ゴーレムは恋を知る

キザキ ケイ

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本編

01.序章

 その冒険者の一団は、古い遺跡を探索していた。
 まるで迷路のように広く入り組んでおり、それでいて盗掘などでめぼしい宝は取りつくされてしまった遺跡だが、定期的に手をいれなければ魔物の住処となってしまう。
 今回も周辺住民の報告を受け、彼らは魔物の駆除にやってきた。

「見つけたぞ。いけるか?」
「準備できてる」

 弓を扱う狩人は身軽に壁の上へとのぼり、崩れかけた広間に目当ての魔物がいることを特定した。
 足音を殺し、気配を消して、広間へ向けて移動を開始する。
 細い木の杖を持つ魔女と、両刃の剣を佩いた剣士。そして狩人。
 少数精鋭のパーティだ。

「ゴーレムだね」
「あぁ。周囲に魔物はいない。あいつ一体だけだ」

 そろりそろりと広場へ近づいていく。
 中央付近、崩れたモニュメントの脇に大きな魔物が一体見える。
 遺跡の石と同じ素材でできた体の魔物は、近くで見るとかなり大きい。
 おおまかには人型だが、首や頭に当たる部分が極端に小さく、反対に体や手足は大きく太い。
「ロックゴーレム」に分類される大型の魔物だ。
 それほどめずらしい種ではないが、厄介さは随一。
 今は微動だにせず、ひざまずくような姿勢で止まっているが、近づけばすぐさま反応して剣士たちを襲うはずだ。
 古くはこの魔物を使役して力仕事などをさせていた時代があるというが、そんなかつての文明が今この廃墟なのだとしたら、試みは失敗に終わったのだろう。

「ゴーレムには『核』がある。核さえ破壊できれば確実に倒せる」

 剣士はそう言って目を細める。

「だがアイスゴーレムやウォーターゴーレムと違って、ロックやサンドは核が見つかりにくいんじゃなかったか?」

 狩人が目を凝らすが、核らしきものは見当たらない。
 魔女と剣士も目視でゴーレムをよく観察できる場所まで近づき、身をひそめ声もひそめる。

「この遺跡がまだ廃墟じゃなかったころ、ここではゴーレムを使役していたらしい。そんな場所にいるゴーレムの材質が、この遺跡と同じものでできている……」
「まさか、アレはこの遺跡の文明が造ったゴーレムとでも言うのかい?」
「可能性はあると思ってる。ゴーレムは体は無機物だが、核は有機的なんだ。魔石も多いが、植物や動物、魔女の心臓なんてことも」
「いやぁあ、気色の悪い話をしなさんな!」

 魔女はぞわぞわと鳥肌の立った腕をさすり、剣士は小声で謝った。

「つまり俺が言いたかったのは、ゴーレムの核は破損するおそれある手足ではなく、落下物で傷つく可能性のある頭付近でもなく、胴にあるんじゃないかってことだよ」
「なるほど。しかし胴は硬そうだぞ。どうやって核を露出させる?」
「この石の性質を利用する」

 剣士は遺跡のかけらを拾い上げた。
 がれきと化した遺跡の石は叩いても、石同士をぶつけても、粉が落ちる程度で割れないが、切っ先の鋭い剣が垂直にあてられると、まるで野菜の皮むきのように表面が剥がれ落ちる。
 驚く魔女と感心しきりの狩人に剣士は笑って「行くぞ」と声をかけた。
 三人が近づくと、ゴーレムは立ち上がり襲い掛かってきたが、彼らの見事な連携で胴体を次々そぎ落とされ、腹のあたりに隠されていた核が露出する。

「ここだ!」

 魔女の援護を受けた剣士の一閃が、一撃で核を破壊した。
 ゴーレムは動きを止め、がくりと倒れ伏した。
 石の体を保っていた力が消えて、がらがらと崩れ落ちる。

「ふぅ。さすがラグナ。知識も技術もピカイチだ。やっぱ組むならA級に限る」

 干からびた植物のような核をゴーレムの体から抜き取り、狩人は楽しそうに笑う。
 魔女も大きくうなずいている。

「ラグナと組むと仕事が早くて助かるよ。報奨金で飲もうじゃないか」
「そうだな。最近南通りにいい酒場が……おや」

 並の冒険者が数日かけるであろう仕事を一日で終わらせ、上機嫌な狩人と魔女についていこうとした剣士は、自分の元に鳥が飛んでくるのを見た。
 急ぎの連絡に使われる、魔力で作られた鳥だ。

「ギルドから? なんの連絡だい」
「呼び出しのようだ……それしか書いてないな」

 鳥から受け取った手紙には「戻り次第ギルドへ来るように」としか書かれていない。

「ギルドからの呼び出しなんて、厄介ごとしかないだろうな」
「残念だけど飲みは延期だね」

 狩人がしたり顔で言い、魔女は不憫そうに剣士の背をたたく。
 ばしっといい音がした。「魔女」と言いつつ性別は男なので、力が強い。

「依頼が終わったばっかりなのにもう次か……」

 気のおけない仲間たちと楽しく祝杯をあげられるはずだった剣士は、がっくりと肩を落としたのだった。



 とある国の南端の山岳地帯、その一部で鉱床が見つかった。
 国は新たな資源採掘地の発見に沸き、地域住民は経済の好循環に胸を躍らせる。
 鉱山付近が開発され、自然発生的に村ができ、その過程で周辺環境の調査が行われ……重大な問題が見つかった。
 鉱山村から少し離れた山の奥地に、強力なモンスターの生息が確認されたのだ。
 その名もクリスタルゴーレム。
 はるか遠く、人の住まざる魔のものの故郷・魔大陸にしか生息しないと言われる、最上級モンスターの一種だ。

 下位種のロックゴーレム、アイスゴーレムなどとは異なり、ある程度の知能を持ち、他のモンスターと連携することがわかっている。
 硬質な鉱石状の体は頑丈で、巨体から繰り出される攻撃は鈍いものの、振り回される腕はかすっただけでたやすく吹き飛ばされる。
 そこを別種のモンスターと連携されれば、熟練の冒険者とて歯が立たない。
 また観測数が少なく、未知の生態も脅威だ。
 新たに開かれた鉱山は、早くも難問に直面することとなった。

 クリスタルゴーレムが人間たちに牙をむけばひとたまりもない。
 だが今のところ、ゴーレムは人里へ降りてくる気配はなく、どうやら人間の集落の存在に気づいていないようだ。
 そこで、脅威となる前に先手を打ってゴーレムを討伐することとなった。
 冒険者ギルドへ依頼が持ち込まれ、高額な報酬に冒険者たちの注目が集まる。
 しかし、クリスタルゴーレムは規格外の討伐対象だ。
 その名すら知らぬ駆け出しはランク外とされ受注はできない。
 名を知るものは、魔大陸由来の特級モンスターの相手などおいそれとできぬと受注しない。
 ゴーレム討伐はなかなか進展せず、しびれを切らした鉱山村と冒険者ギルドの間で話し合いが持たれ、まずは斥候を立てることとなった。

「それで、選ばれたのが俺だと」
「そう嫌な顔をしないでくれ。こんな危険な依頼を頼めるのは、腕が立つ上に魔物の生態に詳しいラグナ、おまえくらいなんだ」

 冒険者ギルド統括本部長に頭を下げられ、剣士ラグナはげんなりとした。
 現場は、冒険者ギルド本部のあるこの町からとても遠く、数日では戻ってこられない上に、高額な報酬という魅力をもしのぐ危険度なのだ。
 誰だって受諾したくないが、本部長直々の指名とあっては断れない。
 なんとも嫌な経緯で依頼に着手することになったのは、彼が数少ない最上級Aランク冒険者だからだ。
 冒険者として独り立ちして十年。
 酸いも甘いも噛み分けるベテランであり、とても腕が立つ上に、魔物の生態に詳しく、偵察任務にはうってつけの人材である。

「ゴーレムに手を出す必要はない。今のところゴーレムは山の奥地に生息していて、人里に下りたことはないから、偵察と生態を調べるだけでいい」
「山奥で人を襲いに出てくることもない魔大陸のゴーレム? 見間違いじゃないのか」

 魔物というものは、より多くの魔力を求めて人を襲う。
 そういう生態だから「魔物」と呼ばれる。
 人里は多かれ少なかれ魔物の襲撃を受けるものだ。
 そして強い魔物であればあるほど、魔力の気配には敏感となる。
 冒険者ギルドもない脆弱な村など魔物の格好の餌食。クリスタルゴーレムほどの上級魔物ならなおさらのはずである。

 かつて魔大陸を冒険した、命知らずの冒険者たちが持ち帰った資料に数度登場するだけの、ほとんど幻のゴーレム。
 美しい鉱石の塊をクリスタルゴーレムだと思い込んだのではないのか。
 訝しく尋ねると、本部長は苦々しく首を振った。

「複数の目撃証言がある。大きな水晶の塊のように見えたそれが、たしかに動いて、モンスターを従えているところを見たと」
「……」

 すでに群れ始めている、魔大陸のゴーレム。それはたしかに危険だ。

「はぁ、わかった。偵察だけだからな」

 ラグナは仕方なく依頼を受けた。
 それが彼の運命を大きく変えることになるとは知らずに。

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