ち着きたくて俺も吸いたくなる。
 ちらっと智紀さんの方を盗み見て胸の内でため息。
 あー……沈黙って痛いな。
 なんて、思ってたら智紀さんが煙草の灰を地面に落とすのが見えて、そんでそれが俺に差し出された。
「吸う?」
「え?」
「はい」
 吸いかけの煙草が口元に差し出されて、つい咥えた。
「晄人にはナイショだよ? 未成年に煙草吸わせたとか怒られるからね」
 ふっと笑う智紀さんに俺は頷いて煙草をふかして。
「――間接キスだね」
 っていう智紀さんの言葉にむせてしまった。
 思わず煙草を落としそうになって、それを智紀さんがつかんでまた吸いだす。
 智紀さんは楽しそうに喉を鳴らして笑う。
 俺はいろんな意味で恥ずかしくてもうどんだけだよって思いながらも地面に視線を落とした。
 しばらく智紀さんは黙って煙草吸ってた。
 煙草が半分くらい灰になったころ地面に押し付けて消して携帯灰皿にしまう。
「捺くん」
 その携帯灰皿をポケットにしまいながら智紀さんが俺を見て。
 俺は促されるようにちゃんと智紀さんを見て。
 智紀さんはそんな俺に笑いかけて――言った。
「好きだよ」
 って、囁いた。
 理解するより先に、心臓がむちゃくちゃでかく跳ねて、一気に顔が真っ赤になるのがわかる。
「な、な、え、あ、うん、友達だもんね! 俺と智紀さん!」
 しどろもどろになって必死に言ってた。
 だって智紀さんが俺のこと好き?
 ね、ね、ねーだろ!!!
 だって俺男だぞ!
 歳だって一回り離れてるし、俺なんてガキだし!
 ないないないない!!
 必死で頭ん中で否定する。
「なーつ」
 そんな俺を智紀さんが呼ぶ。
「な、なにっ」
「ちょっと立って」
「へ?」
「ほら」
 ポケットから手を出されて離される。
 智紀さんは「早く」って笑顔のまま俺を急かすから意味わかんねーまま、立った。
 立って、智紀さんを見て、そして手を引かれて。
「……っうわ!!!」
 あっという間に智紀さんの膝の上。
「ちょ!」
 むちゃくちゃデジャブ!
 逃げようとした俺の腰に手が回ってがっちりホールドされた。
「逃げたらダメ」
「ダメって」
「いーじゃん、もしかしたら最後になるかもしれないし」
 抱き締めて俺の胸辺りに顔をうずめた智紀さん。
 いつもとかわんねー声がそう言って――俺はつい動きを止めた。
「……」
「俺がフラれたら、もうこういうことできないだろ? ま、フラれないように頑張るけど」
 ね?、って智紀さんはさらにきつく俺を抱き寄せる。
「……でもここ外」
「誰も来ないよ」
「……」
「本当はもう一回くらいシたかったけど。捺に俺のこともっと刻んでおきたかったけど」
「……は!?」
「捺のことめちゃくちゃのぐちゃぐちゃーにしたかったけど。土曜日の電話エッチぐらいじゃ全然足んなかったし」
「智紀さんっ!」
「でも――晄人に釘刺されたしね、我慢する。だからさ、捺くん。俺のこと選んでよ」
 男同士でこんな街中の一角の公園で、夜だけど膝の上に座らされて抱き締められて。
 恥ずかしいしありえねぇって思うけど――……。
「俺ね、一回りも歳が違うのに」
 12月で夜で外で寒いのに、めちゃくちゃ熱い。
「初めて捺くんに会ったときに一目ぼれしたんだよね」
「……嘘だ」
 そんなん……信じらんねーよ。
「嘘みたいなホントの話」
「だって俺、男だし」
「俺にとっては人を好きになるのに男も女も関係ないよ。俺は、捺がいいって思ったんだから。それだけ」
「……」
「好きになるのに理由いる?」
「……」
 話し続ける智紀さんに、俺はなにも言えないでいた。
「俺なりに出会ってから地道に攻めてたんだけど、捺は全然気づいてなかったし」
「……だって、まさか男の俺に……」
「優斗さんだって男だろ?」
「……」
「もとはノーマルだからしょうがないって思って、長期戦でいこうかなって思ってはいたんだけどね。この前の土曜日あんまりにも捺がそわそわしてるから――嫉妬した」
 小さく笑って智紀さんは俺の目をじっと見つめる。
 笑顔はいつも通りだけど、いつも通りじゃない雰囲気がある。
 軽くかけられる言葉。
 でも真っ直ぐな目は真剣で逸らすことができなかった。
「順序が逆ってわかってはいたけど、優斗さんのところへ行かせる前に手っ取り早く俺のこと覚えてもらうために手、出した」
 ――ごめんね。
 って、智紀さんが手を伸ばして俺の頭を撫でる。
 ぎゅ、ってなんか胸のあたりが痛んで唇を噛みしめた。
 なんて言えばいいのかわからないでいる俺に智紀さんは目を細める。
「まぁでも後悔はしてないけどね。身体の相性も肝心だと思うし。気持ちよかっただろ、なーつ?」 不意にいつもと変わらないからかうような眼差しになった。
 俺の頭から頬に手がおりてきて撫でる。
「捺は楽しくなかった? この一カ月」
「……」
 楽しく――……なかった、はずなんてない。
 バカみたいに優斗さんから逃げてた一ヶ月間、俺の近くにいてくれたのは智紀さんなんだから。
 すっげぇ楽しくて、智紀さんと過ごすのは好きだったし、会えるのも楽しみだった。
「俺はすごく楽しかった。歳は離れてるけど、捺といると楽しくて疲れも吹き飛んだよ」
「……」
「俺と捺は似てる」
「考え方とか、楽しみ方とか、いろんなことが」
「……そうかな。俺……智紀さんみたいに頭よくないよ」
「そういうんじゃない。感じ方とか――、捺は思ったことない?」
「……」
 智紀さんの言いたいことはなんとなくわかる。
 俺と智紀さんは確かによく似てるところあるって思う。
 好みもよく似てるし、考え方なんかもすっげぇ共感できるし、尊敬できるところたくさんあった。
「俺と捺は相性いいよ。こころも、カラダもね?」
 智紀さんの手が俺の首に回って、引き寄せる。
 触れ合いそうなくらいに顔が近づいた。
「俺を選びな。捺」
 甘く囁く声。
 逸らせないくらい強く俺を見つめる瞳。
 俺は――なにも言えなくて、ただ見つめ返していた。
 なんて、言えばいい?
 女の子からの告白なら何回もある。
 そのたび俺は気にいればOKするくらいの軽さで。
 最悪なやつだったって、いまはわかる。
 それじゃあ、いまは――?
 俺、どーすればいい?
 ――……どっちが、好きなんだ?
「なーつ」
 固まる俺に智紀さんが顔を崩していつものように笑いかけてくる。
「眉間にしわ寄ってる」
 おかしそうに智紀さんは俺の額をデコピンしてきた。
「わっ!」
 結構強めで痛いと同時にバランス崩しかけて智紀さんの膝の上から落ちそうになった。
 途端に智紀さんが俺の身体を引き寄せる。
 俺は位置的に智紀さんの肩に顔をうずめるようになって――ぎゅっと抱きしめられた。
「俺を選びなよ」
 耳元で熱く息がかかる。
「俺、選んでいろんなことしよう。楽しいことも気持ちいいことも、お前となら俺はもっと人生楽しくなる気がするんだ」
「――」
 簡単に想像できそうな関係。ドキドキして、でも、戸惑う。  
 だって……そんなこと言ってもらえるような奴じゃねーのに。
 なんで、俺?
「……智紀さんに好かれるような……。……大した男じゃねーし……」
「俺が捺がいいんだからしょうがないだろ?」
 ここが外だってことも、寒さも、全部忘れてしまう。
 抱き締められて暖かくて、なんか、よくわかんね……。
「俺を選んでよ」
 選びなよ、って智紀さんは呪文のように囁いてくる。
 それからお互い口を閉じて、しばらくそのままでいた。
 ただ、黙ってた。


 どれくらい経ったのか、10分とかそれくらいだと思うけど、智紀さんの腕から解放された。
 膝の上に乗ったまま、のろのろと智紀さんを見る。
「一晩中でもこうしていたいけど、そうもいかないからね」
 智紀さんは少し笑って、優斗さんも待ってるだろうし、って言った。
 思わず視線を落とすと智紀さんが俺の顔を覗き込んで目を細める。
「そんな泣きそうな顔するなよ、なーつ」
「……泣かねーし」
「ま、男だしな? ちゃんと優斗さんとも話して――考えて」
 できれば俺を選んで欲しいけどね。
 って笑いながら智紀さんは俺を膝の上から下ろして立ちあがった。
 離れると一気に寒さを感じる。
 首をすくめて空を見ると満月だった。
「駅まで送るよ」
「え、あ……うん」
 駅までの道は手を繋ぐっていうこともなく、他愛のない話してた。
 学校のこととか、智紀さんの仕事のこととか、俺の好きなゲームのこととか。
 ほんとーに普通に喋って、気づいたら笑ってて。
 やっぱり智紀さんと一緒にいると楽しいって自然に思える。
 雰囲気が好きだなって思える。
 それが"レンアイ"の好きかはわかんねーけど。
「コンビニにでも入って待ってるといいよ。会社に車置いてきてるらしくて、車とって来るって言ってたから」
「……わかった」
 すっげぇ気が重いけど、逃げるわけにはいかない。
 苦笑を返す俺に智紀さんがぽんって軽く頭を叩く。
「智紀くん絶賛おススメ中だからよろしく頼むよ?」
 わざとらしく咳払いひとつして智紀さんがそう言って、俺は普通に笑った。
 そんで互いに軽く手を振る。
「じゃーね、捺くん」
「うん。じゃーね、智紀さん」
 いつもと変わんない別れ際の挨拶。
 またねってまるでこの一カ月週末いつもそうだったように――智紀さんと別れた。
 駅の構内に消えてった智紀さんを見送って俺は近くのコンビニに入った。
 とりあえず雑誌コーナーに行って週刊の漫画雑誌をめくる。
 全然頭に入ってこないけど、ぱらぱら読み流した。
 そうしてコンビニ入って20分近く経ったころ、ポケットに入れてたスマホが鳴りだした。
「……はい」
『捺くん?』
 聞こえてくる柔らかい声に、そっと聞こえないように溜まってた重いものを吐き出すように息をつく。
「うん」
『いま駅のロータリーに来てるんだけど。――大丈夫?」
「……ん。すぐ行く」
『待ってるね』
「……ん」
 電話を切って、コンビニを出る。
 途端に寒さが襲って身体を竦ませながらロータリーに向かった。
 智紀さんの言葉が胸に突き刺さって痛い。
 そして優斗さんの車が目に入って、もっと胸が痛くなってまたため息を吐きだした。


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